第35話 兄にスネ蹴り

雲を抜け、海を越え、時間が早送りされるように夕方へと切り替わっていく。


「あ、そういえばマジリックね、今ドラゴンの国にいるんだよ」

「ええええ!?そうなんですか!!?」


なんでまたそんなところに…。

と、マリちゃんが呟いている。そういえば言うの忘れていた。


前にロック君と遊びに行ってきた時にまだ作り掛けだったから、そろそろ完成しているかな。楽しみ。


「とりあえず、今は家作りしているはずだから、出来上がってなかったらマジリックをからかいつつ雷竜様に頼みにいこう」

「からかいつつ!?」


はぁー、もうドキドキが止まらないな。

どっち見ても煌竜様だからな。僕の心臓よ耐えろ。


霧を抜け、視界が開けると山脈の中に開けた所が現れる。

あそこがドラゴンの国だ。


「降りるよ。口は閉じておいて」


国の端の野原に降り立つ。

柔らかな草の甘い香りが鼻腔をくすぐる。


凄いな。僕の森よりも濃厚な緑と魔力の匂い。


マリちゃんを下ろすと、座り込んでしまった。


「どうしたの?」

「腰が抜けちゃいました…」

「あらら」


仕方ないか。

あの速度で飛べる魔術師も魔法使いもほとんどいないし。

体がびっくりしちゃったんだね。

それに濃厚な魔力を浴びて怖がっているのもあるんだろう。


「手を貸して」


差し出されたマリちゃんの手を取ると、魔力を流し込んだ。


「立ってごらん」


促すと、腰が抜けていたのが嘘のようにマリちゃんは軽々と立ち上がった。


「わっ。体が軽い…」

「体内魔力を調整したからね」

「へぇー」


ドスンドスンと足音が近づいてくる。


『あ、ウィルだ』


煌竜様が来られた。


「わああ、大きい…」


落ち着け、落ち着くんだ僕。

前回はマジリックだったから素でいられたけど、今回はマリちゃんがいるんだ。クールダウンクールダウン。


『この前ぶりだね』

「はい!この前ぶりでございます!」

「……口調…」


おかしいな。

だいぶ感情を落ち着けているはずなんだけどマリちゃんに少し距離をおかれてしまった。


『赤い子の所でしょ?連れていってあげる』


煌竜様はゆっくりと歩いていく。

人間の速度に合わせてくださっている。

お優しい!!

でもクールダウンクールダウン。


「行きましょう、マリちゃん」

「お師匠、顔ちょっと怖いです」


あっるぇえ???














家が完成していた。

からかい損ねた。


せっかくだから会っていこうと扉をノックすると反応がない。

お出掛け中?


「お!ウィル、と、え?なんでマリが?」

「兄さん!」


手の籠に沢山のブドウが入れられている。

果実園に行ってたのか。


「この前ぶりだねマジリック。髪少し伸びた?」


おかっぱまではいってないがだいぶ伸びてた。


「この濃い魔力のおかげでな。ところでなんでお前がウィルといるんだよ。もしかして家出か?」


そうかマジリックは知らないんだ。


「ちょっと色々あって、今弟子入りしてるの」


と、ぶっきらぼうなマリちゃん。


「弟子入り?誰に?」

「僕に」

「………」


マリがマジリックに拐われた。


遠くで「変なことされてないか?」とか失礼な会話が聞こえる。その返答にマリちゃんはマジリックの脛に蹴りを入れて戻ってきた。

妹強い。


「詳しいことは後で。ねえお師匠、ここに手紙送れる?」


わざわざ“お師匠”の所をはっきり言った。ちょっと怒っているっぽい。

そしてマジリックが半泣きしてた。昨日の魔王のようだ。


「時間は掛かるけど送れるよ」

「後で教えてね」

「わかった」


この瞬間、アニメの妹と実際の妹とは天と地ほどの差があることを痛感した。

マリちゃんを出来る限り怒らせないでおこう。僕も脛蹴られたくないし。


「じゃあマジリック、僕達は雷竜さんの所に行ってくるから」

「待て、俺もいく」


何そのガチ顔。

娘を奪われてたまるかみたいな父親みたいな顔してるよ。


「別にいいけど、邪魔はしちゃダメだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る