第29話 マリ・シャンソン
ライムに少女のお風呂を頼んで、三人に詳しく事情を聴いた。
ダイオーカエルの住み処に向かう途中の川で、少女が凄い勢いで流れていったらしい。
その先は滝で、スポーンッッ!!とギャクかなんかのように飛び出したのを見て、あ、これはまずいぞってなって大福が大慌てで捕獲したらしい。
で、救出された少女をクーが治療している間にわたあめが僕に連絡を全力で入れた、と。
道理でビーッビーッビーッ!!ってけたたましく鳴っていたわけだ。魔力入れすぎです。
「いやー、しかし…。なんでこんなところにあの子が…」
あの子はこの国出身ではない。
二つ隣のリンクラ国の出身だ。
あんな平和な国からなんでわざわざ僕の森近くに来たのだろうか?
なにかあったのだろうか?
『……ウィルさま』
「あ!ライム!ありがとう!」
『ん』
寝間着に変えられた少女を受け取り、ソファーに横たえた。
疲労が相当溜まっていたらしい。
強制覚醒は酷だな。仕方がない。
「ネロちゃんいる?」
ひょこ、と目隠し少女がやって来た。
『?』
「カルピスたくさん飲んで良いから、この子から“疲れ”を吸い取ってくれない?」
『!』
わかったとグーサインしてネロはカルピスの原液とコップ、水を持ってきて少女の側に座ると、ストローを少女の肌に添えた。
すると、トトトトトと黒い粘りけのある液体がストローから滴りコップの中に入っていく。それを救い取ってネロが舐めると、一瞬苦そうな顔をしてから頬を蕩けさせた。焦がしキャラメルのような味なのかな?
もうひとつのコップでカルピスを作って飲みながら、“疲れ”を食べる。
そうしていると、少女の顔色が良くなっていき、目を覚ました。
「おはよう。気分はどう?」
二、三回ほど目を瞬き少女は跳ね上がるように起き上がった。
が、くらりとしたのかまたベッドのなかに倒れ込む。
「無理しない無理しない。君は確か、マリちゃんだよね。マジリックの妹の」
「そうです!そうです!覚えていてくれて嬉しいです!」
忘れるものか。
いつもマジリックの後ろに引っ付いて、隙あらば髪の毛に張り付いて遊ばれていたんだ。
大きくなったな。あの時は4歳だったか。とすると今は14歳か。可愛くなったなぁ。
「ところでなんでこんなところに?リンクラ国の聖アリアス魔法女学院に行っていたんじゃ?」
「それが…」
話を聞くと、魔界と近い国の魔法使い達が強制召集されているらしい。
父と叔父が強制召集。兄が行方不明の為に代わりに妹のマリに指令が来て学院を止めさせられてしまい、女性の魔法使いの扱いの噂を聞いて逃げ出してきたらしい。
「そもそも!!母がいないのに私まで戦争に召集なんて!シャンソン家に誰も居なくなってしまじゃないですか!!生きて帰れる保証もないのに!!」
と、メナードの持ってきたジュースを一気飲みしながらそう言った。
「確かに…」
魔法使いは血が重要だ。なのに根こそぎは確かにひどい。
てか、もしかしてマジリックが早々にリンクラ国から出てきたのってこうなるの見越してたのかな?
うーん、あり得る。
「で!!ここに来る間にとんでもないもの見つけたんですけど!!なんですか!これ!!」
マリがポケットに手を伸ばし、あれ?と首を傾けた。
もしかしてコレかな。
「これ?」
マリのポケットに入ってた何かの塊。
濡れて圧縮されてよくわからなくなってるもの。
「……それです」
そのままじゃなんなのかわからないな。
戻してみよう。
「“復元”」
手の中で紙から水分が溢れだして蒸発し、シワシワだったものがゆっくりと広がって文字も元の位置へと戻っていく。
何かの手配書かな?
おっさんが描かれている。
『ウィル様』
「なに?メナード」
『こちらをご覧ください』
「んん?」
メナードが指差すところを見ると、なんとそこには僕の名前が。
え?誰?同名の人?
酷い、なんという風評被害案件。
「賞金首になってるのです」
「えええ。だって見てよこれ。どうみたって僕の顔じゃない!」
髭なんてこんな無いもん。
「賞金首の手配書の初期イメージイラストなんてこんなものです。これからちゃんと実物を見た人が正確な顔を話してちゃんとしたものになるんです」
「へー、そうなんだ」
じゃあ、これレア物ってこと?その内プレミアつく?
額縁に入れて飾っておこうかな。
「感心している場合じゃありません!その内たくさんの暗殺者がここに殺到してくるんですよ!」
「…そうはいっても。ねぇ?」
『ですね』
既にいるし。
月に何人かは此処に来て、結局森に入れなくて帰っていく。
シャドウくらいかな?来れるの。
そういえば最近使者達見掛けないけどどうしているんだろう?
「…そうですか」
シュンとしちゃった。
なんかごめんね。
「それで、マリはこれからどうするの?」
逃げてきたってことは帰るところがないって事だろうし。
「ウィル様!お願いします!私を弟子にしてください!」
「えー」
弟子も何も君マジリックと同じく結構魔法使えるじゃない。
「ダメですか…? あの、私!ウィル様みたいに素晴らしい楽園を作り上げたいんです!」
「おっけー!まかせて!」
『ウィル様!?』
まてまてメナード。
この子は楽園を作り上げたいと言った。
魔法使い、魔術師双方とも最終目的は自分の楽園を作り上げてそこに君臨することだ。
ならば手を貸さないわけにはなるまい。
「楽園を作り上げるには相当の勉強や努力が必要だよ?できるかい?」
「ええ!どんな努力も惜しみません!」
「じゃあ僕の事はお師匠様と、嫌ならいつもの感じで」
「お師匠様!よろしくお願いいたします!」
「テンション上がる!よろしくね!」
がっしりと硬い握手を交わした。
楽園創造同盟、ここに結成!
よーし!手配書のことはどうにかなるだろうから、まずはマリにこの森を案内しよう!
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