第八話
「お姉ちゃん、ご飯…」
「ん…おはよう、純一…今何時?」
「もう十時だよ」
十時?
七原「…わあああ!!!!」
「わっ」
七原「せ、先生がもう来ちゃう!」
「お腹すいた…」
七原「あ、う、うん、今準備するから待っててね、ちょっと…」
ぴんぽーん
「誰?」
七原「ああああ」
第八話 ハクネツ
七原「す、すみません先生、ちょっと昨晩ドタバタしてたもので…」
男「いや大丈夫だよ、特にこれといって何をするとか決めてなかったし」
七原「それより…本当に良いんですか?弟も一緒にご自宅にお邪魔して…」
男「前も言ったけど気にしないで何時でも来てくれていいよ、朝ごはん残ってるし七原と出掛けるなら昼残す必要ないからね」
七原「…ありがとうございます、先生」
「お腹すいたー」
七原「こ、こらっ」
男「お、そうかーならいっぱい食べていいからね、沢山作るから」
「やったー」
七原「せ、先生…ごめんなさい」
男「気にしなくていいって。さ、着いたよ」
七原「お、お邪魔します…」
…
男「とりあえず漬け物とご飯はあるからそれ食べて待ってて」
七原「は、はい…」
「いただきまーす!」
男「卵が期限近いし…後は味噌汁とかで良いかな」
七原「あ、ありがとうございます…」
男「さて、頑張ろうかな」
…
七原「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした!」
男「美味しかったかい?」
「うん!」
男「それは良かった、今日ご両親は?」
七原「出張で帰って来てないんです」
男「そうなんだ…」
「でもお姉ちゃんがいるから寂しくないよ」
男「家ではいいお姉さんしてるんだな」
七原「家ではってなんですか家ではって」
男「これは失言」
…
「じゃあね!」
男「うん、いつでもおいで~」
七原「行きましょう、先生」
男「弟君一緒でも良かったけど?」
七原「デートだから、だめです」
男「まだそれ言うんだ…」
七原「先生は嫌なんですか?」
男「嫌って訳じゃないんだけど色々と問題が…ほら…一応教師と生徒だし…」
七原「バレなければ大丈夫ですよ、行きましょう」
男「まあそういってしまうとそうなんだけどね…」
…
七原「しかしどこに行きましょうか」
男「あれ、考えてなかったの?」
七原「こういうのは男性がリードしてくれるものと聞きましたが」
男「まあ確かに大体がそうだろうけど…」
七原「冗談です、今日はスポーツ公園に行きませんか?」
男「いいね、そもそもその為に運動できる格好に着替えた訳だし」
七原「では行きましょうか」
男「そうだね」
…
七原「じゃあ更衣室の前で待っててください。…覗いたら犯罪ですから」
男「わかってるよ、流石に」
男(言われたら意識しちゃうんだよなあ…)
男(筋肉に覆われつつもスラッとし、かつ良く見るとどことなく少女特有の丸みのある身体…そしてそれらが良く映えるショートカット)
男(あれは男が放っておかないだろうなあ)
七原「何考えてるんですか…」
男「わっ、え?いや今日は何をしようかな~と…」
七原「そのわりには鼻の下が伸びていたようですけど」
男「…面目ない」
七原「くすっ、それは色々認めたも同然ですよ」
男「いや…ごめん」
七原「くすくす」
男「笑わないでよ…」
七原「じゃあ本当に着替えて来ますから」
男「はいはい」
…
七原「さて、と」
男「ここのプールたまに来るけど結構いいよね」
七原「そうですね、温水ですし…私もたまに来ますよ」
男「冬でも泳げるってのが、ありがたいんだよな」
七原「そのうち一緒に泳ぎましょうね」
男「善処するよ」
七原「楽しみにしてますから」
男「何するかな」
七原「そうですね、二人ならテニスとかありますけど」
男「おっテニスか、大学で少し囓った程度だけど相手になるかな?」
七原「大丈夫ですよ、私もしたことありませんから」
男「じゃあそれでいこうか、向こうで飲み物買ってくるからその間にラケットとか借りてて貰っていいかな?」
七原「わかりました、先にコートにいってますね。」
男「よろしく」
男(…とりあえずスポーツドリンクでいいか、これは確か前に飲んでたから大丈夫だろ)
男「しかし眠いな…仕事疲れはいつもの事だけど最近あまり寝てないからなあ…」
男「ふぁあ…ん?」
「一緒に遊ぼうって言ってるだけじゃねえか」
「嫌って言ってるのが聞こえないのかしら」
男「…すまんがその娘は私のツレなんでね」
「ちっなんだよ…」
男「…大丈夫?」
「…礼は言わないわよ」
男「知ってるよ、名桐さん」
名桐「なんでたまの休日にまでアンタに会わないといけないのよ」
男「偶然の出会いにそう言わないでよ、冷たいな…」
名桐「…ま、まあアンタさえ良ければ一緒に何かしても良いわよ、どうせ暇だし」
男「ごめん今日は無理かな」
名桐「…あらそう、私の誘いを断るってのがどういう結果を招くのか知らないみたいね」
男「あーいや実は一人で来てるわけじゃないんだよね…」
名桐「あらそうなの、私の知らない人?」
男「いや、知ってる人」
名桐「なら一緒にしても良いじゃないの」
男「うーんどうかな…僕は良いんだけど…」
名桐「なら会わせなさいよ、まさか岸華じゃないわよね?」
男「まあね…良いよ、どうせ僕に拒否権は無いだろうし」
名桐「良くわかってるじゃない」
…
七原「…」
名桐「…」
七原「…どうも」
名桐「…」
七原「…」
名桐「…」
七原「あの…」
名桐「…あっ」
七原「はい」
名桐「…あー」
七原「…」
男「…」
名桐「…」
七原「…え」
名桐「あ、あ」
七原「あ…?」
名桐「名桐」
七原「名桐」
名桐「風香」
七原「風香」
名桐「名桐風香です」
七原「あっ…知ってます…」
名桐「七原…さん」
七原「あっ七原海です…」
名桐「七原海さん」
男「…」
七原「…」
名桐「…」
七原「え…?」
名桐「…え?」
七原「どうも…?」
名桐「どうも…」
七原「…」
名桐「…」
七原「」
名桐「」
七原「」
男「え?」
七原「え?」
名桐「え?」
男「え…」
名桐「え、ええと、偶々先生と会って…」
七原「あ、そうなんですか…」
名桐「じゃ、じゃあ私はこれで…」
七原「え、あ、はい」
名桐「じゃ…」
七原「じゃあ…」
男「ええ…」
………
七原「テニスって結構難しいですね」ポーン
男「タイミングといい力の入れ方といい結構難しいよね」ペイン
七原「そうですね…えい」パシッ
男「おっそれっ」パイン
七原「わっほい」パアン
男「重っ」ベン
七原「てい…あ」バンッ
男「またパンク?」
七原「ガットも切れました…私道具を使ったスポーツって余り向いてないですね」
男「力加減だよ力加減」
七原「下方修正って結構大変ですよ」
男「それこそ慣れだよ…そろそろボール代がとられそうだし止めとこうか」
七原「そうですね、さっきボール取りに行ったときまた?って顔されちゃいましたから」
男「今何時かな…そろそろお昼時か」
七原「もうですか?」
男「ん、まあいい感じに暖まってきたしこんなものかな」
七原「朝ごはん遅かったから少し遠い所で食事してもいいですね」
男「そうでさあねえ…」
七原「あっ、海沿いの公園とかどうです?」
男「おーいいねー、なら一旦着替えに帰ろうか」
七原「そうですね、じゃあ片付けてきます」
男「ん、よろしく」
名桐「…」ジー
男「…」
名桐「…なによ」
男「え?いや…名桐さんでもあんな反応することあるんだなって」
名桐「うるさいわね、この事誰かに言ってみなさいよ、タダじゃ済まさないわよ」
男「わかってるよ、僕がそんな人に見える?」
名桐「残念ながらアンタの評価なんてそんなもんよ」
男「手厳しいね…」
男「というか何しに来たの?ここ家から遠くない?」
名桐「…別にアンタには関係ないでしょ」
名桐(…確かになんで来ちゃったのかしら)
名桐(まさか…ね)
………
七原「お待たせしました」
男「お、可愛いじゃん(全然待ってないよ)」
七原「え…」
男「うわ!ごめん!今のはキモかった!」
七原「あ…いえ…その…気にしてません、寧ろ少し嬉しいです」
男「嬉しい…?」
七原「私、あまり私服とか着なれてないので…これも創ちゃんに選んでもらったのですし…」
男「凄く似合ってるよ。ピタッとしたパンツルックで七原のシュッとしたスタイルを引き立て上はシンプルにパーカーを着こなしつつもどこかガーリーなデザインは妙齢の女学生感のアピールに最適。まさにザ高校生と言っても過言ではないよ」
七原「…やっぱり少し気持ち悪いですね」
男「必死感」
…
七原「バスで移動ってなんだか久しぶりな気がします」
男「ああそうだね、僕なんか車を持ってからは殆ど乗った覚えが無いね」
七原「何気に二南高って駅も近いですし立地は良いですよね」
男「そうだよなあ、僕が学生の時も遠方からも来やすいと評判だったんだよ」
七原「先生は高校の頃から今の家に住まわれてるんでしたっけ」
男「そうだよ。田舎から出てきてね」
七原「ご実家ってどこなんですか?」
男「北の方。停電ヶ原のこっち側の端だよ」
七原「あの辺り何かありましたっけ…」
男「戦争跡地位かな、最寄りの駅まで車で小一時間はかかるんだよね…」
七原「大変な所ですね…」
男「帰郷するにも一苦労だからね、高校卒業したとき帰って以来戻ってないなあ…」
七原「…時々帰った方が良いと思いますよ」
男「だね、親孝行しないとなあ…」
七原「一緒にご挨拶に行ってもいいですよ」
男「それは遠慮させてもらうよ…」
…
七原「港公園駅前ですよ、先生」
男「ん、降ります降ります」
七原「さて…」
七原「海辺は寒いですね」
男「だね」
七原「そのあたりをぶらぶらしますしょう、先生」
男「ん、一回りしてどこでお昼食べるか考えようか」
七原「ですね、ゆっくり見て決めましょう、そうしましょう」
七原「あ、そこの雑貨屋見てもいいですか?」
男「うん」
七原「わ、これ良いな…」
男「どれ?」
七原「これです、このキーホルダー」
男「鉄製の魚…」
七原「鉄は堅実、魚は生命力を意味する…と書いてますね」
男「一つ一つに意味があるんだね」
七原「まあ意味は自分が見つけるモノですから…」
男「カッコいいこと言うなあ」
七原「高校生ですから」
男「成る程ね…」
七原「さて、とりあえず他のとこもうろうろしましょうか」
男「買わないの?」
七原「また一回りして考えます。ウィンドウショッピングですよ」
男「成る程」
…
七原「さっきのカフェも捨てがたいのですが少し冷えた体にはカレーも…」
男「いやここはあえてのうどんはどうだろうか」
七原「チェーン店は無しですよ、いやアリか…」
男「しかし迷うなあ…結構食事処多いね」
七原「そうですね、予想外でした」
男「余りお腹は減ってないけど…」
七原「そろそろ落ち着きたい感じですね」
男「そういうこと、だから小腹を満たすのでも良いんだけどそれだとまた時間がずれちゃうからね」
七原「きっちり食べたいところですね」
男「うーん…あ」
七原「どうしました?先生」
男「いやあの旗」
七原「わあ、良いですね!行きましょう」
七原「海鮮は盲点でした」
男「商店街でも余り見ないもんね、久々だよ」
七原「それに汁物も美味しいですし」
男「だね、暖まるなあ…刺身定食はどう?」
七原「やっぱり新鮮さを売りにしてるだけはありますね、普段食べてる刺身とは大違いです」
男「新鮮な魚は美味しいからね、海鮮丼のも美味しいよ」
七原「先生、あーん」
男「…ほい」
七原「むぐむぐ…やけに素直ですね、良い兆候ですが教師としてどうなんですかそれ」
男「悲しい処世術かな…それに悪い気はしないからね」
七原「むぐっ…そ、それはどういう」
男「ノーコメント」
七原「ごちそうさまでした」
男「ごちそうさま」
七原「さて、まだぶらぶらしても大丈夫ですね」
男「もちろん、海岸の方に行ってみようか」
…
七原「静かですね…」
男「静かだね…」
七原「…こうして海を見てると昔の事を思い出します」
男「昔の事?」
七原「はい、私が小学校低学年の頃産まれたばかりの弟と両親と一緒に来たことがあるんです」
男「…そっか」
七原「ここ何年かは親と一緒に出掛けることなんて無いので…少し懐かしいです」
男「ご両親は共働きだっけか」
七原「……はい、中中家に帰って来ないです」
男「…うん」
七原「夕日が綺麗ですね」
男「そうだね、水平線に沈む太陽なんて久々に見るよ」
七原「寒くないですか?」
男「そんなに。大分暖かくなってきたのかな」
七原「もう五月ですからね」
男「もう五月か…早いなあ、学校にはなれた?」
七原「ええまあ…普通に過ごせてます」
男「それはなによりだよ」
七原「先生はどうなんですか?教師になってみて」
男「そうだね…まだ慣れない事の方が多いかな、やっぱり働くのって大変だよ。遣り甲斐はあるけどね」
七原「遣り甲斐…ですか」
男「うん、したことがないことをするのって労力がいるけどその分目標を達成したときの喜びはそうそう味わえないよ」
七原「目標…」
男「まあまだそんな大層なことはしてないからまだまだだけどね」
七原「それもこれからですよね、これから」
男「そうだよ、僕達はこれからだよ
………
男「遅くなっちゃったね」
七原「…まだ帰りたくないです」
男「まあ弟君も待ってるでしょ」
七原「…そうですね、これ以上先生と一緒にいたら襲われちゃうかもしれませんし」
男「襲わないよ…多分」
七原「そこはちゃんと否定して下さいよ」
男「はは、じゃあ帰ろっか」
七原「はい」
…
男「じゃあね」
七原「はい、また学校で」
男「うん」
七原「…それじゃあ」
男「あ、ごめんちょっと待って」
七原「はい?」
男「これ…」
七原「あ…いいんですか」
男「うん、折角だから」
七原「ありがとうございます…大切にします」
男「うん、それじゃ、また…」
七原「…はい」
七原「…ふふっ」
ちゃらん
………
吉祥「なにそのキーホルダー」
七原「ふふっ」
吉祥「え、怖い」
七原「えへへ」
吉祥「本当なんなのさ…」
名桐「…はあ」
七原「いいでしょう、宝物です」
名桐「何も言ってないわよ!」
吉祥「何…?ねえ…ちょっと…教えてよ…」
吉祥「え?」
……………
吉祥「でだよ、そのキーホルダーをずーっと眺めてんのよ」
岸華「…そう」
吉祥「そうって…変じゃん?」
岸華「…彼女の気持ちもわかるわ」
吉祥「だからどういうことなのさ」
岸華「ま、気にしないことね」
吉祥「へいへい…おっと、忘れるところだった」
岸華「どうしたの?」
吉祥「今日弁当忘れてね、食堂に行かないと飯が無いのさあ」
岸華「それは災難ね、私のを分けてもいいけど?」
吉祥「あの弁当箱じゃ一口分にもならんぜ、ちゃんと食ってんのか」
岸華「食べてるわよ、三食。貴女も遅刻を減らせば朝御飯が食べられるんじゃない?」
吉祥「はいはい!この話やめ!」
吉祥「いや遅刻したくてしてる訳じゃないんデスヨ?」
岸華「それは意外ね…」
吉祥「ええ…」
…
名桐「…」
香椎「ど、どうしたの?風香ちゃん…」
名桐「なーんか納得いかないのよね」
香椎「何かあったの?」
名桐「うーんちょっとね…色々と」
香椎「?」
名桐「ふぅ、悩んでても仕方ないわね…創ならもし私が学校で会えないくらい忙しくなったらどうするかしら」
香椎「え、ええと…理由にもよりますけど」
名桐「一般的な理由でいいわ、そうね…彼氏が出来たとか…」
香椎「彼氏を殺す」
名桐「冗談にならないわよっ」
香椎「ジ、ジョークです、そ、そうですね…うーん新聞部に入部でもするかもしれませんね…確実に会える回数を増やしたいですし」
名桐「…なるほど、それは盲点ね」
香椎「な、何をするつもりなの…?」
名桐「別に大したことじゃないわよ、さーて」
…
男「え」
名桐「え、じゃないわよ」
男「えー、急に言われてもそういった辞令を出すのは僕じゃないし…」
名桐「知ってるわよ、だから嘆願書でも願でも出しなさいって言ってるのよ」
男「わざわざしないよ、ただでさえ今の受け持ちでも大変なのに」
名桐「あら、したことも無いのにご立派に諦めるのね」
男「いやそう言われても…」
名桐「…はあ、アンタって本当物わかりが悪いのね」
男「そ…どうかな」
名桐「普通覗き魔に拒否権があると思うかしら」
男「善処します…」
名桐「始めからそうすれば良いのよ」
男「でもどうかな、許可おりないと思うけど…」
名桐「だからする前から諦めてどうするの?」
男「わかった、わかったよ…」
黒鹿毛「…新聞部の副顧問、ですか」
男「ええ、まあ…」
黒鹿毛「…」ジー
男「あっいや駄目なら無理にとは言いませんので、はい」
黒鹿毛「…まあ構いませんよ、第二野球部の方に支障がでない程度なら」
男「え」
黒鹿毛「え、とは何ですか?御自身で願を出しておきながら」
男「あ、いえそんなあっさり許可がでると思ってなくって」
黒鹿毛「うちの校風は自由、破滅、末路ですから」
男「え?」
黒鹿毛「間違えました。自由、友愛、成長でした」
男「あっはい、ありがとうございます」
黒鹿毛「…何をしてるかは知りませんが法に触れないよう気を付けましょう」
男「そんなヤバい橋は渡りませんよ」
黒鹿毛「既に足を踏み入れてる様に見えますが」
男「気を付けます…」
………
男「…」
名桐「え、本当に副顧問になったの?」
男「はい…」
名桐「笑えるわね、ふふふふ」
男「笑い事じゃないよ、大体新聞部って何してるのさ」
名桐「やる気のある人が行事毎に生徒新聞を出してるわよ」
男「名桐さんは?」
名桐「取材担当」
男「他のメンバーは?」
名桐「さあ…?私でもまともに活動してる方よ、会ったこと無い部員の方が多いくらいよ」
男「顧問はたす…旧鬼先生か」
名桐「放任主義なのか口出しはしないわよ、たまに話すけど」
男「へー、何話すの?」
名桐「色々、よっ…と」
旧鬼「ここに居たか、名桐…ん、赤田」
男「どうも」
名桐「こいつ、副顧問になったのよ。知ってた?」
旧鬼「な…」
男「その様子だと知らされて無かったみたいですね」
旧鬼「…顧問の仕事は活動許可証の発行と新聞の印刷くらいなのだが」
男「だと思った」
名桐「ミーティングするわよ、ミーティング」
旧鬼「何を話すんだ」
名桐「何って…なんでもいいじゃない」
旧鬼「そうは問屋が卸さん、私も忙しい身でな」
名桐「…そう」
旧鬼「ほら、今週分の活動許可証だけ渡しておくからな」
名桐「ありがと」
旧鬼「赤田、後は任せたぞ」
男「え?あ、はい」
名桐「…ええと、とりあえず部室にでも行こうかしら」
男「いつも通りですね…」
………
香椎「あ…せ、先生、風香ちゃん、お疲れ様です…」
名桐「お疲れ」
男「お疲れ様。あれ、香椎さんだけ?他の人は?」
香椎「あ、い、いえ、もう部活はお、終わったので皆さん帰られました…はい」
男「そうなんだ、残って勉強?」
香椎「は、はい。迎えが来るまで少し、時間が空いたので…」
男「偉いなあ、僕なんて遊ぶことばかり考えてたよ」
名桐「雲泥の差ね」
男「はは、まさしくね」
香椎「放課後に遊ぶ…ですか、す、少し憧れますね」
名桐「そうね、私達迎えが来るものね」
男「楽しいよ、友達と何をするでもなく商店街をうろついたり買い食いしたなあ」
名桐「ふうん…」
香椎「…いいなあ」
男「お陰で成績は下降線だったけどね」
名桐「そんなことだろうと思ったわよ」
香椎「くす」
香椎「じゃあこれで失礼します、またね、風香ちゃん」
男「お疲れ様、また明日」
名桐「またね」
男「…いい娘だなあ」
名桐「本当にね、それに比べあんたは…」
男「え、何」
名桐「なんでもないわ」
男「ええー」
名桐「…しかし、二人っきりね」
男「…まあそうだね」
名桐「…暇ね」
男「そうだね、僕も特に仕事は無いし…帰ろうかな」
名桐「まだ私迎えが来ないんだけど」
男「…わかった、待つよ」
名桐「それで良いのよ」
男「寂しいの?」
名桐「べっ…バッカじゃないの!なんで私がアンタが居なくなるくらいで寂しがらなくちゃいけないわけ?バカにしてるの?」
男「わかってるよ、暇潰しの相手がいるんでしょ」
名桐「…そうよ!はあ…ムカつくわね」
男「で、何する?」
名桐「…」
男「…」
名桐「うーん…」
男「…ああ」
名桐「は…」
男「…」
名桐「…」
男「ん…」
名桐「あ」
男「うわ」
名桐「私の勝ちね」
男「また負けた…オセロそんなに弱くないと思ってたんだけどなあ」
名桐「アンタのスカスカの頭脳じゃ私に敵わないってことよ」
男「も、もう一回だ」
名桐「そうね、もっと圧勝させてもらうわ」
男「そう何度も偶然が続くと思わ…ん?」
名桐「何よ…あ」
「お嬢様、迎えに参りました」
名桐「そう、早かったわね」
「いえ、定刻通りですが」
名桐「…あら本当、じゃあ帰るわね」
男「はいはいじゃあ…」
名桐「送るわよ」
男「いや大丈夫すぐそこだし」
名桐「何か不都合でも?」
男「いや、やっぱり教師が生徒にお世話になっちゃいけないと思うんだよね」
名桐「あら、貧困を解消するのは富裕層の仕事よ」
男「…別に貧困じゃないけど」
名桐「五月蝿いわね、全く…帰るの!帰らないの!どっち?」
男「…ありがとうございます」
名桐「うだうだ言わないで始めからそうすれば良いのよ」
「どちらまで?」
名桐「どこ?」
男「あー…までお願いします」
「かしこまりました」
名桐「本当に近いわね」
男「だから住んでるんだよ、学校から遠いと何かと大変でね…」
名桐「ふうん…そういうものかしら」
男「それに一人暮らしだから特に気にすることも無いからね、幸い商店街には近いし駐車場はあるし」
名桐「利便性なんて考えたこと無かったわ、行きたいときにいきたい場所に行けるんだもの」
男「世の中の人間の大半はそうはいかないからね…」
名桐「そう」
男「そうなの」
「こちらでよろしいでしょうか」
男「はい、すみません、ありがとうございます」
名桐「気にしないで、また学校で会いましょう」
男「うん、よっと…」
名桐「少し先で待ってなさい」
「かしこまりました」
男「どうしたの?」
名桐「…そうね、少し見せたいものがあるのだけども」
男「ん?」
名桐「これよ」
男「何?」
名桐「っ」
唇にツン、と何かが触れたと思うと同時に両頬に手が置かれ固定される
男「っ…」
名桐「…」
そしてゆっくりと名桐の顔が離れ、手も頬から下ろされた
男「…な、な、名桐さん?」
名桐「…ふう、別れの挨拶よ」
男「え?あ?別れ?別れね、ああ、別れの挨拶ね、うん知ってる、あれね」
名桐「何を慌ててるのよ、馬鹿ね」
男「いや急でね?急にね?そんなね?もう…じゃあまた学校で」
名桐「ええ」
名桐「…」
「車、出してもよろしいでしょうか」
名桐「…ええ」
「では、かしこまりました。御自宅に参ります」
名桐(…キス、しちゃった)
名桐(不意打ちだけど、キス…)
名桐(…馬鹿みたいな面だったわね)
名桐「ふ、ふふふ、ふふ…ははは」
名桐(好きなの…かな)
カミングスーン
男と女、と大別しても結局の所は個人差になりますでしょうから恋愛観なんてものは人の数だけあるのでしょうね。アンドロイドの恋愛観ですか?それはインプットされておりませんので。次回、「ウツロイ」人生というのは新たな出会いの連続…ですね(???)
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