第64話 彼女がやってくる

突然ですが、攻撃を受けました。


『……届いてねーな』

『ですね』


グロウとロックが壁の端から下を覗き込んでいる。

攻撃を受けているんだけど、どうみても射程不足。

矢は全く届いてないし、魔法も高度が足りずに自然消滅してしまっていた。


そんなもんが魔族側の攻撃であるはずがない。

お察しの通り、人間側の攻撃である。


現在地上500メートルを浮遊中であるが、うまいこと風に乗って普通の雲のように移動をしているため、影などで迷惑を掛けている訳でもない。実際ちゃんと影の範囲が狭くなるようにアヴァロンが調整してくれているから。


であるならば、迷惑からの報復ではなく狙っての攻撃であることに間違いない。


『あれは大砲だな』


ズドンと撃たれた玉は、しばらく飛んだ後落ちた。


軍隊三隊もいて何をしているんだが。

これでよく魔族どもと戦おうと思ったもんだと、グロウは呆れていた。


これで飛竜部隊がいるならまだしも、影も形もない。


『報告とかどうします?』


ロックが訊ねた。

あれくらいの規模ならば、ロックひとりで十分に制圧できるが…。


『矢がひとつでも届いたらする。大規模魔法の気配もないし、あと一時間もしない内に突風に乗って移動するから無視しよう』

『ですね』















リーダー核の材料を探している。

柳とか、馬の尾とか、ヤシの木の繊維とか。

結果、全滅。


まぁ、魔法の杖の原料の木達がね、主張が激しすぎるんだよ。

妥協しろよって思うんだけど、そうはいかんってな感じでそれぞれがリーダーになろうとしているんだ。でも、みんな同じような魔力量、接地面、体積などなどによってリーダーになるなんて無理なんです。


「…諦めるのも勿体ない」


せっかく良い素材があるのに。


「はぁー」


スランプだ。

毒の研究でもしておこうかな。


「!」


毒を取り出すと扉から気配。

目を向けると解毒が得意な精霊、ユニコーンのニコラくんがこっちを覗いていた。


お久しぶり過ぎる。

一月ぶりくらいかな??


基本的に湖の洞窟から出てこないから。


そういえば僕が寝込んでいるときに来てたみたいだけど、もしかして解毒しようとしてくれたのね。申し訳ないことしたなぁ、朧気に「止めなさい止めなさい」と止めてた気がする。僕が。


『………』


ニコラの視線を追うと、僕が持ってる毒の瓶。


大分希釈したし、もう大丈夫かな。


おいでと手招きしたら、トテトテとやってくる。

フードに隠れた小さい角が額から生えていた。そろそろ手入れの時期かも。


「待ってて」


コップに毒を注ぐ。

それを目をキラキラさせて眺めている。


小学生一年生が面白い虫に向けるような目だ。

実際体はそれくらいの見た目なんだけど。


「はいどうぞ」


毒の入ったコップを手渡せば、ニコラは美味しそうに飲み干していく。

酸っぱそうな顔でも、苦そうな顔でもない。

それくらいの毒ならば常人でもまだ耐えられるモノだ。

そうではなく、美味しそうな顔ならば本当に危ない。


うん。

これくらい希釈してこの幸せそうな顔か。

やばいね。


「…何の味だった?」

『ハニーミルク』

「希釈して正解だった」


そのまま解毒させてたらきっとニコラは中毒を起こして魔王のもとへ行っていただろう。危ない危ない。


しばらくは洞窟から出るつもりらしいニコラにこっそり飲みなさいと、極限まで希釈した毒を渡せばこれでもかと言うほど喜ばれた。


そして毒を飲み続け僕を観察しているニコラを横目に毒の研究を続けていると、マリちゃんがどたばたと息を切らせてやって来た。


「お師匠!!大変です!!」

「どうしたんだい?」


そんなに慌てて。


「ドラゴンのお姫様が此処に遊びに来るそうです!!」








なんですって?????

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