第十一話

入学して早二ヶ月が過ぎ去ろうとしてます、季節はもう夏に近づいてるのか汗ばむ日が増えて、日差しもこんなに眩しいのに


香椎「はあ…」


私の心はどうしてこんなに曇ってるのでしょうか


受付嬢『どうされたのですか、香椎様』

香椎「受付嬢様…聞いてくださいますか」

受付嬢『はい、楽しいお話でしたら』

香椎「それは…難しいですね」

受付嬢『あら、では何かお悩みで』

香椎「ええ、色々と…」

受付嬢『次のパーティーの事で?』

香椎「い、いえ…パーティーは最近ようやく慣れてきたので…風香ちゃんもいますし…」

受付嬢『ふむ…学校の人間関係についてだとかでしょうか』

香椎「そ、そういうことでも無いのですが…近しいかもしれませんね」

受付嬢『ふふ』

香椎「むうー何で笑うんですかー」

受付嬢『いえこれは失礼を…ただ、青春だと』

香椎「これが…青春?」


第十一話 フジュン


岸華「ふぁあ…外は暖かいわね」

男「そうだね…ここは薄暗いけど」

岸華「さーて、無事に私が優勝した事だし一つお願いでも聞いてもらおうかしら」

男「そんな約束してたっけ」

岸華「約束が有ろうが無かろうがご褒美はあるべきでしょ、何をしてもらおうかしら」

男「ええ~…ま、私は既に何を言われても断れる立場じゃないから良いけど」

岸華「その通りだけどそれはそれ、これはこれよ」

男「そういうものなのかな…」

岸華「そうよ…うーん、パッとは思い付かないわね」

男「昼休み、もうすぐ終わるよ」

岸華「あ、もうそんな時間?困ったな…そうだ、今度の土曜暇よね?」

男「え?ああ一応…」

岸華「その日、一緒に私のご褒美を考えてもらおうかしら、うん」

男「考えるって…」

岸華「朝、家に行くから準備してなさいよ」

男「わかりました…」

岸華「よろしい」


………


吉祥「手が疲れた…」

男「…うん、大丈夫。テストさえ真面目にしてればこんなことしなくて良いんだから頑張ろう」

吉祥「いやーそれが中々難しいんですわ…」

男「はは、僕も高校生の頃はそんなに真面目じゃなかったからわかるよ」

吉祥「だろ?怪我人にはもっと優しくしてほしいもんだね」

男「怪我人ならもっと怪我人らしく振る舞った方が良いんじゃないか?今朝も遅刻ギリギリに全力ダッシュしてただろ」

吉祥「うっ…怪我してても自分らしさは無くさない、これ大事。ということで…」

男「課題は貯めないように」

吉祥「あい…」


吉祥「…暇だねい」

男「そうだね…」

吉祥「なんか…なんかしたいな…」

男「例えば?」

吉祥「うーん…思い付かない」

男「帰っても良いんじゃない?」

吉祥「それはそうなんだけどさあすること無いんだよ」

男「課題は?」

吉祥「それは別にして」

男「別にしちゃ駄目だろ…」

吉祥「大抵大会終わったら集合率が悪くなるんだよな皆」

男「個別に何かしてるって聞いたよ」

吉祥「ああ、七原はさっさと帰って弟の世話をせにゃならんし香椎は色々したいことが出来たとか…羨ましいなあ」

男「うん?」

吉祥「やりたいことがあるってのは素敵なこととは思わんかね」

男「違いないね」

吉祥「私もいつもやりたい放題やってるけどさあ、なんか違うんだよね」

男「そのやりたい放題、もう少し抑えてくれると有難いんだけれども」

吉祥「なんか…足りないんだよな…」

男「青春か」

吉祥「…青春だな」

男「…もう少し駄弁る?」

吉祥「ん…そうだ」

男「どうしたの?」

吉祥「ちょっと待ってて」

男「んー」


言うが早いかコンテナ部室の入り口とは逆のドアに手を当てぼそぼそ呟いたかと思えばそのまま押し開く吉祥。当然外が見えるかと思いきや…


吉祥「さーて」

男「な、なんでそこを開くとキッチンになってるんだよ…」

吉祥「気にしない気にしない、腹ぁすいてるか?」

男「適度に…ってまさか」

吉祥「そのまさか、私が飯を軽く作ったげよう」

男「お、おお~」

吉祥「まあ簡単のなら作れるからさ、見てな」

男「期待」

吉祥「手軽なのだからそんな期待すんなよー」


男「良い匂い…」

名桐「邪魔するわよ」

男「どうぞ」

名桐「はいはい…この匂いは誰かキッチン使ってるのね」

男「吉祥さんだよ」

名桐「ふーん、あいつの料理とかどうせ食えたもんじゃないわよ。どっか行かない?」

男「まあまあ、折角作って貰ってるんだしさ」

名桐「はあ…私は食べないわよっ」


吉祥「ほい…んお?名桐か」

名桐「大会、惜しかったわね」

吉祥「ま、準優勝なら上出来さね。普通にやれば岸華は勿論後輩二人もかなり強かったからねい」

名桐「そう」

男「そしてこれが…オムライス」

吉祥「ざっつらーい、でぃすいずオムライス」

名桐「えらくシンプルね」

吉祥「デミグラスソースとか作るのダルいねん」

男「ケチャップは?」

吉祥「待ちな…そいそいっとのほいっ」

男「は、ハートマーク、しかも上手い…」

吉祥「家で一人で食べるのに練習したんやよ」

名桐「…虚しいわよ」

吉祥「それは自分でも思う」

男「いただきます」

吉祥「どーぞ」

男「…!お、おお!美味しい!」

名桐「嘘よ!少し寄越しなさい!」

男「凄いよ!食べてみてよ!」

名桐「もぐ……!な、なんで美味しいのよ!」

吉祥「これが才能ってやつかな、ふう」

男「うーん凄い…これは店で出てきてもおかしくないよ」

名桐「あんた、楽器以外にもこんな取り柄があったのね…」

吉祥「振る舞う機会が無いからね、はは」

男「美味しい…美味しい…」



岸華「あっゲームセンター行かない?」

七原「ゲーセンですか?良いですけど何します?」

岸華「なんでも良いの、行ってみたかったのよね」

七原「じゃあ私がいつも吉祥先輩としてるやつを…」

岸華「そうそう、吉祥さんも結構来てるって言ってたから気になっちゃって」

七原「吉祥先輩かなりやり込んでるみたいで…敵わないんですよ」

岸華「それじゃあ打倒吉祥さんね、ふふふ」

七原「そ、そうですね」


七原(なんでこんなことに…)


…十数分前


七原(しまった、特売品目当てで来たのに一人一品だったなんて…仕方ない、一つだけ買って帰ろう)


「でさー」「え、まじ?」「こないだもよー」

岸華「へえー、そうなんだ!すごい!」


七原「あれは…岸華先輩?珍しいなあ、友達といるなんて…」


岸華「はは…あっ」

七原「あっ」

岸華「海ちゃん!ごめん、後輩がいたからまた明日学校でね!」

「はーい」「じゃ、またねー」「ばいばーい」


七原「良かったんですか」

岸華「ええ、七原さんと一緒の方が良いもの」

七原「あ、ソッすか…ハイ」

岸華「嫌?」

七原「いえそういうわけでは…」

岸華「ところで七原さんは買い物?」

七原「は、はい。そのつもりだったんですけど…特売品がお一人様一品限りで」

岸華「特売品?じゃあ私も一緒に行こうかな…うん」

七原「良いんですか?」

岸華「困ってる後輩がいたら助けてあげるのは先輩の務め、だからね」

七原「ありがとうございますっ」

岸華「じゃ、行こうか」


七原「すみません、荷物までもってもらって…」

岸華「良いの良いの、弟さんと二人なんだっけ?大変でしょ」

七原「いえ…先輩、このあと用事とかなければどこか寄りませんか?そんなに荷物も多くないですし…」

岸華「ええ、良いわよ」


そして今に至る


岸華「うーん難しいわね、やっぱり」

七原「操作なれてないのに動体視力とかで避けられるだけ凄いですよ…」

岸華「そんな…あ」

旧鬼「ん?おお岸華と…ええと七原だったか」

七原「旧鬼先生、お疲れ様です」

旧鬼「どうした?寄り道か」

岸華「はい、少しばかり買い物を」

旧鬼「そうか、気をつけて帰れよ。最近はなにかと物騒でな」

岸華「先生は見回りですか?」

旧鬼「ああ、こないだの不審者情報で少しな…」

七原「商店街の辺りでも人通りが少ない所とかありますからね…」

旧鬼「他校の生徒も目撃されてるらしい、余計な悶着は起こさんように」

岸華「勿論です」

七原「気を付けます」

旧鬼「じゃ、また今度うちの店に寄ってくれよ」


七原「…不審者ですか、少し怖いですね」

岸華「そうね、なるべく明るい時間に人通りの多いところを通った方が安全よ」

七原「ですね」

岸華「さて、明日も学校だし帰りましょうか」

七原「はい」


岸華「…」

七原「…」


新緑の季節は若干過ぎたが夕暮れ時は肌寒く、半袖の剥き出しの二の腕には春風が当たる


岸華「…ねえ」

七原「…はい」


薄靄の様に呆けた夕日は時折目を射し木の影を濃く映し、不安定を呼び起こす


岸華「七原さんは、先生の事どう思ってるの?」

七原「え…どうとは…」


岸華「好きか、そうでないかよ」


身の毛が弥立つ。只の、問いかけ、それもごく普通の声色であったが、それでもなお


岸華「ねえ、どうしたの?」

七原「あ…いえ、急にそんなことを聞かれたのでビックリしちゃいまして…」


今不用意に動けば間違いなく良くないことが起こる。危機察知に長けた七原の本能が早鐘を鳴らす、間違いなく警鐘だ


岸華「そっか、で?どう思ってるの?」

七原「良い先生だと思ってます、生徒一人一人のことを」

岸華「そうじゃなくって」


次の一言がなんなのか、わかってしまう


岸華「異性として、よ」

七原「は、はは…」


笑う事が正解でないことは重々承知の上で笑うほか無かった


七原「変なことを聞きますね」

岸華「?」


七原「好きです」

岸華「…そう」


何を聞かれるのか、わかった以上これ以上ない答えを返す。もはや退路は捨て置く他無かった


七原「はい、好きなのです」

岸華「…そうなのね」


普段クラスメイトと交わす会話なら相手はどこがと聞くだろう。こちらもお前はどうなのだと返すだろう。しかしそんなことは重要でも無かったし言える雰囲気でも無かった


岸華「…あら、もうこんな所ね」

七原「あ、そうですね…ありがとうございました」

岸華「じゃあまた、明日学校で」

七原「はい」


七原「…」


何が真意なのかは正直量りかねた。牽制か?興味本位か?はたまた応援か?しかしあの雰囲気、あの明らかに常軌を逸脱した問いかけにそれ以上踏み込んではいけないと感じ…


七原「…え、怖」


……………


吉祥「ほんで夏休みに実家に呼ばれたんス」

紅田「へーえっ、そらなんというタイミングだねえ」

吉祥「いやー驚きましたよ」

紅田「鶴の一声か、堪らないね」

吉祥「関わることないと思ってたンすけどね」

受付嬢『合縁奇縁ですね』

紅田「あ、それかっこいい」

吉祥「で、国外訪問許可書を出して欲しいんですが」

紅田「あ、うんおっけおっけ、言っとくわ」

吉祥「どうも…しかしなんすかね、てっきり絶縁くらってるかと思ってたんすけど」

紅田「あれじゃない、人員不足…」

受付嬢『優秀ですから、吉祥さん』

吉祥「あ、やっぱり?」

受付嬢『………』

紅田「なんか言ったげなよ」



男「あれ、どこやったかな…」

七原「どうしました?」

男「こないだ部室で仕事をしたときに書類を忘れていっちゃったみたいでさ~そんなに急ぐ事じゃないんだけど…どこかで見なかった?」

七原「あ、それならこっちの棚にある雑多ファイルに挟んだ気がしますね」

男「ああ良かった…」

七原「はい…」


岸華『異性として、よ』


七原「…」

男「どうした、七原」

七原「あ、いえその~…大会お疲れ様でしたと」

男「いやいや君達の方が大変だったでしょ、お疲れ様」

七原「それで、ちょーっと頑張ったご褒美がほしいなーっと思いまして」

男「ご褒美」ピク

七原「…はい、駄目でしょうか」

男「いや、良いよ、岸華さんにも言われててね…どうも流行ってるのかな」

七原「…岸華先輩が」

男「うん、今度一緒に出掛けましょうだってさ。…いや出先でまたご褒美を探すって言ってたか…?ん?」


岸華『好きか、そうでないかよ』


七原「へーそうなんですねっ、私はもう決めてますよ」

男「ん?何?」

七原「私のこと好きって言ってください」

男「え」

七原「え、じゃないですよ。二度目は言いませんから…その」

男「…あ、わかった。録音だ、例の以前の録音で」


七原「んむっ…」


七原「ぷぁっ…私は、好きです。先生のこと…二度は言いません」

男「な、七原」

七原「ご褒美ですから、そんな深く考えて下さらなくても良いですから…」

男「そうか」

七原「アッ」

男「…七原、好きだ」

七原「…抱きしめてとまでは言ってませんよ」

男「あ、ご、ごめん」

七原「良いんです、このまま…少し、抱きしめてて下さい」

男「うん…」


七原「…私、頑張ったんですよ」

男「…うん」

七原「先生全然気付かないから」

男「…ごめん」

七原「謝らないで下さい…くす」

男「ふふ」

七原「もう、なんで笑うんですか先生」

男「可愛いなって」

七原「かわっ…私、かわいいですか?」

男「とても」

七原「…先生こそ意外と男らしいじゃないですか」

男「どうかな、結構頑張ってるよ」

七原「くす、そうですね」

男「笑わないでよ」

七原「ごめんなさい、だって、こんなに私…嬉しいこと無いですもん…」

男「七原…」

七原「…先生」


吉祥「で、神聖な部室でヤる直前だったと…」

男「いやいやいや」

七原(少し否定出来ない…)

吉祥「どちらにせよ私じゃなかったら大目玉ですぜ」

男「…はい、気をつけます」

七原「はーい」

七原(続きは先生の家で…ね?)

男(しないよ)


………


??「ああっ」

戸ノ内「どうしたー?」

??「お昼ご飯、こっちを食べようと思ってたんだったあ」

戸ノ内「なんだ食堂のメニューか…今度食えば良かろう」

??「日替わりなんだよう…」

戸ノ内「今度作ってやるから黙ってろ」

??「また机の消し炭の天ぷらは嫌だよ」

戸ノ内「あれは実験中片手間だったのが悪かった、本気出せばどうということはない」

??「期待星二つー…」

戸ノ内「うるさいな…そっちはどうなんだよっ」

??「うどんは作れるよ!」

戸ノ内「うどんはな、うどんは上手いよお前。そうじゃなくて仕事の方」

??「……」

戸ノ内「さ、続けろ」

??「はい……」



名桐「…お父様」

「風香、学校はどうだ」

名桐「はい、頗る順調です」

「低俗な奴等と付き合っては無いだろうな」

名桐「はい」

「……本題だが今度誘致の関係でお前の学校に転入生を入れることになってな」

名桐「はい」

「あの副校長曰く問題はないそうだ、お前に世話を任せる」

名桐「…はい、承ります」

「…ああ」


………


名桐「という訳なのね」

黒鹿毛「ええ、問い合わせが有りましたから…基本学力のみ確かめさせて頂きますが」

名桐「案外緩いのね…」

黒鹿毛「はい、越境だろうが犯罪者だろうが死人だろうが…来るもの拒まず、それがここのルールですから」

名桐「ふう…ま、あの父が言うことなら既に決定事項なのだろうから覚悟を決めるだけね」

黒鹿毛「受け入れ時期としては基本夏期休暇の間ですね、場合によっては前倒しも有りますが」

名桐「…頭が痛いわね」

黒鹿毛「そうですね…拒まずとはいえこちらにも準備が必要ですからそこは調整しますが」

名桐「そうよね…また何か動きがあったら教えてもらってもいいかしら?アイツ事後報告しかしないのよね…」

黒鹿毛「そうですね、名桐さんも何かあったら教えてくださいね」

名桐「わかってるわよ…じゃ」


名桐「…面倒ね」


………


七原「あっ…お疲れ様です」

岸華「お疲れ様、七原さん」

香椎「お疲れ様です」

七原「ふう…大会が終わって一段落しましたね」

岸華「そうですね、結果は兎も角収穫の多いものでしたね」

香椎「は、はい!な、中々勉強になったと言いますか…良かったです!」

七原「今日は何をしましょうか」

香椎「うーん…課題はもう終わったし」

七原「えっ…早っ」

岸華「そうですね…っと」


名桐「何よ」ガチャッ

岸華「いえ、なんでも」

名桐「ふぁあ…少し寝るわよ」

香椎「あ、風香ちゃん」

名桐「何?」

香椎「こ、今度うちでご飯食べようよ!私が作るから」

名桐「良いわね、私も腕前を披露しようかしら」

香椎「わあっ、じゃあ日時が決まったられ、連絡するねっ」

名桐「ええ、お願いするわ」


七原「…そういえば気になってたんだけどこないだ図書室で名桐先輩と赤田先生キスしたって言ってましたよね」


岸華「…ええそういえば色々あってすっかり忘れてましたけどそうでしたね」

香椎「そんなことありましたっけ」

七原(記憶が飛んでる…)

名桐「ええ、そうよ」

香椎「えっ」

岸華「ふーん…そうなんだあ」

岸華(ま、私もしたんだけど)

七原「ほ、本当だったんですね…」

七原(ショックだけど自分もしたとは…言えない)

名桐「したと言っても別れの挨拶よ、そんな深い意味のものじゃないわ」

岸華「あら、そうなの?それなら私も大会終わった時にしてもらったわよ。頑張ったねって」

岸華(私からしたけど)

香椎「えっえっ」

七原「えっ…嘘ですよね」

名桐「ふん、どーせ自分からしたんでしょあんたの事だから」

岸華「…どうかしら、したのは事実よ」

七原「…」

七原(ぐっ………言わないでおこう)


吉祥「おすー」

名桐「さっ寝ようかしら」

岸華「さーて、生徒会に行かないと」

七原「お疲れ様です、吉祥先輩」

香椎「お疲れ様です…」


吉祥「あー…兎も角お疲れ様」


……………


「紅田校長」

紅田「よ」

「お久しぶりです、先日の大会で娘の姿を見させて頂きました」

紅田「お、そう?どうだった」

「まだまだと言ったところ、レベルが低いです」

紅田「手厳しいねえ~あれでも彼女らは頑張ってるんだからさあ」

「香椎家のご息女に同じ二年…あの類いと比べると劣るのがうちの娘です」

紅田「優勝したじゃないか」

「決勝なんて相手が同じ土俵で戦ってくれたに過ぎないです」

紅田「まあねい、善くも悪くも実直で融通が利かない、まるで在りし日の君みたいだよ」

「あの頃は私も若かったです」

紅田「娘さんはその時の貴女と同じ高校生なんですぜ」

「まあ…それはそうなのですが」

紅田「と言っても確かに貴女やお姉さん…光ちゃんと比べると十数段劣りますな、それが才能というものですが」

「光はあれはあれで育て方を間違いました」

紅田「面白いけどね…うん」

「面白い…ええと一旦本題ですが」

紅田「ああ言ってたね、忘れてたわ…なんだっけ?」

「まず書類ですが…こちらです、ざっと目を通していただければ」

紅田「んー…ああ軍事演習ね」

「例年通り北機正規軍とですが配備の関係で一部遅れが出てまして」

紅田「成る程…」

「こちらとしては無くても構わないのですが何分演習ですので」

紅田「わかった、開発部に問い合わせてリストを送って貰おう。後は戸ノ内と…受付嬢にこっちは話を通しておくよ」

「ありがとうございます」

紅田「いんやどーせ私は動かんからね…演習迄には間に合うよう言っとくからまた動きがあったら連絡するわ」

「はい、お願い致します」

紅田「…ところでさあ」

「はい」

紅田「たまにはOB訪問とかしてよー、こーしてあっても仕事の話ばかりでさあ…」

「す、すみません。かなり忙しくてですね…いや一度娘も叩き直したいと思ってはいるのですが中々日程が…」

紅田「そっか、そりゃ仕方ないな…軍部のトップだからねえ光聖ちゃん」

岸華光聖「名前呼びはやめてください」

紅田「…あい」



香椎「はあー」


「どうしたの?」「昨日から調子…」「大丈夫?」「保健室行く?」


香椎「うーん…」


香椎(ショック…だなあ、先生とキス…かあ)

香椎(私もしたい…じゃなくて。もし本当に先生からあの二人したとしたら…どっちかの事が好きなんだろうな…)

香椎「う…」

香椎(何故か…泣きそう…)

香椎「ちょ、ちょっと保健室に行ってくる…」


吉祥「ん?」

香椎「あっ…き、吉祥先輩」

吉祥「どうした香椎、体調不良か」

香椎「え、ええとその…ちょっと…先輩こそどうして保健室に?」

吉祥「サボり」

香椎「…駄目ですよ」

吉祥「いーの、許可は取ってるし。ね、戸ノ内先生」

戸ノ内「…まーそうなんだけどサー」

香椎「はあ…」

戸ノ内「で、どーしたのかな、香椎さんハー」

香椎「あ…少し、休みたくて…」

吉祥「サボりと対して変わんないじゃん?」

香椎「うっ…」

戸ノ内「薬ヨー」

吉祥「どーもどーも」

香椎「吉祥先輩、く、薬なんて飲んでたんですか?お身体が悪、よろしく無いんですか?」

吉祥「うにゃあ、そんにゃことにゃいにゃあ」

香椎「…」

吉祥「…本当だよ、これは単に喉の薬さね。なあ戸ノ内先生」

戸ノ内「ホントダヨー」

香椎「…なら良かったです」

吉祥「そもそも病気だとかなら『魔術』で一発で治せるっての」

戸ノ内「…」

香椎「そ、そうですよね、うん」

戸ノ内「香椎さん、ベッド使いまスー?」

香椎「…よく考えたら大丈夫そうです、ありがとうございました!失礼します!」


戸ノ内「ん?んん?…ま、いっか」

吉祥「行った?」

戸ノ内「飲めヨー」

吉祥「私の前でその喋り方します?」

戸ノ内「あっ…癖かナー」

吉祥「ふはは、似合ってますよ」

戸ノ内「生意気な口だネー」

吉祥「うおっマズっ…マジ岸華の所為だぜー頭潰しやがって。もっとパッと治せないもんですかね」

戸ノ内「この薬はネー脳の適切な復元のプロセスを踏んでくれるのヨー…脳幹と主要な部分はあの時パッと戻したけど細かいのは専門家でもなければ無理ヨー」

吉祥「専門家、いないんですか」

戸ノ内「うーんいないことは無いんだけど薬で治るならそれが一番ヨー」

吉祥「先生が言うならそうなんだろうねえ、大分身体も言うことを聞くようになってきたし記憶も戻ってるし」

戸ノ内「なら良し、今後も服用を続けるようにネー」

吉祥「はいはい…」


戸ノ内「しかしなんで授業中に来るかネー」

吉祥「んー先生と確実に会えるのと」


吉祥「サボれるからかな」

戸ノ内「…やっぱりネー」


カミングスーン


大会も終え一段落…かと思いきや部内では恋愛戦争勃発!先生を巡って女の血塗ろの争いがここそこで…はやー、何てことだ。乗り遅れた香椎!好きと伝えた七原!さりげにキスをした岸華&名桐!これは…面白くなってきたぜ!次回、「トウソウ」青春の!果実の行方は!人知れず!(吉祥)

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