第84話 ゲキオコウィルザートソン

天の鎖が消えていく。

するとゆっくりとアヴァロンが上昇し始めた。


大穴の空いた地面を怒りが治まらないまま修復していく。

効率のよくない魔力の使い方をしているのはよくわかっていたけど、一種のストレス発散だ。

三ヶ所同時に修復し、更に木々や草たちも生きているものは治した。


しばらくはデモナスが動けないだろうから、こっちに乗り込んでくる阿呆はいないだろう。

けど。


「…………僕の落ち度だな。こうなったら、めんどくさいとか言ってないで全部ガチガチに仕掛け直すしかない」


怒りの感情は精霊に嫌われる。

だけど、押さえられないレベルでムカついていた。


「メナード」


すぐさまメナードの元へと転移する。


『ウィル様!』

『坊っちゃん…!』


治療に当たっていたクーとロックが退いてくれた。


そこでようやく怒りが消えた。


「メナード、なんで庇ったんだ」

『ウィル様、ご無事で…。任されたのに守りきれずにすみません…』


ああ、そうか。

僕が一号をよろしくなんて言ったから。


記録で見た光景には爆発から守った一号を心配して駆け寄り、次の瞬間鎖が地面から突き上げてきたときと同時に襲ってきたデモナスの襲撃から咄嗟に庇っていた。

人形は使い魔達を守るために盾の属性を多く付加した。

何があってもみんなを守る行動をする。

だけど、攻撃力までつけてやれる容量がなかった為に反撃できずにデモナスに言い様にいたぶられていた人形を救おうと、使い魔達が戦っていたと。


「…これは…、うん。予想外だったな。えと、ちなみに聞くけど本物じゃないってのは理解していたんだよね?」


メナードが視線を僅かに逸らした。


『………その、昔を思い出してしまったといいますか…』


クーとロックも視線が明後日に向く。


『なんでしょう、感覚的に末っ子を守らねばと思ってしまったと言いますか…』

『…うん。大福とかわたあめみたいな…』


理解した。


作り直します。

ちゃんとしっかり作り込みます。


「はぁー、まぁ、比較的軽傷で良かったよ。今日は1日寝ておくこと。いいね!」


ビシィ!!と指差すと『ではお休みなさい』とすやすや寝息を立て始めた。


寝ているメナードに上位治癒魔法を掛けてやってから二人に後を任せると部屋を出た。


「途中で人形を影で操って抵抗してくれてありがとうね」


人形に張り付いた術紙にその痕跡があった。


「…ふん。これは宿を守るためだ」


ツンデレのような台詞を残して去っていくシャドウ。

今夜のデザートはイチゴを多目にしてあげようかな。


「お、お師匠…。メナードさんは?」

「マリちゃん」


おずおずとマリちゃんがやって来た。

デュランバルを抱き締めながら。


「もう大丈夫。会いに行っても良いけど、寝ているから静かにね」

「よかった…。あ、これ返却します」

「そのデュランバルはマリちゃんが管理しててよ。今回のテスト見て、相性あってるみたいだし」

「みみみみみ見てたんですか!?」


恥ずかしい…、と耳まで赤くなってる。

そういえば言ってなかった。


「もし、重いなら別のを」

「そんなことないです!よし、この剣に劣らないようにがんばります!」

「あ!それと、その投げちゃってごめんなさい」


銃砲に狙われていたとはいえ、結構な高度だったから怖かったかも。


「? いえ、メナードさん助けるためだったから全然平気です。それに、わたあめちゃん達に受け身を教えてもらってたんで。あの位の高さなら無傷で着地できます」


恐るべし猫達。


「では、また後で」

「うん」


マリちゃんが部屋に入り、僕は後片付けに向かいますか。


森のなかを探し回ると、50体近くの銃身ゴーレムの残骸が見つかった。

(内一体はニコラの攻撃でどろどろに溶かされてた)


僕激怒。


さすがにこれは許すまじ案件だったので、銃身ゴーレム全部空に浮かべ、熱で溶かして一纏めにしてから大きな十字架を作り上げると、王都に向かって発射した。


その十字架が工場のひとつを破壊したとの報告と共に、近くにいたらしい偵察ネズミから危ないじゃないかとお叱りを受けた。

そこだけごめんなさい。


でもそれによって銃身の材料不足によって生産ライン停止させる程の被害を受けさせた。

ざまーみろい。














『……ウィル様気合い入ってんなー』

『まぁ、…そうだろうな』


ヒウロとグロウがウィルの様子を見に来ると、森の下部分が改造されまくっていた。


光の具合で青にも緑にもなる石っぽい素材の何かが細かく結合し、それが半円になって森の下部分にくっついていた。

正直、アレがなんなのか二人には見当がつかない。


所々に剣の切っ先みたいに突き出しているのもなんなのかわからないし、ついでに言えば全体的に施されている訳のわからん模様もわからない。


わからないが、直感で触ったらあまり良くなさそうってのは理解できた。


『てか、ウィル様どこいった?』

『痕跡はあるんだけどな』


怒りの感情と凄まじい魔力を使用した痕跡はあるが、当の本人がいない。


なんの伝言もなくいなくなる訳がないのでどこかにいるとは思うが。


『アヴァロンのケアとか?』

『…ああ、なるほど』


実は今回の被害者はメナードだけではなかった。


アヴァロンも、本体が腹を貫かれたのだ。

そのせいで分体のアヴァロンもお腹を押さえて悶えていたのを緊急搬送していた。

もっとも今は良くなっているだろうが。


リンリンとちび達が付きっきりでいるが、防壁を突破されたことに対するショックが大きいらしい。


『しばらくはウィル様動き回っているだろうな』

『怒らせると寝なくなるからな。といっても俺達に出来ることなんてたかが知れてるし。でも、そんなこと言ってられねーよな』

『だな。この森を守るために、ウィル様が頑張ってんだ。禁止されてるが、魔力リソースを攻撃に回してでも助けてやんなきゃ』

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