第33話 言うこと聞けよぉぉ!!

魔王城の一室にて、魔王ルシフェルフが頬を膨らましていた。


『解せぬ』


視界の端には本日の貢ぎ物の数々。

今回は“たぴおかみるくてい”なるものを献上された。


そして今座っているのは魔王をダメにする椅子だ。

座る度に起き上がれない地獄が待っていると言うのに毎度座ってしまう。

魔王だが、これを目の前にすると頭が悪くなる。

恐ろしい。


おかげでこの椅子専用の装備を取り付けた。

そう、手すりだ。

椅子のような枠組みの中にコレを入れて座り、用が済めば手すりでもってなんとか起き上がる。


一度王座に持っていったのだが、流石に大きさが合わずに断念した。普通に置くとずり落ちていくのだ。

だったら王座をどかしてこれを設置しようとすると、幹部全員に泣きながら止められた。


で、しかたがないので自室においている。


今では作業机にいる時間よりもここの方が多い。

専用の机も作らせたために仕事に支障はない。


そんな俺様にはひとつ悩みがあった。


ウィル・ザートソンを未だに手に入れることができないと言うことだ。


魔王自ら出向いているというのに。


『………いや、貢ぎ物しているくらいだから隙はあるはず』


じゃなければこのような見たこともない至高の宝を寄越すはずがない。

見よ、このたぴおかを。

まるで宝石ではないか。


しかし、貢ぎ物をするだけで縄張りに入れなくなってしまったのは不満だ。

外縁でお茶嗜むのもなかなかに佳いものだと分かったが、そもそもの目的は魔王軍に引き込むことである。


あやつは素質がある。

幹部にしてやってもいいくらいの魔力や魔法の質や精度が高い。人間にしておくのが惜しいくらいだ。


本当に人間なのか疑わしいが。

最初に見たときに精霊王のハーレクインかと思ってしまったくらいには人間離れをしている。


『しかし、一番訳のわからないのがあれだ』


アイツは俺様の嗜好を熟知しているようにも思える。

コーヒーやお茶、紅茶、菓子類に至るまで好物を分かって選んでいるように見えた。

部下に話したこともないこだわりまで。

まるで共に育った幼馴染みかと思うくらいの。


何故だ。


あやつに会ったのはごく最近だ。

以前に知り合ったはずもない。


そもそも俺様が封印から目覚めたのもほんの半年前である。人間の寿命を考えれば絶対にあり得ないことだ。


『何か府に落ちんな。あと、こんだけ俺様の情報を知っているのなら、弱味なども知っている可能性もある…。いや、俺様に限って弱味などないが…』


どちらにせよ、早いところ引き込むか敵認定しなくてはならない。


『!』


ドアがノックされた。

すぐに手すりを使って立ち上がり、扉の前に向かう。


『どうした』


ドアが開き、部下が敬礼した。


『魔王様、ウィル・ザートソンについての速報があります』

『なんだ?』


何かアイツの弱味とかを見付けたのか?


『こちらをご覧ください』

『ん?』


紙を手渡された。

見てみれば手配書だった。


番号は2。

初盤の手配書の更新したやつだ。

なぜ手配書なんぞと見てみれば、なんと名前はウィル・ザートソン。

写真の所は似顔絵。

細部が少し違うがウィル・ザートソンの特徴はきちんと描かれている。


『ふ、』

『魔王様?』

『ふふふふふふふ、ふははははははははは!!!!!』


なんだコレは面白い。面白すぎるぞ!!!


『ウィル・ザートソン!!可哀想な奴よ!!人間側から見捨てられ、敵と認定されたのか!!!』


さぞかし悲しかろう!!今頃落ち込み啜り泣いているやもしれん!!人間の敵ならば、我らの仲間と言うもの!!それならば俺様みずからおもむき慰めつつ招き入れる!!!

人間よ!!貴様らは愚かな選択をしたのだ!!!

この選択を悔いて絶望するがいい!!!


『魔王様!どちらへ!?』

『ウィル・ザートソンの元へだ!!』



















夜。

姿を隠して接近したのにウィル・ザートソンに見付かった。

またしても壁の中に侵入する前である。

流石は未来の俺様の右腕。


『ははははは!!貴様!人間に見捨てられたそうだな!!』

「みたいですね」


むう。

なんだこやつニコニコと。

てっきり悲しみに暮れているかと思っていたのに期待外れだ。

だが、俺様にはわかるぞ。

表に出さぬようにしているのだな!健気な奴よ!!


『ウィル・ザートソン!!貴様を我が魔王軍に迎え入れる!!嬉しかろう!?俺様は心が広いからな!!存分に感謝せよ!!』


これで魔王軍が勝ったも同じ。

さぁ、この手を取れ!!ウィル・ザートソン!!


「はははは。お断りします」


なのに、この阿呆はまたしてもこの俺様の誘いを断りやがった。

あまりの展開に感情が抑えられず、心の底から叫んだ。





『お前ほんと俺様魔王なんだぞ!!??言うこと聞けよぉぉぉーーーッッ!!!!(怒)』


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