第37話 いつかの夢
滴が一つ落ちた。
夢と希望を手に、神の言葉を真に受けて敵いもしない相手に喧嘩を売って無惨に引きちぎられた。
滴が一つ落ちた。
目が覚めた事と時間が巻き戻っている事に驚きつつも深く反省し、地道に勉強した。あの日の事がトラウマでこっそり見に行ったけど、何故かアイツはいなかった。
同じようで同じじゃないと理解した。
結局そのあと血筋が原因で誘拐されていつの間にか終わってたけど。
滴が一つ落ちた。
神に願った“願い”と今の状況を考え、とある可能性に行き着いて恐怖した。
考え方次第だと思うけど、ここの世界は僕が望んだ存在にならなければ終わらない予感がして恐怖した。
でなければこんな中途半端な強くてニューゲーム的な展開があるはずもない。
その後死に物狂いで勉強して、誘拐にもあったけど、展開を知っていたから切り抜けられた。
その代わり僕の付き人の少女が──
これだけじゃ足りない。もっと強くならないと、と、頑張って頑張って魔法大会で準優勝を果たして軍にスカウトされた。
魔法部隊に所属となって戦争に参加して、第一回戦で終わった。
焦りから周りが見えてなかった。
滴が一つ落ちた。
幼児の頃から異常な魔力を所有していた為に恐れられて軟禁された。
これはこれで平和かもと諦めて、だけど、体に染み込んだ癖で魔法書を読み漁り、魔法陣を描きまくり…。
明くる日、窓の外に野生児のようなマジリックに遭遇した。
天才の血筋だった、僕の強くてニューゲームよりも才能があって、僕の魔法をみるみるうちに吸収した。
だけど、ある日来なくなり、どうしたのかと訊ねたら戦争で戦死したと伝えられた。
あまりの悲しさに館を飛び出して戦場に行けばあの日の光景と重なった。
信じられない事だが、魔法部隊が盾として使われていた。
こんな作戦を思い付いた上層部を恨んで城に殴り込み、あと少しのところで終わった。
滴が一つ落ちた。
軟禁されかけたが何とか館を飛び出し、城に殴り込み向かった。だが、何の因果か面白い子供だと魔法長の部下に召し上がられた。そうか、初めから深く関わっていれば良いんだと理解し、努力して努力して取り入った。
なんでか知らんけど、信頼と愛情を勘違いした王様に無惨に扱われて終わった。
なんで?
滴が一つ落ちた。
次はほどほどの距離を保とうと、執事の方にシフトチェンジして尽くしたものの、またしてもなんでか執事=奴隷と勘違いされて同じ結果に。
悟った。
城に入り込むのは自殺行為だ。
やめようそうしよう。
滴が一つ落ちた。
ならばどうしようかと、また軍隊として活動しているとやはり盾として使われた。だけど、そうしても生き残れるように対策を張り、全ての攻撃が僕に向かうようにした。
マジリックは生き残っている。
あの軟禁時代がなかったから、出会ってない事になっているし勿論マジリックは僕の事を知らないけど。大切な友達だから生きていて嬉しい。
このまま全ての攻撃を引き受けるから早くなんとかしてくれと思っていた矢先、魔王にブラックリスト入りされていて即死攻撃されて終わった。
腹串刺しは酷いと思う。
銛で突かれた魚の気分だったよ。
にしても、結界には自信があったのにな、さすが魔王。
滴が一つ落ちた。波紋が広がる。
いっそ魔王の所に行って内部から崩壊させた方が良いのかと考え付き、五つの時に魔界へと向かった。
まぁ、敵だもんよ。
集中攻撃に合うよね。
滴が一つ落ちて波紋が広がる。
魔界に入っても出来るだけ攻撃されないようにわざわざ魔族を誘き寄せて倒し、そいつの血を飲み干してみた。
拒絶反応凄くて死に戻り新記録を達成した。
滴が一つ落ちて波紋が広がる。
ならば眷族ならどうかと、吸血鬼の元へと出向き血を吸われてみた。
くそ痛い。誰だ吸血鬼に吸われるときは快感だと風潮したやつ。殴るぞ。
それでも致死量を飲み干されて体がざわついて、お?これはうまくいったんじゃないか?と期待を胸に目をつぶると終わっていた。
そうだよ。吸血鬼の眷族になるには一回死なないといけないじゃん。ダメじゃん。と、アホなことした自分が恥ずかしかった。
もうやらない。痛いし。
滴が一つ落ちて波紋が広がる。
なんでか知らないけど体の中に悪魔の血の気配が微量に感じられた。これも引き継がれるとは知らなかった。
無駄なことではなかったと喜んだ。
でもやっぱり軟禁時代到来。
休憩しようと、マジリックと妹のマリちゃんと遊びながら魔法の研究をした。
使い魔が作れるようになっていた。
これは、いけるんじゃない?
マジリックが徴兵される前に魔界に乗り込み、使い魔と僕の中の魔族の血のおかげで無事にたどり着き、魔王城に乗り込んだ。
結果、魔王に返り討ちにあった。
滴が一つ落ちて波紋が広がっていく。
学んだ。
喧嘩を売るのはやめよう。
その代わり魔王の忠実な部下として、執事として振る舞った。
危うく愛人にされかけたがなんとか回避。
右腕にまで上り詰め、さてなんとか戦争を止めさせようとしたが心臓を握り潰された。
容赦ない。
滴が一つ落ちて波紋が広がっていく。
戦争回避が無理なら、せめてマジリックだけでも救い出そうと、魔王軍として参加してマジリックを戦えないようにした。器用に出来なかった。
それでももう戦えないと戦線離脱したのを見届け、あとはどうにかこの戦争を終わらせようとした矢先、マジリックか自殺をしてしまった。
魔法が使えない魔法使いなんて生きてても意味がないという理由らしい。僕のせいだった。
八つ当たりだった。
あまりの悲しさに両国で魔力が切れるまで暴れまわって、最終的に魔王の手で終わっていた。
滴が一つ落ちて波紋が広がっていく。
滴が一つ落ちて波紋が広がっていく。
滴が一つ落ちて、どこまでも波紋が広がっていく。
そこから何回も何回も何回も何回も何回も何回も、廻り、やり直し、考えて、行動して、挫折して、悟って。
水が
それでも滴が一つ落ちて波紋が広がっていく。
記憶は朧気に、変な癖は戻らず、魔力が積み重なり、トラウマは数えきれず、逃げたくて逃げたくて逃げたくて、あの時願った願いを取り消したくて、それでも廻るから生きていて。
いつの頃からか、僕は戦争に参加すると力がセーブ出来なくなっていた。
初激で国を滅ぼした事なんてもう数えきれない。
世界を焼き付くした事もあった。
なんとか再生させようと手を尽くしたけど、骨がおれる上に元には絶対に戻らなくて、仕方なく自分で幕を下ろした。
「ねぇ、ウィル。ウィルはさ、森の中にいる妖精みたいだね。キラキラなものに囲まれてニコニコ楽しそうに笑っているの」
誰だったか、幼い時にそう言われた。
過去の記憶だったか。今生だったか覚えてないけど。
ああ、そうか。
そうだよ。僕はそういう生活を望んでいたんじゃないか。
なんで忘れていたんだろう。
終わりつつ、願った。
次そこは、と。
涙がほほを濡らしていた。
「……………懐かしい夢を見たな」
もう覚えていないと思っていたのに、案外脳みそは覚えているらしい。
『ウィル様、もう起きられますか?
…………おや?どうされました?』
メナードがやって来た。
「ううん。悪い夢を見てた。大丈夫」
『甘い飲み物でも持ってきましょうか?』
「ありがとう。お願いね」
ドアが締まる。
「今度こそ…」
上手くやる。
「─────」
「!」
窓にコンコンと石が当たる。
外にはマリちゃんがいた。
「お師匠!見てください!」
朝から元気だなぁ。
そう思いながら見ていると、なんとマリちゃん、詠唱も陣もなく雷を生み出した。ええ、なにすごい。
昨日の今日だよ?やばくない?
「できました!!」
「凄い!……って、もしかしてマリちゃん寝てない?服が昨日のままだけど」
「…………えーっとぉ、興奮して寝れなくて」
「寝なさい!!寝不足は女の子の敵です!!」
「は!はひい!!!」
バタバタと走っていくマリちゃんを見送る。
初めての弟子。
あの娘のためにも、頑張らなくちゃ。
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