2019/09/04(水)

 昨日、村上春樹の『海辺のカフカ』を読み終えた。読み始めたのが七月十一日なので、二か月近くかかっている。もちろん読むのを中断した時期もあり、実際に読んだ日数は三十日前後だ。三回目ともなると大筋を覚えているから、さすがに前に読んだときほどの感動はないが、それでも優れた小説を読んでいるという感覚はある。二回目に読んだときは小説の一番最後の文が心にしみわたる感じがしたのだが、今回特に気に入ったのは「季節は夏だ。季節はいつでも夏だ。」というフレーズだ。もちろんこれだけでは意味がわからないが、前からの繋がりでここを読むとぐっとくる。

 以下はまた別の話になる。

 ここ数十年でグローバル化が一気に進んだ。人々はどんどん流動し、遠い国の情報もテレビやインターネットで瞬時に見られる。私たちは、世の中には自分とまったく異なる価値観を持つ人たちがたくさんいることを知り、時にはそういう人たちと隣り合って生活する。必然的に私たちの価値観は相対化される。絶対に正しいことなんてないのだと私たちは思う。

 だから、今の時代、宗教というものは昔ほど力を持たない。それは考えてみればすぐわかることで、そのこと自体が良いとか悪いとか言う以前にこれは歴史的必然だ。しかし、グローバル化の果てにあらゆる文化が究極的に相対化されれば、私たちが信じられることは本当に何もなくなってしまう。それでいいのだろうか。

 というようなことも、今世紀の小説家が書かなくてはならない大きなテーマの一つだろう。しかし少なくとも私は、今の段階でこの問題に答えを出すことができない。

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