第30話 宣戦布告
マリが足を滑らした河原を捜索し、苔が大きく抉れたそれらしい所を発見した。
リンクラ国の追っ手がここまで来るとは思えないけど、念には念を入れるべき。
苔に触れて魔力を流し込めば、点々と足跡に合わせてへこんでいた苔が回復し、つるんとした元の状態へと戻った。
「これでよし。さて」
本当はやりたくないんだけど、致し方なしっと。
姿を変えていく。
髪は短髪へ、顔付きは好青年。肉付きも肌色も紙色も変えていく。
瞳だけは変えない。ここまで変えちゃうと流石の僕も力が半減しちゃう。
「こんなもんか」
これでどっからどう見てもウィル・ザートソンには見えない。
そこら辺にいそうな若い冒険者だ。
これで、僕の手配書がどういった形で配布されているのかを見るためだ。
「これはもう使えないだろうしな」
ウィル・ザートソンの情報が書かれた通過許可書を見詰める。せっかく大福とわたあめがお使いできるくらいにはなったのに、残念だ。
ため息を付きながらもうひとつの許可書を取り出す。
こんなこともあろうかと、この顔でひとつ作ってあった。
名前はリウ・ソンザート。ひっくり返しただけの名前だけど、魔力のパターンも変えて審査受けたし、問題ないはず。
問題あれば逃げれば良いだけだ。
近くの森にテレポートして街を見る。
うーん。見張りが増えてる。これは想定外な感じ。
ちょっとめんどくさいけどもう少し遠くから近付いた方が不自然には思われないかも。
ギリギリ見えない位の距離に再びテレポートし、歩いて接近。そして、問題なく通過した。
やっぱり上からの圧力でもあるのか皆の顔に疲労が見える。
ここの街は僕がたくさんお世話になったから、それでだろうなぁ。
申し訳ない。
「お、これは凄い」
全ての建物に僕の手配書が貼ってある。
しかも変なおっさんのやつ。
それを笑いを堪えながら通過する人もいれば、首を傾けている人もいる。
「ーーーーー!!!」
遠くでなんか喋っている声。
なんだと行ってみれば、僕のヘイトスピーチしてた。
要約して聞いてみれば、やれ悪魔側のスパイだの、大会では不正していただの好き勝手言ってくれている。
おかしいなぁ、僕は君のこと見たことないんだけど、いつ八百長して勝利したんだろう?
夢の中の話かな?
「いらっしゃい」
道具屋に行く。
おばあちゃんがめんどくさそうにそう言った。
なんだかつまらなさそうだ。
「これください」
大量の布とその他多数を机に置いた。
すると、おばあちゃんは目を丸くして僕を見た。
「ウィルちゃんかい?」
「!」
びっくり。姿全部変えてるのになんでわかるの?
年の功??
はったりかなとか思ったけど、おばあちゃんは真っ直ぐにこっちを見ている。はったりとかではなさそう。
「そうですよ。ウィルが来ました」
するとおばあちゃんはがっしりと僕の手を掴み、小さな声で僕に言った。
「この国はウィルちゃんを敵として宣戦布告したよ。本当は見付け次第通報しなくちゃいけないんだけど。この街は昔からウィルちゃんを知ってるからね、出来る限りの手助けをしたいと思っているよ。でも表立っては出来ないから…、ほら、噴水広場の演説聴いたかい?」
さっきのヘイトスピーチの人だろう。多分。
「うん」
「あれを筆頭に少しずつこの街に兵士がやって来ている。もしかしたら出入りさえ制限されるかもしれない。だから、これは提案なんだけどね」
おばあちゃんがメモと鍵を差し出した。
「店の裏の家、今は何も使ってない空家になっているんだけど、もしよかったら其処を有効活用して良いから。私達は知らないけど、何か使える魔法があるんだろう?出来る限りの協力はさせてくれないかい?」
やばい。泣きそう。
おばあちゃん優しすぎてどうしようこの人ほんとうにいい人。
「うん、うん。ありがとう。大事に使わせてもらうね」
そのあと大量の買い物を済ませ、違和感無いようにと持ってきた鞄に荷物を詰め込むと。(といってもやっぱり限界があるから容量弄ってる)おばあちゃんのメモを見ながら裏道へと進んだ。
「ここか」
小ぢんまりとした家。人通りは少ない。
「それでは、遠慮なく」
鍵を開けて中に入る。
元の姿になるや、家の隅々にまで魔法陣を施した。
戸には結界を、窓には幻覚の魔法を、壁には強化魔法を。
そして玄関から遠い部屋には繋ぎの魔法を掛け、楔を打った。
これで僕の森に繋がった。
容易に侵入者も入れないようにした。
おばあちゃんありがとう。
感謝します。
あとはめんどくさいけど色々手続きをやって根回しをするだけ。
「転居手続きは明日にして、一旦森に戻ろう」
そして張りぼてだけど、引っ越してきた風に装ってこよう。
よし、これで色々楽になる。
絶対におばあちゃんになにか恩返ししないとね。
またリウの姿に変身し、荷物をもって今日のところは街を出た。
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