第七話

名桐「…」

「おはようございます、お嬢様」

名桐「…」

「お着替えはそちらに、朝食の準備は出来ておりますが如何致しましょうか」

名桐「…頂くわ」

「かしこまりました、では…」


いつもの朝と変わらない、つまらない日常の幕が上がる


第七話 クンレン


名桐「…てなわけよ、退屈なのよね」

香椎「そ、そうなんですか…」

名桐「なにかこう…面白いこと無いかしら…」

吉祥「なあ名桐!お前こないだの日曜赤田とどこ行ってたんだ?」

名桐「…これは別に面白くはないわね」

吉祥「何の話?」

名桐「気にしないで、この間は昼食をとりに行っただけよ」

吉祥「…へえ車で?」

名桐「商店街なんて場所で食事をとるのが嫌だったのよ、そしたら私の行き付けの所が偶々開いてたからそこに行ったのよ」

香椎「ふ、風香ちゃんの行き付けってまさか…」

名桐「…そうよ」

香椎「あ、あー、た、確かに美味しいもんね、えへへ…」

吉祥「なんだ?上流階級の会話か?」

名桐「別にそんなんじゃいわよ、煩わしいわね」

吉祥「まあ私は別にあんたがせんせーとどこに行こうが関係ないのさ、ただ七原がな…」

香椎「か、海ちゃんがどうしたんですか?」

吉祥「嫉妬を…」

名桐「…なんでよ」

吉祥「さあ?自分のオモチャを取られたって思ってるとか?」

香椎「そ、そうでしょうか…」

吉祥「いや私も知らんからなあ…」


名桐「あー…少し岸華の気持ちがわかったわ…」


………


七原「…」

男「あの…七原、さん…?」

七原「むー」

男「ええと…」

七原「なんで私は誘ってくれないんですか?」

男「え?」

七原「名桐さんとはお出掛けするのに…」

男「あ、いやあれは昼飯がだな…」

七原「そうでしたね、先生は女の子をたぶらかしてつれ回す変態教師ですから」

男「いやいやいや」

七原「…」むすっ

男(参ったな…)


岸華「先生?少しよろし…あら」

男「あ、ああ。どうした?」

岸華「…ふむ」

七原「…」むすっ

岸華「今度、一緒に買い出しに行きたいのですがよろしいですか?」

男「こ、今度?また?」

岸華「そうですね、来週の日曜なんていかがでしょうか」

男「あーまあ…」

七原「駄目です、その日は私と出掛けるので」

岸華「あら、そうなんですか?」

七原「はい」

男「…ははまあそういうことで」

岸華「…私は七原さんと一緒でも構いませんよ、先生?」

七原「…!」

男「…だってさ」

七原「…いえ、その日は二人でデートをする約束になってますから」

岸華「デート?」ピクッ

七原「はい、デートです。岸華先輩が来られるのは自由ですが流石にご遠慮願いたいですね」

岸華「そうなんですか、デートですか、先生?」

男「はは、そうと言えばそうだし違うと言えば違うような…ははは」

岸華「はっきりして下さい」

七原「先生は私と出掛けますよね?」

岸華「先生?」

男「わかった、その日は七原とデートに行くよ」

七原「ふふ、よろしくお願いします」


岸華「へえー」

男「その目止めて…」


………


紅田「で?今年の第二野球部はどうなの戸ノ内」

戸ノ内「多少苦戦しても負けることは無い、例年通りだ」

紅田「なら安心、赤田君はどうだい?」

戸ノ内「彼女達には好影響だったようだ、人間関係にも影響を及ぼしてるがな」

紅田「まあそれは予想の範囲内かな、一般人が入ると一般常識って点に置いては教育に役立つね」

戸ノ内「…まるっきり一般人という訳ではないがな」

紅田「今のところはまるっきり一般人だよ、戸ノ内」

戸ノ内「…そうだな、まあ大会の準備も順調だし他、何かあるか?」

紅田「いや特に。そういえばあのこは今回も養護教諭だっけ」

戸ノ内「ああ、記憶の引き継ぎも上手くいってるから当分養護教諭でいくよ」

紅田「…当分か」

戸ノ内「早く解呪してやりたいのは山々なのだがまだ計画の目処がたってないからな」

紅田「しかたあるまい、彼女に関しては黒鹿毛も有馬も手を出せんからな、君に託すよ」

戸ノ内「ありがたい、五年前の様なことは懲り懲りなんでね」

紅田「あれはあれで好影響、だったんじゃないかな」

戸ノ内「お陰でこっちは隠蔽工作に事後処理に四苦八苦したんだよ」

紅田「ま、そこいらも君に任せるよ。…赤田君には会わせん方が良いだろうがな」

戸ノ内「そのつもりだ」

紅田「そうか、ならいいんだ…赤田君にも何かさせたいな」

戸ノ内「新入部員は彼に任せようと思う。基礎は出来てるしそこらは二、三年が鍛えるからな、精神面は『一般人』の方がいいだろ」

紅田「それは良案だね」


………


戸ノ内「トモキ君、ちょっといいかナー」

男「トモノリですって戸ノ内先生」

戸ノ内「そだっけ?まあいいや。君にネー仕事を与えようと思うんだけどネー」

男「なんでしょうか」

戸ノ内「いやー新入部員二人の事でサー君に任せたいんだよネー」

男「えっ、でも私『魔術』とか使えませんし…」

戸ノ内「学校は、ただ単にモノを教えるだけの場ではない。だヨー」

男「!…そうでしたね、できる限り頑張ってみます」

戸ノ内「物わかりが早くて助かるヨー、じゃあそういうことで」

男「はい!」


戸ノ内「…こんなもんか」

有馬「よお」

戸ノ内「なんだ、有馬教務主任か。久々だな」

有馬「よせ、お前に役職を付けられると蕁麻疹が出る」

戸ノ内「紅田さんから聞いたか?」

有馬「聞いた、まあよく赤田君を任命したよ」

戸ノ内「そうさな、まあ要はこれから私達も忙しくなるから『一般人』でも第二野球部を監督出来るようにする…所謂前例作りだろ」

有馬「部員自体はコーチは兎も角顧問は要らんからな、ようやく私もお役ごめんだよ」

戸ノ内「そう言うな、お前がいない間苦労したんだぜ。黒鹿毛さんも心配したろう」

有馬「あれはそういうタマの女じゃないよ」

戸ノ内「…はあ、あんたは何時まで経っても女心ってもんを学ばないな」

有馬「うるさい」


黒鹿毛「紅田こうちょ…くしゅ…くしゅん」

紅田「誰かに噂されてるね副校長さん」

黒鹿毛「どうせ有馬さん辺りですよ…くしゅっ」

紅田「ノロケか…」


………


男「…と、いうわけさ」

七原「それで急にお昼に誘われた訳ですね」

男「まあね…香椎さんは友達と食べるみたいだったけど七原はいいのか?」

七原「はい、先生とお昼が食べられるのならそれが最優先ですから」

男「嬉しい事を言ってくれるね」

七原「でしょう」

男「さて、どこで食べようかな」

七原「私は食堂でも構いませんが…」

男「あー…食堂はやめとこう」

七原「わかりました」



七原「いつもこんな所で食べてるんですか?」

男「学生の頃はね。案外人がこないからいい場所なんだよ」

七原「…誰と食べてたんですか?」

男「それ。名桐にも聞かれたんだけど覚えて無いんだよな…誰だったかな…」

七原「なんですかそれ(名桐さんとお昼ここで食べたんだ…)」

男「いや…ま、飯の準備するかな」

七原「はいっ」



七原「いただきます」

男「いただきます…弁当なんだな」

七原「ええ、手作りなんですよ」

男「へえ弟まだ小学生だったろ?なら給食だろうから…弁当って一人分作るのって難しくないか?」

七原「慣れましたね。そういう先生もお手製弁当ですよね」

男「まあね…高校の頃からだし」

七原「作ってくれるような人は居なかったんですね」

男「…そういうこと」

七原「じゃあ、今度…作って持って来ましょうか?」

男「それは申し訳無いから僕も作ってくるから交換でもしてみる?」

七原(そういうことじゃないんだけどな…)

七原「それはそれで魅力的なご提案ですね」

男「他の人の為に作ったことなんて無いから上手くいかないかも知れないけど…」

七原「いえいえそんな」

七原(先生が私の為に、ってのが大事なんですよ)



七原「ごちそうさま」

男「ふう、食べた食べた」

七原「さて、まだ昼休みはありますから何をしましょうか」

男「そうだね…ん?」

岸華「…あら、先生こんな所でお昼ですか」

男「まあね、岸華さんはどうしてここに?」

岸華「部室に用がありまして…七原さんも一緒だったんですね」

七原「お疲れ様です」

男「あ、そういえば岸華さん今度買い出し行くって言ってたよね?」

岸華「え?ええまあ…」

男「あれ、予定が無ければいつでも手伝うから」

岸華「そうですか?でしたら…今日の部活終わりは空いてますか?」

男「ん?流石に部活終わりは大変じゃない?」

岸華「いえ、今日はそんなに大掛かりなのはしない予定ですから」

男「(大掛かり…?)そう?ならいいよ。ただ、歩きになるから沢山は買えないけど…」

岸華「そうですね、小物類が不足してるのとこの間買いそびれたのが幾つかあるのでそれと、食料品を」

男「食料品?」

岸華「はい、土日は食堂が開いてないのでお昼に軽食を作るんですよ」

男「はーそれはまた…」

岸華「と、言うことで今日の部活終わりよろしくお願いします」

男「ああうん了解」

岸華「それでは部室にいますので何かあれば声をかけて下さい」

男「ん」


七原「…先生は」

男「何?」

七原「岸華先輩のことどう思ってますか?」

男「尊敬してるよ、自分が学生の頃はあそこまで人間が出来て無かったからね、礼儀正しいし真面目だし教師としては言うこと無しかなあ」

男(内面は色々問題を抱えてそうだけど)

七原「好き…なんですか?」

男「まあ良い生徒だとは思ってるよ」

七原「異性としてはどうなんですか?」

男「…やけに食いつくね」

七原「あ、いえ、その…」

男「一つ答えを出しとくなら異性としては見てないよ、美人だとは思うけどね」

七原「それ、矛盾してませんか?」

男「いやいや、あくまでラブとライクの違いだよ」

七原「なるほど」


岸華「…」


………


新田「以上。お疲れ様」

「「「「お疲れ様でした」」」」

吉祥「さーて帰って宿題をすっかな」

男「お、やけに真面目な事を言うね」

吉祥「春休みの課題が終わってなくてね」

男「…前言撤回」

香椎「じ、じゃあ私はそろそろ迎えが来るので失礼いたします」

男「ん、お疲れ様」

新田「お疲れ様です、私も帰ります」

岸華「お疲れ様です、映像はいつものファイルに入れときます」

新田「よろしくね」


岸華「じゃあ先生、行きましょうか」

男「う、うん」

七原「…」

岸華「先生?どうして七原さんがいるんですか?私は"先生と"買い出しに行くと言った筈なんですけど…」

男「手伝ってくれるってさ、うんうん良い後輩だよね」

七原「どうしたんですか岸華先輩。私が来ると迷惑なことでもありますか?」

岸華「迷惑というほどではないのだけれども少し先生に相談したいこともあったから」

七原「そうでしたか、それは申し訳ありません」

岸華「…来ないっていう選択肢は無いのね」

男「ま、人手は多いにこしたることはないし」


七原(そういう問題じゃないんですけど)

岸華(この人は…気付いてるのか気づいてないのか…)



男「さて、どうするかな」

岸華「とりあえずそこのスーパーに行きましょう」

男「そうだね、食料品以外もあるだろうし」

七原「そうですね」

岸華「…」

七原「…」

男「い、行こうか…」


岸華「さて、こんなものかしら」

男「結構買ったね~」

岸華「予算が余る程ありますから。七原さんも手伝ってくれますし」

七原「まあこれくらいは…普段お世話になってますし」

岸華「そう?ありがとうね」

七原「い、いえ」

男「さて、荷物も多いし帰ろっか。皆同じ方向だしね」

岸華「そうですね」

七原「はい!」


男「ここだっけか」

岸華「すみません、家まで持ってきていただいて」

男「いいのいいのどうせ近いし」

岸華「じゃあ失礼しますね」

男「うん、また明日」

七原「お疲れ様です」

岸華「七原もありがとうね」

七原「はっはい」


男「さ、帰ろうか。遅いし家まで送るよ」

七原「ありがとうございます、先生」

男「ご両親も心配してるだろうからね」

七原「そうですね、弟がお腹を空かせて待ってますから」

男「それは大変」

七原「…先生は変ですよね」

男「変…かな?」

七原「変ですよ、『魔術』には驚かないですし私みたいな人間のことも気にかけて下さってますし」

男「驚いてない訳じゃないよ」

七原「でも…」

男(…過去に何かあったのかな)

男「意味もなく人に『魔術』を向けたりはしないんだろう?」

七原「それはまあ当然ですが」

男「ならどうもないよ。包丁も適切な使い方をすれば役にたつしそこにあるからって危険な訳じゃないだろ」

七原「…」

男「何より七原は優しいじゃないか」

七原「…そうですか?」

男「これでも一応担任で顧問だからね、他の人よりは少し多く七原の事を見てるつもりだよ」

七原「それは…そうなんですね、嬉しいです」

男「半分仕事だけどね」

七原「ふふっ、そうですね」

男「まあ幸いこの学校には『魔術』に明るい先生もいるから話を聞くのも手かもね。僕もそこまで詳しい訳じゃないし」

七原「いいんです。こうして普通に話せて、一緒に帰ることができれば…幸せですから」

男「そう?これくらいならいつでも付き合うよ」

七原「…期待してますよ、先生」

男「そんなに期待されてもね…」


赤田先生。少しエッチで抜けてる所もあるけど頼りになる、そんな感じ


もっと、あなたの事が知りたいです


……………


吉祥「眠…」

名桐「生活態度を少しは改めたらどうなの?」

吉祥「いやそれはそうなんだけど」

名桐「自覚してるのに改善しないのは生きてる意味が無いわよ」

吉祥「朝からキツいね」

名桐「そうかしら?」

吉祥「いや失言。何時でもそんな感じだよ」

名桐「…でしょうね」

吉祥「さーて、課題を出しに行くかな」

名桐「どうせ春休みのでしょう」

吉祥「ご明察」

名桐「…学業というものの重要性を一から教えた方がいいのかしら」

吉祥「それには及ばないよ」

名桐「大会も近いんでしょ?」

吉祥「そうさね。ま、後一ヶ月程あるがね」

名桐「どうなのよ、調子は」

吉祥「え?」

名桐「だから、調子よ。勝てるの?」

吉祥「まあ…うちの部員に当たるまではいけるかな」

名桐「ふーん、そう」

吉祥「なんだ自分から聞いといてその反応は」

名桐「アンタの真似よ」

吉祥「…これは一本とられたな」

名桐「そう思うなら今後相槌はもう少しまともにすることね」

吉祥「善処するよ」


吉祥「しかし名桐、お前さんは『魔術』に偏見とか無いのな」

名桐「そうねえ…私もある意味偏見の目で見られてるからかしら」

名桐「それに…」

吉祥「?」

名桐「なんでもないわ…私にとって『魔術』なんて生活の一部だったもの」

吉祥「金持ち連中はそんなものなのかね」

名桐「…ま、そう思ってくれても構わないわ」

吉祥「ああそうか、第一お前さんは香椎と幼なじみだったな」

名桐「そういうこと」


吉祥(…それだけじゃないのは何となく察したが踏みいる事でもないかにゃー)


………


香椎「せ、先生を食堂で見たことはな、無かったです」

男「まあ教師がいるとなんだかんだ生徒が気にするだろうし…普段が弁当だから場所は選ばないからね」

香椎「き、気にしますかね?」

男「自分が学生の頃は気になってたね、べつに何も悪いことはしてないけど」

香椎「た、確かに緊張感ある気がしますね」

男「だよね…遠巻きに見られてる気もするし」

香椎「や、やっぱり場所変えましょうか」

男「いやいいよ、変えるのもなんかおかしいし」

香椎「そ、そうですね…め、メニュー何にします?」

男「そうだなあ…ほとんど来たことないから何が美味しいのか知らないんだよね」

香椎「な、何でも美味しいですよ。あ、日替わり定食もあ、ありますよ」

男「ならそれにしようかな」

香椎「じゃあ、な、並びましょう」

男「そうだね」


男「そうそうこの食券機、懐かしいな…えーと日替わり一つお願いします」

「はいよ」

香椎「あ、わ、私はパンを買って来ますからあそこの席で待ってて下さい」

男「了解」

香椎「す、すぐ戻ってきますから」

男「そんなに急がなくてもいいよ…」


「はい日替わりね」

男「ありがとうございます」

香椎「お、お待たせしました」

男「フレンチトーストと牛乳か、良い組み合わせよね」

香椎「最近ま、毎日お昼はこれですね」

男「お弁当の日とか無いの?」

香椎「その、余り無くて…休日部活がある時自分で作るくらいですね…」

男「自分で作るの楽しいよね」

香椎「そ、そうですね、普段しないのであまり慣れないですけど…」

男「僕もはじめはそうだったよ」

香椎「な、なるほどそうですよね…が、頑張ります」

男「さて、食べようかな」

香椎「は、はい!いただきます」

男「いただきます」


香椎「ところでせ、先生普段はお弁当を持ってこられているそうですが今日はどうされたのですか…?」

男「あ、いや香椎さん普段食堂で食べてるって聞いたから今日は持って来なかったんだよね」

香椎「そ、そうなんですか、えへへ…」


男「どう?部活は」

香椎「そうですね…楽しい、ですよ」

男「そう?それはよかった」

香椎「でも…」

男「ん?」

香椎「…時々自分が、ここにいていいのか分からない時があります」

男「どうして?」

香椎「その…他の方と比べちゃうと、どうしても自分が力不足に感じて…」

男「力不足、か」

香椎「は、はい…」

男「うーん…私は部活に関しては未経験だし見てるだけでどれ程強いのかと言うのは分からないから香椎さんが自分で力不足って言うならそうなのかもしれないね」

香椎「…はい」

男「ただ仮にそうだとしてもさ、今うちの部活に香椎さんの代わりはいないから君が頑張るしかないんだよ」

香椎「あ…」

男「少し自信を持っても良いんじゃないかなあ」

香椎「そう、かもしれませんね」

男「それにほら仲間もいるし」


吉祥「せんせーと何してんだ香椎~」

名桐「大丈夫!?うちの創に変なことしてないでしょうね!」

男「な?」

香椎「くす、そうですね」

名桐「な、何よ!創!行くわよ!」

香椎「あっま、待って風香ちゃん!せ、先生あの…ありがとうございます!私、頑張ります!」

男「いつでも出来ることがあれば力になるから」

香椎「はい!」


吉祥「青春…だねえ」

男「そうさな」

吉祥「しかしせんせーは女の子をとっかえひっかえですなあ」

男「七原にも言われたよ…」

吉祥「ここだけの話、噂が立ってますぜ」

男「まあ…火の無い所に煙は立たぬ、かな」

吉祥「おや、火種の自覚はあったんですな」

男「薄々ね」

吉祥「私は良いことだと思うんですけど」

男「ほう」

吉祥「言ってしまえばですな、せんせーが来るまではうちの部員殆ど学内での交流なぞ無かったのですよ」

男「私が来たと同時に一年は入学してるから当然と言えば当然じゃないかな」

吉祥「それもある、がだよ。まずあの名桐が自発的に他人と関わりを持つ、これはこの一年間違いなく無かった。まあ部員ではないけど…」

男「ふむ」

吉祥「そして岸華。アイツはまず買い出しだとかも一人だし休日は何をしてるか誰も知らず、部活が終われば寄り道一つせず帰るような奴だったんですぜ」

男「一年の時?」

吉祥「ああ、いや中学の頃からそんな感じ」

男「ふむ」

吉祥「それがせんせーとは買い出しに行く、それも休日に。こないだの七原とのデートだとか何だとかの件も聞きましたぜ」

男「あれは私もよくわからん」

吉祥「…はあ」

男「え、何その溜め息は」

吉祥「あくまで直接聞いた訳ではないから私個人の考えだがね、岸華は七原がせんせーを独り占めしたいのを分かった上でそれを後押ししつつ自分も利益を得る形にしたんじゃないかな」

男「…二つ聞くぞ」

吉祥「許可」

男「まず七原が私を独り占めしたいってのは…」

吉祥「それは知らんです、なんせ想像ですから」

男「身も蓋もない…二つ目、岸華にとっての利益とは?」

吉祥「まあ、なんだ、その…要するにせんせーと一緒に居たいってことじゃないのか?」

男「…」

吉祥「…」


男・吉祥「「いや、ないわー」」

吉祥「くっふふふ、無いな!それは無いわ!」

男「ははは、そうだよあの岸華さんがなあ」


岸華「私がどうかしましたか」

男「いやなにも」

吉祥「さて教室戻るか」

岸華「先生?ちょっと…」

男「ひっ」

吉祥(すまんな)

岸華(吉祥は後で聞くから)

吉祥(コイツ…!直接脳内に…!)


………


岸華「…ここって大声だしたら生徒にきこえるのかしら」

男「多分聞こえると思うよ、試したことないけど」

岸華「一体何を話してたのかしら」

男「え?いや、あのーその…」

岸華「私に言えないような事なのね」

男「うーんちょっとまあ…」

岸華「そう…残念ね、退職されるなんて」

男「ちょちょちょっと待った待ってよ」

岸華「何かしら?私はもう用事はないのだけれど」

男「…ごめん」

岸華「始めっから素直に言えばいいのよ」

男「まあ…吉祥さんに部員について色々聞いてただけだよ、もちろん岸華さんの事もね」

岸華「そう、例えば?」

男「噂話の件とか」

岸華「…噂?」ピクッ

男「聞く話によると私が来るまではその…あまり他の人と関わってなくてみたいな」

岸華「大体わかったわ、根も葉もない噂を撒いてる奴がいるみたいね」

男「察しがよくて助かるよ」

岸華「他に何か話してた?」

男「いや特には」

岸華「ならいいわ、しかし…悩みの種ね」

男「噂が?」

岸華「当たり前でしょ?私みたいな真面目な生徒が教師と付き合ってるなんて噂を流布されたら私は困らないけど周りの評価に関わるじゃない」

男「まあ確かに…」

岸華「早急に手を打った方が良さそうね、いざというときは協力して貰うわよ」

男「…いざというときが来ないことを祈るよ」

岸華「私もよ」


岸華(噂、になっちゃったか…でも嫌じゃない。不思議ね…)


男「後嫌なら答えなくて良いけど岸華さんって付き合ってる人とかいるの?」

岸華「馬鹿ね、いるわけ無いわよ。前も言ったけど私のこの性格を知ってるのは先生だけなのよ?…私を知らない癖に、付き合えるわけ無いじゃない」

男「なるほどね」

岸華「…一応よ、なぜそんなことを聞いたのか教えてもらえるかしら」

男「…興味本意、じゃ駄目?」

岸華「ダメ」

男「ええと、私なんかとその…噂になったて付き合ってる人がいたら申し訳ないなあと」

岸華「ふ、ふふ、本気でそんな事考えてた訳?面白い人ね」

男「べ、別に今頭にパッと浮かんだだけでそんな…」

岸華「深くは考えてた無かったのね、なら私の前で不用意にそんな事は口にしないで。後!私は自分を卑下する人間は嫌いなの、間違っても"私なんか"なんて言わないことね」

男「ごめん、悪い癖で」

岸華「自覚してるなら尚更よ」

男「それはごもっともだ」

岸華「自分を卑下するってことはあなたに関わってる人間を貶める事にもなるのよ、私を含めてね」

男「気を付けます」

岸華「わかればよろしい」

男「…じゃあ私はそろそろ職員室に戻るんだけど、岸華さんはどうする?」

岸華「私も教室に戻るわ、吉祥に余計なことを言わないように釘を刺さないと」

男「お手柔らかにしてあげなよ」

岸華「人の心配をしている場合かしら、本当…」

男「うぐ」

岸華「ま、いいわ。さっさと戻るわよ」

男「ああそうだね」


岸華(付き合う?そんなこと…考えたことも無かったわ。そもそもなんの利益も無いし)

岸華(でも…先生は…私の事…)


吉祥「おーい?岸華?どうしたー?」

岸華「…」

吉祥「もしもしー?不通?」

岸華「…あら、ごめんなさい。考え事してて」

吉祥「自分から話かけておいてスルーは無いだろ?」

岸華「ごめんごめん、何の話だっけ?」

吉祥「…いや!何でもないよ!忘れるようじゃ大した用事でも無かったんだろ?あるよな!多々!」

岸華「そうね、そうかも」

吉祥「うんうん!」

岸華「先生に変なこと吹き込むのはやめておくことね」

吉祥「覚えてるじゃん」


………


新田「今日はこれまで。お疲れ様でした」

男「お疲れ様」

吉祥「いやーやっぱり部長は強いですな…」

香椎「そ、そうですね、特に近接格闘では一生敵う気がしませんね…」

吉祥「いやいやあの『魔術』も単純なんだけど威力がな」

七原「物質硬化なのはわかるんですけど、なんですかね…異質な感じがしますね」

新田「そうかしら?北機の格闘技をベースに『魔術』はそれのサポート、七原さんとは結構近いと思いますよ」

吉祥「使い方が違うんだよな、七原のは身体能力を全面に出して押し込んでいくタイプだけど部長のはどちらかというと理詰めに近いと思うけど」

新田「そこは武術を習ってるから…理詰めというか型にはまってるのかも」

七原「私も何か習った方が良いんでしょうか」

新田「いえ、あくまで武術はこうきたらこう、何て言う答えを先に学ぶ感じになりますから独学の方が個人的には好きですね」

香椎「そ、そういうものなんですか?」

新田「もちろん人格形成だとか自信をつけたりも出来るけど…私たちに必要なのは武術だけじゃないからね、勿論武術が要らないとは言わないけど」

香椎「自信…」

吉祥「ある程度の近接なら武術習ってた方が咄嗟の対応がしやすいのはあるかな」

新田「それは言えてますね、吉祥さんは確か色々されてましたよね」

吉祥「どれも齧ってる程度ですがね」

七原「それがまたやりづらいんですよね…」

岸華「録画完了しました、帰ったらいつものファイルに入れておきます」

新田「ありがとう、じゃあ帰りましょうか」

吉祥「ですね、七原!行くぞ!」

七原「あ、ごめんなさい。今日はスーパーによって帰らないと夕食が無いので…」

吉祥「あら」

男「じゃあ僕も戸ノ内先生に呼ばれてるからお先に」

岸華「はい。また明日お願いします」

七原「お疲れ様でした、先生」

男「特に何もしてないけどね…じゃあ」

香椎「…」

吉祥「おろ?香椎、帰らないの?」

香椎「あ、い、いえ、迎えがまだ来てないみたいで…」

吉祥「そっか、じゃあお先に」

香椎「お、お疲れ様です!」

七原「またね」

香椎「うん、また明日よろしくね」


香椎「みんな帰っちゃった…少し暇、かな」

佐藤「猫」

香椎「きゃっ!」

佐藤「猫…」

香椎「さ、佐藤先輩…」

佐藤「小猫」

香椎「ね、ねこ?あ、ほんとだ…かわいい」

佐藤「猫ー、猫ー」

香椎「そ、そう言えば佐藤先輩ってなんでこの部活に入ったんですか?」


香椎「あれ…?いない…」


………


男「思ったより長引きましたね」

戸ノ内「書類の整理がネー苦手なんだよネー」

男「だからといってあそこまで溜めなくても…」

戸ノ内「ゴミを捨てるっていう習慣がないのサー」

男「ええ…」

戸ノ内「じゃ、焼却炉までお願いしてもいいかナー、そのまま帰っていいから」

男「はい、かしこまりました」

戸ノ内「よろしくネッ」


男「さて帰るかな…ん?」

香椎「わ、せ、先生…」

男「香椎さん、どうしたの?」

香椎「い、いえ。その…迎えの車が来れなくなったちゃったみたいで…」

男「それは大変だ、確か家遠かったよね?」

香椎「そんなに遠くは無いんですけど…四十分くらいはかかりますね…」

男「あらら、大分暗いし送ろうか」

香椎「いいんですか?」

男「まあ運動を兼ねてね。今日はもうすることないし…」

香椎「す、すみません。お願いします…」



男「しかし香椎さんは真面目だね」

香椎「そ、そうでしょうか」

男「うん、部活の時も言われたことをメモとったりしてるし以前言われたことを覚えてるし…中々出来ることじゃないと思うよ」

香椎「い、いえ…それ位しないと皆さんに置いてかれちゃいますから…」

男「…真面目だねえ」

香椎「これくらいしないと…」

男「実際どうなの?その…使えるって」

香椎「ま『魔術』ですか?そうですね…皆さんが思ってるほど便利ではありません」

男「例えば?」

香椎「例えば…瞬間移動、なんかが良く言われますけどその人によって得手不得手はあるので、出来ることと出来ないことは大きく別れてきます」

香椎「勿論なかには大抵の『魔術』を使える人もいるのでしょうが…私は日用的に使えるようなのはほとんど無い…と思います」

男「そうなんだ」

香椎「どちらにしても人前で使うことでは無いので…」

男「そっかそうだったね」

香椎「でもけして使えるからって悪い、使えないから良い。そんなものではないと思ってますよ私は…」

男「…そうだね」

香椎「あ、す、すみません、変なこと言っちゃって…」

男「ううん、僕もね、世界中の人がそういう考え方なら…素敵だと思うよ」

香椎「…そうですね」

男(『魔術』が使える、というだけで差別される…か)

香椎「もっと大手を振って『魔術』を使えるような世の中になれば便利が良いのですが」

男「ははは、そうだね。例えばどんなことをしたい?」

香椎「そうですね……正義のヒーロー、とまではいいませんが身近な人を守れるような、そんな人になれたらなって思います」

男「優しい…なんていい娘なのだろう…」

香椎「あ、で、でもそれって『魔術』が使えなくても出来そうですよね」

男「まあ確かに…心持ち一つと言えばそうだしなあ」

香椎「ふふっ、そうですね」

男「良いことじゃない、手に届く幸せだよ」


香椎「すみません、結局家の前まで送って頂いて…」

男「いいのいいの、しかし確かにこの距離を毎日歩いては疲れちゃうね」

香椎「でも…やっぱり歩いて登校している方もいるので甘えちゃってるんでしょうね、私」

男「うーん…でも送り迎えはあった方が安全だよこの時間なら。最近は物騒だからね」

香椎「そ、それはそうなのですが…」

男「ところでなんで今日迎えの車、来れなくなったの?」


香椎「あ、その…お父さんとお母さんが食事に行くのに使ってるらしくて…電話したら『たまには歩いて帰ってきなさい』って…」

男「いい親御さん、なのかな?」

香椎「はい!…私も両親みたいな大人になれたらなあって思います」

男「そうだね、いつまでも仲良くってのは、羨ましいなあ」

香椎「ふふっ、そうですよね…あ」

男「どうしたの?」

香椎「もう、こんな時間ですね…そろそろ明日の予習をしないと…」

男「偉いなあ、吉祥にも見習ってほしいよ」

香椎「そ、そんなことないです、吉祥先輩もすごく優しい人ですから、良いところ沢山ありますよ」

男「それはわかるんだけど…学業はしっかり修めないとね、学生だからね…」

香椎「…そうですね、こないだも補修で大変だったみたいですし」

男「要領はいいんだからちゃんと勉強してれば良い点とれるんだけどやる気がな…香椎さんからも厳しく言ってあげてみたら?」

香椎「それには及びませんよ、吉祥先輩、やるときはやる人です…多分」

男「ははは、多分ときたか」

「お嬢様、帰られてたのですか!そちらの方は…赤田友紀様ですね、お嬢様がいつもお世話になっております」

香椎「あ、た、ただいま」

男「これはご丁寧にどうも、いやこの時間は大分暗いですから…お節介でしたかね」

「いえいえ、とんでもない!ご主人様も非常に喜ぶと思います、ありがとうございました」

男「それは良かった、じゃあそろそろお暇させて頂きましょうかね」

香椎「あ、ありがとうございました!」

男「うん、じゃあおやすみなさい」


男(真面目、優しい、周りを良く見ている…非の打ち所がない娘だよな香椎さん)

男(ただちょっと自分に自信がないのが玉に瑕…かな)

男(それはそれで魅力なんだけど…さて)


香椎(…先生)


真面目で、優しくて、私なんかのことも良く見てくれる人…

こんな先生、いなかった…

もっと、色々話してみたい…です


カミングスーン…


先生!なんだか最近私に対して冷たいです…え?生徒と教師の適切な距離感?そんなの私が良いって言ってるんですから良いんです。もっとこっち向いてください…もう。次回、「ハクネツ」あっそう言えば明日はデートの日ですけどどこ行くか決めてます?先生?(七原)

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