SOR.04

 1機の真っ白なSH-60K シーホークが飛ぶ。

〔ニアヴ01、こちら本校管制室、サムエルコントロールだ。貴機をレーダーで捕捉した。着陸誘導を開始する。アプローチを開始せよ〕

「ラジャー。着陸地点(ランディングポイント)を示してくれ」

〔サムエルコントロールからニアヴ01、了解した。あぁー……E-767が離陸中か。ニアヴ01、方位280から高度250でアプローチ。着陸地点は15HS(第15ヘリスポット)だ〕


 敷島学園 本校は非常に広大である。何本もの滑走路や大量の格納庫、大きな船着き場、巨大な演習場が集まり、陸軍 1個師団と空軍 1個航空師団、海軍 2個空母艦隊と3個航空隊に匹敵する人員と兵器が寄せ集まっている。

 その中の、駐機場の端にいくつも並んだヘリポートへとSH-60K シーホークが飛ぶ。その途中、佳美は眼下の駐機場を見る。そこには、敷島連邦空軍主力制空戦闘機・F-15MZ イーグルや多用途戦闘機・F-2A バイパーゼロの他、中州帝国空軍の戦闘爆撃機・殲-16A 轰鶴、チーターC、MiG-29K シーファルクラム等、世界中の戦闘機が並んでいた。

 SH-60K シーホークは着陸体勢に入る。地上誘導員に誘導され、着陸する。

 無事に接地、エンジン出力を下げる。そして、佳美と直弥が降りた。



「で、君達は戦艦〈ティルピッツ〉に対しSSM攻撃を実施、そして撃沈した、と」

「あの艦は我が校への亡命を希望していた」

「そんな連絡は受けていません。現在、〈ペーター=シュトラッサー〉所属の乗員を確保していますが、そのような話は――」

「当然だ。〈ティルピッツ〉は本校に連絡をしてきたのだ。君達分校への連絡は後手になってしまうのだ」

「なら――」

「だが、君達は亡命希望者に攻撃をし、挙句の果てに見殺しをした」

「それは、〈ティルピッツ〉の救命ボートが突如消えたからで――」

「言い訳は無用だ。君達は海軍士官候補としての――」

「なら言わせてもらいますけど、人の話が聞けないのは教師として失格なんじゃないですか!?」

「本校教務会に向かって何という口答えだ!」

「本日をもって第512水雷戦隊は作戦行動を禁止、寮にて待機処分とする」

 丸く並んだ円卓、その外に立たされた佳美と直弥はショックを受ける。すると、佳美は後ろに廻した手で直弥にサインを出した。それを見た直弥は小さく頷いた。そして、佳美はパンツスーツのポケットから何か赤い筒状の物体を取り出した。

 直後、佳美はその物体を高く掲げ、その上部にあるボタンを押した。それによって物体から赤い液体が噴射されていく。直弥も、隠し持っていた中州帝国製短機関銃・渝州長風機器公司 CS/LS-06を取り出し、槓桿(コッキングハンドル)を引いて撃ちまくる。

 教師達が目や口を押さえながら悶え、直弥の乱射で次々と倒れていく。2人はそのまま部屋を出ていった。


「なあバ艦長、そいつは一体?」

「護身用激辛スプレー。通販で買った」

「……まさか、こうなると予想していた?」

「そんな訳無いでしょ。一応持ってきただけよ。そっちだって、そんなサブマシンガン隠し持ってきた癖に」

 廊下を走る2人がそんな会話をする。佳美は、防犯スプレーをポケットに仕舞い、代わりにブレザーの中から1丁のポルスカ共和国製自動拳銃・PAラドム PR-15ラガンを抜いて遊底(スライド)を少し引く。少しだけ開いた排莢口(エジェクションポート)を見て、薬室(チャンバー)に初弾が入っているか確認した。一方の直弥も、CS/LS-06の螺旋状弾倉(ヘリカルマガジン)を交換、2人は駐機場目指して走る。


 2人は校舎を出て、駐機場の方向へと走る。すると、そこへ1台のベリカヤラシーヤ連合王国製汎用車両・UAZ-469が走ってきた。2人はその行く手を阻めるように立ちはだかった。急停車したUAZ-469に近付き、運転者に銃を突きつけた。そして、躊躇いも無く発砲した。

 実演弾頭によって眠らされた運転者を引きずり降ろし、運転席に直弥が、助手席に佳美が座って急発進した。

「随分手荒ね」

「お前こそ、頭に9mmを2発も撃ち込んだ癖に。俺は胸を狙ったんだぞ」

 直後、フロントガラスにヒビが入る。振り返れば、何人かの生徒が小銃を発砲してきていた。

「早くニアヴへ戻って! もっと踏み込め!」

「わーってるよ! 舌噛むなよ!?」

 UAZ-469に積まれたトヨタマ自動車製3S-GE直列四気筒DOHCガソリンエンジンが唸りを上げ、加速していく。すると、1両のピリピーナス共和国製小型装甲車・MX-8 バラコが追い掛けてきた。

「畜生、装甲車が出てきやがった!」

「どうするの!? こんなオンボロジープじゃぶつけられたら大破、しかも武器はピストルとサブマシンガンだけ!」

「後ろに何か無いか!?」

 そう言われ、佳美は後席を振り返って見る。後席は倒され、そこには何丁かの銃が置かれていた。その中から、1丁の小銃を持ち上げた。

「重っ!」

 槓桿を引き、助手席側の窓をハンドルを回して開ける。そして身を乗り出して構えた。開いた二脚(バイポッド)を屋根の幌の上に置く。狙いをMX-8 バラコ小型装甲車に合わせ、引き金を引いた。

 その小銃――ラシーヤ兵器研究局 6P62――は、小銃から出てくるようなものではない12.7×108mm Б-32実演焼夷徹甲弾が連射される。重機関銃や対物狙撃銃に使われるような弾丸が、MX-8 バラコ小型装甲車の薄い装甲をかち割る。そして、MX-8 バラコ小型装甲車が大破した。

「……こいつはすごい」

 一言呟いた佳美は、車内に戻った。そしてスマートフォンを取り出して電話を掛けた。

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