第五話

自由人の朝は早い


吉祥「…」


早いだけで頭は正常に動いてない


吉祥「…」


この家には誰もいない


吉祥「…」


遅刻するぞ


吉祥「…」


明日は補習だぞ…?


吉祥「…」


第五話 イチゲキ


吉祥「セーフ!」

名桐「アウトよ」

吉祥「なんだ?まだホームルームが終わったくらいだろ?」

名桐「もう三限が始まるわよ」

吉祥「道理で明るい訳だ」

名桐「…ふん、馬鹿ね」

吉祥「そういうお前こそうちの部室で何してんのさ」

名桐「別に?体調が悪いから休んでるだけよ」

吉祥「あっそ、興味ねーわ」

名桐「あ、あんたが何してるかって言うから答えてやったのに何よその態度は…」

吉祥「まあそうかっかするなよ、身体に悪いぞ」

名桐「…はあ、アンタと話してると頭痛がしてくるわ」

吉祥「そりゃ生きてる証拠だ、まだ大丈夫そうだな」

名桐「早く教室に行きなさいよね」

吉祥「あんたもな」

名桐「言われなくても行くわよ…」


………


吉祥「なんか今日変だな」

名桐「何がよ」

吉祥「皆変だ」

名桐「あんたそこら辺は勘が良い方じゃない、気付かないの?」

吉祥「遅刻したからかな、周りが見えてない」

名桐「ふーん…まあ私が教えてやる義理もないわね」

吉祥「なんだ、優しくないな」

名桐「よーくクラスの噂話に耳を傾けることね」

吉祥「友達がいないアンタが噂話なんて耳に出来るんだな、驚愕だよ」

名桐「余計なお世話よ」

吉祥「取り巻きが多いのは見てて大変そうだな」

名桐「本当よ、面倒ったらありゃしないわ」

吉祥「だろうね…さて、岸華を探すか」

名桐「あら、気づいてるんじゃない」

吉祥「最近の様子を見ればピンとくるよ、しかし面倒だな」

名桐「友達でしょう、そう言わず動いてやりなさいよ」

吉祥「なんだ、優しいな」

名桐「…違うわよ」

吉祥「優しいガール名桐風香」

名桐「怒るわよ」

吉祥「怒らないで」

名桐「…」

吉祥「じゃっ」


名桐「…イライラするわね本当」

佐藤「笑」

名桐「なに笑ってんのよ!」


………


「ねーねー岸華さんさあ、昨日赤田先生と一緒に商店街にいたよねー?」


岸華「…ええ、そうだけど」


「あー!やっぱりぃ?」「二人でいちゃつきながらどこか行ってたよね~笑」


岸華「いちゃついてなんかないよ、それに昨日は…」


「本当さあ、頭の良い人は違うよね~」「先生に取り入って成績アップとかおもいつかないわ~」「あの後何したの?二人で休憩とか?笑」


岸華「…昨日は部活の話をしただけで、なにもしてないよ」


「嘘っぽーい笑」「ははは」「どこまでシタの?」「ぎゃははは」


岸華「…あはは」ピク


吉祥(教室にいたか…さてどうしたものか)

吉祥(飯っていって無理矢理つれてくのは…駄目だな、岸華食べ終わってるし)

吉祥(といってこないだみたいなのもちょっと怪しすぎるし)

吉祥(さてはて…)


名桐(あんた早く行きなさいよ)

吉祥(うおっ…このツンデレめ、来たのか)

名桐(ツンデレじゃないわよ!)

吉祥(まあさておきだ、君ならどうする?)

名桐(ふん、なんで私が何かしないといけないのよ)

吉祥(良いじゃん、友達だろ?)

名桐(やめてよ気持ち悪い)

吉祥(…しょっく)

名桐(ええいわかったわよもう…)


名桐「ねえアンタ」

岸華「…なにかしら?」

名桐「余裕綽々って感じね、ふん。ちょっと顔貸しなさいよ」

岸華「…いいわよ」

名桐「部室に来て」

岸華「…」ガタン


吉祥(あれは…優しいガール名桐風香ちゃん!)


「怖~あれ隣の名桐さんでしょ?」「あのこも調子乗ってるよね、家が金持ちかなにか知らないけど」「ぎゃははは」「ほんとほんと笑」


吉祥(…さて、部室にいくか)



岸華「で…なにかしら?」

名桐「…なんだったかしら?忘れちゃったわ」

岸華「…ありがとう」

名桐「あら、あなた人に素直にお礼が言えるのね、知らなかったわ」

岸華「なによ」

名桐「なんでもないわよ」

吉祥「なんでもないわよ」

岸華「あなたの差し金ね」

吉祥「さて?なんのことだか」

岸華「まあ、面…っとああいうことされると困っちゃうから助かったわ」

吉祥「へいへい…さて、飯でも食べるかな」

名桐「そうね」

岸華「私も教室に帰るのは嫌だし少しここにいるわね」

吉祥「おけ」


吉祥(青春かな、青春だなあ…)


………


七原「先生っ」

男「どうした七原~抱きつくのはやめような」

七原「先生~」

男「こそばゆいから腹に顔を埋めないでね、やめようね」

七原「あう、引き剥がさなくても…」

男「あのなあ」

七原「こうして先生と二人っきりになれて私、とーっても嬉しいんですよ」

男「そう、それはよかったね」

七原「つ、冷たいですね…」


香椎「こんにちは、先生」

男「おっ香椎さん。こんにちは」

香椎「今日から新人戦に向けて一緒に頑張りましょうね」

男「うんうん、そうだね。皆大変だと思うけど出来る限りのサポートはするからさ」

香椎「その思いが嬉しいんですよ」

男「おー嬉しいこと言ってくれるね」

香椎「うふふ」


七原(なんか…私と扱いが違う…!!)


吉祥「よす!」

男「よす~」

吉祥「なんだ皆早いな」

七原「今日から本格的に大会に向けてですからね、頑張りましょう」

男「補習にならないようにな、吉祥」

吉祥「とほほ…」

岸華「そうだよ、皆で大会に出れるように頑張ってね」

吉祥「たはーっ、難しいことを仰る人達だ」


新田「全員揃ってるか?」

「「「「はい!」」」」

新田「今日は第二野球部OBの光先輩が来てくださる大事な日です、胸を借りるつもりで気合いを入れて参りましょう!」

岸華「…」

吉祥「頑張ろうぜ」

岸華「頑張るとか頑張らないとかそういう話じゃないのよね…」

香椎「?」七原「?」

男「どういうこと?」

吉祥「ああ光さんはね…」

岸華「やめてちょうだい」

吉祥(まあどうせ本人が来るんだし言わないわ)

佐藤「笑」

岸華「むう…」


………


??「やほー!どうもー!おひさー!はじめましてー!」


訓練所につくと何か口走りながらこちらに歩みよってくる人間がいる。どこか浮世離れしたその言動は不審者を思わせた


男「…なんかヤバい人がいるんだけど」

吉祥「あれが光さんよ」

男「まじ?」


光「やーひじり~頑張ってるかーい?お姉ちゃん心配してたんだぞ~?」

岸華「やっぱり来なければ良かったわ」

光「冷た~い!…と、新顔が何人かいるわね!じゃあ自己紹介からね!」


光「私は岸華光キシバナヒカリ!この第二野球部に五年前まで所属をしていたわ!今は国の職員として働いてるエリートよ!よろしくねっ!」

岸華「…」

吉祥「…」

光「はくしゅ~」パチパチパチ

光「じゃあ次はそこのショートカットのクールちゃん!」

七原「ええと今年から第二野球部に入部しました七原海です、よろしくお願いします」

光「特技は?」

七原「はい、体術です」

光「そう!体術は大事、良いことね。よろしくっ!次は横のポニーテールガール!」

香椎「は、はいっ!同じく第二野球部に入部しました、か、香椎創ですっ!よ、よろしくお願いします!」

光「特技は?」

香椎「ま、『魔術』だと思います、体術はどうも苦手で…」

光「そう!人には一つ二つ苦手なものがあるものよ!私も体術はそんなに好きじゃないわ!よろしくねっ!」

光「じゃあ最後はそこの老けた男子の君っ!」

男「えー今年付けて二南高の教師になりました赤田友紀です、よろしくお願いします」

光「なんだ先生だったのか…って赤田友紀!?あの赤田?私のこと覚えてないの!?」

光「岸華光、二南高史上最悪の問題児!五年前この校舎が使えなくなった原因といえば私なのに!?」

光「覚えてないの!?同級生だったのに!?」

男「えっ、いや確かに私が在学中に旧校舎は立ち入り禁止になったし五年前と言えば私も二南高の三年だったし同級生…なのかな?」

光「卒業アルバム見てえええ!帰って見直してえええ!」

男「え、ええわかりました」

光「あっ」

男「ど、どうしました?」

光「そっか、そうだったっけ、今思い出した」

男「???」

光「さて!早速準備運動から始めようか!」


戸ノ内「おお、久しぶりネ~」

光「先生!どーも!」

戸ノ内「活躍は紅田から聞いてるヨー、こないだも………」

光「いえす!そのときは…………」


岸華「…はあ」

男「あの人、岸華さんのお姉さんなんだね、随分個性的な人だね」

岸華「言わないでください、嫌ですので」

男「え?うん」

男(仲悪いのかな?)


吉祥「さあて、光さん!一丁お手合わせ願いましょうか!」

光「お?吉祥~また一回り大きくなったかあ?」

吉祥「去年から三㌢程伸びまして…」

光「ははは!良いことね!身長が高いってのは大きなアドバンテージよ!私も198はあるわ!」

男(新田部長より大きいんじゃないか…?)

戸ノ内「おっけーじゃあ審判は私がしよう、準備はおっけい?」

吉祥「いつでも!」

光「おーらーい」


戸ノ内「では構えて!」

戸ノ内「ふぁいと!」


前回のようにいきなり記憶が飛ぶのでは?と心配したが二人は五㍍程の距離を保ったまま相手の出方を見ているようだ


岸華「…先生には少しリフレクターを張ってますから先日みたいなことは起きないと…思います、多分…」

男「あ、ありがとう」

男(多分!?しかし便利いいな…)



床に横たわる吉祥は意識こそあれ左手は形を失い、頭部は左側には血溜まりが見えた


七原「…」香椎「…」

岸華「…あれで手を抜いてるから質が悪いのよ」

男「滅茶苦茶怖いんですけど」


戸ノ内「大丈夫かナー?」

吉祥「…えぐい」

光「うんうん、打たれ強いのは大事だね!」


そのまま戸ノ内先生が吉祥に手を翳すと頭部の出血と左手の損傷が治ったのか、すくと立ち上がった


吉祥「さんきゅ…はあ~」

光「良いんじゃないかな!『魔力』は上がってたし、無理に搦め手に逃げなくても体術でも押せそうだね!まあ私には通じないけど!」

吉祥「うぐっ」


岸華「…こういう人なので嫌なんです」

男「おおう…」


光「さー次は…七原ちゃんかな!おいで!」

七原「はっはい!よろしくお願いします!」

香椎「が、頑張って」

光「うんうん、チーム戦では応援が大事だね!なあ聖ちゃん!」

岸華「…」

光「わお、つめたーい」


戸ノ内「じゃ、いいかナー」

光「うぃ!全力でおいで!」七原「はっはい」

戸ノ内「構えて!ふぁい!」



先程と同じく手を翳し七原を治療(?)する戸ノ内先生。あれも『魔術』なんだろうな…


光「体術は良!ただ実践経験が足りないかな、闇雲に振り回しちゃあ駄目だよ!」

七原「べ、勉強になりました…」


男「なんていうか…凄く強い?」

岸華「…そうですね」


香椎「つ、次はわ、わた、私の番番番でしょしょしょうか、か?」

光「うん」

香椎「がっがっがっ頑張ります」

光「緊張してたら本番でも実力が発揮できないよ!頑張って!」


吉祥「やっぱり国軍所属はプロとは違うな」

七原「!!…国軍所属の方なんですね、納得です」

吉祥「残念ながらあれでも手を抜いてるよ、とんでもないかくし球があるんだよ」

七原「…見てみたいですね」

吉祥「どうかな、本人いわく格上にしか使わないそうだ」


戸ノ内「じゃあ始めるヨー」

香椎「はっはっはっはっはい」

光「頑張ろう!」

戸ノ内「構えて?」

戸ノ内「始めっ」



光「えいえい」ポカポカ

香椎「わあまいりました」


最後は光が二、三発殴る蹴り香椎が戦意喪失すると戸ノ内が双方に治療を施した


光「焦った!まさかここまで大出力の『魔術』詠唱が使えるとはね!新人二人とも経験こそ足りないけど頑張ればもっと強くなれるよ!」

香椎「あ、ありがとうございます」

七原「ありがとうございます!」

吉祥「私は?」

光「体術は良いんだけどね。『魔術』が奇をてらい過ぎかな」

吉祥「うーん手厳しい」


男「何が起こってたかさっぱりわからなかったんだけど」

岸華「『魔術』が見えないと結果として顕著してるだけですからね…中々高等なのを使ってましたよ」

男「へえ」


光(全然まだ隠してたな香椎ちゃん。私も人のこと言えないけど)


岸華「光さん」

光「何?聖ちゃん」

岸華「…私もしますか?」

光「当然!遊んであげるよ」

岸華「…」ピキ


戸ノ内「姉妹喧嘩だネー、開始の合図はいらないかな。勝手にどうぞ」


岸華「…」

光「ふん」


戸ノ内先生が開始を告げると(告げてはないが)早速殴る蹴るの応酬が始まった


岸華「…ッ」

光「ふーん」


手数が光の方が多いのか何発か岸華に当たり始める。劣勢と見たのか岸華がどこからともなく長剣を取り出すのが見えた


岸華「…」

光「剣術とか使えるようになったんだ、へえ」


岸華が一撃加えんと剣を振り下ろすが光は事もなさげに腕で受け止める。耳障りな金属音が響き渡った


男「…???」

吉祥「『魔術』のはずなんだけも…」

七原「流石に…これは無理ですね」

戸ノ内「まあ世の中には何もせずともあのくらいなら受け止める奴はいるけどネー」

香椎「それは…人間ですか?」

戸ノ内「…多分」


男「???」


岸華「…能力は」

光「使わないよ?聖ちゃんごときに」

岸華「…」ピキ


怒りからか、手数の増した岸華だったがそこまでだった。荒くなった攻めを読まれたか痛烈な一撃を頭部に食らうと、そのまま崩れ落ちた


戸ノ内「はいおしまーい治すよー」

光「我が妹ながら情けないな!母上が見たらなんと言うか…」

岸華「…」


戸ノ内が即座に治療を終わらせると、岸華は何も言わずこちらに近づき、座った


岸華「…今日はこれで終わりですよね?」

新田「ええ、動画も撮ったので明日からこれをもとに練習です」

吉祥「部長全く喋りませんでしたね…」

新田「自分の声を聞くのが苦手で…」

吉祥「カラオケとか行けないですもんね…」


七原「大会で活かせるように頑張ります」

香椎「わ、私も少し、自信になりました」

光「うんうん、またそうのち来るから今度はご飯にでも行こうね!それじゃあねー!」


こうして嵐のような人が去り、今日の部活は終わった…


………


光「赤田君ってあの赤田君ですよね?」

戸ノ内「…そうだネー」

光「じゃあ本当に…」

戸ノ内「あーうん忘れてるんだヨー」

光「…現実って厳しいなあ」

戸ノ内「あの娘もそう言ってたよ」

光「そう、ですか…」



男「凄く疲れた感じがする」

吉祥「だろうね、慣れないことだらけだったでしょ?」

男「うん」

吉祥「まあゆっくり寝るといいよ、それじゃあ帰ろうかな」

男「香椎さんと七原さんも疲れてるだろうからゆっくり休んでね」

香椎「お疲れ様です」七原「また明日ですね」

吉祥「さよなら~」


男「皆帰ったか…あれ、岸華さんいつの間に帰ったんだろう」

佐藤「我不知」

男「そっか。まあお姉さんと一緒に帰ったのかな、私も帰ろう」

佐藤「別離」

男「うん、さようなら」


………


男(なんかうちの部活って…緩いのかキツいのかわからないや)

男(ちょっと疲れたし休んで帰ろ…物理教室に行くかな)


物理教室の後ろの棚の右端の奥にはコンクリート張りの小部屋があり、男は一人になりたいときに使っていた


男(本当謎の空間だよな、他の人がいる形跡も無いし、いらないプリントとか高校生の頃置いてたのがまだ残ってるんだからな)


男(さーてのんびりすっかな、ん?中から物音が…またネズミでも住み着いたか?)


そんなことを考えながら引き戸を開け放した


プリントが散乱した机、背もたれの壊れた椅子、からっぽのロッカー


何時もなら薄暗く静かで無機質なその部屋に、その日男は初めて人影を見た


男「えっ」

「…!」


人影は他の人間が来ると思ってなかったのか動けずにいるようだった


男「誰…?というか何してるの…?」

「…赤田先生、ですか」

男「ん…?」


窓もついてない薄暗い室内に目を凝らすと、人影に見覚えのあることに気づいた


男「岸華さん?何してるのさ」

岸華「先生こそ、何をしにここへ?」

男「え、帰る前に少し休みに」

岸華「…この部屋のことは以前から知ってたってことですか?」

男「まあそうだよ。正直言うとドッキリの時もここにいたし」

岸華「そうですか…あの…ここのプリント、見たことありますか?」

男「ん?あるけど?」


と言いかけた所で岸華の肩が震えてるのに気付いた


男「どうかしたの?体調でも悪い?」

岸華「ふ、ふふ、ふふふ」

男「ど、どうしたのさ」

岸華「アレのこと、知ってたのにさも何も知らないふりして私と接してたんだ」

男「え?」

岸華「そっか…そうなんだ、ふふふ」

男「うん?」


薄暗く、無機質な部屋が急に寒さをまし一層暗くなったように感じた


カミングスーン


はろはろ!いやー私の妹はいつ見ても可愛いよね!まーもう少し強ければ言うこと無しなんだけどねえ…ま、今後に期待かな!ただなんだか不穏な空気にもなってきたなあ。次回、「テンカイ」。私の次の出番はいつなのかな、あるのかな…(岸華光)

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