第二十話

少しの干肉を囓り、胃に入れる

貨幣経済という概念の無い場所が未だにあるというのがわからない、何故争うのかも。

ここでは私も一個体の獣に過ぎない


戸ノ内(…こういう時藤北が居れば話し相手程度にはなるんだがな)


「ーーー!ーーーーーー!ーー!」


戸ノ内「面倒だな…」


第二十話 ヒンバン


名桐「七月ね」

海鈴「せやね」

名桐「…」

海鈴「あー、この生活も後二週間ほどやなあ」

名桐「そうね、早かったわね」

海鈴「ま、決まりごとやさかいなあ」

名桐「そうねえ」

海鈴「…なんかないん?寂しーとか行かんといてーとか」

名桐「私がそんなこと言うと思う?」

海鈴「ないな」

名桐「ないわよ」


七原「ええとこことこと、これでどうでしょう」

新田「そうですね、正解です」

七原「よしっ…すみません、忙しいのに勉強みてもらって」

新田「いいのです、今日は暇をもて余してましたから」

七原「生徒会長に部長でそれに進学に向けて…尊敬しますよ」

新田「そんなことないですよ、七原さんだってこうして風紀委員として立派にお仕事なさってるではないですか。それに学級委員まで。卑下することありませんよ」

七原「か、会長…」

新田「ふふふ」



一通りの説明を終えた旧鬼と赤田


香椎「ヒィィ」ガタガタガタガタ

岸華「…」

男「…」

旧鬼「と、言うわけだ」

岸華「…怖いよ、先生」

男「岸華さん…」

香椎「だ、誰がこっこここっんな…」

男「大丈夫?」

旧鬼「…当事者を呼んだのは心当たりがあるかどうかなんだが、どうだ?」

岸華「…いえ、わからないですね」

香椎「あ、あり、ありません!」

旧鬼「そうか…なら確かめてみようか」

男「確かめると言いましてもどうやって…」

旧鬼「まあ…おいおいな、とりあえず二人とも心当たりが無いなら今日のところは」

男「そうですね…ちゃんと解決するからね」

香椎「」こくこく

岸華「…はい」

旧鬼「あー、二人はこのまま話があるから…赤田は戻っていいぞ」

男「わかりました、失礼します」


旧鬼「さてと」

岸華「…」

香椎「な、なんでしょう…」

旧鬼「いや…まあ色々な…あまり人前で『魔術』を使いたくないんだよ」

岸華「何故です?赤田先生は私たちには何の偏見もなく接してくださいますが」

香椎「そうですよ」

旧鬼「色々あんだよ本当に。さ、とりあえずしてみるか」

岸華「サイコメトリングですか」

旧鬼「そんなとこだな。まずは私が…」

岸華「どうかされましたか」

旧鬼「…いやいいか。試してみる?」

岸華「サイコメトリングをですか」

旧鬼「そう」

香椎「で、でも…」

旧鬼「方法知らないのか」

香椎「し、知らないです…」

岸華「役に立つとは思うんですがね」

旧鬼「ならいい機会だ、教えとこう」


サイコメトリングには基本的に二パターンある。まずは触れるタイプだ


岸華「触りましたが…」


…ま、触って以前触れてたモノの感情や脳内を読み取るんだ。遡りとテレパスの融合みたいなものだからな、そこら辺がまずはできないとな


香椎「テレパスが…まず難しいですからね…」


もうひとつは目で見て以前のその対象の状態を見ること…これは周囲の風景から判断を下せるから割りと使い勝手がいい


香椎「…」

岸華「…」


ただ、やはり遡りと念視がいるからな…


香椎「ぼんやり周囲が蠢いてますね」

岸華「そう?」


おお、その反応は鍛えれば見えるようになるかもな…一朝一夕には難しいが


旧鬼「というかガードとかかかってない?」

岸華「そうなのですか、ふむ」

旧鬼「と、すればだ…相手も『魔術』が使えると考えたほうが良いだろう。戸ノ内先生なら何者が使ったかわかるだろうが…」

香椎「今、居ないんですよね…」

旧鬼「…いや、違うな。『魔術』を使えるこの国の人間で、この学校にその痕跡をわざわざ遺す、ということは、だ」

岸華「!」

香椎「ど、どういうことです…?」

旧鬼「とんだ自信家か…バレるのが目的か…」

岸華「後者ならこちらから連絡があるのを待ってるか…ですね」

香椎「な、なるほど…」

旧鬼「そういうことだとすると…さて面倒だな」

岸華「あ」

旧鬼「どうした」

岸華「一人心当たり、あります」

旧鬼「言ってみろ」

岸華「以前その…ええと、赤田先生と出掛けていたとき先生に声をかけてた人が居たんですよ。もしかしたらその人…かもしれません」

香椎「わ、私は会ってませんね」

旧鬼「ふむ、何か情報はあるか?」

岸華「いえ、名前も聞きそびれまして…」

岸華(デートに頭使い過ぎまして)

旧鬼「何か特徴とか…赤田も何か言ってなかったか?」

岸華「それなら確か高校の頃ストーカー紛いの被害を受けたと」

旧鬼「ストーカー紛い、ストーカー…ふむ」

岸華「赤田先生に聞けば名前はわかりますね」

旧鬼「やめとけ、あいつには黙っておこう」

香椎「え」

旧鬼「赤田が高校の頃相談を受けた覚えがあってな…」

岸華「な…だ、誰ですかっ」

旧鬼「まあ…それは私に任せてくれ。事の顛末は追って伝えるさ」

岸華「…わかりました」

香椎「そうですね、知ってるかたに任せたほうが良いですね…すみません」

旧鬼「気にするな。さ、もういいぞ」

香椎「し、失礼します…」

岸華「…失礼します」


旧鬼「どちらにせよ…嫌な予感がするな」



海鈴「ふん、ふふん」カチカチ

名桐「…」

海鈴「ほっとっ」カチカチ

名桐「…こうしちゃいられないわ」

海鈴「んー何や?」カチカチ

名桐「こっちの話。ちょっと遊んでてくれる?」

海鈴「そらかまへんけど…」カチカチ

名桐「そう、じゃあまた迎えにくるから」

海鈴「あい」カチカチ


海鈴「なんやのん」カチカチ



香椎「…」

男「一体誰が何の目的であんなことを…」

香椎「そうですね…怖いです」

男「何かあったらすぐ連絡してね」

香椎「は、はいそうさせてもらいます…」

男「うん、ああ、怖いなあ」

香椎「…」


……………


海鈴「ぷはー」

名桐「おはよ…!?」

海鈴「なんやそん顔は」

名桐「あ、あなた何飲んでるのよ…」

海鈴「何って…ビールや」

名桐「馬鹿ッ、学校で飲んじゃ駄目なのよっ」

海鈴「あ、ほうなんか。まあ開けてもうたモンはしゃーなしや」ゴクゴク

名桐「はぁ…というか基本的に未成年者の飲酒はご法度よこの国…」

海鈴「向こうでもそらそうよ」

名桐「…」

海鈴「あー旨かった…」

名桐「知らないわよ」

海鈴「ばれへんばれへん」

名桐「…」

佐藤「…」

名桐「…あんた言わないわよね」

佐藤「承諾」

名桐「なら良いけど」

佐藤「酒、所望」

名桐「駄目よ…というか私持ってないし…」

佐藤「無念」


海鈴「…」ボケー

名桐「…」


「で、あるからしてー」


海鈴「…」ボケー

名桐「…」


「それによりー…チャイム鳴ったな、以上」


海鈴「…ふぁあ」

「なんだか海鈴さん眠そうだね」「寝不足?」

海鈴「ん…」

名桐「…」

海鈴「…へーき」

「そう?」「具合は?」

海鈴「…へーき」

「そ、そう…」「悪かったらすぐ保健室行きなよ」

海鈴「んー…」ボケー


名桐「あんた本当に大丈夫なの?」コソッ

海鈴「へーきへーき」コソッ

名桐「全く…」コソッ


………


旧鬼「…」フーム

黒鹿毛「どうされましたか、旧鬼先生」

旧鬼「ああいえ、少しばかり考え事を」

黒鹿毛「そうですか、お時間。空いてますか?」

旧鬼「はい、大丈夫ですが…」

黒鹿毛「犯人が解ったなら早めに動いたほうが良いと思いますよ」

旧鬼「ブッ、ゴホッゴホッ…な、なぜそれを…」

黒鹿毛「トップシークレットです、ふふふ」

旧鬼「え、ええ…動こうとは思ってたのですが何分…」

黒鹿毛「軍部には手が出しにくいですか?」

旧鬼「ご明察です」

黒鹿毛「能瀬小波渡、第二軍一尉、大卒エリート、そして第二野球部出身」

旧鬼「はい」

黒鹿毛「貴女の後輩ですね」

旧鬼「…ええ、しかし直接の関わりはありません。それに私は…」

黒鹿毛「第二野球部に属してなかったことを気にしてるのですか?」

旧鬼「いえ、ああするしか無かったのは自分の問題ですから」

黒鹿毛「私達は良かったんですけどね」

旧鬼「いやーちょっと…」

黒鹿毛「さて、これまでの会話で糸口は見えてるはずですよ」

旧鬼「…」

黒鹿毛「よくよく考えて動くことです、しかし迅速に」

旧鬼「わかってます」

黒鹿毛「よろしい、時と場合によっては手を貸しますからまずはお一人で頑張ってみてください、応援してますよ」

旧鬼「…はい」


旧鬼「…ふーむ」



吉祥「よす」

名桐「あら、久しいわね」

吉祥「小用が立て込んでてね…海鈴は?」

名桐「さっきまでゲームしてたみたいだけど…」

吉祥「いないぞ」

名桐「居ないわね…」

吉祥「…」

名桐「…」

吉祥「まあ私には関係ないし…」

名桐「私も特にこれといって…」


海鈴「昼間から飲むビールは美味しい」ゴクゴク

男「海鈴さん…何してるの…」

海鈴「飲酒」

男「どわっはあ」

海鈴「なんやの」

男「い、いくら空き教室だからって…じゃなくて!未成年飲酒だよ!」

海鈴「今からすっことに比べら許容範囲やの」

男「…え?」

海鈴「なあ先生、あんた『魔術』についてどんだけしってはりますか?」


ゆったりとした動きで何処からともなく缶…ビールを取り出しプルを開ける


男「駄目だって」

海鈴「問いに答え」

男「…海鈴さんがそれを飲まなければね」

海鈴「…」ごく

男「…」

海鈴「…」ゴクゴクゴクゴク


ぷはっ


海鈴「…もう空や」

男「あのね…」

海鈴「で、どないやんな」

男「『魔術』について…かい?」

海鈴「そや」ぷしゅっ

男「…僕は個性の一つだと思ってるよ」

海鈴「個性…ねい」ごくごく

男「うん…」

海鈴「…」ゴクゴクゴク

男「…」

海鈴「…ちゃうねん、どんだけ知っとるかきいてんねん」

男「ああ…そう言われると全く知らないね…」

海鈴「教えてほしいかい?」

男「いや別に…」

海鈴「あ、そう…」

男「うんまあ知ったところでね…ははは」

海鈴「ほなええわ、これだけ受け取って貰うさかい」

男「何?」

海鈴「口開けえな」

男「あー…!?」


ぐちゅっ…ぴちゃぴちゃ…ぬちゅっ…


男「うごごご」

海鈴「おえっ」

男「な、なんだよ急にっ!」

海鈴「人間の口腔ってなしてこげえぬるぬるぬる…おえっ」

男「な、なんかごめん…じゃなくてなんで急に指突っ込むのさ!」

海鈴「え?あー…なんとなくや、なんとなく」

男「ええー…」



男「なんだったんだ…」サスサス

男「しかし…良かったな」


岸華「何が良かったんですか?」

男「え、あ、いやこっちの話」

岸華「そうですか…香椎さんが作ってくれたおつまみがありますよ」

男「そりゃあいい、貰うよ…で、その香椎さんは?」

岸華「帰ったみたいですね、所用があると仰ってましたし」

男「そっか…美味しい」

七原「失礼します」

男「お疲れ様、委員会?」

七原「はい、来月の活動について少し。今日はこれで全員みたいですね」

男「あ、そうなの?」

岸華「部長は会議、香椎さんは先ほどの通り、吉祥さんは…」

七原「最近見ないですね」

岸華「学校には来てるみたいなんですけど」

男「同じクラスじゃなかったっけ」

岸華「毎日注目したりはしませんよっ」

男「あ、そう…しかし暇だな」

岸華「ええまあ…お仕事は?」

男「今度海に行くからって早め早めにしてたらトントン拍子で終わっちゃってさ」

七原「楽しみですね」

男「うん、海にいくなんて久々かも」

七原「競争しましょうね、ふふふ」

男「お手柔らかに…」

岸華「あら、これ…忘れ物かしら?」

七原「箸ですか」

男「…誰のかな」

岸華「確か吉祥さんのだったかと」

七原「届けましょうか?」

男「いや、僕が届けるよ。今日は車だしね」

七原「珍しいですね…何かあったんですか?」

男「荷物が多くてね、ついつい」

岸華「先生が届ける必要は無いんじゃ無いですか?箸くらい吉祥さんも他にも持ってるでしょうし…ね?」

男「…それもそうか、うん」


ピリリリ


男「あ、ごめん電話…もしもし?」

吉祥『いやーすまんがね、まだ部室にいるかい?』

男「…うん」

吉祥『いやー箸忘れちゃったみたいでさ!持ってきてくんない?今日車だったよね?』

男「ああ、うん…そのつもり…うん」

吉祥『ありがとさん!』


プツッ…ツーツーツーツー


男「と、言うことで…行ってくるよ」

岸華「…」

七原「…」


パタン


岸華「…」

七原「…」

岸華・七原「「はあ…」」

岸華(優しいってのはわかる、わかるんだけど)

七原(納得いかない…)


………


男「ここだな…」ピンポーン


ドタドタドタ…ドタバタッガタン


吉祥「や、すまないね!うち箸二本しか無くってさ!」

男「買いにいったほうがいいよ、それは…はい」

吉祥「どーも…よかったら上がってく?」

男「いやそれは…」

吉祥「おっけー!お茶くらいしか無いけどね!」

男「…お気になさらず」


吉祥「ほい」

男「どうも…しかし…なんというか…」

吉祥「いやほら余り人来ないから片付けなくて良いかなーって」

男「わかるけどね…ゲームのコードとか気にならない?あれ…」

吉祥「すげー気になる、気になるけど使えるし…」

男「わかる…」

吉祥「…シよ?」

男「そ…いいよ、じゃあ早速…」

吉祥「ヴァルハンの方がいい?」

男「ん、たまには違うのでもいいかな」

吉祥「じゃあストリートハンターで…」

男「新作?」

吉祥「うん、キャラは全員揃ってるからかかっておいで」

男「…胸を借りるよ」


吉祥「…ところで」カチカチカチカチ

男「ん?」ウワァウワァウワァ

吉祥「君は誰を選ぶんだい?」

男「んーまだ佐賀ッ男で行こうかな」

吉祥「そうじゃなくて…いやこれは私が遠巻き過ぎたかな」

男「どういうことさ」

吉祥「前も聞いたけどね」

男「?」

吉祥「名桐、岸華、七原、香椎…この四人から君は一人を選ばないといけないのさ」

男「なんの話やら…」

吉祥「選ばないといけないって訳じゃあ無いけどね」

男「まあ、うん…好いてくれてるのは分かるよ…」

吉祥「現状に胡座をかいてはいけない」

男「?」

吉祥「君は頑張らないといけないのさ」

男「…写真のこと?」

吉祥「え、写真のことってなにさ」

男「あ、いや気にしないで」

吉祥「そう?」

男「まあ色々とね…」

吉祥「今日のところは突っ込まないよ」

男「そう…しかし何故こうも好かれるかわからないんだけど」

吉祥「それを生徒に相談するのってどうなのさ、良いけど」

男「あ…」

吉祥「他に相談しづらいってえのはわかるけどね」


クツクツと喉を鳴らし笑う吉祥さん


吉祥「私はね、これはあれだよ、私の意見だがね」

男「うん」

吉祥「私達ってのは『魔術師』でさ、根本的に違うってことがわかるんだと思うよ。『じゃない』人間からすれば…ね」

男「…」

吉祥「案外せんせーも『魔術』に触れた機会が過去あったんじゃないかと思うんだけど」

吉祥「どうかな?」

男「わからないんだ」

吉祥「…わからない、か」

男「ああ、教師になるまではそんなこと思ったことも無かったけど」

男「明らかに記憶がおかしいことが…ある」

吉祥「ふむ…」

男「それがなんなのかすらもう…」

吉祥「実は、『魔術』で記憶領域を弄るのは意外と簡単でね…と、言っても百かゼロかなんだけどさ」

男「…」

吉祥「例えるとだ、記憶領域を箪笥と考えてくれ。それも引き戸が山程ついている」

男「うん」

吉祥「『魔術』を使い干渉しようとするとどうなるか…箪笥を新しいものにするか、燃やしてしまうか、それくらいしかできない」

男「…ん、待ってくれ。だとしたら私の症状は『魔術』に起因するものじゃないだろ」

吉祥「そう、そうなんだよ。記憶自体はその引き戸の中一つ一つに保管されているようなものだからね、しかも引き戸は箪笥の中で複雑に絡みあい時には開けることすらままならないものもある」

男「出来事そのものを忘れる…ってこと?」

吉祥「そう、しかしだよ。せんせーの症状は少し違う。出来事は覚えてるんだ、ただ…」

男「引き戸の中身が…変わってる…?」

吉祥「ご明察」

男「…」

吉祥「普通の人間だって生きていれば引き戸の開け方を忘れることも、中身が変質することもあるさ…ただ」

吉祥「せんせーのは明らかにおかしいんだよ」

男「アルツハイマー…とかじゃないよね」

吉祥「可能性はあるけどね…違うと思うよ私は」

男「そうか…良かった」

吉祥「が、だよ。ともあれ何らかの干渉を受けている…と思うんだ」

男「まあでも日常生活には支障ないし…」

吉祥「せんせーには無くてもこっちは興味津々だよ」

男「…と、いうと?」

吉祥「さっきもいった通り現代『魔術』をもってして人の脳を思うがままに弄るのは不可能に近い、ましてや記憶となれば…」

男「…」フム

吉祥「と、いうのは凡百の『魔術師』の考えだが私は違ってね」

吉祥「私はー引き戸の中身位簡単に入れ換えられるんじゃないかと思うんだ」

男「…」ゴクリ

吉祥「無論脳外科だとかそこら辺の知識はいるだろうけどね」

男「だろうね…」

吉祥「さて、何の話だったかな…ああ何故好かれるか…ですっけ」

男「あ、戻るんだ」

吉祥「今の話は何となくしたかっただけ」

男「あ、そう」

吉祥「まー始めに言ったけどサ、私達って他人から虐げられてんのが殆どなのよ…」

男「有馬先生も言ってたよ」

吉祥「あ、そう?なら答えはもう出てんじゃない?」

男「…まあ、ね」

吉祥「…手を出してもいいんだヨー」

男「駄目なんだよ、それは」

吉祥「たはー」



男「全く吉祥さんは…しかし」

男「記憶…か」


わかるのは、とある人物についての記憶を失ってる。ということだけだ


男「それが誰かすらわからないもんな…よっと」


ガタン


男「ただいまー…」


……………


香椎「ふんふふーん」

名桐「しかし手が込んでるわね…」

香椎「そ、そうかな?」

名桐「…あんたも何か言ってあげなさいよ」

男「楽しみにしてるよ、香椎さん」

香椎「は、はい!が、頑張ります!」

名桐「しかしカペッリーニ使うのね」

香椎「夏だから…でも確かにパーティーならコンキリエとかの方がいいのかな…」

男「何のこと?」

名桐「パスタの種類よ、種類」

男「ああカッペリーニ…」

名桐「え、カペッリーニじゃないの?」

男「どう…なんだろ、そう言われると自信がない」

名桐「私もそんなに…」

香椎(何の話してるんだろ…)グツグツ


香椎「できました!」

名桐「きゅうり」

男「こうしてみると素麺だなあ…」

香椎「は、はい。ですので塩麹和えきゅうりでさっぱりとしてみました!」

男「じゃあ早速頂こうかな」

香椎「ぜ、是非!」

名桐「毎回思うのだけど箸で良いわよね」

香椎「そうだよね、フォークだと逆に食べづらくて…あ、そう考えるとパーティーには不向きなのかなあ」

男「暑い日には丁度良いね…ズルズル」

名桐「ちょっ…アンタこれパスタよ?音たてて食べるモノじゃないんだから…」

男「う…すみません…」

香椎「標準マナーですよ」

男「中々難しいな…」

名桐「一度に食べる量を少なくすれば良いのよ、ほら」

男「あ、成る程…モグ」

香椎「ま、まあそんなに気にすることは無いですけどね…」

男「キチンとした場で食事することなんて無いから勉強になるよ」

名桐「そのうち上流階級になるかも知れないわよ」

男「ははは、そんなまさか」

香椎(…成る程)


男「ご馳走さま」

名桐「美味しかったわよ…成長したわね」

香椎「ふふっ、ありがと」

男「成長というと?」

名桐「初めて私が創の料理を食べたときなんか凄かったわよ」

香椎「ふ、ふ、風香ちゃんその話は…」

男「ほう、興味深いね」

名桐「なんてね、やめとくわ」

香椎「ほっ…」



男「お昼に急に呼ばれたから何かと思ったら思わぬ展開だったな」

男「…素麺はな、安いし早いんだよ」

男「毎年暑中見舞で貰うし…うん、きゅうり育てようかな」

黒鹿毛「良いですね、きゅうり」

男「どわっは」

黒鹿毛「驚き過ぎですよ」

男「そ、んな急に声をかけられたら誰でも驚きますよ」

黒鹿毛「そうでしたか、そうですね」

男「それで、どうかしたのですか?」

黒鹿毛「ああいえ、特にこれといって用は無いです」

男「そ、そうですか…」

黒鹿毛「きゅうりですか…」

男(この人も何考えてるかわからないな…学生の頃からそうだったけど)

男「ところで有馬先生はー」

黒鹿毛「いませんけど?は?」

男「アッハイ」


紅田「あー疲れた」

受付嬢『お茶です』

紅田「おっと悪いね」

受付嬢『先程の話ですが…』

紅田「ああうん、とりあえずは大丈夫でしょ」

受付嬢『私も同行しようかと』

紅田「そうしてくれるとありがたいな、どうも二人では手が足りない気がしてね」

受付嬢『そうならないことを祈ってますよ』

紅田「それもそうだね」

受付嬢『そうですね』


………


男「じゃあ皆また明日」


男「ふうー」

七原「先生っ」

男「ん、どうしたの」

七原「今日放課後暇ですか?」

男「まあ粗方仕事は片付いてるから暇だね」

七原「その、買い物を手伝って欲しいんですけど…」

男「いいよ、準備できたら部室で…あ、いや教室で待っててくれる?すぐ行くよ」

七原「はい!ありがとうございますっ」


男「お待たせ、はいオレンジジュース」

七原「わっ、ありがとうございます…じゃあ行きましょっか」

男「うん」


七原「ええと…あった」

男「何買うの?」

七原「歯みがき粉が無くなりそうなのでそれと後は食料品ですね」

男「了解、いつものスーパー?」

七原「はい。今日はお米を買いたいので…その」

男「わかった、任せてよ」

七原「あ、ありがとうございますっ」


男(私より力有るんじゃないかと思うんだけど…普通の女の子として扱って欲しいのかな)



七原「大丈夫ですか?」

男「うん、軽い軽い」


七原(そう言えば先生も並の肉体じゃないのか)

七原(がっしりとした肩幅、盛り上がる胸筋、太い四肢…)

七原(いいなあ)


七原「じゃなくて」

男「え?」

七原「おほん…先生、ちょっと良いですか?」

男「ん、どっか寄る?」

七原「はい、冷凍食品も生ものも買ってませんし少しお茶でもしません?」

男「いいよ、じゃあうど」

七原「うどんはお茶には入りませんからね」


男「ここも久々だな」

七原「来たことあるんですか?」

男「学生の頃と…こないだ岸華さんとな」

七原「そうですか、いろんな女の子を取っ替え引っ替え…ロリコンですね」

男「高校生はロリータじゃないだろ」

七原「なら女好きですよ」

男「あのね…」

七原「冗談です、くす」

男「悪質だよ、全く」

七原「嫌いになりました?」

男「いや、全く。寧ろ好きだな」

七原「そうですか、それはなにより」

男「…なんでニヤニヤしてるのさ」

七原「してませんよ?」

男「してるよね」

七原「しーてーまーせーんー」

男「ふふ」


先生、私、先生の事好きなんですよ?わかってますよね?そんな事言われたら、もう…


カミングスーン


『魔術師』だって普通の人間ですから恋もしますし愛されたいと願うものです。私だってそうでしたから…さて、次回はとうとう水着イベントですよ、ふふふふふ…あんなことやこんなことが起こる予感しかしませんね、楽しみです。次回、「ラッキー」肌色増量でお届けします(新田)

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