SOR.07

 海に漂う。


 もがいても、もがいても、足が地面に触れる事は無い。波に揺られ、身体が落ち着かない。周りを見渡しても水平線と群青の空、雲しか見えない。

 ぷかぷかと揺れながら、空を見上げ、呟く。

「こうやって、死んでいくんだなぁ……」

「縁起でもねぇ事言ってんじゃねえぞ、バ艦長」

 隣から突っ込みが入る。ふと見れば、直弥がすぐ近くにいた。

「そういえば、珠ちゃんと直誓は?」

 佳美は辺りを見回す。すると、手が挙がった。

「生きてるよ」

「全く最悪だ」

 それを聞き、佳美はほっと一安心した。しかしすぐ、別の不安が頭をよぎる。咄嗟に珠に確認を取った。

「珠ちゃん、ビーコン起動してる?」

「救難ビーコン? ちゃんと赤色のランプがついてるよ」

「良かっ――って、赤?」

「ああ、赤。あれ? 消えた?」

 それを聞き、佳美と直弥、直誓は戦慄した。

「それってバッテリー切れじゃん!」

「何で充電しとかないんだ!」

「それでも機長か!?」

「何でよ! 救難ビーコンなんて使うこと無いし!」

「今がその時だろうが!」




〔こちらサウレー11。微弱な反応――いや、途切れた〕

〔グレースワッチからサウレー11。生存者の捜索の必要無し。帰投せよ〕

〔そう言うな、グレースワッチ。撃墜を確認する為に、機体の残骸を探す必要はあるだろ?〕

〔必要無い。セクメト36が撃墜を確認している。だが――そこまで言うなら、残骸の確認を許可する〕

〔サウレー11、コピー〕

 洋上迷彩が施された、救難捜索ヘリコプター・CV-22B オスプレイは、固定翼モードで高速飛行を行う。同時に、IN/AAQ-27熱源センサーターレットで海面を捜索する。

〔サウレー11から12、残骸を発見した〕

〔12了解。よし、高度を落とせ。残骸を確認する〕

 マーリンHC.3がホバリング、後部ハッチを開き、ホイストでロープを降ろす。

〔こいつはひでぇ。生存者どころか、死体も無いぞ〕

〔見つけた所で、学生にどうこう出来ないだろうに〕




 佳美は目覚める。そこは、ヘリコプターの機内だった。

「サウレー12からパンテオンコントロール、残骸をいくつか拾い上げた。これより帰投する」

 そのようなやり取りが聞こえてくる。

 今、佳美達はマーリンHC.3の機内で毛布にくるまっていた。

「何で……」

 佳美が口を開く。

「何で、助けられたの……?」

「第11分校教務会と分校生徒会の指示だ。本校のやり方に反発して、だそうだ」

 ドアガンとして固定された、12.7mm GAU-19/B三銃身機関銃に寄りかかった男子生徒が、佳美の問い掛けに答えた。

「どういう魂胆か、俺には分からん。だが、何らかの意図があるだろうな。ただ見殺しにできないっていうなら、ラシーヤやハングクに救助要請を出す。たかが4人を救う為に、本校に睨まれるような事をするか、普通?」

「……それもそうだな」

 起きていた直弥が頷く。


 4人を載せたマーリンHC.3は、第11分校へと飛んでいく。




「SQB-9Bのアンテナと右舷前方のSPY-1の一部を損傷、艦橋の窓ガラスを1枚破損……損害はそんな所っす」

 〈たてしな〉では、損害状況の確認がなされていた。[補給員]のメガネそばかす女子の田村 稔子(のりこ)が、タブレット端末に表示された状況を読み上げると、[航海長]の黒髪ロング女子の宮本 祐理子が頷く。

「かしこまりました。SPY-1なら、一部が損傷しても一応は使えますが、SQB-1Bはどうしようもありませんわね……」

「アンテナの予備なんて積んでないっすよ。いっそ、シーアパッチのロングボウを――」

「アホ。ロングボウを取り外したらただのアパッチじゃねぇか」

 稔子の提案に、[操縦士]の山田 美沙が口を挟む。

「冗談っすよ。しっかし、何で対潜攻撃ヘリなんて変態兵器が積まれてるんすかね?」

「何が変態だ。MAD(磁気センサー)とソナブイによる対潜捜索、短魚雷や爆雷による水面下攻撃、30mmチェーンガンやハイドラロケットによる対潜直接攻撃、ロングボウレーダーやFLIR(熱源センサー)による潜望鏡探査とミサイル艇捜索、ヘルファイアミサイルによるミサイル艇攻撃、シーホークなんかより多くの任務が出来るっつーのに」

「人員輸送は出来ないっすけど」

「バカタレ。コクピット両側に2人くらい載せられる」

「アパッチデサントは冗談にならないっすよ……」


 今、第512水雷戦隊は海を漂っていた。テティス隊による空対艦ミサイル飽和攻撃を受けるも、4隻ともあまり損害を受けずに済んでいた。

【こちらテティス27、512水戦を壊滅させた】

【グレースワッチ、了解した。こちらもレーダーで確認している。よくやった、帰投しろ】

 〈たてしな〉艦隊司令部に、そんな音声が流れる。そこには、第512水雷戦隊の4隻の艦長や副長が集まっていた。無論、〈たてしな〉の艦長・副長の代理として、[砲雷長]の桑原 武生がいた。

「どういう事だ? 俺達も艦もピンピンしてるのに」

「私達を撃破しろって、本校は言った。その直後、まるで命令が下るの待っていたかのように飛来したテティス隊。そして、命中する直前に自爆した空対艦ミサイル。浮かんでいるにも関わらず、『沈んだ』と言ったテティスとグレースワッチ……何か、私達の知らない出来事に巻き込まれたんじゃない?」

 〈かんだち〉艦長の多田 美子(よしこ)がそう言うと、残りは頷く。すると、武生が口を開いた。

「さっきエリア11(第11分校)から連絡があったが、竹内と志賀、守田、登は無事だそうだ。きっと、分校の考えを――」


 そんな会話に、聞き耳を立てる2人がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Blue Water Floutilla 神奈内かんな @fox3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ