第12話 圧倒的有利な条件

小刀が勢い良く振り下ろされたが、僕に届くかという瞬間に刃がボキリと折れた。驚いて僅かに目を見開いたカズマだったが、ついで迫る驚異に気付いて後ろに跳んだ。

その場所を勢い良くメナードのハンマーが薙いだ。


「 ちっ 」


悔しげに舌打ちするカズマ。

気配はもう影だ。完全に乗っ取られているらしい。


「おいカズマ!何をしている!?」

「操られているんですよ」

「ええっ!?」


騎士が凄い吃驚しているけど、もしかして気付いていなかったのかな。


『この無礼者が…ッ』


メナードが怒りすぎて魔物化してしまっている。

角は長く鋭く。牙は伸び、白目は黒へ。


「メナード、大丈夫。怪我してないって。…さてと」


メナードを落ち着かせながら立ち上がる。

さーてと、めんどくさいけどやりますか。


「家の中だと迷惑なんで、外に出てくれません?」

「 うわっ!? 」


カズマを指差し外へとスライドさせると、ふわりとカズマが浮き、スライドの通りに外へと飛ばされた。


結構雑な飛ばし方しちゃったけど、中身魔術師じゃないし大丈夫だろう。


ほら、綺麗に着地した。

地味に着地の仕方が格好いいのがちょっとムカつくな。僕もあんな風にかっこ良く着地したい。


『俺達がやりますか?』

『わたしやる?』


騒ぎを聞き付けて使い魔達が集まってきた。


「大丈夫大丈夫。僕にまかせて」


折れた刀を投げ捨て、袖口から新たな刀を取り出した。

持っているはずのない刀を取り出した事に騎士達はまたしても驚いている。


影仕舞いの術。

僕もよく使うけど、あれじゃどんな武器持っているのかわからないんだよなぁ。


「君は王国の影だね。勧誘を諦めて暗殺に来たの?いや?違うか、あの刀に毒が塗ってあるみたいだから、動けなくさせてから拉致する予定だったのかな?」


投げ捨てた小刀を、毒が好きな子が拾って舐めている。

酸っぱそうな顔をしているから、麻痺薬かな?


「 国王命令だ。戦争に参加しろ 」


お話聞いてたかな?


「嫌です」

「 じゃあ実力行使します 」

「ん?魔術でも使うのかい?」


この影の使っているのは影繰(かげくり)という術だ。どんなに操者が優秀でも、影繰中は身体能力は操っている人間に依存する。

この影は刀を使う。とするならばきっと格闘系が得意な筈だ。魔法使いの体はそういうのに不向きだ。体を鍛えてないからさっきの着地だけで足にキているのだろう。

痩せ我慢をしているが、右足がプルプルしている。

さては挫いたか。


「 ………… 」

「どうするんだい?」


ぐっと変な顔をしながら何かを悩んでいる様子。

魔法は使えないっぽい。


「どうせ隠れているのバレているんだからもう脱げばいいのに」

「 それもそうだな 」


カズマの体がかくんと力が抜けてその場に倒れる。すると倒れたのにも関わらず形の変わらない影から黒い布を被った人がずるりと立ち上がるようにして現れた。


その瞬間、騎士と魔法使い達がこそこそやって来て意識のないカズマの体を引きずって撤退していった。

逞しいなあの人達。


「ふう、ああ体が軽い…」


黒髪の美女だった。

被っていた黒い布を影に落とすとそのまま吸い込まれて消えた。


「綺麗ですね」

「褒めたところで引いたりはしないぞ」

「でしょうね」


現に美女は刀を拾い上げてこちらに向けている。


「お名前は何と言うんですか?」

「きいてどうする」

「呼ぶとき困るじゃないですか」


別に美女さんと呼んでも良いんだけどね。


「…………シャドウだ」

「シャドウさんね。ねぇ、取引しませんか?」

「しない」

「一応聞いてくださいって」


生真面目なんだから。


「話し合いでは解決しないっぽいんで、どうでしょう?ここは僕と勝負して、勝った方の言うことを聞くってのは?」

「断る」

「僕は一切魔法を使わないし、結界もなし、眼も使わないし、使い魔も介入させない。完全に丸腰の状態で対決しましょう。それで、僕に傷を付けることが出来れば」



シャドウが黙って耳を傾けている。



「この戦争が終わるまで、僕は全ての戦場を制圧するってのはどうでしょう?」




使者達もゴクリと唾を飲む。

魔術師は魔法がなければ雑魚だ。そんな状態でのこんな好条件、食い付かないわけがない。



シャドウはしばし考え、頷いた。


「撤回は無しだ」


食い付いた。


「男に二言はありませんよ」

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