第60話 おかーさん

だいぶ時間が掛かったが、なんとか解析完了した。

おそろしやこの毒。

そこらにある毒ならば一秒と掛からずに解析できるのに、1日掛かってしまった。毒っつーか、これ、成分的に魔王の分身体に近い。

意思を持ち、環境に合わせて進化していく。怖い。


でもそのお陰で、ワクチンができた。

次やられても同じようにはならないだろう。


といっても僕はもう体内に抗体ができているはずだけど…。


「物は試し」


注射器の空気を抜いて、腕に注入。

魔力を追ってみれば、やはり抗体ができているらしく分解されていった。


「でもマリちゃん達に使うにはまだ強いかもな。もう少し改良してみるか」


僕用なのは対抗するために徐々に濃度を上げていく。

荒療治だけど、これが一番手っ取り早い。

毒を制すには毒ってね。


さて、ワクチンはオーケー。

次はこの毒を反転させて無効化する実験だけど…。


「意思が強すぎて反発するんだよな」


日光に当てて弱体化させたあと、髪を使って上書きしてみようとしたけどうまくいかなかった。

何か足りない。そんな気がする。


「お師匠ー」


マリちゃんだ。

扉を開ける。エプロン姿のマリちゃんだ。


「はいはい?」

「ご飯です」

「え?もうそんな時間?すぐにいくよ!」


階段を下りていくマリちゃん。

最近はメナードに色んな料理を教わっているらしい。

成長が半端ない。


「しっかし、もうそんな時間か」


時計を見るとお昼。

随分と集中していたようだ。


もう少し研究したかったけど、定期的に休まないと効率が落ちる。一旦休憩だ。


「ごちそうさまでした」


マリちゃんの料理スキルが恐ろしい速度で上がっている。

これ、そのうち僕のスキルが抜かされるかも。

軽く危機感。


「どうでした?」

「凄く美味しかったよ」

「ほんとですか?やった!」


メナードと二人ではしゃいでいる。

おかしいな。メナード男型なのに、幻覚で女型に見えてしまった。


『これからどうされますか?』


食後のお茶を淹れながらメナードが訊ねてきた。


「もう少し研究かな。アヴァロンの巡回の精度を上げたり、毒とか、あと黄金のリンゴもだね。やることが多い」


久しぶりじゃないかな?こんなにも頭を使っているのは。


『無理はしないように。いいですね』

「はーい」


お茶はアップルティーだった。

美味い。


「さて!」


毒は一旦保留で黄金のリンゴの元へと向かった。


『ウィルー!まだ遊べない?』

『かくれんぼしたいよ!』


魔物型の大福とわたあめがやって来た。

つまらないと頭をぶつけてくる。


「寂しい思いさせてごめんね。あと少しで落ち着くから」

『ほんと?』

『約束ー!!』


指切りした。


森の中に歩いていく二人の姿を見送って、リンゴの木の前にある鳥居の前に立った。


ここ最近遊んであげてなかったからな。

早く終わらせないと。


まだ完全に安全だと言いがたいので、鳥居には特定の人しか入れないようにしている。

魔力を帯びた手で鳥居に触れると扉が開く。

といっても白黒の風景に切り替わるだけだけど。


「こっちもこっちで、ちゃんとやらなくちゃね」


白黒の風景の中に、唯一色彩鮮やかなリンゴの木。

というか、もはや神木。

幹は所々七色に光り、神々しい。


たわわに実るリンゴは相変わらずの黄金で、甘い臭いが漂う。


メナードに渡された間食用のビスコッティの入った瓶を地面に置き、リンゴを一つもいだ。


解析開始。














一つの光が漂っていた。

ふわふわと青い空間を、あちらこちらに流されるままに漂って。


突然風景が切り替わって、神々しい木が現れた。


傍らにいるのはおかーさん。


そうだ。あの木なら繋がっているし、手伝ってくれるかもしれない。


木に近づくと、こちらに気付いて手招きしてくれた。

招かれるままに行くと、きれいな宝石の中に入ってしまった。


あ、と思う間もなく、枝が動いておかーさんの体に伸びた。














突然、神木の気配が変わった。


「!!?」


枝が伸びて、僕の方へと凄い勢いでやってくる。

避けようとしたけど、いつの間にか別の枝が逃げ場を塞いでいた。


しまった!敵意がないから気付かなかった!!


「うわっ!?」


袖が裂かれ、中から魔王の毒が封じられている小瓶が転がり落ちた。

やばい!ここで漏れたりなんかしたら!!


慌てて回収しようとしたが、それよりも先に枝が瓶を叩き割り、中身が飛び散った。

血の気が失せた。

毒が木に吸収される。


どうなるのか予想もつかないけど、マズイことが起こってしまった。


「!!!」


神木が輝き出す。

思わず腕で目をガードした。








『ーーーー』






「?」



光が収まっていく。


腕を退かして木を見る。



「…………え?」



欠片の所に大きな花の蕾が出来ていた。

それは真っ黒の、オニキスでできたモノのように光沢があったが、ゆっくりと開いていくうちに色が水色に変わり、満開になる頃にはガラスのような透明なものへとなっていた。


その中に、信じられないモノがいた。


青い小さな羽が背中から生えた、女の子が僕を見て嬉しそうに笑った。


『やったあ!成功したよ?おかーさん!』





…………おかーさん??

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