第36話 花火(雷)大会
マリちゃんがひたすら嬉しそうに周りを見渡しながらため息を漏らしている。
「ここ、なんだかお師匠の森に少し似てます」
サンサンと木漏れ日がオレンジ色に染まっている。
もうそろそろ光虫が起きてくる頃だけど、帰る時には見頃だろう。
「今日は正常なのか?」
マジリックが失礼な質問をして来た。
「僕はいつも正常だよ」
「この前みたいに荒ぶってないじゃないか」
「さすがに弟子の前では抑えますー」
「天下の魔術師様もレディの前では紳士でありたいってか?」
なに言っているんだろう。
「そんなのあまり前じゃない。素敵なレディにはキチンと礼儀を尽くさないと」
「そういうところブレないな」
女の子は努力して綺麗になるんだ。
僕も努力してかっこよく見せたい。
森が開けると崖になる。
グランドキャニオンのような地形だ。その奥に大きな岩山があり、そこに今回の目的の方がいる。
「飛ぶんですか?」
「そうだね」
「あの…」
どうしたのかモジモジと何かを言いにくそうにしている。
ああ、解った。
「頑張ってバランスを取るんだよ」
マリちゃんの腰から足に掛けての範囲に魔法を掛ける。
するとふわりと浮き上がった。
「わっわっわぁ!!」
初めてスケートをする人みたいに腕をばたつかせる。
「ちょっ!お前なぁ!!」
そんなマリちゃんの手をマジリック兄が掴んで安定させた。
安堵の息を漏らしたマリちゃん。
「マジリックは僕よりも浮遊魔法が安定しているから、教えてもらえばいいよ。僕はどうしても速度がヤバイからさ」
「ちっ、しょうがないなぁ。お前は先に行って雷竜さんにお願いしてこい」
「ほんと?ありがとうマジリック。では」
踵を鳴らして浮き上がると、狙いを定めて一気に加速。
後に残るは衝撃波。
うーん。いつも思うけど僕の飛び方ミサイルなんだよね。
何とかしたいけど、クセがついてる。
「いつか直せば良いか」
やる気になればできるはずなんだ。
多分。
二人がようやくやって来た。
優雅で綺麗な飛び方だな。
僕のと何が違うんだろう?勢い?
「話はついたか?」
「もう、ばっちし」
計画も完璧。
「今回はマリちゃんの雷観察会でもあるんだけど、せっかくだからマジリックの家完成祝いと弟子祝いも兼ねて、盛大にいきたいと思います」
背後で着地音。
黒に金色の模様の雷竜様。個体別に模様が違うんだけどみんなカッコいい。
『よいか?』
「はい!ではよろしくお願いしまーす!!」
日が沈み、オレンジが残る空が雲に覆われていく。
そして。
爆音と共に山の輪郭がはっきり見えるほどの閃光が空を覆い尽くす。
雲で輝く雷から、雨のように落ちる雷。空に昇る雷。雲を渡る雷。種類は様々。それが花火大会のフィナーレのような勢いで火花を散らしている。
普通の女の子ならば怯えるそんな光景も、流石は魔法使いの家系のマリちゃんは目をキラキラと輝かせながら眺めている。
綺麗だよね。
「雷を操るには、雷の姿を頭の中に焼き付けないといけないんだ。僕の使う魔法はイメージ力が重要だから。もちろんマジリックも上手いんだよ」
「そうなの?全然知らなかった」
「まあな。一応神級も使える」
「……絶対うそ」
「うそじゃねえって!」
嘘と思われるのは仕方がない。
神級なんて使える人がほとんどいないし。
ぎゃあぎゃあと兄妹喧嘩している二人を微笑ましく眺めながら、後で嘘じゃないよとフォローしないとなと思いつつ雷を眺める。
綺麗だなぁ。
雷竜様にお礼を言い、森に寄ったときに光虫がいるかなと思ったんだけど、みんな雷を見に行っててお留守だった。
盲点だった。
また連れてこよう。絶対に感動するから。
「じゃあ、マリ、そんでウィル。森まで気を付けて帰れよ」
「ありがとうマジリック。ワイン楽しみにしてるね」
「おう。あとマリに怪我させたら毛をむしるからな」
「兄さん!!」
「肝に免じておきます」
見送りはマジリックと暇な煌竜様。
ゴルダは忙しくて来れなかったけど、代わりにお土産をいただいた。
「またね」
「手紙書くから」
「楽しみにしてるぞ」
マリちゃんと手を繋ぎ、浮き上がる。
マジリック達に手を振り、森目指して飛んだ。
「楽しかったです!」
「それはよかった。また来ようね」
「はい!」
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