第34話 マリちゃんと修行してます
上空にモクモクと沸き立つ雨雲。
風を更に吸い込んで大きく成長し、雄々しい積乱雲へと変わっていく。
上へ上へと伸びていた雲があるところで止まり、横に広がっていく。
「うんうん、良い調子」
下の部分が押し潰されて平らになり、徐々に光の反射が減っていって白と青灰のコントラストが無くなっていく。
上の方までコントラストが消えると、下の部分から冷たい風が吹き下ろし、輪郭がぼやけ、上の部分が崩れ落ちていく。
雨が体を叩いて滑り落ちる。
見事な集中豪雨だ。
「どうですか!?」
マリちゃんが息切れしながらこちらを向いて訊ねてきた。
手は雲の方を向いている。
そう、この積乱雲はマリちゃんが作り出したものだ。
「凄い良いよ!こんな数日でものにできるなんて、流石はシャンソンの血筋だね!」
「そんなこと言われたら照れますよぉ」
テレテレと頬を赤くして照れている。
「ほーら、集中しないと崩れるよ」
「! おっとっと」
ボヤけていた積乱雲が持ち直す。
この魔法、実は上級の天候操作系魔法なんだけど、500人に1人扱えるかどうかの難しい部類のやつ。それをマリちゃんは一週間かそこらで操れるようになってしまった。
魔法のテストでほとんどが中級まで会得していたから、魔法のセンスが良いんだろうなと思っていたけど予想以上だった。
流石はマジリックの妹さん。
今の魔法の建て直しも結構技術がいるんだよ。
それを「おっとっと」で直すなんてね。
恐ろしい子。
「面白いの見せてあげる。もっとその雲を上の方へ上げてごらん」
「え、この重いのをですか!?」
「もっと強く雨降らせたら軽くなるから、ゆっくり持ち開けていくんだ」
「了解です!」
言われた通りマリちゃんは雨の量を増加させ、雲は上へと移動していく。
こんくらいかな。
右手に雷を発現させる。
「?」
何をするのかとマリちゃんが見ている。
「いいかい?よく見ておくんだよ」
それ、と雷を思い切り雲に向けて投擲した。
矢のように飛んでいった雷は雲に突き刺さり、全体へと広がって花火のように弾け、空へと向かって雷が落ちた。
「ええええ!!??雷って空にも落ちるんですか!?」
「凄いよねぇ。僕も初めて知ったときは驚いたよ」
雲の高度が高く、地上へ落ちる距離が遠いと空に放電しちゃう。面白いよね。
そんなこと知らなかった僕は昔、高い位置から雷の雨を降らせて敵を殲滅させようとして全部雷が空へと落ちちゃってとても恥ずかしかった。
絶対何しているんだこいつって思われただろうし。
いや、みんなの注意が空に落ちる雷に向かったからなんとかなったけど。
それからは雲の高度をきちんと考えて設置している。
「ふぁああ…っ。私もそれやりたいです!」
雲が僕の雷の衝撃で弾けとんで自由になったマリちゃんが駆けてくる。
「それ?」
「雷の槍を、こう、バチンと作り出すやつです!!」
「ああ」
そうか、僕は基本魔法の陣や詠唱をすっ飛ばして作り出しちゃってるからね。
どうしようかな。
教えても良いんだけど、デメリットもあるから慎重にしないといけないんだよね。
例えば、魔力を何かに使っているときに雷を創造しちゃったら発動したり。
でも。
キラキラと目を輝かせているマリちゃん。
うーん、雷の矢くらいなら良いかな。
「よし、じゃあ雷を観察しに出掛けようか」
「え?え!?」
「メナード!」
近くにいるだろうメナードに声を掛けるとやって来た。
『はい』
「ドラゴンの国にちょっと行ってくるね。何かあったら呼んで」
『かしこまりました』
マリちゃんに向き直る。
「ちょっと失礼」
「ちょっ、きゃあ!」
横抱きにするとしがみつかれた。
抱かれ慣れてないらしい。
でもこれで安定しているから良いか。
そのまま踵を打ち付けふわりと浮き上がる。
良い調子だ。
「掴まっててね」
そして多重に結界を張ると上空へと舞い上がり、ドラゴンの国の方向へと向けて一気に加速した。
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