第十五話

暑い日射しも一瞬で、今は重く暗い雲が空に沈む

鬱々としてるのは天気だけでは無く、生徒たちもどこか沈んでる様に見えた

そして沈んでるのは生徒だけでは無いようで…


黒鹿毛「はあ…」


男「どうしたんですか」コソッ

紅田「ふはは、有馬がまた当分帰ってこないからな、ははは」コソッ

戸ノ内「しかも今回は滞在も短かったから二人の時間なんて取れなかっただろうヨー」

男「ああ成る程…」コソッ

紅田「これで少しは職員室も静かになるってもんだ、ははは」コソッ

男「いや主に校長がうるさくしてるんじゃ」コソッ

戸ノ内「そうヨー」コソッ

紅田「それいう?言っちゃう?認めざるをえないな…」コソッ

男「認めるのもどうかと思いますけど…」コソッ


黒鹿毛「そこっ!こそこそ煩い!」

紅田「ひっ」

男「すみません!すみません!」

戸ノ内「わお」


第十五話 サイテン


岸華「ふう、よし。今日は雨か…」

岸華「…傘が無い。あいつ…仕方ない、折り畳み傘があったはず…」

岸華「はあ…」


岸華「…」

「おはよー!」「おはよう岸華さん!」

岸華「うん、おはよう」


岸華「…」


岸華「ちょっとお手洗いに…」

「えーじゃあ一緒に行こうかな」「私も!」


岸華「……」


「岸華さん!ご飯一緒に食べない?」「こっちこっち!」

岸華「え、ええ良いわよ…」


岸華「………」


岸華「仕事が出来ない」

岸華「何故?何故あそこまで付いて回るの?わからない…解せない…」

岸華「…これも私が選んだこと、か」


岸華(とりあえず生徒会室なら邪魔は入らないでしょう…早く稟議書を作り上げないと…)

岸華(例年とほぼほぼ同じとはいえ二学期は体育祭に文化祭と行事が目白押し…私達二年は修学旅行もあるから尚更ね)


岸華(…こんなところかしら)


岸華「はあ…次は申請書ね。部長に待って頂いてるから早くしないと…」


旧鬼「失礼する…ん、岸華か」

岸華「あっ旧鬼先生。お疲れ様です…どうされましたか」

旧鬼「先日の持ち物検査の結果と反省文の書類を管理簿に挟みにね」

岸華「そうでしたか」

旧鬼「あった、ほいほいっと」

岸華「旧鬼先生って凄いですよね…生徒会も委員会もまとめて管理してて。忙しくないんですか?」

旧鬼「ん?まあ半分は副校長と一緒にしてるからさほどでも無いかな…それに結構私は生徒に仕事をしてもらってるからね…」

岸華「そう、ですか…」

旧鬼「うん、忙しくなるなーって思ったら生徒にパス。勿論最後確認は自分でしたり重要なのは任せられないけどね」

岸華「勉強になります」

旧鬼「ま、自分で管理できるだけの仕事を受けるのが第一かもしれんがね…頑張れよ」

岸華「はい!」


岸華(そう、私は頑張らないといけない…今以上に…)


………


吉祥「岸華来てねーのかよ、遅刻か?」

戸ノ内「いや、休みらしい…遅刻はお前だヨー」

吉祥「えっマジ?珍しいな…」

戸ノ内「学期に一回あるかないか位だからお前と比べれば珍しいになるのかナー…」

吉祥「え?」

戸ノ内「え?」

吉祥「まあいいや、とりあえず今日のノートとってお見舞いの品でも買うか…いや!もっと面白く出来るぞ」

戸ノ内「やめとけヨー」

吉祥「ふは、ふははは、待ってろよ岸華ァ!」


吉祥「ちゃんとすれば私もノートとれるんだよな…」

名桐「…案外ちゃんとしてるわね」

吉祥「案外は心外」

名桐「じゃああんたにしては…というか普段からちゃんとすれば成績もあがるんじゃないかしら」

吉祥「ノートしっかりとれるからと言ってテストの点は上がらないのです」

名桐「それだけ勉強に目を向けなさいってことよ!」

吉祥「あうあう…」

名桐「で、あんた持ってくの?」

吉祥「まあ今日のプリントもあるしな…」


吉祥「ほいセンセー」

男「なんのプリント?」

吉祥「うちのクラスで配られたやつ」

男「え?」

吉祥「今日岸華の奴休みなんすわ、せやからセンセー持っててってくれません?」

男「え、吉祥さん持っていけばいいんじゃ…」

吉祥「勘悪いの~私が持ってくよりセンセーが持っていった方が面…ええの!私用事あるんですわ~」

男「確かに今日は部活に顔を出そうかなと思ってた位だから暇なのは暇だけど…」

吉祥「せやろ!ほなたのんますわ~」

男「え、ちょっと吉祥さん!」


吉祥「押し付けたぜ」

名桐「やるじゃない」

吉祥「ふははは、楽しみ…だ!」


男「ええ…つまり、お見舞いに行けってことか…?そこまで教師がしていいのか…?」

黒鹿毛「構いませんよ、中には長距離通学してる生徒もいますから」

黒鹿毛(別にノートもプリントもその日に持っていく必要はありませんが)


黒鹿毛(面白そうなので構いませんよ)


男「そうですか…じゃあパッと持っていって来ますね」

黒鹿毛「ええ」


黒鹿毛「ふっ」

吉祥「流石ですね」

名桐「尊敬するわ」


………


男「…ついてしまった」

男「チャイムどこだ…お?」

光「お?」

男「あ…すみません。聖さんのお見舞いで」

光「お?先生が?まあいいや入ってよ、丁度寝てるから」

男「あ、いえこのプリントとノートとお見舞いの品だけ渡して貰えれば…」

光「あ、そう?それじゃ…」


"男を岸華聖の部屋に入れなさい"


光「っ…な」


黒鹿毛「…」ひらひら

吉祥「…」ペコ

名桐「…」ペコ


男「どうしたの?」

光「ま、折角だからさ!聖も先生が来てくれた方が嬉しいと思うし!な!」

男「えっえっ」


ガチャン


吉祥「テレパシー?」

黒鹿毛「ええ」

名桐「とんだ副校長ね…」

吉祥「あ、でも中に入っちゃったら見れないですぜ」

黒鹿毛「念視」

吉祥「おお…」

名桐「何これ…」

吉祥「あれっ見えるの?」

黒鹿毛「『魔力』を共有してます」

名桐「へー凄いわねこれ…間取り?俯瞰図っていうのかしら」

吉祥(さらっと言ったけど『魔術』使えない人間への『魔力』の共有は高等技術なんだが…しかも細部まで己の目でみたが如くはっきり見える)

吉祥「あ、岸華の部屋の前かな」

名桐「岸華は…布団の中ね」


男「失礼しまーす…」カチャリ

岸華「すー、すー…」

男「あ、寝てるのか…しかし」

男(結構可愛らしい部屋だな…)

男「起こしちゃ悪いし帰ろうかな」


黒鹿毛「それは不味い、展開的に。目を覚めさせますね」

名桐「えげつないことするわね…」

吉祥「うはー」

光「面白いことしてますね、黒鹿毛サン」

黒鹿毛「あら、来たの」


岸華「んん…」

男「あっ」


カタン


黒鹿毛「視覚共有」

名桐「うわっこれアイツの一人称視点ってこと?」

吉祥(すげー)

光「凄いことするなあ黒鹿毛サン」


岸華「ん、ふあ…姉さん?勝手に部屋に入らないでって…ん?」

男「…どうも」

岸華「…」


岸華「…?」

男「あの…」

岸華「はっ」


きゃああああああああ!


黒鹿毛「聴覚共有」

吉祥「うはっ凄いことになってる」

名桐「いっひひひ、何あの顔。真っ赤じゃない、ひひひ」

光「あーあーあー」


岸華「なっなんで先生がっ」

男「ごめんお見舞い」

岸華「吉祥ね、アイツ…」

男「いや結局行くって決めたのは私だし」

岸華「全く…余計な気を利かせて…」

男「あっこれ今日のプリントと吉祥さんがとったノートだけど」

岸華「一日寝たら治ったわ、明日学校で写すから良いわよ」

男「あ、そう?じゃあこれで…」

岸華「…折角来たんだから少しゆっくりして行ったら?体調も良くなったし…」


黒鹿毛「疲労ね」

吉祥「回復薬とか飲まなかったのか?」

光「あの娘薬苦手なんだわ」

吉祥「えっ」

名桐「えっ」


吉祥・名桐(かわいい…)


光「というのも彼女が幼い頃に母と私でボコしては無理矢理飲ませを繰り返すうちに副作用が酷いことになってね」

吉祥「酷い」

名桐「ええ…」


男「あ、水」

岸華「ありがと…んくっ、ぷはっ」

男「…元気そうで良かったよ」

岸華「そう?…先生の顔見たからかもね」

男「え?」

岸華「冗談よ…何赤くなってんのよ」

男「え、いや…ははは」

岸華「ふふ…あーあ、もう自分がバカらしくなっちゃった」

男「?」

岸華「前、聞いたよね。何が私らしいか…なんて」

男「あ、うん」

岸華「だからそれで色々考えすぎちゃったのかも」

男「それで最近私を避けてたのかな?」

岸華「…うん」

男「ごめん」

岸華「そんな…先生が謝る事じゃないんです」

男「でも、私のせいで悩ませて、それで体調が悪くなって…」

岸華「違いますって。それに私、先生が来てくれて凄く嬉しいんですよ」


ぎゅっ


男「あっ…」

岸華「だから、先生の所為とか言わないで下さい…」

男「…私からして岸華さんのらしさがどんなのかはわからないよ。でも…」


男「何か抱えてる岸華さんも、朗らかな岸華さんも、ちょっと冷たい岸華さんも…どんな岸華さんでもそれは岸華さんだよ、いつもの頭の良くて優しい岸華さんなんだよ」

岸華「せん、せ…」


男「…」

岸華「…あっうう…ぐすっ…」

男「あっごめっ」

岸華「違うの、違う…うっ、ひっく…凄く、嬉しい…です」

男「岸華さん…」

岸華「先生…」


吉祥「…」

名桐「…」

光「…」

黒鹿毛「…」

吉祥「とりあえず警察に…」

名桐「そうね、とりあえず」

黒鹿毛「はあ…帰りなさい」

吉祥「えっこれからが大注目じゃないですかっ」

名桐「そうよ、いくら副校長でも」


黒鹿毛「帰りなさい」


吉祥「…ん?いつの間に自宅に帰ったんだ?…何か大事なこと忘れてるような…ま、いっか」


名桐「………あら、もうこんなとこまで来てるわね…なんで今日歩いて帰ったのかしら」


黒鹿毛「ふう」

光「じ、陣無しで瞬間転移に忘却術…わ、私にもするつもり?そう簡単にはいかな」


黒鹿毛「滅」


光「……ん?なんで外にいるんだ私、というか黒鹿毛サンなんでここに?」

黒鹿毛「所要でね、さ、学校に来てもらうわよ」

光「…?はーい」


黒鹿毛(…ふふっ)


岸華「…ふふ、ふふふ、本当にワタシ、馬鹿みたい、ね。一人で空回りして先生から遠ざかれば楽になるなんて、あり得なかったのに」

男「そんな…」

岸華「でもね、少し今日わかったかも」

男「…?」

岸華「ありがと、先生」


ちゅっ


……………


男「…」ボー

黒鹿毛「…ふふっ」

男「…」ボー

黒鹿毛「……くす」


戸ノ内「なにあれ」

旧鬼「さあなんでしょう…」



岸華「おはよ」

吉祥(お?)

吉祥「おはよ、具合はいいのか?」

岸華「ええ、ちょっと疲れただけだもの。ノート、借りるわよ」

吉祥「ん、いいよ…あれ、無い」

岸華「ああ私が持ってるんだった」

吉祥「え、なんで?」


岸華「…ふう、ありがと」

吉祥「どーいたしまして。…元通り、か?」

岸華「うーん…ちょっと違うわね」


岸華「進歩、かも?」

吉祥「なんだそれ」

吉祥(ま、理由は知らんが…治ったならよし、だな…うん)

岸華「ところで吉祥さんまた持ち物検査引っ掛かったって聞いたけど第二野球部なんだから悪目立ちするのは止してくださいね」

吉祥「…やっぱ前の方が良かったかもなあ」

岸華「は?」


名桐「…ふん、何も手出しすること無かったじゃないの」

七原「みたいですね」

香椎「いつもの岸華先輩だ…」


………


岸華光聖「以上で会議を終了する」


光聖「…」

「岸華殿」

能瀬「第二軍所属能瀬小波渡です」

光聖「…能瀬三尉か」

能瀬「娘さんの事で少しお話があるのですが」

光聖「どっちだ」

能瀬「聖さんの方です」

光聖「手短に頼む」

能瀬「先日私が私用で出掛けた際聖さんの通ってる高校の教師を帯同しておりまして」

光聖「ほう」

能瀬「その教師というのが第二野球部顧問の赤田でして」

光聖「…ほう」

能瀬「聞く話によると二人は付き合ってるそうです、報告は以上です」

光聖「わかった」


光聖「……」


能瀬「これで…友紀君は私のモノね」


………


戸ノ内「こんなもんか、完成までは少し時間がいるな…」

??「終わった?暇?」

戸ノ内「丁度暇だが…お前に構ってる暇はない」

??「ちえー…じゃあお姉ちゃんと遊んでこよー」

戸ノ内「やめとけ」

??「じゃーなにかしてよー」

戸ノ内「…そういえば有馬に貰ったな」

??「何々~」

戸ノ内「ほらよ」

??「ジェンガ」

戸ノ内「これなら一人でも遊べるだろ」

??「えーこれは二人で遊ぶから楽しいんじゃん」

戸ノ内「わーわーごねるな…一回だけだぞ」


戸ノ内「オラッ」

??「あ!今固定したでしょ!」

戸ノ内「しーてーまーせーんー。ほらお前の番だぞ」

??「ぐぬぬ…ええい、はっ」

戸ノ内「ちっ…次はそう上手くいくかな…ほらぁここだ!」

??「そ、そんな…ぐぬぬ…ええいままよ!」

戸ノ内「何っ…久々に本気をぶつけたくなったよ…うらっ」

??「な…このっ南無三!」


バラッ


戸ノ内「ふ、こんなもんよ。鍛えてから出直してきな」

??「…けっこうのりのりだったね」

戸ノ内「意外と楽しいなこれ…」


吉祥「何してるんですか」

戸ノ内「あー暇潰しヨー」

吉祥「そうですか、そちらの方はええと…」

戸ノ内「知り合いでな」

??「そーなのよー」

吉祥「そうですか、ははは…ああ忘れるとこだった薬ください」

戸ノ内「はいヨー」

吉祥「ようやく国外訪問許可書を貰いましてね」

戸ノ内「夏休みだっけか、いいネー羨ましいネー」

吉祥「先生こそこの間どこ行かれてたんですか?」

戸ノ内「小用で北機までね…旅行じゃ無いヨー」

吉祥「私かて旅行じゃ無いですよ、実家に呼び出されたんですから」

戸ノ内「実家って…本家?」

吉祥「らしいですわ…いや行ったことないんすけどどうなんすか?聖籠って」

戸ノ内「場所によるけどネー都心部はそんな荒れてないヨー」

吉祥「はーそうですか…」

戸ノ内「しかしなんで今頃なんだろネー」

吉祥「母方の実家に当たるんですけどね、そっちの血筋で一番若くて『魔術』を使えるのが私らしいですわ」

戸ノ内「ふーむ…でも君お母さんとは絶縁してたよネー」

吉祥「向こうからしたんですよ、お陰で顔も知らずにすんだのは有難いですがね」

戸ノ内「ああそうだったネー」

吉祥「…紅田校長に拾ってもらって無ければ行く宛も無かったですから。本当に感謝ですよそこは」

戸ノ内「施設って浦田監督のとこでショー」

吉祥「そうですけど」

戸ノ内「ふーん、アイツとは懇意にさせてもらっててネー…まあ腐れ縁ってやつかナー」

吉祥「そうなんですか?」

戸ノ内「実を言うとそこから吉祥さんの情報をそこから貰って紅田が行ったって訳なのヨー」

吉祥「へーっ、そうだったんですね」

戸ノ内「世の中色々サー」

吉祥「結構狭いですね」

戸ノ内「じゃ、薬はまだ飲んでもらうからネー」

吉祥「へいへい」


吉祥「不味っ」


………


名桐「梅雨ね」

香椎「そ、そうだね…」

名桐「このままじゃ負け組よ」

香椎「えっ」

名桐「いいの?このままで」

香椎「な、なんの話かな…」

名桐「先生よ、赤田先生。好きなんでしょ」

香椎「あ、う、そ、そんなこと言った覚えない…」

名桐「あのね、バレバレよ。正直」

香椎「はうっ…で、でも私岸華先輩みたいに美人でもないし海ちゃんみたいに明るくもないし…風香ちゃんこそどうなの」

名桐「な、なんでそこで私が出てくるのよ」

香椎「わかるよ、幼なじみなんだから」

名桐「…まあ私はほら、キスしてるし」

香椎「うっ…」

名桐「創はもっと積極的にならないといけないわよ。さっき岸華が美人って言ったけどね、あんたは十分かわいいのよっ、岸華とは別ベクトルで顔が良いのっ」

香椎「で、でも先生の好みじゃないかも…」

名桐「そんなの聞いてみないとわからないじゃない!行くわよっ」

香椎「も、もう授業始まっちゃうよ」

名桐「じゃあ放課後!放課後行くわよっ」

香椎「え、ええ、ええ~そんな~」


香椎「えー…」


………


吉祥「で、何で私のとこに来るわけさ」

名桐「脅すネタにするのよ、良いでしょ」

吉祥「それはご自由にだが…知らんぞ私は」

名桐「だから聞いてきてほしいって言ってんのよ」

吉祥「頼み方があるだろ頼み方が…」

名桐「…あんたは興味無いわけ?」

吉祥「無いね」

名桐「あ、そう…」

吉祥「外見はマシな方だがな…中身がどうも気にくわなくてな。女々しいというか…」

名桐「それはあんたが先生のことよく知らないからよ」

吉祥「さいですか…ま、条件付きで手伝ってやらんこともない」

名桐「何よ、金で解決できるのにしなさいよ」

吉祥「おいおいそれじゃ面白くないだろ?楽しみにしてな…ふははは」

名桐「…」



戸ノ内「…なにかナー」

吉祥「薬を」

戸ノ内「今日はもう飲んだヨー」

吉祥「わかってる、わかってるさ…それとは別の薬がほしくてね」

戸ノ内「?」

吉祥「自白剤」

戸ノ内「取り扱いには資格が必要ですヨー」

吉祥「え、先生資格持ってるの?」

戸ノ内「持ってるヨーこれでも元軍医だからネー」

吉祥(軍医が自白剤を使う…怖いな!)

吉祥「でもでも!非認可のがありますよねっ」

戸ノ内「当然の様に人を犯罪者扱いしてくるネー…あるけどサー」

吉祥「くーださい!」

戸ノ内「何に使うかは聞かないけどサー催眠暗示とかで聞けば良いじゃんかサー」

吉祥「あ、その手があったか」

戸ノ内「…薬、どうするノー?」

吉祥「とりあえずはいいや、また必要になったらとりきますよ」

戸ノ内「はーい」


戸ノ内「…」



吉祥「と、言うことで香椎君!頑張ってね」

香椎「…えー」

名桐「ほらっ先生の好みがわかるのよっ呼び出すわよ」

香椎「でも…そういうのはプラトニックじゃないと言いますか…」

吉祥「じ、純情ガール…」

吉祥・名桐「かわい」

香椎「へうっ」

名桐「まあ確かにそうね、無理やり知ってもねえ…」

香椎「」こくこく

吉祥(というか催眠暗示が使えるなら相手を好きにさせれば良いのでは…というのは黙っておこう。岸華が猛勉強を始めてしまいそうだしな…)


名桐「一応聞いておくけど仮に薬貰えたら何させようとしてたのよ」

吉祥「え、これ」


・ネコミミメイド服(露出強)


名桐「馬鹿なの?死ぬの?」

吉祥「いやー一度は着せてみたいじゃん?」

香椎(うわあ…)



香椎(結局進展も無いまま…六月に入っちゃった)

香椎(大会も終わっちゃったし…これから関わることが減るなあ…私も他の皆みたいに積極的に誘えたら良いんだけど…恥ずかしいよ…)

香椎「…」

「お待たせしましたお嬢様」

香椎「…お願いします」


ブロロロ…


「…学校で何かありましたか」

香椎「っ何も無いですよ、少し考え事です…今度のパーティーで何作ろうかなとか…」

「それにしてはお顔が冴えないようですが」

香椎「はい…少し」

(ま、まさかお嬢様…パーティーで出されるご自身の料理に自信がないのでは…)

「お嬢様!差し出がましい口を利きますがお嬢様は素晴らしいお方ですっ」

香椎「ふえ」

「お父様、お母様…いえ、それだけでなく我々への心配り!普段からお嬢様に使えることが最早仕事ではなく使命とまで殉じ我々は勤めております!」

香椎「は、はい」

「なので…なので!自信をお持ちになってください!」

香椎「運転手さん…!そうですよね、まだ何も始める前から諦めちゃ、いけませんよね!」

「はい!」

(元気になって下さった…それにお嬢様の料理は間違いなく絶品です、お父様も認めるところですから。その調子ですよ)

香椎(そうだ、私、まだ何もしてなかったんだ…諦めるのは、挑戦した後でも間に合う!)

香椎「頑張る…頑張りますっ!」

「その意気です!お嬢様ァ!」

香椎「おー!」


「お疲れ様、創が運転手さんにお礼をと言ってましたが…何かありましたかね?」

「いえ…一つあるとすれば」

「ふむ?」

「今度のパーティーの料理は、素晴らしいものになりそうです」

「そうか、ありがとう…これからも頼むよ」

「はいっ」


(それにしては凄い気合いの入れ様だったな…ははは)


……………


香椎「せっ先生」

男「どうしたの香椎さん」

香椎「ちょ、ちょっと手伝ってほしいことが…」

男「うん?」


男「なるほど…今度パーティーがあってそこで料理を振る舞うことになっており、その試食役をしてほしいんだね」

香椎「そ、そういうことです!調理室はどなたか先生の許可が必要ですから…」

男「いいよ、そういうことならよろこんで協力するよ。他の人は?」

香椎「あっ…岸華先輩と海ちゃんはそれぞれ役員で忙しい様ですし風香ちゃんはそのパーティーにくるので…他の先生にも頼みづらいですから」

男「吉祥さんは?」

香椎「…?」

男「さ、調理室に行こうか」

香椎「はいっ」


男「今日は何を作りますか」

香椎「はいっ!まずパーティーと言っても私たちが今回開催するのは舞踏会の様なものになってます!よってそこで出す食べ物は基本軽食…よって!」


香椎「サンドイッチでいこうかと」

男「わー」


香椎「といってもそこいらで販売されてるような生半可なサンドイッチでは興が削がれます!なのでここは一風変わったものでいこうかと!」

男「おお!」

香椎「それはこちら!」


香椎「レバーペーストです」

男「わー」


香椎「パテはパイ生地を作るとこからになってしまいますので少々手間がかかります!なのでここはテリーヌでいきます!材料はお肉屋さんで買ったくず肉とその他色々内臓系!フォアグラもほしいところでしたがこれは少々値が張ったので今回はありません!」

男「なんと!」

香椎「そしてもちろん付け合わせにチーズやポークリエット、これはレバーが食べられない方への配慮ですね!フレッシュな野菜も添えます!パンは今回は固めのフランスパンでいきます!今回は買い置きですが本番では作ろうかと思います!」

男「ひゅーひゅー!いいぞー!」

香椎「それでは早速…いざ!」



香椎「完成した品がこちらです」

男「おお~美味しそう」

香椎「あ、せ、先生好き嫌いとかは…無いですか?」

男「うん何でも食べられるよ、レバーとか大好き」

香椎「よかったあ…どうぞ、食べてみてくださいっ」

男「じゃあ早速、カットされたパンにペーストを塗って…うん、美味しい!」

香椎「やったあ!」

男「香椎さんも食べようよ」

香椎「はい!」

男「うーん歯ごたえのあるパンにしっとりとしたレバーが最高だ、チーズもいいかな?」

香椎「もちろんです、塗りますねっ」

男「ありがとう」

香椎「…はいっどうぞっ!」

男「む!このチーズ…まさかっ」

香椎「クリームチーズペーストです!実際は酵母パンとかの方が合うみたいですけど興味本意で作ってみました!」

男「美味しい…美味しすぎる…!」

香椎「いっぱいありますからどんどん食べて下さいね!」

男「ありがとう!」


男「美味しかった…」

香椎「ぜ、全部美味しく食べてくれた…嬉しいですっ」

男「香椎さんが作った料理だもの、いくらでも入るよ。毎日食べたいくらいだね」

香椎「」

香椎「そ、そ、そうですか~えへへ~じゃあまた、誘っても良いですか…?」

男「もちろん!あ、でも食材買うときは一緒に行っていいかな?重たいものとかもあるでしょ?手伝えることあったらなんでもするし」

香椎「も、もちろん大丈夫ですっお願いします!」

香椎(デートまで約束しちゃった…えへへ)

男「じゃ、片付け手伝おうか」

香椎「そ、そんな!私がしますよっ」

男「いいよ、それくらい手伝わせてほしいんだ。独り暮らしで慣れてるしね」

香椎「じゃ、じゃあ…私が洗うので拭きをお願いします」

男「うん」


香椎「…」カチャカチャ

男「…」キュッキュッ

香椎「…なんだかこうしてると」カチャカチャ

男「うん?」キュッキュッ

香椎「夫婦みたいですね…」カチャカチャ

男「…あっ」ガタン

香椎「あっ」


男(手、スベスベしてる…これは洗剤なのか?否!香椎さんのお手手がスベスベなのだ…!)


香椎「せ、先生私は大丈夫ですっ」

男「え?」にぎにぎ

男「あっごめん…すごく、その…夫婦みたいって言われて嬉しくって」

香椎「そ、それって…」

男「独り暮らしだと家事しても誉めてくれる人とか居ないからね…」

香椎「そ、そうですね」


男(正直滅茶苦茶ベターな発言故に、それが純真無垢な香椎さんから発されることにより…凄く舞い上がってしまった)


男「まな板でよかった」

香椎「あ、もう一度洗うので貸してください」

男「あ、すみません…」


カミングスーン


先生、その…まずはお見舞いありがとうございました。色々悩んでたんですけど、すっきりしました。やっぱり先生は凄く、素敵で、優しくて…好き、なんだろうな。この気持ちは…もっと一緒に居たいです。次回、「カクサク」しかし外に圧力があったような感じが…勘違いだとは思うんですけど(岸華)

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