第1章、大魔術師は引きこもりたい

第2話 引きこもり攻防戦、開始

さんさんさん。

今日も太陽が気持ちが良い。


昨日は変な人たちが来ちゃったけど、山の入り口まで飛ばしたからしばらくは安心だよねー。


小さな雲を発生させて、この森だけに一時間だけ雨を降らせた。

もう晴れているけど、ポツポツとあちらこちらから雨の滴が落ちている音が聞こえる。


「やあ、今日も綺麗だね」


水の精霊が散歩している。

ウィンデーネだ。


普段は森の泉に暮らしているんだけど、僕が雨を降らしてちょっとの間は水の精霊も自由に移動できる。

半透明の体が透けて、背後の光を受けてキラキラしている。


ウィンデーネがくすりと笑い、小さく手を振った。


美人さんに反応されると嬉しい。


──ニャーン

──ミュー


と足元に小さな気配。すりすりと体を擦り付けている。

同時に肩にも結構な圧で顔を擦り付ける。


「大福、わたあめ、もう起きたのかい?まだお昼じゃないよ?」


足元の大福と、大きいわたあめ。両方可愛い僕の猫ちゃんだ。

たくさんいる使い魔の中でも特にお気に入りの二匹は僕の最高傑作だ。僕のこの森いにいる動物は殆ど僕の使い魔で、その内半分は僕が作り出したもの。


神様のお陰だ。

夢にまでみた天国。


「ご飯にしようか」


家に戻ってご飯の用意をする。

魔法で出すこともできるし、羊の執事であるメナードに頼んで作って貰うこともできる。でもたまには自分で作るのも楽しい。

なんたって世界最強で最高の大魔術師の僕は料理も得意なんだ。


「こんなもんかな?」


メナードと一緒に料理を運ぶと、今家にいる使い魔達が集まってきた。


「ご飯だよ。好きな方で食べてね」


僕の合図で使い魔達が各々好きな姿に変わって席に座る。

あるモノはそのまま獣の姿に。あるモノは人に近い姿に。


「ありがとうメナード」


椅子を引いてくれたメナードにお礼を言って、僕も席についた。


「さあ、僕達の恩人である神様に感謝しながら頂こう。人型の子達は手を合わせて」


目の前で手を合わせる。

目の前に並んでいるさっきまで生きていた存在に感謝して。


「いただきます」

『いただきます』


使い魔の子達はみんな良い子。

いつもご飯を美味しそうに食べるから。


「あ、結構いけるかも」


大豆で作ったハンバーグ。

まだ牛を飼うかどうしようか迷ってたけど、これでも十分だ。


みんなぺろりと平らげて、食べ終わった順から『ご馳走さま』をして使った道具を洗いにいく。

といっても洗剤は使わない。

今度は別の子の食事が始まる。


台所脇の泉にお皿を入れると食べ残しを食べてくれる子と、油が大好物で分解してくれる子がいて、全部綺麗にしちゃうんだ。もちろんこの子達も僕の作った子。可愛い。


『ウィル様。上空にドラゴンです』


泉を眺めていると、見張り当番のグロウがやって来た。


「ドラゴン?」


こんなところに珍しい。


迷いドラゴンだったなら、案内してあげないといけない。


「急ぎっぽい?」

『恐らく。ぐるぐると旋回してます』

「えー、わかった。行くよ」


仕方ないと立ち上がり、早着替え。

今来ている寝間着を撫でると、撫でた箇所から来客用の衣服へと変わっていく。

ピッチリした服は嫌い。

白のゆったりとした布の集合体。でも一応みっともなくならないように羽のように軽い装飾品を身に付けて髪を整える。

長い髪も編み込んで良い感じに纏まったのを感じると、外に出て、グリフィンのグロウが人型から獣型に変化して、空を見上げた。


「ほほーう、グリーンドラゴンか。とすると迷いドラゴンではないね」


グリーンドラゴンは偵察用に品種改造されたドラゴンだ。

偵察用という名の通り、森の中に隠れたものを見つけ出すのが得意なドラゴン。結界張っているけど、他の精霊達が迷子にならないように目眩ましの魔法をやってなかったからなぁ。

用によっては考えないといけない。


『あ、何か落としましたね』

「今通過許可するから拾ってくれる?」


落ちてくるものを指差し、結界通過許可をすると、結界の膜をすり抜けてヒラヒラ落ちてくる。それをグリフィンのグロウが咥えて戻ってきた。


「ありがとう。えーと、なになに?」


手紙だった。

とんでもない豪勢なデザインの手紙。


封をされている蝋には王冠を被った三ツ目の羊。


「あー、これは…」


嫌な予感。


蝋を剥がして中の手紙を見る。

あ、洗脳魔法だ。解除。


『なんですか?』

「…魔王軍への強制参加のお知らせだって」


昨日は王国からの使者が来て、今日は魔王軍か。


「なんかー、お前は俺様の配下であるはずの魔物を大量に使役している。ということはお前は俺様側であるはずなので魔王軍に参加する義務がある。断ったら殺すって書いてある」

『物騒ですねぇ』

『言いがかりも甚だしい』


だいぶシンプルに纏めたがこんな感じ。

てか魔俗語ってなんでこんなに文字も荒々しいし乱暴な言葉ばっかりなの?そういう文化?


ゴオオオオオオ!!!と、上空でドラゴンの咆哮が聞こえる。

早く返事しろという事らしい。

威圧的だなぁ。


『どうされます?』

「僕はここからでない。以上。ということで」


素早く手紙の裏に魔俗語の最上位文体で“御断りします”と書いてから封筒に入れ、ドラゴンに向かって投げ飛ばした。

手紙はくるくると高速回転しながらドラゴンへと飛んでいき、頭の上に張り付いた。


予想外の事に驚くドラゴンが手紙を剥がそうとしているけど、魔王じゃないと剥がれないよ、それ。


大きく息を吸い、ドラゴンに向けて声を飛ばす。


「返事は書きましたのでお帰りくださーーーい!!」


同時に霧と突風を発生。

ドラゴンは風に流されてあっという間に空の彼方に消えていった。


「強制送還完了」


嵐は去った。


『よろしいので?』

「うん。僕は僕のしたいようにするから。さーて、みんなー!せっかく霧を出したからかくれんぼしよう!」




















一方その頃、ツェルン城。


「で?返事はなんと?」


国王が戻ってきた使者に訊ねる。

奴は国境沿いとはいえ、ギリギリこの国の中にいる。故に国に従う義務がある。

あの魔術師さえ入れば、一月掛からずに魔王軍を殲滅できる。そして周辺国を従わせられる。はっはっはっ!!

どんなに最高の魔術師といえど一介の魔術師。国王の命令に逆らうわけがない。


当然使者からの返事は良いものと訊ねた。が、なかなか返答をしない。


「聞こえなかったか?」

「あ、の。その…」


使者の目が泳ぐ。


「ま、魔術師どのは、“えぬじーわーど”という用事で忙しいようでお断りに…」

「なんだと!?」


そんなことはあってはならぬ。

あってはならぬのだ。

というかなんだ、その、えぬじーわーどというのは?

魔術師専用の言葉か?


「余は懐が広い。早々にそのえぬじーわーどとやらを中断して参加するようもう一度行ってこい」

「もう一度ですか?」

「もう一度だ!行け!」

「は、はい!!」


使者達が転がるように出ていった。

全く。

早々に世話を焼かせる魔術師だ。


「おい」


誰もいない空間に声を掛けると、「はい」という高い返事と共に人が現れた。

カラスのような出で立ちだ。

影と呼ばれる王族だけが命令を下せる特殊部隊である。


「あいつらに付いていけ。もしまた断られるようなら強行手段に出ても良い」

「畏まりました」


すっと気配が溶ける。

さて、次こそは良い返事をくれよ。

大魔術師。

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