最終章 エピローグ

第46話 旅の終わりに。




 魔王、否邪神討伐の旅を終えて皆は一度このサンブラフ村に集まり、取り敢えずは宴と言う事でまる三日程飲めや食えやの大騒ぎであった。


 リタの土産話と出来た仲間の話を聞きに集まってきた村の皆も混じえての大宴会は、この村開墾以来のビッグイベントとなっていた。



 リタの故郷で旅の疲れを癒やした個性豊かなポンコツパーティ達、だがいい加減この辺でとそれぞれの今後を話し合っていた。


 ふとそもそも何でこんな大所帯で旅をしていたのかと言う話が持ち上がる。


 その切っ掛けはマキナがウィンダムでカーマインと共に魔法を研究したいと頼み込んだ所からだ。



「私、マインさんの弟子になりたいです! 最強の魔導士を目指したいんです」


「うふ、魔導士なんて言葉は基本的に無いのよ? 全ての魔法学に通じ、その全て熟知理解し、行使できる者。これが私の思う魔導士、ただやり方だけ知っている魔法使いとは違うのはここね! と言うか私はもうリタ君と結婚するからウィンダムに戻る気はないの、ここでゆっくりと種芋でも育てて余生を過ごすわ」



「ババァかよ!」


「てめぇこら、黑灰にしてやろうか」



「そう言えば随分色々な所から集まっているけど、リタと皆の馴れ初めはどうなってるの? 結構長旅だったのかい?」




 シャインレイはリタの作った朝食を長テーブルで皆と共に味わいながらふとそんな事を聞いた。


 皆もそれに「はて」と言った面持ちでそれぞれこうなった経緯を思い出している。

 一番初めに口を開いたのはやはりこの女、ルーテシアから追われた元王女のミュゼ・ルーテシアである。



「私は身内のゴタゴタに巻き込まれてこのアンナに殺される所だったの。それをリタに助けて貰ったわ、ほれはらよ」



 ミュゼはパンを齧りながら自分がリタに着いて行く羽目になった事を語った。

 アンナに殺されるところだったと言う話に皆ぎょっとして視線をアンナへ送ると、今度はアンナが自分の経緯を語りだす。




「ま、まあ……私は元々コイツの父親の弟に雇われた暗殺要員だった。それがこの、リタのせいで散々だった。まるで手も足も出ないし、怪しげな薬を突然飲ませられるし……まあ今となればあの時リタを殺ろうとした自分の勇ましさに称賛を送りたいがな」


「は、はは……それはそうだね。はっきり言って彼に勝てる生物なんてこの世にどれ位いるんだろうって思うよ」




 まったくだとアンナはだが、悔しさの欠片も感じぬまま朝食に手を伸ばす。


 自分の旅路で覚えた料理等足元にも及ばない児戯に等しい、そう思える程リタの朝食は完璧に美味だった。




「そう言えばアンタは何で着いてきたのよ!?」



 刹那、ミュゼが立ち上がりその矛先をゼオへと向けた。


 そう、よくよく考えればゼオはリタを敵視しており共に旅をする必要など無かった筈。

 強いて言うなら奴隷ミーフェルを救ってくれたリタに対する恩義だろうか。



「は!? 何言ってんだよ、リタが無茶なやり方でミーフェルを奪い取ったからあの街に俺の居場所が無くなったんだろ! 訳のわかんねぇ何とか奪還作戦ES! とか言ってよ、思わず一緒に街から逃げたんだ。そんでそのまままさか悪の親玉倒しに行くとは思ってなかったな」


「わ、私も同じです……奴隷だった私をリタさんに大金で買い取ってもらって、そのまま」



「君、めちゃくちゃやってるね」



「俺は手と脳を貸しただけだ。基本的に厄介な女を拾って来るのはこの正義を振りかざす無能だ」



 厄介な女とは私? それとも私? とミーフェルとリーファが互いを見合わせ、ゼオを間に挟んで激しい視線の火花を散らせる。




「私は、別に……特に行く場所も無いから。と、と言うかまさかわたしの妹がこの人の妹って事は私達も兄妹になっちゃうじゃない! 私これでも百歳になるんだから、私の方が年上じゃない、メルティだって九十よ!?」


「俺は十五だ」


「だからなんで兄なのよ!」




 自分で話した経緯に疑問を持ったエルフのリーファは自分に思わず突っ込んだ。



「何だか複雑なんだね」


「わ、私はリーファさんと同じレオンハルト騎士団に雇われてましたけどミュゼちゃんと仲良くなって……抜けてきてしまいました」


「私は元々願望の鏡を使って、運命の男子を探そうと暇つぶししてたけど……本当に見つかるなんて。リタ君に会えて良かったわ」




 ただちょっと行って帰ってくるだけの用事。それが様々なポンコツ仲間を引き入れ中々に壮大な旅になってしまったリタである。


 


 そこへいつもの如く何処かへ出かけていたであろう妹のミサが飛び込んできた。



「鬼ぃ!」

「誰が鬼神変人か」

「メルテ……今は、ミサね」


「あ、お姉も! ん、それクリームシチューだ。私にも一口」

「え、あ、うん」




 ミサは本来の姉であるリーファのクリームシチューを立ったまま一口啜る。 


 「んー美味しい」と義兄であるリタのクリームシチューに舌鼓を打つそんな妹の姿を何処か複雑に、だが幸せそうに眺めるリーファ。




「何処に行ってたんだミサ」


「うん、ちょっとウィンダム魔法学園にお誘いを受けてて……今年から通う事になったの」


「いや馬鹿な!?」


「あとお兄、探されてるよ?」


「いや誰に!?」



 


 妹のミサはどうやら何処で目をつけられたのか魔法国家ウィンダムの魔法学園、召喚精霊魔法科の学園長から推薦を受けているのだと言う。



 ウィンダム出身のカーマイン曰く、ウィンダム魔法学園への推薦入学等聞いたことが無いらしい。


 魔法学園はこの世界で唯一無二の魔法士養成所。多額の資金を払い、各国の貴族達がこぞって通わせたいとも言われる名門学園である。



 魔法学園は四つの科目に分かれ、それぞれに副学園長が一人付き全権を任されている。


 そのさらに上には学園長と言うものがそれぞれ存在しているが、そんな人間が直接生徒の勧誘などあり得なかった。



「まぁでも召喚精霊魔法科なら……あり得るわね。あの変わり者のエルフ族長だし」


「え、エルフの族長って、まさか」




 リーファがカーマインを見る。

 エルフの中では有名なその長、ミッシェル・リヴァエリ・ルカ。

 

 数年前突如人間達の大陸に渡り、種族共存を謳った新たなる長である。

 その影響を受けてリーファとメルティも大陸を出たのだ。



 そんな種族の長が今は北の魔法国家でまさか学園長をやっているとは。




「さ、流石詳しいですマインさん! マインさんもやはりウィンダム魔法学園を出ているんですね! マインさんレベルであれば首席で卒業ですか!? 高等学院にも進まれたのですか」



 興味津々と言った様子でマキナがカーマインに詰め寄る。



「ううん、私召喚精霊魔法科の学園長だったの。つまらないから辞めるって言ったら後継者がいないから困るなんて言われて、でも精霊魔法なんてまともに行使できる人間いないから……エルフの族長に直談判しに行ったのよ、学園長やって! って」



「どびゃぁぁは!!」




 マキナはクリームシチューを撒き散らして昏倒した。

 


 そんなとんでもない話を暴露されたものの、妹がそう言った誘いを受ける事はまま考えられた。


 だがリタの方は一体誰が探しているというのか。


 まさかミュゼの叔母であるメロウが何かリタを利用しようとリオ共和国にけしかけたのか。


 それともカルデラで辺境伯爵をやっているというレオンハルト騎士団、キルレミット鄕からの呼び出しか?



 リタの疑問を察したのだろうミサが端的に告げる。




「銀竜が儂の鱗がぁぁ!って、お兄の名前呼んでるのが聞こえたから」



「あの老耄がぁぁぁあああ!! きぇぇえい!!」





 刹那冷静さを失った兄がその場から消え失せたの見たミサは自分の身を震え上がらせた。



 あの鬱陶しい銀竜、ミサの身体をなめ回すように視姦し、何かしらの理由をつけて自分の鱗とミサの尻撫でを交換させたりと欲望の限りを尽くす千年竜。


 いつかにリタの交渉によってようやく蜜蝋で鱗を貰えるよう説得したが、その嫌がらせは兄であるリタへと矛先を向けていた。



 今回お使いを頼んだのもそう言った背景があっての事だ。


 だがリタの沸点はもう限界のようだった。




 リタの気配は既にその場から消えている。


 つまりは魔力転移。

 禁忌と言われるその魔法を兄が解き放ったと言うことはそれだけ本気になったと言う何よりの証拠。



 ミサはこのまま世界が滅びるのではないだろうかと言う恐怖に見を縮めていた。



「リタ君……まさか、今の、転移!? どこへ行ったの!? リタ君、私をおいて何処の女の元へ!?」


「いやどう見ても違っただろがぃ!!」



「どうしよう……お兄を止めて貰えないですかマインさん? 多分貴女位じゃないと無理、かも。お兄あの銀竜の事すごく恨んでて……あ、あの転移の使い方は」



「て言うかアイツどんだけあの竜恨んでんだよ」



 

 ミサはここに来て初めて不安な表情を見せる。


 それはそうだ、あの兄が怒り狂うなどと言う事自体が稀であり脅威。



 リタは自分の力を過小評価し過ぎている。

 本気になってしまった兄がその力を存分に発揮してしまえば、それはもののついでで世界が滅びかねないのだから。


 ミサは兄の行き先と転移魔法の使い方をせめてカーマインに教え、兄が世界を壊してしまわぬよう助けを請う。


 このカーマインと言う女性だけは明らかに兄の連れるパーティの中でも桁外れの魔力総量を持っているように見えた。

 この人ならと、ミサは転移魔法の魔力錬成法、魔力導通をカーマインに伝えようとする。



「あらミサちゃん、このカーマインを舐めてもらっては困るわね? 私はあのリタ君が唯一・・認めし未来の妻よ。転移魔法のやり方位知ってるわ」




 そう言うとカーマインもその場から刹那に姿を消す。



 最早誰もそんな規格外な者達に驚きはしなかった。

 何処か遙か遠くの地で何かが崩壊したような、そんな音が微かに聞こえた気がした。




「ふぅ……まあなかなか有意義な時間だったね。リタも行っちゃった事だし僕もそろそろお暇するよ、行こうかラーヴァナ」


「そうじゃなシャイン」



「お前らも仲いいよな本当。てか俺等はどうするミーフェル? クロックにゃ戻れねぇしよ、だからってこんな辺鄙な村じゃ暇だろ」


「わ、わ、わたしはその……ゼオ君がいれば」


「私は……まあいいわ、二人の関係はこの際見逃す事にする。私は妹の成長を見たいし、だからと言って魔法学園には入れないから、この村に家でも建てようかしら」


「ああん、なんだよ水臭えな。んなら俺達もここでいいんじゃねえの? なぁミーフェル、家建てちまおうぜ」





 そんなゼオの言葉に色々と動揺を見せるミーフェルとリーファだったが、結果ゼオのマイホームを持とう宣言に惹かれてしまった二人である。


 ここにゼオのハーレムが完成しつつあった。



 


「じゃあ行くねぇ! お兄が戻ったら宜しく言っといてー!」


「ああ、馬鹿王女も達者でなぁ!」


「ファイアーボール!」


「危ねぇな! 気をつけろ馬鹿王女」




 ゼオ、ミーフェル、リーファ、マキナを残して他の四人はミサのワイバーンに乗って大空へと飛び立った。

 ふと火山灰のような砂礫が降り注いだが、まあ大したことでは無いだろう。




 いつの日かまた会う事もあるかもしれない、不可思議な縁によって繋がった仲間達。


 語られる事の無い世界救済の物語は、ここに幕を閉じたのだった。




 ふとゼオ達の前に身体を密着させていちゃつくリタとカーマインが砂塵を舞い上げながら突如姿を現す。



「うぉっ! 何だよ、もう要件終わったのかよ? お前の妹、もう行っちまったぞ? ミュゼとアンナも。ったく最後くらい別れの挨拶しねぇのかよ、正義がたりねぇぜ」


「お前の正義などクソ食らえだ」


「何だとコラァ……って、一体何してきたんだよお前は」



「連峰ごと崩壊させて来た。これで谷も竜もお終いだ、ざまぁない」


「おい、口悪いなお前。ていうかさっきの灰の雨はやっぱりお前のせいかよ」


「流石リタ君よ! あの崩壊で魔王城も土砂に埋まって一件落着なんて、一石二鳥よね」




 呆れを通り越して、特に興味も失ったゼオは呑気にリタの家へと戻ろうとし「お前は何で残っている?」とリタに突っ込みを食らうのだった。


 

 










 ミサがウィンダムの魔法学園へ入学し、皆が散り散りになってから一ヶ月程。


 村は特に変わった事もなく、リタはいつも通り日課である素振り十万回を終えていた。


 

 そう、唯一変わった事と言えばリタが持ち帰った銀竜の鱗十キロのうち、その一キロを使用してミサが完成させた神々の剣。

 これを気安くぶん回した事によって空いた大穴から湧き出た温泉が村で完成していた。




 村には一件の木造二階屋新築が建ち、そこにはゼオとミーフェル、リーファが仲睦まじく暮らしている。




 そして今日は朝から村に仰々しい荷馬車と騎士団を引き連れたドレス姿の客人があった。



 どっかの馬鹿王女である。




「だぁれがよっ!!」




 共に旅をしたルーテシアの元王女ミュゼ・ルーテシアは、リタと共に数々の苦難を乗り越えその王たる気品と、絶大なる魔法を手にした事で遂に王座奪還を成功させたようであった。


 

 ルーテシア本国では一向に見つからないミュゼの死体に業を煮やしたブラウンが、ミュゼの事故死をでっち上げ、王の代理から遂に王座をその手にしようとしていたらしい。



 だがそんなブラウンの動きを皮切りに、叔母であるメロウ・ルーテシア率いる革命軍とミュゼは自国の有権力者達を真っ向から引き摺り下ろす作戦に出た。



 王女であるミュゼを暗殺しようとした事を暴露し、その嫌疑に怯えたブラウンはすぐ様国を出ようと企んだ。



 そこをアンナが国外で暗殺すると言う筋書き。



 ミュゼを暗殺する為に雇われたアンナを逆に利用してしまう強かさは流石といった所である。


 


 そんな王座を無事奪還したミュゼがわざわざこの村に舞い戻ったのはある事を伝える為だ。



 リタにはルーテシア王家より、その礼として今後国賓扱いにすると言う誓いを交わし、その上でリオ共和国、特にサンブラフ村への商業ルートの開発をルーテシア国の費用で進めていきたいと言う話であった。




「で、何故俺がその開発を手伝わねばならんのか。これからSランク冒険者になる準備がある」


「何言ってんのよっ、もうそれはいいでしょ! そんなの『私』の国にくれば独断と偏見で直ぐにSランクよ、ふふふ、崇め! 讃えよ――ぶばっ」


「黙れバカ王女が。大体何で私がコイツの専属斥候役なんだ、王女なら城に収まっていればいいものを。あのメロウって叔母、お前を飾りにして上手いこと国を支配しようとしてるな」



 土汚れ一つないドレス姿のミュゼだけで無く、アンナの方もしっかりとした装備で身を包みその姿は立派な護衛騎士である。


 リタはだがそんな二人等興味なさ気に木刀を肩に担ぐ。



「アホ王女が国を滅ぼすよりはいい。と言うかわざわざこんな所まで来た要件はそれか」

 



 それにしてもタイミングが良すぎた。

 サンブラフ村では湧き出た温泉もしっかりと整備され、その周りには商店街も作られ始めていた。


 村自体も心無しか開墾が進み、今までリタが走って片道数分程度の広さであったのが、数十分程度までになっている気がする。


 ザイルズ等が発見したヒカリゴケも既にリタによって完全万能薬として村では重宝されている。

 と言っても今までのリタ作製丸薬だけで十分でもあるが。




「いや……おかしいだろ。人が増えてないか? 村というか、街のように思えるのだが……さては貴様!!」


「ふふふ、ふふふふはははは!! 実は既に開発進んでまーすって言う知らせに来たの」


「何!? 私も聞いてないぞ」



「へっへっへ、サプライズじゃぁ!! 今までの仕返しじゃぁぁ! どうだ驚いたかこれが王女の力なんじゃぁぁあぶあっ!」




 リタに唾を吐きかけながら自分の権力を見せつけるミュゼの頭をアンナは引っ叩き、そして出たファイアーボールをリタが「下らん」と掻き消した。



 いつものやり取りだ。


 だが一つだけ違うのは、 リタがそんなミュゼを見て笑っていた。





 〜FIN



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最強妹がひっそりと世界を救う傍らで〜気付けばポンコツパーティで魔王を倒す事なっていた〜 Sinbu @kanbe

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