第59話 変化していく
先日、影の屑どもから報告が来た。
あの憎き大魔術師が森から消えたというのだ。
意味がわからない。
もう一度聞き直した。
やはり意味がわからない。
現実的に考えてそんなことがあるはずがないだろうと、徹底的に探し出すように命令したら。
「……………」
空に浮かんでいたというのだ。
森が。
こう、湖の浮島がそのまま空に飛んだ感じらしい。
こういう意味のわからない事を平気でやるから魔術師や魔法使いが嫌いなのだ。頭がいたくなる。人の体をしているくせにやっていることは悪魔どもと変わらん。
むしろあれで人と名乗っている時点で悪魔よりもたちが悪い。
「今のところ国の上を浮遊している状態です」
思わず額に手をやった。
「土から離れたといって領土内にいることは変わらん。引き続きあの魔術師を捕らえるように動け」
「はっ!!」
影が去っていく。
使えん。
もっとも信用していたシャドウでさえあの様だ。
今頃地下牢で反省させられているだろうが、こうなれば徹底的に見せしめとしてやる必要がある。
前々から弛んでいると思っていたところだ。丁度いい。
「失礼します!!」
「なんだ…」
違う使者が来た。
手に何かを持っている。
「ま、まままままま」
なんだこいつ。
頭壊れたのか?
「ままま魔王から手紙がきました!!!!!」
「………は?」
「魔王から手紙が「うるさい聞こえたわ。早くよこせ」
バタバタと動きも騒がしく使者が持ってきた手紙を引ったくる。
先に賢者が封を解いたらしい。
焦げ臭い臭いがする。何か炙ったのか?
手紙を開き、目を通す。
そこには信じられない事が書かれていて、思わず口に笑みが浮かんだ。
「どうしようかなー、これ」
目の前に並べられた毒。
そうです。魔王の毒です。
熱のせいで全然解析できなかったこれを、元気になったので研究しようと並べてみたのですが。
「……なんに使おう」
とりあえず解毒薬は作るとして、絶対に余るであろうこの毒の活用方法。
魔力の塊なので抽出しようと思ったけど、恐ろしく手間がかかる事が発覚。浄化するにも細心の注意が必要である。
「とりあえず、半分仕舞っておくか」
とっても危険なものだからね。
袖の中に仕舞い込んで、残りをビーカーの中に移した。
風を受けて飛んでいる。
雲の海で泳いでみたり、太陽の光を食べてみたり。
お腹の中の皆の声を聞いてみたり。
おかーさんのリンゴを食べてみたり。
今も耳を済ませば聞こえてくる。
調子はどうだい?って。
(アヴァロンもみんなと一緒に遊びたいな)
小さな願いは光の粒になって、お腹の中に落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます