第3章、大魔術師は楽園を築きたい

第51話 師匠にグーパン

あれから10日経った。


「………………」


声高らかに笑いながら飛び立ち、安心した瞬間泡吹いて倒れました。

当たり前だよね。体内の内臓ほぼ損傷してんだもん。

その間ずーっと爆睡っていうか昏睡状態で、事前に施していた次元剥離の揺り戻しも時間差で喰らってリアルに生死の境をさ迷っていた。


初めて三途の川見えたよ。

対岸にいたのが見知らぬ爺さんではなくウィンデーネだったら間違いなく渡ってた。危ない危ない。


で、ついさっき目が覚めたんだけど。


『どうぞ』

「…ありがとう」


第一発見者のマリちゃんに泣かれながら殴られた。パーではない。グーである。師匠にグーパン。

嗚咽混じりで何かを叫びながら号泣しててさ。僕殴り飛ばされてベッドから半分落ちてるのに「え??どうすんの??これ???」って混乱してた。


で、騒ぎを聞き付けたメナードと、その他大勢の使い魔達に抱き付かれて泣かれて怒られて。

ようやく落ち着いたところです。

メナードありがとう。

氷が気持ちいい。


マリちゃんの拳がめり込んだ頬に当てる。

頬よりも心が痛かったけどね。


扉が開いた。


「おー、起きたか」

「あれ?何でいるの?」


見慣れた赤い髪だが、マリちゃんではない。


「マジリック」


が、僕のエプロン着てお椀を持っていた。

お椀からは湯気。なにこの匂い、すっげー涎出る。


「マリに緊急事態っつって手紙が送られてきたんだよ。ほら、歯ァ喰い縛れ」

「え」


物凄く綺麗なフォームで殴られた。

しかもマリちゃんと全く同じポーズ、同じ位置。さすがは兄弟本気で痛い。


『ママママママジリック様、病み上がりですから!!病み上がりですから!!!』


と、メナードがマジリックの腕にぶら下がり叫んでいる。

僕の友達だから手荒にしちゃダメと教え込んだからね、失敗失敗。


「大丈夫だ。痛いだけで傷は残らん」


マジリックはそう言いながら僕を殴った拳を見せる。

拳全体に張られた魔力が見えた。


「………そっすね」


全くその通りなのが腹立たしい。

何故なら、頬はズキズキとマリちゃんのも含めて痛いのに、頬の腫れはすっかり引いていた。あのやろー。殴ると同時に回復魔法掛けやがって…。


魔王と全く同じ手だよ。回復魔法嫌いになりそう。


完全に落ちたベッドから這い登る。


ベッド横の机にお椀が置かれた。


「それ食ってもう一回寝てろ。後で全部で説明してもらうからな」


マジリックが退出した。


『………ウィル様。反撃許可を出してもらっても良いですか?殴り返したいです』


メナードが少し怒ってた。


「大丈夫だよ、メナード。これも愛の鞭ってやつだよ」

『…はぁ』


解せないと顔に書いてある。


大丈夫。君が殴らなくても、いつかマジリックが何かやらかしたときに同じように殴るつもりだから。

といっても今回は僕の失態だからなぁー。深く反省しよう。


マジリックの作ったスープを飲んでみる。

薬草たっぷりでめちゃくちゃ美味い。


くそう。負けた。

すごく美味しい。


メナードも『失礼します』と出ていった。


「うーん。しくじったなぁ」


作戦は成功した。

被害は最小限に、欠けた子もいない。


胸に手を当てる。

黒い裂け目みたいな傷跡が、まるで入れ墨のように残ってしまった。

あの槍が突き刺さった痕だ。


この跡は心臓にまで続き、ジワジワと毒を滲ませている。


「無傷で逃げるつもりだったんだけど…、そう、うまくはいかないかぁ」


まさか魔王が土地の化身みたいな事してるなんてね、初めて知った情報だよ。ああ、だから領地を広げたいのか。力が増すから。

納得いった。


そりゃ僕を欲しがるわけだ。

僕を手下にすれば、恐ろしい量の魔力が手に入るんだもんよ。


「しかし…、まさかコレを刻まれるなんてねぇ」


【 眷属印 】


気に入った相手の心臓を手に入れる代わりに、力を分け与える為のパイプ。前はこれで心臓を潰されたもんだ。まぁ、逆らうのを防止するための物なのに逆らったからね。


といっても、定着させる前に引き抜いたから跡だけで、毒をばら蒔くだけで済んでるけど。


「もう一回喰らったら、アウトかなぁ…」


蜂の毒みたい。


何とかして解除しないと、ここまで頑張ったのに水の泡になりましたなんて洒落にならない。

でもあの時は仕方無かったんだよね。メナードが代わりに貫かれてたら、この印刻まれる前に消滅してたんだもん。


でも、完全試合にできなかったのは本当に悔しい。


万全だったらこんなに寝込まなかったし、マリちゃんに心配かけず、そしてマジリックに殴られることもなかったんだ!!


「よーし、早く復活して次の手を考えなきゃ」


次こそは完全試合を目指し、体力を完全回復させるために僕は大人しく眠るのであった。

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