第6話 大学
バスの運転席の窓には、左右どこまでも広がった
バスは
外に出ると、自然の空気が気持ち良くて、大きく息を吸った。
駐車場から大学の建物が見えるほうへと進んでいくと、大きな正門が見えてくる。門の両サイドに赤レンガ造りの
私は、そうだと思いだしカバンから赤いデジタルカメラを取り出した。カメラの電源をつけ、
うん、明るさも問題ないから、
門をくぐるとまっすぐな一本道が続いている。道の
私は、今度はカメラを立てにして、この一本道と木のトンネルが画面に入るようにして写真を撮った。今日は天気も良くて、
写真として正しいのかは分からないけど、私は影と光の両方があるような写真が好きな
私は写真に満足すると、また前へと歩きながら、良い
しばらく歩くと一本道が終わり、
校舎へと続く広く長い階段には、講義がある日に多くの学生が行き
そんな階段を最上段まで上って行くと、開けた
そして、そのもっと先を見ると、両サイドにまるで美術館のようなモダンな造りの校舎と、正面にはこちらから見える部分は全面ガラス
校舎は、何百人も入れる中・大教室がいくつかあり、教室はとても大きく、まだ建てられて間もないこともあって、
この大学の建物を見ていて思うのが、勉強をするだけの場所にするにはもったいなく感じてしまう。何かいい活用方法があって、それが大学のためにもなるようなアイデアがないかなって、大学に入学した当初から考えていた。
私は校舎と学生ホールの両方が写るように少し下がって写真を撮った。建物の
私は振り向いて、登ってきた階段から大学の広大な
私が今立ってところは、いわゆる文系の学生が講義を受けたり、研究可動や自習をするための校舎がある
その広さには理由があって、私が通う
大学の中央には、山の川の通過点になってる大きな池があって、その池を囲むようにして北側には文科系の校舎、東側には理系の校舎や研究施設、西側には医学部等の校舎や大学病院とそれぞれ区域が分かれている。
あまりに広いため、バス亭も私がさっき降りた大学北口、西口、東口と3つあり、学生が、自分の講義がある校舎の近くで降りられるようになってる。大学図書館も北図書館、東図書館、西図書館とそれぞれの学部の本が
私は階段を下りて、今度は理学部や工学部の公舎がある区域へと向かった。普段は多くの学生でにぎわってる大学も、夏休みに入ってからは静かになり、風になびいてる木の葉がすれる音もよく聞き取れる。また、ときどき吹奏楽部の人たちのトランペットやフルートの音が聞こえてくることもある。夏休みでも
しばらく歩くと大学内に流れている川と、それに
この川では5月の終わりから6月の初めにかけて、ホタルが飛び交う時期があり、そのときは夜でも多くの人たちが川に集まり、
私もその時期は大学の
そんな川と交差してかかっている橋は車も
橋が架かっていない細くて浅い川のところでは、オシャレに飛び石を人工的に作ってあり、この大きな橋まで回ってこなくてもいいようにしてある。この飛び石は校舎の近いところにあるため、利用する学生が多く私もその一人なんだけど、気を付けてわたらないと、
私はカメラを
そこからしばらく行ったところ、文系と理系の区域の中間くらいの、樹木がより
中には鍵がかかっていて入れないけど、窓から中の様子を見たことはある。教室は新しい校舎ほどではなけど、それでも100人は
この古い校舎の特徴の1つは教室それぞれの後ろの方に、その分野の偉人の自画像の絵が
また、絵にも特徴があって、よくある顔から肩までの自画像ではなく、縦に長いキャンパスに全身の立っている姿が描かれいる。
また、こんな自画像のためか、古い校舎が出してる
例えば、この古い校舎の教室の1つで、絵から偉人が抜け出しいなくなり、しばらくしてまたその教室を見てみると、いつも通りの自画像に戻っていたとか、18世紀や19世紀のような、古い服を着た多くの人たちが、この鍵のかかった校舎へ入っていくのを見たというような話だ。
こういった現実味がない噂がもう大人である大学の学生の間で話されてるって不思議な感じがする。この山の中にある、都会から切り離された空間がそうさせてるのかな?
前にこのことをハカセに話したことがあるけど、「そういった噂が立つのは
でも、私は噂にはきっと何かのきっかけや事実があったから、こんなにも学生の間で広まったんじゃないのかなって思ってる。
私はその古い校舎も一応写真に撮っておいた。液晶画面に映る樹木の中にそびえる古い校舎は、長い年月を感じさせるたたずまいで、積み上げられたレンガの壁の
古い校舎を後にしてまたしばらく歩いていくと、樹木が
文系の区域と比べると
文系の私から見ると、理学部や工学部に
生きていく中で多くの選択をしながら、歩く道を決めていかにといけない。ふと、前に町のイベントで一緒に作業をしていたたずねのことを思い出す。幅広く知識をつけるという意味では、あの子みたいに急に別の道へと
それにしても大学内なのにバス停一つ分歩かないといけないのは、さすがに疲れてしまう。私は
川の流れる音や虫の鳴き声を聞きながら
私は図書館の自動ドアをくぐると、受付を通り過ぎ、お目当ての本がある場所へと歩いた。図書館の中は広々とスペースが取られ、ゆっくりと本を読めるように大きなテーブル席から1人専用の席までそろっている。その他には、かなり大きな学習室があるだけでなく、図書館の中央には中庭まである。図書館の中からガラスの壁越しに見える中庭には、1本のイチョウの木が植えられ、その周りにも本が読めるようにベンチがいくつか置かれている。それを見るだけでも、この大学の
私は階段を上り2階にある専門書や資料が多く置かれている場所へと向かった。全ての本が種類ごとに棚に整理されているものの、普通は一人で探すのはかなりの手間になる。そのため図書館内の
私はいくつもの
外を見ると、もうほぼ暗がりになり、池の周りの街灯が
私は眠たくなってきた目をこすって、カバンからノートと筆箱を取出し、さっき持ってきた大きな本を開いた。この本は、今通っている峠坂大学がどういった
全身校の文理科大学や工業専門学校、医科大学などが
私はその本を読みながら、自分なりに大事だと思った部分をかいつまんで、ノートに書き
こういった大学の写真を撮ったり、大学の歴史を調べているのには理由があって…。
じつはゼミの担当の先生にお願いをされて、来年にある峠坂大学のオープンキャンパスで大学を紹介するスピーチをするかもしれなくて、これはその準備というわけなの。
先生からこんなお願いをされるまでには、ちょっとした
スピーチを私にお願いした先生の名前は、先導(せんどう)教授っていう70歳近いおじいちゃん。私のゼミの担当者で、自由な発想や
そういった考えからか、数人の学生で1つのテーマを調べ、数週間後にみんなの前で発表していくグループ学習の課題も、経済に関係のある事だったら何でもいいですと言ってくれていた。
私と同じグループを組んだ友達は、なんでもいいと言われると逆に困ってしまうと言ってたけど、私としては課題を自由に楽しくできると思って嬉しくなっていた。
私たちのグループが研究したことは、この峠坂大学が周りの地域にもたらす経済効果っていうのを調べたの。
この研究課題を最初に言い出したのは私で、調べやすいし、せっかく大学の学生なんだから、大学に関係したことをしたいと思って提案してみた。友達も優しいから、それでいいよって
その日決まったことは、大学の近くの寮に住んでいる学生に、生活費が月にどれくらいかかっているかを聞くこと。それと、家から通っている学生には、交通費や食事代、その他どんなことにお金を使っているかを聞くようにした。ある程度の人数を聞いたところで、その平均の金額を出し、学生1人あたりの
調査の
大学の門の前で通りすがりの学生へ生活費のアンケートをとったり、施設にいる教授の方々に研究内容の説明をしてもらい、地域への影響や貢献がどれほどか等を聞いてきた。
大学での研究は、その分野の専門的知識もなかったけど、質問に答えてくれた教授方が簡単に
そして、この課題の最初の話し合いをしたときに、私は学生の人たちに本当にアンケートを取りに行ったり教授に研究の質問をしに行くのに、それをただ書き
ゼミの教室には講義で使う大きなテレビもあったし、センドウ教授に動画でグループ課題の発表をする許可をもらうこともできてたから、大変かもしれないけどやってみたいって話した。最初はみんな驚きはしてたけど、「楽しそう」とか「面白い研究発表ができそう」と言ってもらい、次の日からすぐにその作業をみんなと始めることが出来た。
実家から持って来ていた父の使わなくなったビデオカメラで、自分の部屋や
教授の
撮った動画は、私がパソコンに取り込み動画編集ソフトで動画をつなぎ合わせたりカットして、なんとか作り上げていった。思った以上にこの作業は大変だったけど、作ってみて勉強にもなったし、ゼミで良い機会をもらえて良かったかな。
ゼミでの研究課題の発表当日は、パソコンを教室のテレビにケーブルでつなぎ、テレビ画面に動画を流しながら、その場面の説明をしていった。発表が終わると、動画を見ていた教授はすごく
そのグループ学習の発表から数週間後、いつもどうりゼミでの講義が終わって帰ろうとしたら、センドウ教授に「いつもさんは少し話したいことがあるので残っていてください」と言われた。
私何かまずいことでもしたのかなと、あれこれ考えていると、教授から、実はお願いしたいことがありますと切り出され、オープンキャンパスで大学見学に来た学生に見せる動画を作ってくれませんかと言ってもらった。
思ってもみない言葉に驚いて、教授になんでそんなことをお願いするのか聞いてみると、どうやら前にグループ学習で作った私たちの動画をとても気に入ってくれたらしく、学生が作った親近感のある大学紹介の動画が欲しいと言われた。
センドウ教授は、事務職員と教授からなる
そこで決まった内容を
広報委員会の会議でセンドウ教授が私たちの作った動画の話をして、大学紹介の1つにそれを取り入れられないか提案したみたいなの。
センドウ教授から、もし委員会や教授会でOKをもらえれば、オープンキャンパスで大学の体育館に多くの高校生が集められたなか、前のステージで学長が大学の大まかな説明をした後に私の作った動画を流そうかと考えてると言われた。
私はそれを聞いて、まだ引き受けてもないのに冷や汗をかくのを感じた。プロジェクターで巨大なマットのスクリーンに私の動画を流すそうだ。そして教授は、できればあの研究発表の時のように高校生の前でスピーチをして、動画の説明もしてもらえれば嬉しいとまで言われた。
私は息を飲んだ。ムリだ。
そう、実はいま一生懸命やっている作業も、教授にそのスピーチをやるかどうかの返事もしておらず、自分自身でも決めきれない
どうしてこんな大変で荷が重いことをまだ
教授の
私は小さくため息をついき、オープンキャンパスで自分がスピーチをすることになった場合を想像してみた。ステージの
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