第85話 総仕上げ

襲撃から2日経った。

メナードさんはすっかり回復し、アヴァロンはだんだんムカついてきたとか言って、黄金のリンゴの元へと引きこもって戻ってこない。

お師匠はピリピリしててちょっと怖いけど、これもこれも私たちの為に怒っているのだと分かっているから精霊達も士気が上がっていた。

本来ならば負の感情は精霊に嫌われるらしいんだけど、ウィル様の怒りは理解しているから助けてやろうって気になるのだと思うのだと、クーとリンリンに教えてもらった。


「偵察ネズミによると、攻め込んでくるのは明後日くらいだね。やっぱりというか、デモナスも生きてたみたいだったのは少しだけ残念だなー」


いつもよりも真面目そうな顔でそんなこと言うお師匠。

なのに、頭を撫でる手つきは柔らかい。


「大丈夫だよ、マリちゃん。今回は完全に圧勝するから」


お師匠はいつものように笑いながら、ここではないどこかを見つめている。











「ええ、お願いします。絶対に怪我なんかさせませんから」


ティターニアが消える。

協力者は揃えた。応援もお願いした。


あとは、僕が仕上げるだけ。


扉の近くでマリちゃんが座っている。

主のところの試験でマリちゃんの実力が上級だと判明したため、こうして出来る限りの時間マリちゃんを近くにおいて僕の観察をしてもらっている。


「さ、マリちゃん。次は指定魔法の設置に行くよ」

「分かりました!」


これで終わる。

そう思いながら必死になっていたら、マリちゃんに手を握られた。


「? マリちゃん?」


何か伝えるときには声を掛けるはずなのに、なんだろう。


「お師匠!!!」

「な、なに?」


凄く真剣な顔。

僕なんかマリちゃんにやらかしたっけ?

お菓子のつまみ食いはしてないし、もしかしてティターニアの魔力に当てられたとか?

いやでもロロン様平気だったし。


そんなことを思ってたら、真正面に回られた。


「お師匠、私に言ったじゃないですか。初めて尽くしの時は一杯一杯だとちょっとしたミスで大失敗するって」


笑顔を見せるマリちゃん。


「いつものお師匠らしくありません。一旦深呼吸しましょう。はい吸ってー」


子供扱いされてる。

でも、なんだろう。


「すうー」

「はいてー」

「はぁー」


イライラが消えた。


「頭がスッキリした」


自分でもビックリするくらい張り詰めていたみたい。

視野が広がり、僕のピリピリした気配で怖がって遠くで様子見している大福とわたあめの気配が感じ取れた。


「よかったー。やっぱりお師匠は周りに花がふわふわ浮いているような気配じゃないと」

「なにそれ」


いつもの僕の気配ってそんななの?


あーでも、なんか調子出てきたかも。


「ありがとう。もう大丈夫」


肩のこわばりも無くなったし、これならなんでも出来る気がする!















マリちゃん。

革命的な箒の乗り方するね。

箒をまるでスケボーの様に。

お尻痛かったのかな。


「マリちゃんもう積乱雲作れるよね」

「ええ!もうバッチリかっこ良くて凄いの作れます!!」

「じゃあ積乱雲は任せていい?」

「私が作っていいんですか?」

「うん。その間僕も別の作業に移れるし」


人手は多い方がいい。


「よーし!飛びっきり大きいの作っちゃいます!!ちなみに範囲はどのくらいですか!?」

「国土分」

「え?」

「国土分」

「………」


マリちゃん、無言でポケットから魔力増長剤のリンゴジュースを飲み干した。


「よぉーし!!頑張ってみますよ!!あ…無理そうだったら助けてください…」

「そこは見捨てないから安心して」


そこで失敗されると僕が死ぬ。


「はぁあ!!!」


マリちゃんから魔力が溢れだし、みるみる内に積乱雲が発生。


「風とか使うと良いよ」

「かぜ!?はい!!」


雲が風によって集まってくる。

にしてもマリちゃん本当にセンスある。


発生のさせかたが、僕のと違って実に自然で、これなら魔法によって天候操作させられたなんて思う人はそういるまい。

てか、もともと天候操作出来る人なんてあんまりいないんだけど。


ふむ。

こんな感じかな。


ロロン様から頂いた胞子を風で飛ばしつつ、雲近くの湿度を上げていった。


ポツポツと雨が降ってきた。


妨害されるかと思ったけど、されなかったな。

しめしめだ。


「マリちゃん、そのまま現状維持できそう?」

「なんかー、思ってたよりも平気でした」


ケロッとしてる。

全然不安がることなかったじゃん。むしろ余裕じゃん。


「僕このまま別の作業に入るけど良い?」

「大丈夫です」

「おっけー。じゃあ…」


魔力を放出。

その瞬間、魔王関係の妨害が入ったけど、想定内。

あっという間にハッキングして逆探知しつつ、土地に魔法陣を巡らせる。


あ?なにこれ。

あの魔王さんロロン様のこと無視して勝手に土地侵略してるじゃん。

これは良くない。良くないね。

即座に野生の精霊達に伝えると、何故かティターニアではなく旦那のオベロンが許すまじ!(怒)と返答してきた。


お?想定外のオベロンからの魔力供給。

これはありがたい。


その後、余計な妨害も無くはなかったけど、全て蹴散らして国の土地を掌握完了した。


終わる頃にはマリちゃんぐったりしてたけど、これでもうやれることはやった。

あとは引きこもってステータス弄り回している激おこアヴァロンと要相談しつつ、調整をするだけだ。

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