第52話 絶対安静
ウィンデーネの掌が僕の胸に置かれ、ゆっくりと聖水を流し込まれていく。
ピリピリと痛むのは毒がある証拠。
それをウィンデーネの魔力である聖水で絡め、取り除いていくのだ。といっても取り除ける量には限りがあるから三歩進んで二歩下がる状態。
何せ毒は常に出てるからね。
『苦しい?』
ウィンデーネが心配してしまっている。
「風邪引いているみたいな感じだけど、大丈夫だよ」
ちょっと微熱と怠さと息苦しさくらい。
生前のブラック生活よりはぜーんぜんマシ。
『あんまり力になれない…ごめんなさい…』
「ああああ!!ごめんよぉ!!ウィンデーネの水は凄く助かっているんだ」
魔王の毒を抜けるのはウィンデーネか精霊王しかできない。
僕でさえこれ以上重症化しないように抑えるのに精一杯だ。
なんせこの毒は打ち込まれた主の魔力によって性質が変化するらしく、どうにかして打ち消せないかと頑張ったけどダメだった。
まったく厄介だよ。
「ん、ありがとう」
ウィンデーネから聖水に包まれた毒を受けとる。
真っ黒な墨みたいな毒だ。
それを瓶に水ごと入れ込む。
「これでよし。僕のほうも頑張って解毒薬作ってみるね。じゃあまた明日」
お礼にフルーツタルトを手渡し、家に戻った。
うわぁ、いい匂い。
なんでこうもマジリックの薬草雑炊はこう上手そうな匂いなんだろう。
真似したい。
「ただいま」
『お帰りなさい』
「お師匠!毒はどうなりました!?」
エプロン姿のマリちゃんが駆けてくる。
「ウィンデーネに抜いてもらった。ちょっと楽になったよ」
「ほんとですかー?」
「ほんとほんと」
ここ最近の出来事のせいでマリちゃんが凄い心配症になっている気がする。あ、おでこに乗ったマリちゃんの手が冷たくて気持ちいい。
「熱が上がっているじゃないですか!!」
「えー?」
そうかな?
自分で触ってもよくわからない。
ベチンと冷えたアロエをおでこに貼り付けられた。
あ、気持ちいいこれ。
冷えピタみたい。
「さっさと食って寝ろ。しばらくは絶対安静だからな」
「えー、でもアヴァロンのケアもした方がいいし、解毒薬も作らないとぉぉう」
頬をつねられ引き伸ばされた。
「体第一だ。ばかたれ」
「そうです!!ばかたれです!!」
「……ひゃい」
大人しく薬草雑炊を食べて寝る。
はぁー、満足に動けないのは辛いよぉ。
窓際に置かれた毒の瓶。
光の反射で紫色になっている。
『ウィル様…』
扉からメナードがこっそり覗いている。
「ごめんね、みんなで交代でアヴァロンに魔力送ってくれているんでしょ?大丈夫?疲れてない?」
使い魔たちが姿を見せないのは交代でアヴァロンに魔力を送っているから。本当なら僕がすぐに供給システムを弄って日光や風、熱で魔力補給できるようにしているはずだったのに、ご覧の通りのポンコツになって負担を掛けてしまっている。
『私達の心配よりもご自身の事を何とかしてください。今回ばかりはシャンソン兄妹の味方です』
「う、裏切られた…」
『具合が悪いときほど動こうとするのは悪い癖です。そろそろ自覚してください』
メナードが紙の束を手渡してきた。
なにこれ。
『同盟者、と名乗る方たちからです。魔法便できました』
同盟者。
あ、使者さんたちか。
『それ読んだら寝てくださいね』
「はーい」
扉が閉まる音を聞きながら手紙を読んだ。
それぞれが森の方での異変に気付き心配になって飛ばしてきたらしい。
空が七色に染まっていたって。
へー。そうなのか。でも確かに魔王の攻撃は色鮮やかだったな。僕なんか地味で地味で。色でも付けてみようかな。
そんでそれぞれてんでバラバラに大丈夫ですか?と書き、ユーハだけ国の近況報告を分かりやすく纏めたレポートみたいなのを送ってきていた。温度差すごい。
当然無事だろうって前提なんだろうな。
信頼されているのやら。
「えーと、なになに?」
ユーハのレポートに目を通し、表情が死んでいるのがわかった。
街を生け贄に防波堤として活用する作戦。
そしてやはり魔法使いを盾として使うという作戦が浮上している噂が流れているらしい。
わかってはいたけど。
「まぁ、街は平気だろう。道は閉ざしたし。そうなるとコザ平原の戦いになるだろうな」
いつもは街の前の平原での戦いだったが、森ごと空間を切り取ったので魔王軍はあれ以上進めない。とすると次に近い道を通らないといけない。
現在進行形で軽く攻防戦になっている所だ。
国からおさらばした以上自由に動きたいのは山々だけど、残念ながらまだ土地の縁が切れていないから国の上を浮遊していないといけない。
植物と土地の縁が切れるのは一年。
一年間放ってくれるわけないだろう。
「めんどくさいけど、うまく動けるように頑張らないと」
まずは体力を戻して、解毒。
解毒大事。
手紙を机において寝そべる。
あーあ、精霊王さん来てくれないかな。
って、そうそう動くお方でもないし、自力で何とかするしかないか。
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