色褪せた幸せを抱いて
完全に俺は騙された気がする・・・。だって、そうだろ?
『俺死神なんだ』
こんな言葉信じる奴いるだろうか?まぁ、俺は信じたんだけどね。今、目の前に歩いている亮の後ろを俺は付いて歩いている。すでに学校を出て、どこかに向かってる感じだ。そう、どこかに。亮は教えてくれない。来れば分かる、らしい。歩いている間、俺達に会話はなく、ただ歩いているだけ。そして、とうとう着いた先は、ただの家。一軒屋だ。亮の家だろうか?とにかく、亮は入るように促した。屋上での話によると、この家の中の人に話をして、亮がこっちにいれるように頼む・・・らしいんだが。目まぐるしい一日だ。意味が分からない。俺は恐る恐る家に踏み込んだ。そこは、至って普通の家だ。
「ここ、今の俺の家」
亮は普通に答える。
「俺は・・・誰に会えばいいの?」
「今、二階に多分いるし、着いて来て」
俺は、言われるがままに亮の後をついていくしかない。そして、一つの扉の前。
「準備はいい?」
亮にそう言われて、俺は頷くしかなかった。何が出てくるか・・・もう何があっても驚かずにいたいが・・無理かな。
亮は、扉を静かに開けた。その瞬間中から声が聞こえた。
「あっ。お帰りぃー亮」
人の声だ。何だがイントネーションが少しおかしい気がしたが、これで安心出来そうだ。そして、俺が見たそこにいたのは・・。
「?!誰だーお前っ!り・・・亮!後ろに変なヤツいる!」
そこにいたのは、白い風船のようなものだ。ふわふわ宙に浮いている。そして、喋っている。軽く透けている。
俺は、唖然と見ているしか出来ない。
「ただいま。ネル。紹介するよ。蕪螺木だ」
何だ、その紹介?!もっと他にあるだろ。内心そう思ったが、目の前の物体を凝視しているしかない。
「か・・蕪螺木?あの、蕪螺木か?何で亮連れてきた?」
白い風船が焦ってそこら中をふわふわ跳び廻った。
「とりあえず、落―ち―着―けっ」
亮はそのふわふわした物を掴んだ。掴まれて止まる風船。
「亮、どういう事?」
ネルは亮の後ろに隠れてこっちを見ている。風船の真ん中に髑髏のような顔が描かれていてそこから声がする。
「まぁ、話せば長いんだけど・・。こいつ一緒に仕事してい?」
亮が風船に笑顔を向ける。
「短かっ!」
うっかり俺が声を出してしまった。風船は俺を睨みながら言う。
「ダメに決まってる。人間が死神出来るわけない。ていうか、そういう問題じゃない。いきなり意味分からない。亮おかしい」
風船は淡々と喋る。
「でも、俺達は3人で一組のスリーマンセルが行動の基本だろ?蕪螺木が入ればちょうどじゃん!」
「そんなの・・本部から一人入れればいいだけでしょ!」
「嫌だよ。俺、あいつら嫌いだし」
「わしだって嫌いだけど。そういう問題じゃない」
「頼むよ!ネル!」
「ダメ」
そんな会話の押収を聞きながら俺は未だに混乱していた。さらには、説明のない亮に腹まで立ってきた。そして、ついに俺は口を開いた。
「うるさいっ!」
その言葉に亮と風船は会話をやめた。風船はびっくりして少し萎んだ。
「亮は全然俺に説明ないじゃん!だから、その風船は何?今、何の会話中?俺も仕事一緒にするって何?」
一気に言ったら息が切れた。
「あー。だから、この白い風船がネルって言って、まぁ、役割としてはマネジャー?みたいなもん。仕事の請負・連絡・家事洗濯全部この人やってくれるから」
「人?」
「そこは突っ込むなよ」
俺と亮は言い合いを始めた。言い合いと言っても、俺が何かを言って亮が軽くあしらうっていう状況だけど。風船みたいなネルは、俺達のやりとりを見て、うんざりしたのか・・・ため息をついて口を開いた。
「わかった・・どーせ、ネルが何言っても亮聞かない、知ってる。ちょうど、さっき仕事届いた。しばらくこっちに残る事も決まったし、様子見る。それからだ。いい?」
白い風船は、無表情だが呆れ声でそういった。亮が笑顔で答えた。
「十分だよ」
「え?・・・どうゆうコト?」
俺には、結局何の説明もないのか。
「まぁ、いいから、いいから!」
亮は笑顔で俺の肩を掴んで部屋の外に出ようと言った。その背中を見て、ネルが言った。
「仕事は後で言うから」
亮は軽く手を挙げて返事をした。
「あっ!悠人だ!・・・亮連れてきたんだ」
部屋の外には、あの転校生がいた。
「ヒヨリもいたのか。ネルに許可もらったよ」
「うそっ!あの風船がよく許したね~まぁ、頑張りなよ、悠人。あたしは、協力しないけどね」
なんだか一瞬ヒヨリに睨まれた気がした。が、すぐ笑顔で去って行った。
「俺、あの子に嫌われてる気がする」
「・・だろうな。あいつも複雑なんだよ」
亮はそれしか言わなかった。そのまま亮の寝室に行った。寝室・・・本当にベットしかない。小さな窓が一つとそのすぐ近くにベットだ。なんて殺風景。
「とりあえず、落ち着いた?新しい仕事入ったし、資料読みながら今後のお前の予定を・・」
亮が言いかけるのを俺は遮った。
「あのさ・・俺は一体何すんの?」
自分の先行きが不安すぎて思わず聞いてしまった。亮が答えてくれるだろうとは思ってなかったが、一応だ。
「蕪螺木にはだな~俺達の仕事を手伝ってもらおうと思う!したら、一緒にいれるだろ?まぁ、こっちの世界のだけだけどな」
「何だよそれ!」
「だって、お前、俺と離れたくないんだろ?」
亮がきょとんとした顔で言う。つか、いや、言ってないだろ、そんな事。変な言い方するな。
「まぁ、結構慣れれば楽しいって」
「・・・俺はまだ手伝うなんて言ってないから」
「なら、記憶を消すだけ」
亮は無機質な声で答えた。
「え?」
「だってそうだろ?俺達の存在を一般人がずっと覚えてていいわけがない。だから、お前の俺達に関する記憶だけ消すんだ」
「ふざけんなよ!勝手に人の記憶消されてたまるか!」
「なら、手伝うしかないぜ?」
亮は笑顔だ。くそー。やっぱ完全に騙された!俺は観念してやるしかないのか?一瞬にしてそんな疑問と答えが頭で走る。
「・・・なら、さっさと資料よこせ!」
亮はそれを笑顔で見ていた。そして、資料の内容はこうだ。
【北山(きたやま) 柚(ゆず) 十六歳 女 周囲の堕霊の除去および、例外によっては能力の回収】
「これだけ?」
資料に書かれていたのはこれだけだった。
「どうゆう事?」
「あと、自分で調べろって事だよ。資料なんて、いつもこんなで適当なんだ」
亮は資料をそのままゴミ箱にダイブさせた。
「確か、資料に書いてあった少女はうちの学校だろ。明日から接触してみるか。て、わけで明日から頑張ろうな」
「はぁ」
俺は何がなんだかわからないまま亮の家を後にした。やっぱまだ頭が理解してない。
「俺、選択間違ったかな」
一人呟きながら、俺は家に帰り、ベットにそのまま倒れこんだ。
空が高い。今日もいい天気だ。何かが変わったようで、何も変わってないような日常。いや、一つだけ確実に変わったモノもあるが。俺は、制服を着て、今日起きるであろうありえない事を想像したが・・・ありえない事を想像出来なかった。まだ何も知らない俺。
「学校、行くか」
俺は学校へ向かい、そして、そのまま屋上へ行った。行く途中の周囲の視線もそろそろ慣れてきた。以前の俺との変わりようを皆珍しそうに眺める。今の俺とったら、どうでもいい。
「!よぉ。おはよう、蕪螺木」
亮とヒヨリがすでにいた。ヒヨリはこちらを見るだけで、今日は一段と機嫌が悪そうだ。
「ヒヨリも挨拶くらいしろよ?俺達、一緒に仕事するんだ」
「・・・分かってる」
ヒヨリは俺を見たが、結局何も言わず、ただそこにいるだけだ。それについて亮は深く言わず、仕事の話を始めた。
「よーし、お前にとって、初仕事なわけだし、今日から張り切ってやるか。とりあえず、俺の考えとしては、お前が先に・・えーと・・き、北山 柚だっけ?に接触してくれ。俺は様子見」
亮は笑顔で俺に爆弾発言をした。
「ちょっと待って!俺が何したらいいの?全然分からないんだけど」
「とりあえずは、何をするってわけではない。接触・・いわば、友達とかになったら?まず、仕事は相手を知る事からだからな」
「そんな事言われたって・・俺はこの学校では無価値に等しいんだぜ!?」
「・・・お前、自分でそういうの言うな。前のお前とかわらねーだろ」
「だって、事実だ」
「はぁ・・なら、いい事教えてやるよ。この北山って子もあんま友達いねーから大丈夫だよ。お前が嫌われてるって事事態知らないと思うぞ?」
「そんな事言ったってなー」
「お前、マジでかわらねぇ」
亮の声が低くなったのを感じた。俺だっていきなりそんな事言われたって、動揺くらいするだろ。
「わ・・わーかったよ」
俺はこれを言うしかなかった。
「よし、ほんじゃ、任せるわー。俺は授業出て勉強とかしてみたいしな」
「あんた・・学校生活満喫する気かよ」
「当たり前だろ?俺はおとなしく仕事ばっかやってる奴に見える?」
「いえ」
「だろ?」
いーのかよ、それで。まぁ、本人が言うし、ほっとくか。俺も・・・とりあえずどうしよう?
「接触」
喋りかけてみるか。俺は、うな垂れながら屋上を降りた。今日の放課後から動くことにする。
そして、放課後になり・・・友達のいない俺は、北山 柚をどうやって見つけるか思案しながら歩いていた。
「探すって言ったってなーどうやって探すかだよなーて・・うわっぁ」
曲がり角から少女が飛び出してきた。
「きゃっ」
「あっ!ごめんっ」
俺は考え事をしながら歩いていたので、俺よりも少し小さい少女を受け止められなかった。大量のプリントが飛び散り、俺は急いで拾い集めた。そして、ベタというか何というか、プリント集める俺達の手が触れた。そして、ここで普通なら恋心芽生えるんだろ?なのに・・・
「ひっ!」
えぇーーー俺、嫌がられた。
「あっ・・ごめんなさい。本当にごめんなさい。ありがとうございます」
少女は慌てて去ってしまった。そんなに謝られると逆に傷つくよな。まぁ、俺、嫌われてるしな。仕方ないか?そんな哀しい気持ちなりながら、少女の背中を見送った。
「あれ?もう友達になったの?なかなかやるんだな」
「亮・・・何の事だよ」
いつまにか亮が隣に立ってる。
「だって、あれが北山 柚だろ?」
「えぇ!そうなのかよ!つか、先言えよ!したら、話しかけられたのに・・・と、待てよ?俺なんか嫌われてたし、俺が喋りかけても無駄なんじゃ?」
俺が一人でぶつぶつ言ってるうちに、亮はさっさと歩いて行こうとする。
「ちょっ、どこ行くんだよ!」
「図書館。あそこすげーな。本がいろいろあるんだよ」
「まぁ。図書館だしな」
「向こうにそういうのないからさ。読みたいものとか簡単に手に入らなかったんだよな」
「そういえば、あんた前読んでた本も図書館で借りた奴か!」
「前読んでた本?」
「確か、皇帝学?なんちゃらってやつ」
「あぁ!あれは2度目だったんだよ、読んだの。つか、そういうわけで、頑張れよー。何かあったらちゃんと報告しろよ」
亮はそれだけ言うと図書館の方へ言ってしまった。
「あんなんでいーのかよ、職務怠慢だ」
俺はまたもぶつぶつ言いながら歩いていると、遠くで保健室から出て来るさっきの少女を見つけた。向こうはこっちに気づかずに去っていった。俺は思い立ったかのようにそのまま保健室へ入った。
「先生!今の子どんな子?」
我ながら直球で聞いてしまった。が、後戻りは出来ない。
「どんな子って・・普通の子よ?たまに具合悪そうに来るのよね~何か病気持ちってわけじゃないみたいなんだけど」
「よく来るの?」
「そうねー結構来るかしら」
保健の先生は心配に言う。そして、俺を見て先生は付け加えた。
「あなた、北山さんの友達?助けてあげてね」
「・・はい」
俺は北山柚について、あまり情報を得られないまま、保健室を後にした。教室を出ると、すぐ横にヒヨリが立っていた。傍らには、猫がいる。
「あんた・・」
「本当に仕事してるんだ。まどろっこしいやり方」
「なら、どうすればいーか教えてくれよ」
嫌な言い方をされて反抗的に返してしまった。
「あたしは、亮とは違うんだ。協力しないって言ったろ?でも、早く終わらせてよね」
そういうとヒヨリもまたどこかへ行ってしまった。
「なんだよ、あれ」
俺はとりあえずあの子を探した。まず、知り合わなければだ。若干さっきの態度が気になったが、それではいつまでも終わらない気がしたので、そこは忘れる事にした。そして、学校中を探してみたものの、もう学校にはいないようだった。仕方なく俺は、帰る事にした。
「また明日だな」
俺は家に着き、すぐに冷蔵庫を開けると何もない事に気づいた。作るのがめんどうくさくて、あとでコンビニにでも行く事にした。
そして、コンビニに向かった。少しずつ寒くなる季節を肌に感じつつ、急ぎ足で向かった。そして、どこか遠くから犬の鳴き声がこちらに向かってくるのが聞こえた。そして、俺の後ろから前に大きな犬が通り過ぎて行った。
「お願い!待ってー。コリー」
遅れて聞き覚えのある女の子が聞こえてきた。えーと・・あぁ!思い出した。北山 柚だ!俺は、衝動的に前を走る犬を追いかけた。俺にとったら犬に追いつくのは簡単な事だった。すぐにリードを拾うと犬を撫でた。女の子も必死で追いかけてきて追いついた。
「あの・・ありがとうございます。ごめんなさい!」
女の子は荒い息を整えながら、コリーと呼ばれる犬を撫でた。やはり間違いなくその女の子は北山 柚だった。どうにかここで関係を!
「いや、いいんだ。可愛い犬だね」
とりあえず、当たり障りない返答をした。少しだけ北山 柚が学校での印象と違うように見えた。なんたって俺は、叫ばれたくらいだからな。
「あの、君って俺と同じ学校だよね?」
思いきって核心をついた。女の子は驚いたが笑顔で返したくれた。
「そうなんですか?」
どうやら俺の事は覚えてないらしい。
「この前、たまたま見かけただけなんだけどね」
「そうなんですか」
女の子は笑顔をくれる。とても可愛い。て、そんな場合じゃなくて。
「あ・・俺、蕪螺木 悠人ていうんだ。せっかくだし、友達になろうよ!」
我ながら、まずいと思った。しかし、今まで友達なんていなかった俺に友達の作り方なんて分からない。
「え?」
しばらく女の子は黙ったが、またしても笑顔で答えてくれた。
「いいですよ!私、北山 柚て言います!こっちはコリー」
そういうと、コリーと呼ばれる犬が優しく吠えた。
「次は、学校で会ったら声かけてくださいね」
そういうと、俺は北山 柚とその場を別れた。なんだかあっけなく友達になれてしまった。意外と早くに終わりそうだな。そんな風に思った。コンビニから帰り、ご飯食べ終わり、俺は、亮から渡された資料を見た。
【周囲の堕霊の除去および、例外によっては能力の回収】か・・。これってどういう意味なんだろう。
俺はそのまま眠りに落ちた。
次の日。さっそく俺は、北山に話しかけてみる事にした。早くしないとまた忘れられるからな。
「よぉ!蕪螺木!」
背後から声がして振り向くと亮だった。
「あっ!お前――。今まで何してた!全然姿見なかったぞ」
「うん、いろいろ楽しかった」
亮の顔はキラキラ輝いていた。
「・・何してたんだよ」
「何って・・普通に授業受けてた。なかなか人間の勉強はおもしろいな」
「・・あっそ」
「で、お前はどうなんだよ?会えたのか?北山 柚には」
「まぁな。つか、友達になれた」
「やるじゃん。まぁ、その調子で頑張れ!」
「なんで、人事みたいに言うかな。つか、資料にも書いてあった、堕霊の除霊とかってどうすればいいの?」
「大丈夫だって。まだその段階じゃないから。じゃ、今日も俺は勉学に勤しんでくるかな」
亮は、特にアドバイスもなく行ってしまった。
「なんだよ!あれ!完全に任せっきりかよ!」
俺は、亮に腹立ちながらも、今日は北山 柚に話しかける事にした。大きく動けるのは、昼休みだろうなー。俺は、教室に向かいながら考えた。しかし、保健室の前を通りかかる時、ちょうど北山 柚が出てくる所だった。
「北山さんっ!」
「!えーと、蕪螺木君!」
北山の顔色は悪くてどうやら早退するようだった。チャンスだと思った。
「大丈夫?あの、俺送ってくよ」
「え?いーよ。悪いです」
「北山さん。送ってもらいなさい」
北山の後ろから保健室の先生が出てきて北山を宥めた。北山は素直に受け入れると俺の横に立った。その瞬間・・・ものすごい鳥肌と悪寒がした。俺は、一瞬その場で固まってしまった。
「何だこれ・・」
「?どうしたんですか?」
「いや、別に・・」
俺は、何事もなかったかのように2人で学校を後にした。そして、近くの公園で少し休んだ。
「大丈夫?具合いつも悪いの?」
「いえ、別にそんな病弱じゃないんですよ」
「そうなんだ・・てかさ、俺ら友達になったんだし、普通に喋ってよ」
俺は笑顔で言うと、彼女も笑顔で答えてくれた。そして、持っていた缶コーヒーを彼女に渡そうとしたとき、ちょうど手が触れてしまった。そのとたん、彼女が叫んだ。そして、俺を押しのけた。
「いや!」
俺は持っていた缶を落として中身がこぼれた。
「えぇ?!あの、ごめん、大丈夫?」
俺は、またしても嫌がられた事がショックだった。
「あの・・ごめん!違うの!別に蕪螺木君が嫌だったんじゃなくて、その・・」
「・・何か訳あり?俺で良かったら話聞くよ?」
「本当に何でもないの!」
彼女は若干震えているようだった。どこが大丈夫なんだか・・。
「そっか。でも、何かあったら本当に聞くから。友達なんだし」
「ありがと」
さすがに昨日今日知り合ったヤツに悩みを話すほど簡単な悩みではないだろう。それに・・なんだかあの時感じた寒気とか気になるしな。そして、もう一つ気になるのが、俺と彼女が手を触れた時の、彼女の手の冷たさだった。やはり北山 柚には何かある事は確かなようだ。もっと仲良くなる必要があるよな。
「あの・・もうここでいいよ。家すぐそこだから。・・じゃあね」
さっきよりも顔色の悪くなった彼女は俺に手を振ると行ってしまった。
「へぇー結構仲よくなったんだね~」
背後から声がして振り返るとヒヨリがいた。
「ぎゃっっ!」
俺は驚いてベンチから落ちて思いきり頭を打った。
「ヒヨリ!何でここにいんだよ!」
「悠人!気安く人の名前呼ぶな。それに、ここは学校への通り道だろ?」
「って、事は今から登校かよ。亮とは大違いだな」
「亮は、変態だからな」
ヒヨリはくすっと笑う。
「それで?ちゃんと進んでんの?」
素っ気無くヒヨリが言う。
「まぁ・・ね」
「ふーん。早く終わらせてね」
ヒヨリは嫌味っぽく言うとそのまま歩いて行ってしまった。
「なんで、あんなムカツクかなーくっそ。・・・でも、こんなんでいいのかな」
俺は、一つだけどうしても納得出来ない所があった。とりあえず、俺はもう一度学校へ戻る事にした。その頃、すでにお昼時になっていた。
そのまま屋上に行くと、亮が寝ていた。いつの日見た光景だ。つい最近の出来事なのに、すごく昔のように感じる。ここ数日で、多くの事が変わった。亮の隣に座っていろいろ考えた。
「・・・・」
「・・・なーに、考え込んでんだよ」
急に頭を撫でられた。
「なっ!何すんだよ。触んな!」
俺は頭の上にある亮の手を弾いた。
「何、照れてんだよ!」
亮はクスクスと少年のように笑う。
「照れてない!」
俺は顔少し顔が熱いのを感じた。
「やっぱ、蕪螺木は犬みたいだなー。ジョージ。・・・てか、何考え込んでたんだ?」
「・・いや、別に」
「そ?なら、いーけどさ。ちゃんと、俺にも言えよ?そこまで薄情じゃないから」
「わかってる」
俺は半ばむきになって答えた。そして、立ち上がると屋上を降りた。・・・・それからの俺は。とにかく北山 柚と仲よくなる事だけに集中した。事ある毎に北山に話しかけ、放課後は一緒に帰ったりした。そのおかげかだいぶ北山は心を開いたようだった。その間、ずっと俺は心がモヤモヤした。それに、一番初めに感じた、あの寒気や悪寒をこの頃頻繁に感じるようになっていた。その正体は俺には分からなかった。維持でも亮には聞きたくなかったし、もちろん、ヒヨリにも聞けるわけがなかった。俺は、日に日に体調を崩す北山を友達として本気で心配だったし、未だに北山は触れられるのを嫌がった。確実に友情を育てながら、その一方で秘密を持ってるのは、明らかだった。
「北山さー。最近どんどん具合悪くなってない?」
俺は、我慢出来ずに聞いた。
「前も言ったけど別に病弱じゃないんだよ?それに、私、今幸せなんだ~」
「なんで?」
「だって、好きな人と一緒にいたら幸せでしょ?」
「え?」
も・・もしや、俺?
「いや・・そんないきなり、告は・・」
「昔からの付き合いでね?もともとは幼馴染だったんだ」
彼女は嬉しそうに答える。今までに見た事のないような笑顔。
「へ?あ・・そうなんだ」
俺は緊張した心臓が一気に引いていくのが分かった。アホか、俺は。そして、次の瞬間だった。今まで感じた事なかった悪寒と寒気が一気に襲ってきた。
「えっ・・・」
俺は、意識が遠のいていくのが感じた。必死に意識を戻そうとしたが、目の前の彼女が薄れていくだけだった。そして、最後に見えたのは、北山ではない、大きな影だった・・・・。
「んーっ」
目を開けたら見知らない部屋だった。どこだ?ここ。
「起きたかー?」
「んんー?」
隣に亮が座っていた。
「何これ?俺、どうしたの?」
「普通に倒れたんだよ。最近、北山 柚とずっと一緒にいただろ?多分そのせいだろ。ていうか、お前まどろっこしいな、やり方が。それはいつまでたっても終わらないだろう。お前に任せておこうと思ったけど、もういーよ。俺やるし。お前寝てな」
亮が俺の頭を叩く。
「待って!どういう事?なんで、北山といると俺が倒れるの?」
「お前分かってないのか?寒気とか感じてたんだろ?」
「そうだけど・・それって、あいつと関係あるの?」
「んまぁ、あるんだよね」
「教えてくれよ!一体あれは何だよ」
「終わったら教えてやるから、とにかく寝てろって」
「嫌だっ!」
俺はベットから起き上がろうとしたが、眩暈でまたしてもベットに倒れこんだ。
「お前が、知らないうちにお前の体の中にも溜まってたんだよ。一応お前は人間だからな」
「だから・・何の事だよ」
「だから・・終わったらな」
亮は笑顔でそれしか答えてくれない。
「なんでだよ・・俺に任せてくれたんじゃなかったのかよ。それに、北山と友達になったのに。なんでも俺に言えって言ったのに。亮は俺なんてなんも出来ないと思ってるかもしれないけど・・つか、何も出来ないけど。もし、俺があの悪寒のせいで倒れたなら北山はもっと危ないんじゃないのか?それで、あいつ具合悪いんじゃないの?そういう時って俺が・・友達が助けてあげるじゃないのかよ!!」
俺は息を荒げてしまった。亮は表情を一つも変えずに言った。
「人間を吟味せよ。疑う者には疑わせ、信じる者には信じさせよ。てな。」
「はぁ?」
そういうとそれ以上何も言わずに亮は部屋を出て言ってしまった。それから3時間、俺はベットの上でボッーとしているだけだった。そして、やはりいても立ってもいられず、俺はベットから出て、そして、扉を開けた。
「悠人。どこ行くの?」
「・・・ヒヨリ」
「亮が、もう仕事片付けてくれるんでしょ?」
「俺も、行かなきゃ」
「無駄でしょ。つか、邪魔でしょ」
「分かってるけど、俺は北山に会わなきゃダメなんだ。亮は何も教えてくれない」
「悠人って、自分の事ばっかり」
「どういう事?」
「さっき亮が言った言葉覚えてる?」
「・・吟味せよとか何とか・・」
「それね。フランツ・カフカの言葉。ちゃんと意味を理解した?」
「フランツ・カフカ。・・・・て、誰?」
しばらくの沈黙。
「とにかくっ!あんたは寝てろ!て事。また、倒れるだろ!亮の気持ち分かれよ」
「ヒヨリ・・もしかして心配してくれてんの?」
「はぁ?何言ってんのよ!死ね!」
そう言うとヒヨリはずかずかと歩いて行ってしまった。少し耳が赤くなっているようだった。
「ヒヨリ・・ごめん。やっぱ、俺行かなきゃダメだ。亮だけに任せておくわけにはいかない」
俺は重い足を引きずって亮の家を出た。
「北山 柚だな。お前の周りの奴らを迎えに来たぞ」
「・・・誰?」
前よりもものすごいやつれて顔色の悪い彼女が亮の前に座っていた。
「あんたは俺の事は知らないだろうな。俺は、蕪螺木の友達」
亮は彼女の前で笑顔だ。
「蕪螺木君の友達・・。そう。私の周りの奴を迎えに来たって何?」
「そのままの意味だ」
「言ってる事が分からない」
「そーか。・・全く!蕪螺木まで巻き込んで。力づくで引っぺがしていくだけだ」
亮が眼鏡を外すと、眼の色が変わった。そして、周りの大気が震え始めた。
「もっと早くにこうすれば良かったな」
そして、次の瞬間、亮の周りではなく・・彼女の周りに大きな渦が出来ていた。まるで、怨霊でもとり憑かれているようなだった。
「あーあ、せっかくここまで、逃げ切れてたと思ってたのに!」
それは、北山 柚の声ではなかった。低く、男の声のようだ。
「やっと、正体を現したか?軽い霊じゃないな。お前誰だ?」
「ククッ・・。こいつの男だよ。まぁ、だいぶ前に事故で死んだんだけどなー」
「まぁ、そんな所だろうな」
亮はまるで慌てる様子もなく、落ち着いている。
「お前ら何者だ?この学校に来た時から何か違うモノだと思っていたが・・さしずめ俺を天国に導く天使か、怨霊になった俺を地獄に落とす悪魔ってとこか?」
「よしてくれ。俺はそんな優しい存在ではない。知らないのか?『死神』という存在を?」
亮は薄く笑う。その表情はいつもの亮ではなかった。
「悪魔のように利己的ではないが、天使のように慈悲など持ち合わせていない。怨霊のお前を引きずっていくだけだ!」
亮の周りのオーラがどんどん膨れ上がっていく。
「死神ねー。初めて見るよ。けど、俺をこの女から引き剥がすって事は、この女も傷つける事になるんだぜ?いーのか?」
「ねぇ、きーてた?俺達は優しくないの。お前さえ引っ張れればOK。その子は知った事じゃない」
「何だと!」
「てかね?あんたみたいな雑魚に死神の力とか使う必要すらないから」
亮はそう言い、飛び上がると北山 柚の上に飛び乗った。そして、頭を掴むと、彼女の頭は光始めた。男の声をした北山は。
「苦しいか?お前は、自分の女の寂しさに付け込んだか?こんな簡単に人間に取りつけるわけないもんな?それで?最終的には、蕪螺木の力まで奪おうってか?」
「くく・・あいつはバカだぜ?自分が弱ってるのにも気づかずに、この女に近づき続けたんだからな?」
「本当、あいつはバカだよな。でもな・・お前があいつをバカと言う資格はないよ。ねぇ、見て?この状況」
亮の顔は笑ってはいない。
「・・・いや、止めて!私はこのままがいい!あの人と一緒がいい!」
その声も顔も北山 柚本人だった。亮は掴んでいた頭を離してしまった。そして、その隙をついて、北山は亮の下から逃れた。
「お願い!誰にも迷惑かけてない!ほっといて!」
北山 柚は、亮に背を向けると走って逃げた。が、怨霊がとりついてるせいか、足の速さは常人を超えていた。
「・・また走るのかよ・・」
亮は、やれやれと肩を落とした。
「亮‼‼」
「あれ?蕪螺木!なんで来たの?」
俺は、亮の背後から走った。亮は呆れ顔でこっちを見ている。まぁ、予想通りだけど。少し怒っているようでもあった。
「はぁはぁ、よかった、まだ終わってない」
俺は肩で息をした。
「ごめん!亮!疑ってるわけじゃない!信じてないわけじゃない!それでも・・・俺が行かなきゃダメなんだ!」
「そんな責任感じなくてもいいんだって」
亮が俺を宥めるように言った。
「違うんだ!そんなんじゃない!だって、俺・・」
俺は下を向いて黙った。亮は何も言わずに待っている。その一方で、とり憑かれている北山 柚は逃げ続けているだろう。
「・・何だよ」
亮は聞き返した。
「俺・・ずっと気になってた。北山を調べるために仲よくならなきゃって思う自分に。俺、今まで友達とかいた事ないけど、でも、友達ってそんなんでなったらダメだって思った。だから、北山と本当の友達になろうって。何か悩んでたら話聞いて、いろんな楽しい事共有したかった」
俺は・・・何も出来ないのは嫌なんだ。
「蕪螺木・・・泣きそう」
俺は熱くなった目を上に上げると亮が笑っている。
「亮?」
「わーかったよ。お前に言いたい事は山ほどあるけど、今はいーや。後で、覚えとけよ?それに、もう彼女も走って逃げてて俺走るのめんどいから。お前に適役だな」
「まぁ、最後はお前だけじゃどうにも出来ないと思うし、俺も後からボチボチ追いかけるよ。まだ、学校内にいると思うし、早く追いついといて!」
亮は俺に背を向けると手をひらひらと振った。俺は、眼の当りを拭うと亮の脇を通り過ぎて駆け出した。早く追いつかなきゃ!友達の俺がどうにかしなきゃ。とにかく俺は走り続けた。彼女の姿が見つかったのは、中庭の噴水の前だった。彼女は、水を見つめて立っている。
「北山!」
彼女はこっちを向くと・・その形相はおよそ彼女のモノではなかったが、またしても逃げ出した。
「くそっ!」
俺ははるかに常人の速さを超えた北山を追いかけた。走りあいなら負けない。かなり弱っている自分の体が速さを鈍くさせたが、それでも必死に彼女を追いかけた。すぐ・・・追いついた。俺は、彼女の後ろから体当たりをし、上に乗る体勢になった。
「離せ!知ってるぞ!お前には何も出来ない!離せっ」
怨霊は、彼女の意識を乗っ取ってしまったのだろうか。北山 柚本人は出てこない。俺は、俺の下で暴れる者をただ見つめた。
「北山・・。俺言ったよね?友達だから・・何でも話してって。なんで、言わなかったんだよ。気づいてたんだろ?自分の中の異変に」
俺の下で暴れていた者が大きく脈打つと・・本物の北山になっていた。
「何で、きたの・・。蕪螺木君」
「北山‼」
「本当はもう私に関わらないで欲しかった。巻き込みたくなかった。私は、ずっと幸せだったから。友達なんていなくても、彼がいれば良かった」
彼女の体が震えていた。
「俺は・・・北山にとって友達じゃなかった?」
「・・・違う。友達だった。楽しかった。一緒にいてくれて嬉しかった。でも、それ以上に彼がいて幸せだった」
「彼って・・怨霊だろ!」
「それでも・・彼は私の側にいたの!事故の前も後も。ずっと私の側に」
「何でだよ・・彼はもう死んでるんだぞ!」
「分からないよ・・蕪螺木君には。死んだって、そこで終わりじゃない。彼がよかった・・死んだって、彼に側にいて欲しかった。誰にも私の気持ちは分からない!」
北山の瞳からは、涙がこぼれた。
「怨霊だってかまわないって思えた・・・邪魔しないで。もう傷つけたくない」
俺は・・何も言えなかった。こんな簡単な友情じゃ説得なんて無理だった。それに・・彼女が怨霊が離れるのを望んでいない。一番の問題はこれだと思った。彼女が心を変えない限り、無理だと思った。ただ、この状態から動けなかった。
「おい!もういい・・。俺は好きな奴を傷つけてまでここにいたいとは思わない」
俺の下で男の声がした。
「お前・・・」
どうやら北山の彼氏らしかった。
「正気に戻ったのか?」
「あぁ・・もういい。早く連れてけ。そこをどけ」
俺は、驚いたが、北山のために怨霊が心を戻し、自ら逝くという。俺は言葉に従いその場を退いた。そのとたん、俺は後方吹っ飛ばされた。
「うっ!」
「・・くくく。バカだよねー!この女も、あんたも!」
俺に怨霊は手を翳した。
「怨霊はなー一度失った心を取り戻す事はないんだよぉ!!」
「その通り!」
次の瞬間、怨霊に憑かれた北山はまたしても地面にはいつくばった。亮だ。亮は、北山の頭に手を翳した。
「亮!」
俺はとっさに叫んでいた。彼女が納得していない限り、無理やり彼女から怨霊を剥がすのだ。
「いやー!止めて!彼を消さないで!!」
亮の下で北山が叫ぶ。
「悪いが、もうその手には乗らない。悪いな」
彼女の叫びが大きくなった。そして、亮の手と彼女の頭は光だし、そこから黒い煙のようなものが出てきた。それが、人の形となり、宙に浮く。北山はその煙を見つめた。瞳からはすでに大量の涙が流れている。亮は、手を大きく叩いた。パンッ!と大きな音と共に、煙が白くなった。
「・・柚」
白い煙の形をした者が、彼女に喋りかけた。俺は、重たい体を起こして2人を見た。亮は、無表情だ。
「・・・し」
彼女が彼の名前を呼んだのだろうが、聞き取れなかった。
「ごめんな。こんなに苦しめて」
煙は喋り続けた。足の方からだんだんと煙が消えて行く。
「もういいんだ。俺の事覚えていてくれたら、それでいいんだ。もう一緒にはいられないけど・・友達だっているだろ?」
そういうと、煙は俺は見た。そして、微笑んだ。彼女は小さく嗚咽しながら、言った。
「私も、一緒に行きたい。側にいたい」
「ダメだよ。こっちで生きて。柚は、こっちでまっすぐ生きて。俺の願いだから」
「嫌だっ!嫌だっ!」
彼女は頭を抱え錯乱した。俺は、彼女を抱き占めた。彼女は煙に手を伸ばした。俺は、腕の中で泣き叫び続ける彼女を止めようとした。そして、煙が全て消え去った。沈黙が続いた。
「これが、現実だよ。あれは、ここにいてはいけないものだ」
亮が彼女の背中に言い放った。なんとも残酷な一言だ。
「幸せだったのに。私はどうやって生きればいいの?」
「本当に幸せだった?」
「彼がどんな者でも、幸せだった。こんなに幸せだったのに・・・」
彼女の視線はどこも見てはいなかった。亮が一瞬こっちを見たような気がした。
「本来なら記憶をここで消すが・・残しておきたいなら・・」
「消してっ‼‼」
俺の腕の中の彼女がまた暴れ始めた。
「いいのか?彼の存在自体忘れるんだぞ?最近絡んだ人間も全て」
「・・・いらないっ。こんな記憶。いらない!消してよ!早く!全部いらない!彼の記憶も、他の記憶も。ごめんね・・蕪螺木君、たぶんあなたの事も記憶なくなるんだよね?私が弱いから。もし・・もしまた次・・・出会えたら・・」
それ以上彼女は言わない。彼女の涙が俺の腕に落ちる。俺は何も言えずにただ抱きしめるだけだった。そして、亮は軽くうなづくと彼女の額に手を当てた。次の瞬間、彼女は落ちた。落ちる瞬間、彼女は確かに笑っていた。俺は意識のない彼女を家に届けると亮と共に亮の家に向かった。その瞬間・・俺は倒れたらしかった。どうやら俺は1日中寝てたらしい。
「本当に無理ばっかする」
亮は俺の額に手を当てながら言った。そして、急に・・
「蕪螺木・・・ごめんな」
「・・何が?」
「結局・・彼女は記憶を消して、お前の事は全部忘れてしまった。せっかく友達になったのに」
亮が珍しくしおらしい。
「亮のせいじゃない。彼が願っていた『俺を忘れないで』という願いさえ、彼女は自分の苦しみから・・耐え切れず守れなかった。俺なんかとの友情なんで些細なものだ。どうしようもないよな。でもさ、俺が覚えてるから。次は、他人だけど、俺は彼女覚えてるからいいや。亮のせいじゃない」
「そーか・・・・なら、俺もお前に言いたい事たくさんあるんだけど?」
亮がため息をついた。俺は、亮の顔を見なかった。
「俺もお前に言ったはずだよな?何かあったら俺に言えってさー。結局この様だろ?俺って、そこまでお前と信頼関係なかったのかね?」
「・・・そういうわけじゃ」
「勝手な事して一人で無理して・・」
「別に・・信じてなかったわけじゃない。ただ・・俺が嫌だったの!さっきも言ったけど、仕事のためだけに彼女に近づくのっていいのかって考えてただけで・・」
ここ最近ずっと俺の心をモヤモヤさせていたものはこれだ。ずっと迷ってたんだ。
「迷ってこの仕事出来るほど、楽じゃないよ」
自分の心を読まれたようで、ギクリとした。
「うるさい」
俺はベットに顔を押し付けた。そして、ふと疑問がわいた。
「なぁ?結局この仕事って何?!話してくれるって言ったよな?」
「今回の仕事は・・前みたいなお前の時とは違う。まぁ、死神の仕事ってのはいっぱいあるからな。実は、今回の奴は別に北山 柚がどうこうじゃないんだ。彼女に憑いてた奴が狙いで・・そいつをどこよりも早く回収ていう仕事だったんだ」
「どこよりも?」
「まぁ、いろいろ狙ってる奴は多いんだ。もう気づいてるかもしれないけど、あの悪寒とかは全て怨霊がのりうつってたからだ。お前はその瘴気に当てられたんだろうな。長く、彼女といすぎた」
「なるほど・・な。結局俺は何も出来なかったんだな」
「そんな事はないさ。彼女の記憶はなくなっても・・彼が消えても・・全て俺達が覚えてればいいんだ。永い時間の歴史は全て、俺達が覚えてればいいんだ。死神はそうやって、時を過ごすんだ」
まるで、亮は自分に言い聞かせてるようだった。
「亮?」
「いや・・・何でもない」
そして、次の瞬間、部屋の扉が開いた。そこから、白い風船のようなものが入ってきた。
「やぁ、仕事終わったね。お前大丈夫か?」
ネルと呼ばれる風船はフワフワと俺に近づいてきた。
「ネル。どうした?」
亮は、風船と会話する。半透明な風船は少し諦めた顔をすると話し始めた。
「さっき・・報告あった。今回の仕事、ファントム見てたらしい。それで、蕪螺木に興味出たって言ってた。だから・・ヒヨリと亮はもう少しこちらで待機で、常時仕事来たらやれって。蕪螺木も同じ。今、あっちで書類作るって言ってた」
俺にはさっぱり意味がわからない。また、このパターンか。
「ふーん、ファントムも何考えてんだろ?」
「ヒヨリ!」
ネルの後ろの扉からヒヨリも入ってきた。
「よぉ!ヒヨリ。昨日はありがとうな。お前のおかげであいつ逃がさなくてすんだ」
「どういう事?」
「なんで、怨霊が学校にずっといたと思う?あれはな。ヒヨリが学校に結界張ってたおかげなの」
「別に、悠人助けたわけじゃないからね!」
ヒヨリはそっぽを向いた。
「ねぇ、それでどうなったんだ?」
「よかったな!蕪螺木!お前はこれで死神の仕事の手伝い出来るぞ?それに、俺らもまだまだこっちにいれるしな!」
これでよかったのか・・。俺には分からない。どうやらまんまと俺は死神の仕事を手伝う事になったらしい。でも、まだ分からない事は山積みだ。
「ネルは・・本当は嫌だけど。ファントムが言うなら聞く。蕪螺木は、死神の手伝いする。認める」
ネルは俺に顔を近づけた。・・てか、怖い!顔、髑髏じゃん!なんか笑ってるし、怖い!近い!ネルの髑髏の顔が光だし、そして、俺の首にペンダントのようなものが掛けられた。
「何コレ?」
「それは、見えなかったものが、見えるようになるペンダントみたいな」
説明がなんともあやふやだ。
「今回、蕪螺木は、寒気とか感じてたけど、実際は見えてなかったろ?そういうのが見えるようになるんだ」
亮が付け加える。
「それって・・あの時には、すでに亮には見えてたのか?」
「まぁな」
「なんだよそれ・・俺だけ知らなかったのか」
「そういうなよ。実際寒気や悪寒なんて感じないだって!その前に、死ぬ。お前はすごいほうだ。もともと霊感でもあったんじゃないのか?」
「・・・んー」
「まぁ、これから頑張ろうぜ!」
亮は少年のように笑う。ネルも笑った。だから・・怖いって!ヒヨリは腕を組んだままため息をついた。そして・・
「悠人って・・お人よしだよね。分かってない。死神のめんどくささ」
ヒヨリはそういうとまたしても行ってしまった。
「なんだよ・・あれ」
「怒るなよ。ヒヨリが言ってる事は間違ってないんだ。・・今日はもう寝ろ。泊まってけよ。それで、明日学校へ行こう」
「・・・うん」
俺は言われるがまま眠る事にした。本当に何が何だか分からない。ここまで俺は死神について何も理解出来てない。話してもくれない。今さら・・・これが夢だった、て事にはならないだろうか。どこかに過去に戻れるようなマシーンはないだろうか?俺は、そんな事を考えながら眠りに落ちた。
「――らーぎっ!起きろ!」
遠くで声がする。俺は、その声に引かれるように前に進む。そして、そこにいたのは・・髑髏が笑ってる!
「夢だっーーー!」
俺が勢いよく起き上がると、そこには亮がいた。
「は?」
「・・・夢じゃない・・」
「はぁ?」
俺は一人で、ブツブツ言い続けた。亮が、朝ご飯を知らせに来たらしかった。そのまま俺は着いていき、席についた。久しぶりに豪華な朝ご飯だ。朝からパンとサラダとオレンジジュース。夢じゃない、白い風船のネルがそれらを甲斐甲斐しくテーブルに運んでいる。
「早く、食べる」
ネルが急かす。俺は、言われるがままにご飯を食べ、そして、亮と共に家を出て、学校へ向かった。今までのように、優等生面しなくなって、ネクタイもYシャツも適当になったから、朝は時間がいらない。楽でいい。欠伸をしながら歩く。隣に亮がいるのが、何だか変な感じだ。そして・・・まだ俺は分かっていなかった。分かっていたつもりでいたのに。
学校に着くと、すぐ北山を見つけた。あんな事があったんだ、記憶だって残ってない。俺の目の前で記憶を消したんだ。彼女が最後に何を言ったのか・・何を言いたかったのか、俺は・・考えないようにしていた。
「蕪螺木!眉間にしわ寄ってるぞ!」
亮は俺の額をつついた。そして、北山がこっちに向かって走ってきた。まるで俺の所に来るかのように・・俺にぶつかった。いつの日か彼女と出会ったように。俺と北山はそのまま床に倒れこんだ。今回は、彼女は俺に向かって叫び声を上げはしなかった。
「いたた。ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「・・あ、うん」
そして、北山は俺の顔をまじまじと見た。覚えているわけがないと分かっていても、俺の心が期待する。俺はとりあえず彼女に笑いかけた。
「何か、どっかで会った事あったっけ?」
「え?」
俺は心が跳ねる音を聞いた。もしかして、覚えているのか?
「あの・・」
「な、わけないよね」
彼女は笑顔で立ち上がると、彼女の友達が急いできて囁いた。
「何してんの!あいつ誰だか知ってる?根暗で有名じゃん。近づくのやめな」
そうだった。俺は、学校ではそういう存在なのだ。もう、前みたいに北山が笑いかけてくれることはないんだ。大丈夫だ。俺は、ちゃんと分かってる。
「そんな事言ったらダメだよ!別に普通の人じゃない!いい人そうだよ?」
彼女は友達に真面目な顔で言った。彼女は何も変わってなどいないんだ。記憶がなくても、やっぱり北山は北山なんだ。俺は、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「もう、行こうよ」
彼女は俺に背を向けた。何も変わってなどいないはずなのに。
「ねぇ!北山。覚えてない!?」
俺は咄嗟に彼女に声をかけた。亮は隣で俺を見つめている。北山は振り返り、変わらない笑顔で・・
「ごめん。誰だっけ?」
その一言だけが胸に刺さる。
「・・・いや、ごめん、やっぱ違ったみたいだ」
俺は少しでも期待した自分が嫌だった。そして、そのまま振り返る事もなく、彼女は去った。もう喋る事はないんだ。
「いいのか?」
亮は言う。
「何が?記憶がないんだ。覚えてるはずもない。俺も何してんだろうな」
「・・理解したつもりでも、現実を目の当たりするのとは違うんだ」
「ヒヨリが言ってたのってコレなんだよな」
「まぁな」
「俺さ。やっぱ分かってなかったわ。こんなにつらいと思ってなかった。俺が覚えてるのに、北山は忘れてて・・・忘れられる事がこんなにつらいと思わなかった。ずっと一人だったから・・」
「忘れる事と、忘れられる事ってどっちがつらいんだろうな?」
亮の声がいつもと違った。俺は亮を見上げた。そして、亮が微笑む。
「ふっ・・・蕪螺木、泣きそうだぞ」
「・・うるさい」
泣くな!俺。俺は、目元をこすった。
「彼女が最後に言おうとした事分かってるんだろ?なんで、そうしない?」
「・・・迷った。けど、ダメだ。俺には出来なかった」
「お前がいいなら、俺はそれでいいと思う。所詮は、彼女のワガママだからな」
「別に、彼女のワガママだとは思ってないよ。いいんだ。これでいいんだ。俺がいいんだ」
「・・・なら、その顔どうにかしろよ。いつまで泣いてんだ?」
「‼‼泣いてない!」
俺はまたしても目をこするとズンズンと教室に向かう。亮は、俺の背を見つめて複雑そうだった。
「だから、言ったのにー」
「ヒヨリ」
亮の隣にヒヨリが立っていた。少し先に蕪螺木の姿がある。二人は少し後ろで離れた場所で会話している。
「まぁ、いい経験になったんじゃない?死神の仕事のさ」
「そうだな」
「ところで・・最後に北山 柚が言った事って何?」
「あぁ、それか」
「何なの?」
「・・・『もし、また次出会えたら、もう一度友達になってください』だとさ」
「ふーん」
そうだ。もう一度会えても、これでよかった。最善の方法だ。途切れた声の続きは、心の奥に。俺にとって、彼女の笑顔を最後に見れただけでいい。大切なモノなんて作ったって、いつかは壊れるんだ。大事なモノなんて、作ったらダメなんだ。俺は、そう心に刻んだ。これから、死神運送の仕事を手伝うのだって、今だけだ。俺は、大事な事を学んだ。
これから、何が起きるのかなんて、想像したくもない。というか、想像出来ない。
「俺、どうなんの?」
ただただため息だけが、少し寒くなりだした空に響いた。
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