第六話

人ってのは不思議な生き物で先入観があると多少の不整合に気づかなかったりするんだよ、って誰かが言ってた覚えがある


その不整合が時には死すら招くことを、私は知らなかった


第六話 テンカイ


薄暗い室内に二人の会話が響く


男「なんの話かわからないんだけど…」

岸華「へえ、知らばっくれるつもりなの、そうしたくもなるわよね」

男「いや…」

岸華「見たんでしょ?あのプリント…」

男「あのって…どの?」

岸華「机の中のに決まってるじゃない」


机の中のプリント、と聞いて男は学生時代に友達に貰った卑猥な絵が丁寧に描かれたモノの事を思い出した


男(あ!あれを見てた事を言ってるのか、それは隠したくもなるか…というかあれまだあったのか、何年前だよ)


男「あーまあ岸華さん位の年頃ならそういう事にも興味が…」

岸華「でもあなたはそれ見たのよね?」


男(あれ?これもしかしてアレを見てた私にドン引きしてるのか?確かにあんなのを見てる奴が高校教師してたら引くな…)


男「いやいつか捨てようと思ってたんだけどさ、機会がなくてね」

岸華「捨ててくれてれば先生がアレを見たってバレなかったんだけどなー」

岸華「仕方ないですよね、先生がアレを見たって言っちゃったんですから…残念ね、教師になれたばっかりなのに辞めないといけないなんて…」


男(それは困るな、いや確かに『先生が変態な絵を所持してました』なんて言われたら社会的な死を迎えかねないな…)


男「悪かったよ、この部屋に私以外の人が来るなんて思わなくてさ」

岸華「ま、私もそう思ってここに置きっぱなしにしていたのも悪かったわ。ただ、それとこれは別なの」

男「いや…」

岸華「だって見られてしまったからにはもう学校にいられないから」

男「他の人には絶対言ったりしないよ」

岸華「でも、先生が知ってるってだけでもう駄目なの」

男「そこまで気にしなくても…」

岸華「アレを見ておいて気にしなくても、なんてよく軽々しく言えるわね」

男「あっいやその…」

岸華「アレには私の全てがかかれていたのよ?それを見て…」


男「…ん?私の全てって『岸華さんの全て』ってこと?どういうこと…?」

岸華「私が書き殴ったアレを見たならわかるはずよ?どれだけ私が…」

男「ん?私がかいた?」

岸華「そうですよ、アレは私が…」


男「いやアレを描いたのは私の友人で、しかも私が高校の頃のモノだけど」


岸華「は?」


岸華「え?」


岸華「ん?」


男「え、アレってあのー…未成年には見せられない卑猥な絵のこと…でしょ?」

岸華「…なによ、それ」

男「え…?」


岸華「…」

男「…あのさ、もしかして、私と岸華さんで思い浮かべてた『アレ』って別物なんじゃないかな?」

岸華「…」

男「…あの?岸華さん…?」


岸華「何よ、それ」

岸華「つまり、私の勘違いってこと…?」

男「岸華さんのっていうか認識の行き違いがあったというか…」

岸華「…本当に見てないの?」

男「うん、というか『見られたら岸華さんが学校に居られなくなる』って何をプリントに書いてたの…?」

岸華「…忘れて」

男「えっ…?」

岸華「忘れて!」


少女はこちらをキッと睨むと机に荒々しく腰かけた


岸華「はあ…はあ…」

男「いや…ほら…見てないし…」

岸華「だとしてもです!そもそもあなたがしっかり言わないのが悪いんじゃない!」

男「流石に女の子に淫らな事を話すのは気が引けてね…」

岸華「お陰で余計な深読みしちゃったじゃない…!」

男(それは私別に悪くないような…)

岸華「こうなったら先生には私の為に働いて貰いますから」

男「ええ…」

岸華「断るんですか?構いませんけど、先生色々と弱味を握られていることは覚えてますか?それをバラされたらどうなっちゃいますかね?」

男「脅しじゃん…」

岸華「な に か 言 い ま し た ?」

男「岸華さんの為に頑張って働きます!」

岸華「よろしい」

男「しかし…岸華さんって普段ネコ被ってるんだね…」

岸華「悪い?誰かに迷惑かけた?誰にもかけた覚えはないですけど?」

男「わ、悪いとは言ってないよ、うん」

岸華「なら余計な減らず口はたたかないで下さい」

男「…了解」

岸華「はあ…誰にもバレずに過ごすつもりだったのにとんだ災難ね」

男「そうですか…」

岸華「誰かに話したりしたら…わかってますよね?」

男「わかったよ、そもそも普段の岸華さんしか知らない人は信じないだろうね」

岸華「当然です、真面目にしてますから」

男「ははは…」

岸華「…さて、帰りましょうか」

男「うん…」

岸華「…ところで、甘いものが食べたいんですけど私まだまだ商店街とか詳しく無いので一緒に来てほしいんですけど良いですか?」

男「うん…大丈夫…」

岸華「本当ですか?ありがとうございます…後外では普段通りしてくださいね」

男「頑張ります…」

岸華「…ふふふ」


………


岸華「さて、何にしましょうか…」

男「好きなのを選んでいいよ…」

岸華「わあ!本当ですか、じゃあですね…」


前来たときから気になってたんですよねと、彩り豊かなスイーツが並んだショーケースに顔を近づけ吟味する岸華


岸華「うーんじゃあこれとこれを」

男「二つも食べるの…」

岸華「食べ比べてみたくて…先生も好きなのを頼んで良いですよ」

男「え、じゃあ…奥のそれ、右の…それですね」

岸華「どうやらお店の二階に休憩スペースがあるみたいですね、上がりましょうか」

男「そうだね、折角だし…っと、会計するから先に行ってていいよ」

岸華「払ってくれるんですか?ありがとうございます」

男「気にしないで」

岸華「じゃあ先に席をとってますね」

男「うん」


………


男「お待たせ~」

岸華「遅い、どれだけ待たすつもりですか?」

男「ごめんごめん、細かいのがなくってさ…飲み物はコーヒーでよかった?」

岸華「はい」


二階には二人以外客はおらず、窓際の席からはオレンジに染まる商店街が見えた


岸華「まだ結構人通りが多いんですね」

男「帰宅時間だからね、駅も近いし」

岸華「そうですね…」

男「ところでさ、岸華さんの言ってたアレって何を書いてたの?」

岸華「それを知ったら私も先生も学校を辞めることになりますが」

男「聞かないでおくよ」

岸華「賢明ですね」


岸華はコーヒーにミルクを入れるとこちらをちらと見た


岸華「まあ一つだけ言えるとすれば私にとって姉は悩みのたねと言うことですね」

男「不仲なんだ」

岸華「性格の不一致ですよ…さて、頂きます」


どれにしようかな、と呟くとフルーツタルトを選んだのか皿を寄せた


男「僕も食べようかな」

岸華「前から気になってたんですけど」

男「何かな?」

岸華「先生って『私』と言うこともあれば『僕』って言うこともありますよね」

男「ああ、基本『私』なんだけどね、生徒の前ではお堅く見えるから『僕』って言うようにしてるんだ」

岸華「そうですか…私の前では『私』で統一して下さい」

男「いいよ、その方が話しやすいし」

岸華「先生も食べませんか?美味しいですよ」

男「そう?じゃあ少し貰おうかな」

岸華「はい、あーん」

男「えっなんで?」

岸華「名桐さんにはしたのに私にはしてくれないんですか?」

男「あーん…」

岸華「なんちゃってです」パク

男「……」

岸華「もぐもぐ…冗談です。流石に二つも一人で食べたら太っちゃいますから先生も少し食べてくださるとありがたいのですが」

男「ええ頂きますよ頂きます…」


………


岸華「そういえば先生って二南高出身でしたね」


ケーキを食べ終え二杯目のコーヒーを頼むと岸華からふと聞かれた


男「うん。まあ実はよく覚えてないんだよね…」

岸華「そうですか、年をとるって悲しいことですね。もう呆けてるなんて」

男「ボケてはないと思うんだけどね…」

岸華「友達とかはいないんですか?」

男「いない訳じゃないよ、大学の頃の友達とはたまに会ってるし…」

岸華「彼女さんは?」

男「生憎。女っ毛のない生活を送ってますからね」

岸華「そうですか…そういえば前も聞きましたね」


二度も聞いて申し訳ありませんが興味ありません、と締め括られた話題を最後に会話を無くし、二人で窓の外を眺める


岸華「…」

男「…」


気づくと外は薄暗さを増しちらほらと街灯も点き始めていた


男「…暗くなってきたしそろそろ帰ろうか」

岸華「…」

男「…」

岸華「…」


岸華「そうですね」

男「わっ、聞こえてたの」

岸華「先生と違って耳が良いので」

男「耳遠くなってないから。まだ23だから…」

岸華「ふふっ」


………


岸華「ふぁあ」

男「お、欠伸」

岸華「何か?」

男「いやいや学校でしてるとこ見たことなくって」

岸華「真面目にしてますから」

男「真面目、ねえ…」

岸華「なんですか、何かご不満でも?」

男「いえいえ、滅相もない」

岸華「そうですか」

男(どこか名桐さんと同じ感じがするんだよなあ)


名桐「くしゅっ」


男「最近はどう?新しいクラスにはもうなれたかな?」

岸華「…特段苦労はしてません」

男「だろうね、岸華さんなら友達も多いだろうし先生からの信頼も厚いからなあ」

岸華「先生はもっと御自身の心配をされた方がいいですよ、隙が多すぎます」

男「耳が痛いね…」

岸華「本当です」

男「ははは」


男「じゃあ私こっちだから…」

岸華「…はい、それでは」

男「うん、じゃあね。また明日」

岸華「…あの」

男「ん?」

岸華「…いえ、なんでもありません。それでは」


岸華「…」


私は何を言いかけたのだろう。きっと、今日の事を誰にも言うな、と釘を刺したかっただけだと思うことにしよう


人と関わるなんて、嫌な思いをするだけなのだから


……………


吉祥「そこで私は手頃な角材を振り上げてタクシーを…お?」

七原「タクシーをどうしたんですか?まさか…」

吉祥「あれは…」


「でさー笑」「まじありえんくね?笑」「それがさー」


七原「…うるさいですね」

吉祥「まあゲーセンだからな。さ、そろそろ出るかな」

七原「わかりました。今度は負けませんよ」

吉祥「そうかあ?楽しみにしてるよ」

七原「割と格ゲー得意だった筈なんですけどね」

吉祥「私はそれこそ毎日してるからね…」

七原「だから補習受けてるんじゃないですか?」

吉祥「いやいやそれはそれ、これはこれだから」

七原「ちゃんと一発で合格できて良かったですね」

吉祥「あやうく岸華あたりにぶっ殺されるとこだったよ」

七原「補習で合格できるなら普段からちゃんと勉強すればよさそうですのに」

吉祥「ごもっとも」

七原「本当ですよ…」


吉祥「大会も近いから練習が厳しくなってきたなあ」

七原「そうなんですか?」

吉祥「皆さんやる気があってよろしいことで」

七原「やるからには勝ちたいじゃないですか」

吉祥「…そうだね」


吉祥「うちの高校強い人を集めてる気がするんだよなあ」

七原「そうなんですか?」

吉祥「うーん…他のチームってさ、割と『魔術』使えません、体術のみですとか『魔術』使えてもバーナー程度の火しかだせませんとかっていう人も居たわけよ」

吉祥「その点うちは全員ある程度の『魔術』は使えるわけだし…」

七原「でも全部のチームがそうって訳じゃ無いんですよね?」

吉祥「そりゃね…」

七原「ほら、うちの高校って国内唯一の出場校じゃないですか、紅田先生が集めてるのもそういう理由じゃないんですかね」

吉祥「確かにそうか…年二人強い人間を集めればうちみたいなチームになるからなあ」

七原「きっとそうですよ」


吉祥(だとしても強すぎる気がするんだよなあ…)


………


香椎「…ふぅ」

「どうされました、お嬢様」

香椎「あ…部活の大会が近くて…す、少し不安なんです」

「大会…ですか」

香椎「はい…」

「私も学生の頃は運動をしておりましたが、確かに大会前はナイーブになったものです」

香椎「…」

「不安というのは様々原因がありますが…例えば今現在のご自身の努力が足りてなかったり、情報が無かったり…そういう原因を一つづつ無くすしかないと、個人的な意見ですが思っております」

香椎「私はどうするべきなのでしょうか…」

「周囲に頼るのも一つの手かと」

香椎「そうですね、そうですよね…」

「…それではそろそろお昼にしましょうか」

香椎「そうですね、ええと、あの、今日は私が作りたいのですが…」

「かしこまりました。それでは詰め所におりますのでご用命とあらばお呼びください」

香椎「わかりました。じゃあ出来たら呼びますね」

「楽しみにお待ちしております」

香椎「そ、そんなに期待されても…」

「いえいえ。お嬢様の料理の腕前はお父様も認める所ですよ」

香椎「お、お父さんバカ舌だもん」

「そんなことはけして…」

香椎父「お父さんはバカ舌じゃないぞ」

「ご、ご主人様…」

香椎父「バカ舌じゃないぞ、お前の作る料理だからこそ一層美味しく感じるのだから」

香椎「お父さん…」

香椎父「創…」

香椎母「あなた…」

香椎父「おまえ…」

香椎「お母さん…」

香椎母「創…」


ははは…うふふ…くすくす…


………


名桐「ねえ」

男「はい」

名桐「暇ね」

男「まあ日曜の学校なんてこんなものじゃないのかな?」

名桐「そうね…いつもは色々することがあるのだけれども今日は何も無いのよね…」

男「帰ったら?」

名桐「嫌よ、あんな息の詰まる所…」

男「そっか…ところで」

名桐「何?」

男「なんで僕は急に電話で呼びだされたのかな?」

名桐「暇だからよ」

男「そっか、帰るね」

名桐「えっ」

男「えっ」


名桐「…いやいや待ちなさいよ」

男「うん」

名桐「何か…こう、暇潰しになるようなものないの?」

男「部室のゲームならあるけど」

名桐「そんなのしないわよ」

男「うーん…困ったなあ」

名桐「ああそうだ、あんた、岸華と噂になってるわよ」

男「噂に?」

名桐「そ。二人で一緒にいるところをよく見られてるそうよ」

男「まあ確かによく一緒にはいるけど…全部部活関連だよ」

名桐「でしょうね。ただ高校生ってのはそういうのを大袈裟に騒ぎ立てるものよ」

男「そうだね…まあ岸華さんなら気にしないでしょ、噂なんてすぐ消えるだろうし」

名桐「そうかしら?」

男「…多分ね」

名桐「早々に噂を消したいなら今後は二人っきりってのをやめることね」

男「そうするよ」


名桐(ま、もう手遅れな感じはするけど)


名桐「…さーて、そろそろ昼ね、どうしようかしら」

男「私は弁当持ってきてないから外に出るよ」

名桐「あら、私も今日は持ってないからついていこうかしら」

男「え」

名桐「何?拒否するの?」

男「あ、いや別に名桐さんがいいならいいんだけど」

名桐「そう、なら行きましょ」


男(二人で出掛けたら噂されるんじゃないか…?)

名桐「どうしたの?行くわよ」

男「はいはい」


……………


吉祥「ん?」

七原「どうしました?」

吉祥「あれは…せんせーと優しいガール名桐風香ちゃん?」

七原「…なぜ?」

吉祥「知らん。知らんが後をつけるか…」

七原「そうですね、つけましょう。場合によっては…」

吉祥「怖いよ」


名桐「で、どこに向かってるのよ」

男「迷い中」

名桐「ふーん」

男「名桐さん商店街とか来たことあるの?」

名桐「無いわね」

男「そうなの?じゃあどこにしようかなあ…苦手な食べ物とかある?」

名桐「無いわ、どこでもいいわよ」

男「そうでさあねえ…うど」

名桐「うどんはなし」

男「ええ、なんでさ」

名桐「岸華と行ったらしいじゃない、私は嫌よ。もっと特別な所がいいわ」

男「なるほどうーん特別な所特別な所…」

名桐「…ええい、焦れったいわね」


吉祥「ほー、二人で昼飯を食べるようだな」

七原「は?」

吉祥「怖い、怖いって…」

七原「むむむ…」


男「最近うどん以外行ってないな…」

名桐「なによそれ…仕方ないわね、少し遠いけど私の行きつけのとこでもいいかしら?」

男「構わないけど…良いの?」

名桐「ここで延々と悩み続けてもお腹と背中がくっつくだけよ。行きましょ」

男「じゃあお言葉に甘えて」


吉祥「あ、動いた」

七原「どこに行くんでしょうか…」

吉祥「私も集音魔法が使えたらな…」

七原「今度創ちゃんに習いましょう」

吉祥「せやね」



名桐が携帯でどこかに連絡した数分後、商店街近くのロータリーに移動した二人の前に黒塗りの一台のクルマが停まった


名桐「じゃ、これ乗って」

男「本当にこれ?良いの?」

名桐「さっさと乗る!」

男「わかったから蹴らないで…」


名桐が行き先を告げると運転手は一礼をして車を走らせた


男「実は今日あんまり持ち合わせが…」

名桐「気にしなくていいわよ、これはそもそも私の送迎車ですもの」

男「あっはい…」

名桐「ただ…その格好はいただけないわね」

男「そう?まあ独身男性の私服だからね…」

名桐「言い訳?とりあえずスーツがあったはずだから…後でこれに着替えなさい」


男「こ、これはかの有名なブランドスーツ…」

名桐「なんならそのまま着て帰ってもいいわよ」

男「やめとくよ、スーツに着られる感じが凄いから」

名桐「私から見てもそうね」


吉祥「車か」

七原「ぐぬぬ。こうなったら身体強化で」

吉祥「やめとけ、街中でするのはリスクが高い」

七原「冗談ですよ」

吉祥「そう」

七原「…明日が楽しみですね」

吉祥「なんか怖いんだけど」



名桐「着いたわよ」

男「ホテルじゃん」

名桐「ここの六階のレストランが美味しいのよね」

男「わお…そうなんだ」

名桐「開いた口が塞がらないようね…さ、行くわよ」

男「緊張するなあ…」

名桐「そうね」

男「あれ、来なれてるんじゃ」

名桐「…ジョークよ」

名桐(馬鹿ね!この状況が緊張感するのよ!どんな思考回路してるのかしら…)


ホテルからスーツを着た男性が二人現れ名桐が一言二言交わすと中に通してくれた


名桐「衣装室が四階にあるから行くわよ」

男「了解です、名桐さんも着替えるの?」

名桐「当然よ」


男「…」

名桐「…」

男「…」

名桐「…」

男「…」

名桐「…何か喋りなさいよ」

男「ごめん、ちょっと何がなんだか言葉にならなくて」

名桐「はぁ…これぐらい慣れとかないと駄目よ」

男「こんなとこ初めてだよ…」

名桐「ふふっ、そう?それは良かったわ」

男「緊張でちょっと言葉が出てこないね…」

名桐「全く先生ったら…さて、四階に着いたわよ」

男「うわあ緊張するなあ」


名桐「多分私の方が時間かかるから、少し待ってなさい」

男「了解です」


男(さて着替えたぞ…しかしテーブルマナーとか勉強しとくんだったよ…)


名桐「待たせたわね」

男「ううん…おおっ」


着替え終えて登場した名桐はスリットの入った紺色のドレスを身にまとい現れた


名桐「どうかしら」

男「とても綺麗だ…」

名桐「そ、そう?アンタも中々いい感じじゃない」

男「そうかな?それならいいんだけど」

名桐「ええ。後、こういう場ではエスコートをしてほしいのだけれども」

男「そうなのか…こんな感じかな」


ぎゅっ


名桐(なっ!腕を組めとまでは言ってないわよ!でもまあアリね)

名桐「…ま、そんなものね」

男「そう?」

名桐「ふふ…じゃあ六階まで行きましょうか」

男「よろしくね」

名桐「まあ任せてなさい」



名桐「今空いてるかしら」

「申し訳ありませんが只今満席でして…」

男「あら」

名桐「そう、名桐風香が来ると総支配人に伝わって無かったのかしら」


その時、廊下の奥から支配人とおぼしき男性が駆けてきた


「も、申し訳ございません名桐お嬢様。只今vipルームの準備をしておりますので…」

名桐「あら、支配人遅かったじゃない」

「いえ、急な事でしたので何分…ささ、こちらに」

名桐「はあ…お父様が来たときもそういって言い訳するのかしら」

「い、いえその滅相もございません、あの…」

名桐「ま、いいわ。早く案内しなさい。空腹なのよ」

「ええ、はい。直ちに」


男「…君ってもしかして凄い人?」

名桐「父が優秀なだけよ。使えるものは使いたい性分なのよね」

男「ああそういう…」


………


男「…」

名桐「…ま、ランチならこんなもんでしょうね」

男「…そうなの?」

名桐「ええ。さ、食べましょ」

男「あ、うん。いただきます…どれから手を付けたものかな」

名桐「好きなものを食べなさいよ」

男「ちょっと見たことない食べ物が多くてね…」

名桐「そうでしょうね、なら…あーん」

男「あーん…うん、美味しい!」

名桐「ふふっ、どんどん食べなさい」

男「そうするよ、ありがとう」


名桐(…餌付けしてる気分ね)


………


男「ふう、ごちそうさまでした」

名桐「お粗末様でした、さて」

男「ん?」

名桐「食後のコーヒーを頼むけどどうする?」

男「お願いするよ」

名桐「ええ」


男「あー…暖まる…」

名桐「そうね、まあちょっと冷房が効きすぎかしら」

男「こっち冷風直撃コースでね…」

名桐「それならそうと早く言いなさいよ」

男「いやあ名桐さんが丁度良かったら悪いなあと」

名桐「あのね…いくら私でも言われてもないことを察するのは不可能よ、それに!変な遠慮は止めることね、あくまで私とあなたは対等よ」

男「そうだね、そうするよ」

名桐「わかればよろしい、じゃあそろそろ出るわよ」

男「ああ、行こうか」



名桐「さて、じゃあ私はピアノレッスンがあるから車で帰るわね」

男「スーツはどうしようか」

名桐「ああ、学校で返してくれればいいわよ」

男「そう?なんか悪いね」

名桐「なんならあげてもいいわよ、どうせ着る人がいないのだから」

男「それは駄目だって」

名桐「ふふ…あら、もう迎えが来たのね、じゃあまた明日。学校で」

男「うん、明日からまたよろしくね」

名桐「…ええ、それじゃ」


男「行ったか…さーて」

男「タクシー呼んで帰ろ…」


名桐(中々、面白いわねアイツ…次は何をしようかしら…)


カミングスーン


秘密を知られたからには生かしておけないのだけれども、生かすか殺すか悩むラインの秘密がバレてしまったときはどうするべきなのかしら。とりあえず半殺しが正解よね。…私がいないところで何かちょっかいだしてる輩もいるようだし。次回、「クンレン」。後輩には頑張ってほしいわね(岸華)

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