第十二話

最近、なんだか自分がおかしい…と感じる


人の事でこんなに一喜一憂したりすること、無かったのに


先生の所為ね、きっと


岸華「…」

男「どうしたの?岸華さん」

岸華「ふー…最近の私のこと、どう思う?」

男「最近の…?」


岸華『よく頑張りましたってとこね』


男「…鼻血」

岸華「それはっ忘れなさいよっ!馬鹿!」


第十二話 トウソウ


吉祥「なんつーか…最近ヤバくないか?」

男「何がかな?吉祥さん」

吉祥「うちの部活だよ」

男「うーんそうかな…」

吉祥「おいおい、そうかなってこたあ無いだろ、主にあんたが原因なんだからさあ」

男「え…」

吉祥「香椎から聞きましたぜ、え?岸華と名桐にかましたらしいですなあ!」

男「ぶっ…いやあれはお疲れとお別れキスのだしそもそも向こうからしてきたんだよ!」

吉祥「なんだ、本当にしたのか…」

男「うわあ」

吉祥「はあ…まさか先生がそんな人だったなんて…失望しました」

男「いや本当それは僕もその時何が起こったかさっぱりで…本当なんです」

吉祥「わあーってるよ、先生にそんな度胸が有るようには思えまへんさかいなあ」

男「き、吉祥さん…」

吉祥「ふはは、崇めよ、奉れよ…しかし理由はともあれ二人は先生にキスしたってのは事実なのかあ…」

男「ええ、そうなんです…」

吉祥「…二人だけやんな?」

男「…ええまあ」

男(本当は七原さんもなんだけど…)

吉祥「七原もなのか」

男「うわあ」

吉祥「まじか…で、その時はどんな理由だったんですかね参考までに」

男「うっ…いやーなんでですかね?向こうからなんですけど~」

吉祥「…」

男「言えないよ…まさか好きと言ってくださいと言われて不意討ちでキスされて抱きしめて好きだと言ったなんて…!」


吉祥「最低やん教師として。辞めたら?この仕事…」


男「すみませんすみません本当赦してくださいほんの出来心だったんです…」

吉祥「はあー…」

吉祥(面白いなこの人)

吉祥「ま、ええわ私に実害あらへんし…他の人に言い触らしたりもせんから安心しい」

男「ううう神様仏様吉祥様…ありがとうございますうう」

吉祥「なんかあったら報告してーな、そんな面白…大変な事、放っておけんわ」

男「はいいい…」


吉祥(テレパシーとか使えへんけどカマとハッタリでなんとかなるもんやな…)



吉祥「ふんふふふんふはふんふーん」

吉祥「おろ?」

岸華「げ」

吉祥「露骨に嫌そうな顔するなあ君ぃ…なんやねん」

岸華「別に何でもないけど、吉祥さんこそどうしたの?」

吉祥「別にぃ~?ぶらぶらしてただけですけどぉ~?」

岸華「…そうなんだ、もうすぐ授業始まるから教室に戻った方が良いんじゃないかな!」

吉祥「かめへんかめへん、どーせ次は詰まらんやつや」

岸華(この人本当に留年しないんでしょうね…)

岸華「そ、そう?じゃあ私は教室に戻るから…じゃっ」


吉祥「行ったか…大変やな学生さんは」

有馬「お前もだろ」

吉祥「…わーっ!有馬センセっ、ビックリしたなあもう!いつ戻って来たんだよっ」

有馬「資料取りに帰ってきただけだからもうでるんだわ」

吉祥「あっそ、そらご苦労様ですわ…で、こないだの話なんやけど」

有馬「ああ、本家に呼ばれたやつ?俺が送ることになったのと許可書は準備でき次第渡すことになってる」

吉祥「ああ良かった、こういうのは前もっての準備が大事ですからなあ」

有馬「他、何かあるか?」

吉祥「ある…なんで顧問を代わったんですか?」

有馬「赤田に?」

吉祥「そ、力量というか『魔術』体術その他に関しても有馬センセの方が有能やないですか」

有馬「そらどうも…理由はあるんだがな、黒鹿毛…副校長から聞いてるだろ?」

吉祥「仕事の関係が忙しい、新人に仕事を覚えさせる…そんなとこ」

有馬「それが全て、だ」

吉祥「だとしても」

有馬「…あのなあ、お前俺がいないと強くなれませんっとか言い出さないだろうな」

吉祥「っ…」

有馬「だろ?だからだよ。別にお前らの先生辞めるって訳じゃないんだ、一段落ついたらまた戻ってくるからよ」

吉祥「…ああそうか、一応言うとくけど別に赤田センセが嫌な訳ではないんや。只本当に他意が無かったんか…それだけ」

有馬「…まあ今の状況をみるとな、まさかこうなるとは俺も思わんよ」

吉祥「見てるんすか」

有馬「こいつがな」


佐藤「目」


吉祥「…はあーこれは一本取られたわ」

有馬「気づかなかっただろ?渾身の作だからな」

吉祥「いや確かに今年から急に見たこと無い奴がマネジャーするんかと思うたよ…はあー」

有馬「受付嬢さんと比べるとレベルは低いがな…記録媒体全般と繋いでるのさ」

吉祥「…ははあ、変態やな」

有馬「いやそれ本当嫁にも言われて危うく家庭の危機だったんだよ…映像のチェックを嫁がすることで事なきを得たけどさ」

吉祥「お?てことは…」

有馬「ん?ああ黒鹿毛も知ってるよ」

吉祥「…」

有馬「…」

吉祥「じゃっ」

有馬「おう、授業、ちゃんと受けろよ」


吉祥(ま、特に何も言わないということは問題の部分は見られてないんやろ、多分…しかし)


佐藤「目」


吉祥(見られてると思うと悪いことは出来ないな…バラしちまうか)


佐藤「駄目」

吉祥「わかってるよ、わかってる。当然誰にも言わないよ…」


………


名桐「ふーん、そう」

男「いやそう…じゃなくて、ね?頼むからその…したってこと、言わないでよ…」

名桐「あれは別れのキスよ、何か後ろ暗いことでもあんの?…岸華ともしたそうじゃない」

男「あれも岸華さんからで…」

名桐「人の所為にするわけ?」

男「…いや、確かにされたのも僕の落ち度だけど」

名桐「そう、教師足るものが淫らに隙を見せるのが悪なのよ」

男「だとしても、言い触らすのだけは辞めてくれないか?教師人生に関わるからさ」

名桐「ふん、とんだ開き直りね。で、どうだった?女子高校生とキスした感想は」

男「凄く良かった、唇が柔くて良い匂いがしてさ。同じ人間とは思えなかった」

名桐「案外男らしいというか物怖じしないというか…どちらかと言うと破滅的、アンタそういうところ有るわよ」

男「?」

名桐「ふっふふ、因みにそれは私?それとも岸華?」

男「うわあ」

名桐「冗談よどうせ同じようなモノよね、ふっふふ」

男「…ええ」


男(名桐さんの方が良い匂いだった…言わない方が良いんだろうなこれは)


………


名桐「ふっふふ」

岸華「…」

吉祥「どうしたのさ、いやに気味が悪いな」

名桐「別に。アンタには関係ないわよ」

吉祥「おおう…つまりセンセー絡みですな」

名桐「そんなとこ」

吉祥「かーっどいつもこいつも色恋沙汰色恋沙汰見目麗しいことでよろしおすなあ!けっ」

名桐「嫉妬は見苦しいわよ、吉祥」

吉祥「へっ今に大地獄見せてやるよ」

名桐「おお怖いわね、岸華」

岸華「…なんで私に振るのかしら」

名桐「あら、共犯よ」

岸華「そんな物々しい言い方やめません?そもそも共犯では無いでしょうし」

名桐「ものの例えよ、例え」

吉祥「しっかしお前らセンセーのどこが良いかね?」

岸華「別に」

名桐「べっ別に赤田先生の事がどうとか言った覚え無いわよっ…そりゃ少しは気になってるけど恋愛感情とかそんなんじゃないんだから」

吉祥「…見事なツンデレというかなんというか」

岸華「お手本ね」

名桐「ジョークよ、ジョーク。私がそんな初心な訳ないでしょ」

吉祥「おや経験がおありで?」

岸華「興味深いわね」

名桐「…そーいうのは無いけど」

吉祥「…」

吉祥(萌え~)

岸華「そうなんだ」

名桐「そういう吉祥こそどうなのよ」

吉祥「私?そりゃあ私は若い頃は七つの海を股にかけこの美貌を持って世界を手中に収めんとですな」

岸華「私も別に無いかな」

吉祥「無視か?」

名桐「もう少し現実味のある入りにしないと食いつきようが無いわよ」

吉祥「成る程…」

岸華(確かにこれまで別に…そういうことに興味なんて無かったわよね思えば。だとすればやっぱり先生の所為なのかしら…だとすれば私は先生に…)

吉祥「…」

岸華「わっ…何よ」

吉祥「複雑な顔面してたから…つい」

名桐「複雑だったわよ」

岸華「ちょっと考え事よ」


名桐「じゃ、そろそろ帰るわね」

吉祥「おっもう?」

名桐「アンタたちこそ最近学校にあんまり残らないじゃないの」

吉祥「皆忙しいみたいでさあ…」

岸華「私は生徒会の仕事があるからお先に失礼しるね」

吉祥「えー…」

名桐「じゃあね、吉祥。早く帰って早く寝ること」

岸華「本当ね、遅刻。減らさないと大変よ」

吉祥「わあったよ、二人して面倒だな…」


吉祥「…寂し」



岸華「ふう、一通りこれで良いかしら」

「岸華さん、お疲れ様です」

岸華「お疲れ様、戸締まりは私がしておくから」

「はい、失礼します」


岸華「ふー…」


狭い生徒会室に部活動の声が聞こえる

野球部、サッカー部、陸上部、吹奏楽部エトセトラ、エトセトラ…

背景音楽として聞くには案外嫌いじゃない


岸華「…」


日暮れが遅くなり、丁度西日の眩しいこの部屋は他者の干渉を受けずにいられる場所だ


黒鹿毛「あら、どうしました岸華さん」

岸華「黒鹿毛副校長、お疲れ様です」

黒鹿毛「そんな畏まらなくても良いわよ、どうしたの?」

岸華「物思いに耽ってました」

黒鹿毛「あら、良いわね」

岸華「すみません、お邪魔でしたか」

黒鹿毛「まさか、そんなことありませんよ…丁度私も暇してましたから」

岸華「珍しいですね」

黒鹿毛「先日有馬先生が帰ってきて仕事が順調に進みましたから…ふふ」

岸華「有馬先生は…その、黒鹿毛副校長の旦那さんですよね」

黒鹿毛「ええそうですね」

岸華「あの、参考までにどうやって付き合ったのか教えて頂いても宜しいでしょうか」

黒鹿毛「くす、もしかしてさっきの物思いはその事かな?」

岸華「い、いえそんな…」

黒鹿毛「私は有馬さんと出会ったのはね…運命だったのよね」

岸華「運命」

黒鹿毛「後は二人で愛について話して、語って、時には喧嘩もして…」

岸華「愛…」

黒鹿毛「あるときふと気づいたの、この人以外私を知らない、教えたくもない。この人の全てが好きなんだなあって」

岸華「それで、一緒になったと」

黒鹿毛「そう。私は二人の価値観を共有することが大事だと思うわ、有馬さんは何考えてるか今でも時時わからないけど…教えてくれるから」

岸華「ふふっ、勉強になりました」

黒鹿毛「くす、一度の人生なんだからチャンスも一度きりよ。頑張ってね」

岸華「ありがとうございます…こんなこと、他の人に相談したこと無かったです」

黒鹿毛「話したいことがあったら何時でも聞くし、聞きたいことがあったら何時でも声かけてね」

岸華「はい、是非」

黒鹿毛「じゃ、書類預かったから戻るわね」

岸華「お疲れ様です」

黒鹿毛「…無茶だけはしないようにね、じゃっ」


岸華「………」

岸華「チャンスは…一度きり、か」


……………


戸ノ内「犢皮紙が無かったな」

??「ん、そだっけ」

戸ノ内「受付嬢さんが使ってるんだよな…内訳聞かないと」

??「そうだねえ、犢皮紙とか高いんだから…」

戸ノ内「うちでも取り扱ったら駄目かな…」

??「駄目だよー、国内でも犢皮紙の需要は高いと言えず、寧ろうちくらいのものなんだからうちが自作始めたらその企業さんが無くなっちゃうよ…値は高いけど」

戸ノ内「まあな…」

??「それに!最上級犢皮紙の凄さはその職人的加工にあり!ああいうのは『魔術』反応が出やすいからねー手作業じゃないと駄目だし何より力加減も熟練の技がいるのだ!つまり下請けにさせるのが楽」

戸ノ内「凄いな、犢皮紙博士か?」

??「えへん」

戸ノ内「とりあえず戻ったら店を廻ろう、今は飯だ飯」

??「ご飯」

戸ノ内「この辺りはええと…ああ山小屋があったな、そこで適当に作ってしまおう」

??「えー」

戸ノ内「まな板のソテーよりは旨いから我慢しろ…町で干し肉を買ってたな」

??「まだあるよー」

戸ノ内「ならいい、行くぞ」

??「はーい」


戸ノ内「しかしこの辺りも中々危ないな」

??「山間部だからかな、上の方はまだ雪残ってるし…なにより国境付近ってのがね」

戸ノ内「ああ」

??「それも北機と日槝の」

戸ノ内「ああ」

??「なんでこんなとこに?」

戸ノ内「物資の仕入れと……戦況の確認」

??「北機と日槝の?」

戸ノ内「そういうこと」

??「うちがすることかなあ」

戸ノ内「情勢は目で見ないとな」

??「そうかなー」

戸ノ内「そうなの…さーて」

??「干し肉、チーズ…味付けは胡椒のみ」

戸ノ内「…最高だな。さ、食べよう」

??「いただきまーす」

戸ノ内「ああ旨い…」

??「ビール飲んでいい?」

戸ノ内「やめろ、お前は酒癖が悪い」

??「うっ」


戸ノ内「旨かった…」

??「お腹減ってる時の干し肉は凄い」

戸ノ内「な」

??「…で、どうする?」

戸ノ内「とりあえず大事にはしたくないな」

??「ね」


「貴様ら…何者だ?」

戸ノ内「放浪者ですよ、ほら南鳥国の国外訪問許可書」

「ふん、そんな紙切れここでは用をなさんぞ」

戸ノ内「困ったな」

??「どうしよう、お母さん」

「親子か、なおのこと怪しいな」

戸ノ内「あんたらあれだろ、日槝の解放戦線の軍人だろ。見回りか」

「…いかにも」

戸ノ内「なら話は簡単だ」


??「殺した?」

戸ノ内「ああ、火をつけたらよく暖まったよ」

??「調べたらここ万年雪みたいだよ」

戸ノ内「ほう」

??「遺灰も凍るのかなー」

戸ノ内「…さあな」


……………


香椎「いい天気…」

七原「そうだね…」

香椎「ふう…こうしてはいられませんね」

七原「どうしたの?」

香椎「いえ、ちょっと…」

七原「?」


香椎「…」カリカリ

七原「…」ぴこぴこ

七原「…」ばしっ

香椎「…」カリカリ

七原「…」ぴこっ

紅田「お待たせ、香椎ちゃん」

香椎「あっいえ、お願いします」

七原「校長」ぷちん

香椎「今日すこし勉強会を開いて貰うんです、一緒にどうですか?」

七原「良いんですか?丁度暇してましたので是非」

紅田「いいよー大したことはしないけど」


紅田「えーとまずですねー、それぞれの課題をあげてもらいましょうかね」

香椎「体術だと思ってます」

七原「思い当たるのは『魔術』のレパートリー、威力ですね」

紅田「…見事に別々だねい、まあいいや。確かに香椎ちゃんは体術苦手だよねーそんなに悪くは無いんだけど…格闘技の経験とかないよね?」

香椎「そうですね…」

紅田「当然ナナちゃんも人に向けて『魔術』なんて使ったことない…よね?」

七原「はい…ナナちゃん?」

紅田「七原だからナナちゃんでしょ?」

七原「呼ばれたこと無いですよ…」

紅田「だったらまずは体術に関してはこれは簡単、出来ないなら反復練習。これにつきるかなー」

香椎「はい」カリカリ

紅田「こうきたらこう、こうきたらこうってのをひとつずつ持てばパワー無くても戦えるし…見本になる映像、過去の人のなんだけど持ってきたからちょっと見ようか」

香椎「お願いします」カリカリ


紅田「ここ、とここ、かな、うん」

紅田「出足踏んで蹴り潰し、引き付けて投げ、頭部から落とす…一試合に形は違えど同じ流れを二回も決めてるってのは型で捉えてるって事だからー」

紅田「かなり強い」

七原「ふむ…」カリカリ

香椎「うーん」カリカリ

紅田「要はこれはしろって訳じゃなく、型を学べばある程度受けたりそれを攻撃に転じたりは出来るってことさね」

香椎「成る程」カリカリ

紅田「当然反復練習はいるけどね」

紅田「もうひとつ見てみようか」


紅田「こっちはえーと…拳で受けてるからあまり参考にならないかも?痛いからね」

紅田「受けて、手なら空いた体に腕をとって掌底。足なら軸足腿に肘、膝…この人は受けたときに必ずこれを入れてたねー」

七原「ほほう」カリカリ

香椎「…うん」カリカリ

紅田「始め見てもらった人のは攻撃の挙動を読んでそれを潰しながらだから結構経験がモノを言うかな、二人目は受けてーだから割かししやすいかも?」

紅田「どちらにせよ体勢だとか読みだとか相手によっててのはあるけどそこも反復練習だね」

紅田「何度もして反撃くらうなら当然やり方を変えないといけないし…うん」

七原「そうですね」カリカリ

香椎「頑張ります」カリカリ

紅田「でもねえ…正直『魔術』が強ければ体術なんていらないんだけどねー」

香椎「?」

七原「そうなんですか?」

紅田「みぁあそれも見てもらいましょうかねい」


紅田「彼女も香椎ちゃんと同じく『魔術』が強くて体術は苦手な娘だったよー」

紅田「得手の物理壁としては液体金属…これ見た目に反して滅茶苦茶熱いし衝撃波にも強いんで、まずここで大抵の人は無理だった」

紅田「音波も通さないし…これ自体に増幅リフレクターもついてるから当時流行ってたレーザーとか投擲とかも反射してたね」

紅田「それプラス詠唱で威力高いのをぽんぽん射ってる。何でも使えたかな?確か」

紅田「ほんで、唯一当時食い下がったのが…まあ同じ第二野球部なんだけどこっち」

紅田「近接武器で止めながら少しずつ少しずつ間合いを詰めてるんだよね」

七原「大楯ですか…」

紅田「だったかな…目は良かったよ」

紅田「ま、近づかれますわな。そしたらフラッシュ、これはダメージがあるやつね」

香椎「熱線ですか…」カリカリ

紅田「そ、これがまた強くてさ。並みの壁はぶっ飛ばすしその後も熱が残るしで会場騒然、なんせ巻き上げた小石が防壁に突き刺さったからね」

七原「それを防いだんですか」

紅田「この娘も並みじゃ無いよ、当時としては一流だったからね」

紅田「元は只の鉄の盾に重ねて『魔術』を施してるんでオート反射に防御力は言わずもがな、こっからが長いんだ」

紅田「で、最後どうなったと思う?『魔術』使い側が勝つんだけどもー」

七原「相手の…『魔力』が尽きて負けるのでは?」

香椎「ごり押しで勝てなさそうですから…少しずつダメージを与えるしかないですよね」

紅田「こうなる」

七原「?」

香椎「…な」

紅田「わざと近づけさせたらしい、本人によれば。そこでこれは型でー、打ち込みを一発防いで勝ったわけよー…防いだ腕は潰れてるけど」

七原「何故?電撃を…身体に通して…いや煙が出てないですし…」

香椎「うむむ…」

紅田「ま、要は心臓を凍らせたらしいよ」

七原「そんなことが…?」

紅田「体表まで冷気を流せば対応されるとわかってたからな、芯に直接『魔力』を流し込んで反応、動きを止めたわけねー」

紅田「『魔術』で相手に勝とうと思うなら、命を奪う覚悟で望まねばならないのねー」

紅田「以上」


七原「…勉強になったなあ」

香椎「…覚悟で、ですか」


紅田「あ、因みに負けた娘。一度死んでるけど戸ノ内が直したから今も元気に生きてるよ」

紅田「一度死んでるけど…」


………


受付嬢『ふむ…』ぺら

吉祥「どうですかな」

受付嬢『ええ、大丈夫そうですね』

吉祥「ああ良かった、これで薬漬けの日々から脱却かー」

受付嬢『駄目ですよ、戸ノ内先生の許可が降りないことには』

吉祥「あらら」

受付嬢『飲んでもらいますね』

吉祥「ううう…今日戸ノ内先生どうした?保健室に居ないなんて滅多に無いことですぜ」

受付嬢『たまにありますよ、何せ彼女の本業は研究者ですから』

吉祥「ほー…知らなんだな」

受付嬢『最近はあまりされてなかったようですが…今は遠い異国の地にいるようですね』

吉祥「いつ帰ってくる?」

受付嬢『来週頭頃でしょうか』

吉祥「それまで薬飲まないといけないのかー…ダルい…」

受付嬢『良いじゃないですか生きてるのですから』

吉祥「それもそうか…あー不味い」

受付嬢『良薬口に苦し、ですよ』

吉祥「へいへい…ところで受付嬢さん」

受付嬢『はい』

吉祥「本名は何て言うんだい?」

受付嬢『教えられるモノならばお教え差し上げますが生憎、名を持っておりませんので』

吉祥「そうか…知らなかったよ」

受付嬢『太古より私めは受付嬢ですので』

吉祥「へっ…そうですかい」


……………


男「おはよ」

岸華「ええ、おはよう。時間丁度ね」

男「目覚めが良くてね…朝御飯は?」

岸華「食べてきたわ…さ、出ましょう」

男「ああ…車、出そうか?」

岸華「電車で行くわ、時間。間に合わなくなるから急いで」

男「はいはい…」


男「…」

男(正に春の精霊、か?丈の長いスカートに白いブラウス。普段より露出こそ減れど岸華さんの清楚な感じがふわっと…ふわふわ…)

岸華「何よ、そんなにがっつくと気持ち悪いんだけど」

男「え?あ、ああごめんごめん…凄く似合ってる」

岸華「ありがと、当然よ」

男「ははは」

岸華「しかし…センス無いわね」

男「うっ…」

岸華「黒のジーンズに黒の長ティーシャツとかスーツの方がマシよ、マシ!」

男「うう…あ、電車来たよ電車」

岸華「見えてるわ、うるさい」

男「はい…」


岸華(チャンスは…一度きり…か)


カミングスーン


先生!なんで岸華さんとデートなんてしてるんですかっ!天地が許しても私が許しませんよ!あの日以来二人きりになれなくて寂しいです…くすん。でも、諦めてなんかいませんよ?待っててください!次回、「ホンシン」…私は先生の返事、待ってますよ?(七原)

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