第21話 空中レース②

両者飛び立ち、大空へと舞い上がった。


「飛行スピードだけで見れば特に差はないねぇ」


最初こそヒウロが助走で勝っていると思っていたけど、先に飛びたったグロウがどんどん追い付いてきて拮抗した。

確かに走るよりも飛ぶ方が早いもんね。


ちなみに同じ翼が生えた動物によっても飛びかたは様々で、代表的なペガサスなんかは、実はあれ翼は舵取りで、脚の下に発生させている風を踏みつけて駆け翔んでいるという説が有能だ。


僕?僕は普通に風を纏いつつ脚裏から発生させてロケットみたいに飛んでるよ。


お?そろそろかな?


目の前に見えるのは二つに別れた道。

というか洞窟。


僕が急遽作った荒れたコースです。


「やって参りました!ここは機動力が試される!!通称ヒュドラの蛇腹!!長く細い洞窟内はグネグネと曲がり、容赦なくスピードを削っていくぞ!!人型となってミスなく通るか!?それとも魔物体で強制的に突破するのか!?さぁ、両者同時に入ったあ!!」


よし、同時進行で観察するために分身。


ゆらりと魔力がぶれて視界が真っ二つ。

そして意識が割れた。


目の前にはもう一人の僕。


「じゃあ、よろしく!」

「任された。」


ということで二人になってグロウとヒウロを追った。

意識が割れたっていっても中身は一緒だからね。

さてさて。


透視で見てみれば両者ともほぼスピードを落とさずに抜けていく。


グロウは半分体がライオンなので狭いところは得意なのかするすると意図も容易く抜けていく。

翼を折り畳み、鷲の爪で岩を掴み、ライオンの足で加速する。


意外なのはヒウロ。

なんと要所要所で人型に戻り、ぶつかることなく進んでいっていた。

馬の下半身では狭いところは不利とみたのか。それにしても変身のスピードが凄い早い。一秒も掛かってないじゃないか。


「これは面白い。まさに二人の特性が出ている感じですかねぇ?ロックくんは此処をどう切り抜けますか?」

『…私は体が翼も含めて大きいので、はじめの部分で間違いなく詰まりますね…。もうコースごと破壊しないと進めません』

「おうう、強行手段…」


確かに言われてみればロックはスピードも大きさも桁違いだが、その点変身に時間が掛かり、タイミングが合わなくて詰まる。

思えばロックが子供の時もよくトンネルで詰まって泣いてたっけな…。


『その点二人はこういうところでの素早さがありますから。何かあったときに助かってます』

「だから一番槍がどうのこうの言ってたのね」


誰が早く現場に駆け付けられるかって事なのか。


「ただいま」

「おかえり」


また一人に戻るとグロウとヒウロを追う。


前方にはクルエラに頼んで張って貰った蜘蛛の巣地獄。

それを…。


「……やると思ったけど」


グロウは人型になるなり剣を奮って頑張って作った罠を破壊していく。

ヒウロは魔法陣を展開し、体色を赤に変更するなり口から火炎放射機並の炎を発射し「なぎはらえ!!」と幻聴が聞こえるほどの威力。


『ここから見たらそこら一帯山火事状態です』

「後で誰か消しといて」


このままじゃ森が終わる。


『ウィンデイーネさんが任せてと言っております』

「あ、僕も後で手伝います」


ここぞとばかりにデートに洒落こみたい。

そしてお訊ねしたい!!好きなタイプはなんですか!?と!!


「さぁー!レースも終盤!!あとは直線のみ!!」


煤だらけのヒウロと土埃のグロウ。

グングンとスピードを上げていく!!


そして!今!ついにゴーーーール!!!!


切れるテープが宙を舞う。


「なんという事でしょう。全く同じタイムです!!

タイムを計ることに関して恐ろしく正確なメナードも困惑しております!!」


スピードを上げすぎて着地失敗した二人が転がっている。

呼吸も荒く立ち上がれないようだけど、どうにかしてどっちが一位だと訊ねてきた。


「どうする?全く同じタイムなんだけど、もう一回飛ぶ?」


そう訊ねると二人揃って


「「もう無理…」」


と気絶。


『これどうします?』


ロックがやってくる。


「一応掛けとこう。両者一位だし」


ということでせっかく作った金メダルを二人にかけておいた。これでもうこの話題で喧嘩する事はないだろう。


その後、僕はウィンデイーネと消火デートし、その他のトンネルゾーンでは聖霊達の遊び場になったのであった。








が。



『俺が一番だ!!』

『何を言う!!お前なんか二番だ!!』


「今度はなに?」

『武器の扱いについての喧嘩です』

「はぁー……」



今度は違う事で喧嘩が始まることになってしまった。

喧嘩するほど仲がいいとはよく言ったもんだけど、ほんと仲良いなこいつら。いい加減にして。

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