第11話 不穏なやつ

目の前にいる土下座をしている騎士と魔法使い達。

そんな目の前で素敵な笑顔を浮かべ、僕はこう言った。


「嫌です」


ですよねー!と言わんばかりの空気。

ダメもとで言ったのかい。


まぁ、そうなるように仕向けたのは僕なんだけど。

身をもって極楽を味わせ、君は此処から出ろと言われて出るのか?って疑問を植え付ける。

現代社会で過ごした僕が最高の極楽を作り上げたんだ。もともと此処はそんなに発展した世界じゃないから、更に強烈な天国を感じた筈だ。


現に『戦争に出るのが当たり前』の思考から、『此処から出たくないのは当たり前』という思考に変わっている。


まぁ。


チラリと使者の影へと目を向ける。


一人だけはうまく誘導できなかったけど。

想定内だから何とかなるだろう。


「……あの…」

「ん?」


三つ編みの女の子の魔法使いがおずおずと手を上げた。


「えと、貴方は、この国で生まれたんじゃないですか?」

「ちょっと、ナコ…」


おや?

これはなかなか肝っ玉が座ってる子だな。


「そうですね、一応この国で生まれました」

「? じゃあ、あの、この国に対して愛国心とか、そういうものは沸かないのですか?このまま魔族達に蹂躙されても良いのですか?」


ほー、これは凄いところを付いてくるな。

情に訴えて心を動かそうとしてくるなんて。


ざわりと、メナードが苛ついた気配を放つ。


まてまてメナード。早まってはいけない。


「ナコ、と言いましたか」

「は、はいっ」


足を組み直し、きちんと座り直す。

たったそれだけの事なのに、場の空気がピリピリと張り詰めていく。


騎士がゴクリと唾を飲み込み、冷や汗が流れている。


「いいですか?世の中には、やった方が良いことと、やらない方が良いことがあります」


頭の中にはある風景が流れていく。

それは地形が変わるほどの攻撃によってこの国が終わる瞬間だ。

その中に立っているのは敵じゃない。僕だ。


「やらない方が良いこと。それは、僕を戦争に参加させること」


どの立場にいたとしても、戦争に参加すれば僕は必ずこの国を滅ぼす。そう決まっている。

変えられない道筋だ。


「強いものを味方につけても、未来が良い方向に転がっていくとは限らない。特に、この戦争はね」


だから、僕はここから動かない。

僕は自ら封印されているんだ。

その封印をわざわざ外してはいけない。


「でも……、………」


言葉に詰まるナコ。


「だから、もう諦めて別の適任を見付けた方がいい。幸いにもこの国にはまだ僕とやりあえるほどの奴が隠れているからね」










「 そういって言い訳して逃げるつもりだろうが? 立派な売国奴だ 」






そう言った奴が驚いて口を手で押さえた。


「カズマ…お前」


騎士がカズマと呼んだ青年が必死に違う違うと首を横に振る。だが、実際にその青年の口から出てきたのだ。



出たな。



カズマはゆっくりと震える手を下ろしていく。

そして立ち上がった。


いつもの青年の気配じゃないことに気が付き周りが止めようとするが、その手を振り払い僕の前までやってくる。




「 国王の意に背く売国奴は、排除します 」




手にはクナイに似た小刀。

それが振り下ろされた。

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