第20話 空中レース①

『なんだと!!??』

『やるのかこの野郎!!!』

『おうやってやるよ!!!外に出やがれ!!!』


まーた始まった。


グロウとヒウロの喧嘩。


なんで似た者同士仲良くやれないのか。

見てみろよ大福とわたあめ。仲良く二人でひとつのジュース飲んでいるんだぞ。

頼むから食事中は静かにしてほしい。


「今度はなに?」


どうせ下らないことだろうけど。


『話の流れから察するに、誰が一番飛ぶのが早いのかという事から喧嘩になってますね』


と、メナード。

誰が一番飛ぶのが早いのか?そんなの決まってるじゃない。


「ロックでしょ?」


ロック鳥のロックが一番でかくて早いに決まってる。

勿論使い魔の中でだけど。


『ええ、一番はロックです。問題は誰が二番か、の所で喧嘩になったようです』

「二番争い?中途半端過ぎる」


せめてロックよりも早いぞって感じの喧嘩なら微笑ましかったのに。


ギャーギャー騒ぐ二人の間に挟まれてなんとか喧嘩を止めようとしているロックくん。可哀想に。


「なんだったら、勝負すればいいじゃない。空中レース」


ハッとした二人。

我に返った僕。


やべっ、考え無しに喋っちゃった。







というわけで。


「ぱんぱかぱーん!第一回、空中飛行レースを開催致します!」


わー!と一斉に歓声が上がった。

メナードの作ったクッキーを頬張りながら、使い魔や精霊達がテンションあげあげで集まってきていた。

こらそこ賭けをしない。


「司会は僕ことウィル・ザートソン」

『『『ワアアアアアア!!!』』』

「司会の補助はロックくんが勤めます」

『よろしくお願いいたします』

『『『ワアアアアアア!!!』』』


勝手に巻き込んでごめんね。


赤毛のロックが恥ずかしげに背中の翼を広げたり閉じたりしている。

風がくるから涼しい。


「それでは選手の紹介です」


スタートラインに立つ二人。

正確には二体が魔物姿に戻ってまだかまだかとソワソワしている。


「第一コース。グリフォンのグロウ!」


上がったのは歓声ではなく雄叫び。

うちの空中での戦闘部門における隊長ポジションのグロウは雄寄りの使い魔達に大人気だ。

魔物時の顔が鷲だから男前の顔しているせいでもある。


「第二コース。ピポグリフのヒウロ!」


上がったのは歓声よりも黄色い悲鳴が多数。

戦闘部門の副隊長ポジションのヒウロは、どこぞのアイドルのようなイケメンなので、雌寄りの使い魔や精霊達に大人気。


同じ鷲顔だがこんなにも違いがあるのかと今でも不思議。


あれ?あそこにいるのはウィンディーネじゃない?

なんてことだ。今この時点でヒウロは僕の敵になってしまった。


『ウィルさま、どうどう』

「ロック、後で失恋の散歩に付き合って…」

『かしこまりました』


くぅーっ!ここは押さえろ僕!

せっかく(突発的だけど)のイベントなんだ。僕一人の都合でメチャクチャにしてはならない。


涙を拭って指先に魔力を溜めていく。


「コースは僕の作った壁沿いをぐるっと一周。先にゴールした方が栄光の二位であります」


さて、僕も準備しなくちゃ。


「それでは、位置についてー……」


翼を広げる二人。

手をピストルの形にして空へと向ける。


「よーい……」


張り詰める緊張感。


「どんっっ!!!」


バンッッ!!!


一斉に駆け出す二人と僕。

あ、僕一緒に飛んで実況しないといけないので。




すぐさま姿を消す。二人の生々しい戦いを目に納めるためにね。

先に駆け出したのはピポグリフのヒウロ。やはり後ろ足が馬だから足が早い。少し出遅れてグリフォンのグロウ。やはり後ろ足がライオンだから少し遅れたか。


この僕の見ている映像は僕の魔力を使って観客席のモニターに写し出しております。


「補佐のロックくん。やはり二人の離陸のやり方ってのはかなり違うものですか?」


念話でロックくんに話し掛けると、話を突然振られると思ってなかったロックがビクッとする。


『え!?…ええ!そうですね、やっぱり体の作りの違いによって変わってきますね。例えば私だと、魔物体が鳥なのですぐに飛び立てますが、二人は混ざっているので…。あ!でも二人はだからこそ荒れた地形とか凄く得意ですよ!』


なるほど、作ったの僕だけど実際に現場を見てないとわからない事とか案外あるね。


「実は秘密裏にこのコースをちょーっと弄ったのでそういう荒れた地形もありますからどうなるのか見物であります」


お?ここで先にグロウが飛び立った。そして遅れてヒウロ。

なるほど、こういう離陸距離も違いが出るのか。

これは面白いぞ。

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