第10話 天国はここにあった

夜、枝の上に座り、三人が上がってきたという崖を視る。


「ああ、しまったなぁ」


あんなところに根っこがあったのか。

抜くわけにいかないし、仕方がない。ネズミ返し作っておこう。


ちょいちょいと絶対に登れないようにえげつない角度に改良する。

こんなもんかな。


『ウィルー』

『坊っちゃん』


呼ばれて下を見る。

すると大福とクーが来ていた。


二人とも新しくしたワンピースが良く似合う。


大福が翼を広げ、クーと手を繋いで飛び上がってくると枝に着地した。


「あの人達は?」

『治した』

『おふろー!』

『怪我はあんまりない。基本疲労だけだったから、すぐに目を覚ましてメナードの作ったごはん食べて風呂いった』

『メナード眉間にシワ寄せてたよ!見てて面白かった』

『イケメン台無し』

『ねー!』

『ねー』


二人顔見合わせての『ねー』。

こう見ると姉妹なんだよな。

クーが姉。


「まさか来客用の風呂が活躍するとは思わなかったな…。やっぱり風呂はたくさんつくって大正解」


男女別にに混浴、僕用の、使い魔用、その他複数。温泉宿並みのバリエーションだ。もっとも来客用のはある事情で作ったのだが、ずっと使ってなかったからちゃんとお湯が出るのか心配だった。

でもなんとかなったのだろう。

さすがライム。完璧な管理。


『あ。そういえばこんなの見付けた。どうしよう』


クーが何かを手渡してきた。

受け取り見てみる。


「あー、なるほどね。ちょっと待って」


目をつぶり、探知を広げる。

滴が水面に落ちた時にできる波紋のように広がり、目的のものを見付けた。


影の中に潜んでいるのか。

引っ張り出すこともできるけど、相手が出てくるまで待っていようか。どうせ目的はひとつだし。


「大丈夫。僕が何とかするよ。でも一応みんなに知らせといて」

『ん。わかった』


クーがルーンを使いみんなに情報を伝えた。

これで万が一の時でも対応してくれる。


『先行ってる』

『あとでねー!』


とうっ!と二人が飛び降りた。

結構な高さだけど、そのままちょっとの高さからジャンプしたのかと思うほど無事に着地し、そのままお喋りしながら家の方へと歩いていった。


二人ともかわいい女の子なのに、魔物なんだよなぁ。


さて、僕も結界の設定まで変更してから戻ろう。













「ほあああああ…っ」


かぽーん。と、水の落ちる音が木霊して独特な雰囲気を生み出している。

見たこともない浴場だった。


あれはなに?細長い緑色の棒にナイフみたいな形の葉っぱが付いている。


「ナコ、呆けるのもほどほどにして早く入るわよ」

「はぁーい」


椅子に座り、考える。

どうすれば水が出るのだろう?


アマンナを見るとアマンナも不思議そうにしていた。


『その丸いの捻る。赤が2、青が1の割合で』

「あ、そうなの?ありがとう教えてくれ」


親切な人にお礼を言おうとすると、目の前に青い半透明の美人がいた。その美人さんは逆さまの状態で天井からぶら下がっており、なんと足の部分はなく、ナメクジのように壁に張り付いている。


性別不明。

でも美人。


そして、明らかに人間じゃない。


「どひゃああー!!!」

「!!!?」


私の悲鳴でアマンナが驚き杖を出そうとしたが、無いことに気付いてワタワタしている。


『うるさい。ここはお風呂よ。静かにして』


む、と怒る美人。


「あっ、ごめんなさい…」


謝ると、何事もなかったように壁から滑り落ちて着地を果たす。足が生えた。


『ライム』


自身を指差して言う。名前かな?


「ライムさん」

『おけ。お風呂の説明する。ちゃんと聞いて。そっちの人間も』


アマンナを手招きすると恐る恐る近付いてきた。

敵意は無いらしいけど…。


『じゃあまずは、お風呂のルールから』




その後、ライムと言われる魔物にお風呂の入り方のルールをたっぷりと説明され、至極の時を味わったのだった。










騎士は頭を抱えた。

あまりにも疲れていて流されていたとはいえ、もてなされてしまった。

なんだあの食事。王族でもあんなに美味いのそんなに出ないぞ。なんだあの風呂。天国か。なんだこの布団。まるで雲の上の様じゃないか。


皆ほぼほぼ同じ意見らしく布団の上で無言になってしまった。


これは、此処から出たくない筈だ。

天国だもの。

むしろもうわしも出たくないもん。


脳裏に浮かぶ王様の顔。


帰りたくない。


「しかし、言わなければなぁ…」


参加してくださいと。

この天国から出てくださいと。


「ズブドイ騎士。明日、ウィル・ザートソンに会う前に頑張ってシミュレーションしましょう。心は、痛みますが」


と、カズマ。


「そうだな。明日、考えよう」


四人は布団に潜り、就寝した。







その影の中、シャドウだけが武器をチェックし、来る明日に備えていたんだった。


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