第53話 精霊王、ティターニア
『魔王さま、こちらもダメです』
『むう………』
眼前に広がるのは何もない空間。
魔術師の去った跡地から人間界へと向かう途中、とある地点からすっぱりと何もなくなっていた。
更地なんてもんじゃない。
それこそ、地面も、空も、光さえもない暗闇の壁が空の彼方まで聳え立っていた。
異様なのは、それが何の違和感もなく、ごく自然に嵌まり込んでいることだ。
例えるならば、ここから下は全て湖という水の領域である。
と、本能的に理解するように、ここから先には何もなく、踏み出せば存在が融けて無くなる事が嫌でも理解できた。
それがぐるりと、この山脈を覆うように敷き詰められている。
だからだろうが、我々の外に動く生物が存在しないように見える。さては嵌められたのだろうか。
『………やってくれるな、あの魔術師め…』
ただで逃げるわけがないとは思っていたが、厄介なものを残してくれよって…。
黒い壁を見つめる。
水のように波打っているが、向こう側は一切見えない。
これは、俺様でも解けそうにない。
そもそも、これの正体すら分からん。
『どうされますか?』
強行突破することも出来ないだろうな。
『通れるところを探す。行くぞ』
『はい』
三日経ちましたが、熱が下がりません。
予想以上の毒の効果に泣きそうです。
『ウィル様大丈夫ですか?』
「うーーー……」
返事するのも億劫。
グロウとヒウロに担がれてウィンデーネの元で毒抜きしてもらったが、焼け石に水な気がしてきた。なのに、抜いてもらった毒は500ミリリットルのペットボトル程になってしまった。
いやいやいや、研究をするにしても十分な量です。もう要らないよ。
『これ、もう彼女呼んだ方が良くないか?』
『でもなぁ、連絡が取れるか怪しい方だし…』
ベッドに寝かされた。
はぁー、情けない。
今頃魔王も僕の迷宮に填まってイライラしているだろうけど、僕も僕でキツいよこれ…。
「雑炊しか作れなくて悪いな」
「…いや、ほんと助かってます。特に森の手入れ…」
「ならいいんだけどよ…」
マジリックの隣でマリちゃんも心配そうな顔している。
「心配かけてごめんね」
首を横に振っているが、正直弱っている姿を見せたくなかったなぁ。
魔術に関して器用な二人とクーにアヴァロンをお願いして目をつぶる。
金色の鹿が歩いてきた。
輝く森の中を、光の粒を纏ってキラキラと。
『空色の子…』
目が突然覚めた。
優しい女性の声。
シャラリと飾りが音を立てて揺れ、視界を鮮やかに彩る。
黄金の角が、紅葉色の髪から突き出ている。深い森の色の瞳が優しげに覗き込んでいた。
まさか…。
「…精霊王、ティターニア」
ティターニアがベッドに腰掛け、こちらを見ていた。
何故此処におられるのか?オベロンもいるのだろうか?
見渡してみても気配はない。
『ウィンデーネに呼ばれてきたのよ』
バタバタと足音がやって来て使い魔たちが扉から飛び出した。
突然現れた気配にみんな驚いている。
そんなみんなの様子にティターニアは小さく笑った。
『こんにちは、子供たち。お邪魔しているわ』
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