SOR.03

 広い海原、波に揺られ2人は漂う。身に着けていた耐Gスーツは膨らんで浮き輪代わりとなっている。救難ビーコンは作動を確認している。そこへ、ローターの風切り音が聞こえてきた。見れば、1機のヘリコプターが近付いていた。


〔搭乗員2名を確認、意識はある模様〕

〔了解、その場でホールド。内火艇チームの到着を待て〕




 しばらくすると、2艘のモーターボートが近付いてきた。海面に浮いていた2人は手を振る。そのモーターボートは2人の側に寄ると、その乗員達は2人に散弾銃を向けた。




「チュートン学府 海洋作戦部 海洋航空科 〈ペーター=シュトラッサー〉所属、第715飛行隊のハンカ=ウルリッヒ=ルーデルとエルヴィーラ=ガーデルマン、だって?」

 茶髪ロングの艦長――竹内 佳美――が医務室へと向かいながら、副長――志賀 直弥――に問い掛けた。

「この艦にはチュートン語が出来る人間が居ないから、たどたどしいイングランド語とバックラブ先生による翻訳頼りだったらしいが」

「ふーん……にしても、あの艦、何で自沈したんだろう」

「知るか。それに、あの搭乗員に聞いたって無駄だろうな」

「何でぇ? そんなの訊かないと分かんないじゃん」

 そして2人は、医務室に入った。


 そこには、2人の少女が毛布にくるまった状態で温かいココアを飲んでいた。片方は褐色髪の三つ編みおさげ、もう片方は金髪ショートであった。そんな2人を見た佳美は、思わずを声を出した。

「可愛いじゃん」

「手を出すなよバ艦長。彼女らは捕虜だからな」

「分かってるわよ。拷問はしないから」

「それ以外もすんじゃねぇ」


 その光景を見ていた2人の少女は、チュートン語でひそひそと話す。

「私達、敷島語が出来る事、伝えた方がいいんじゃない?」

「何言ってるの。ここは黙って情報収集よ」


 医務室の中には、2人の捕虜少女の他、[衛生長]という腕章を付けた黒髪ロングの女子生徒・倉橋 優美子と、トスカーナ共和国製の自動散弾銃・TBペーザロ M3Tを携えた[船務員]の男子生徒・福士 宏次朗、チュートン公国連邦製短機関銃・ベッセル&コクツェーユス MP5K-PDWを携えた[機械員]の女子生徒・森 眞理、そして[艦長]の竹内 佳美、[副長]の志賀 直弥の7人がいた。

 スマートフォンを片手に、佳美が捕虜少女に尋ねる。

「大型艦が自沈した理由は、何か知ってる?」

「佳美ちゃん、自沈したの?」

「ゆみりん、知らな――ここにいたんじゃ、しょうがないか。あの大型艦、対艦ミサイルが2発煙突に命中した後、自爆したの。勿論、総員退艦した後だろうけど。んで、海に浮いていた救命ボート群は忽然と姿を消した」

「消えた? 何で?」

 眞理が口を挟む。が、直弥は首をすくめた。

「それが分かっちゃ苦労は無いさ」

 その時、佳美はスマートフォンの画面を捕虜少女2人に見せた。そこにはチュートン語で[あの大きな船について何か知っているか?]と表示されていた。金髪ショートはスマートフォンを借り、そこに文字を打ち込む。そして、佳美に返した。そこには[私達は、Tirpitzを追って落とされた。それ以外は知らない]と表示されていた。

「ティルピッツ、チュートン学府の戦艦ね」

「ビスマルク級2番艦、だったか? ま、とにかく大物だ」

「ティルピッツ、ねぇ……」

 佳美が呟く。そして、スマートフォンで検索をした。

「380mm二連装砲が4基に、76mm速射砲が2基、20mm近接防御機関砲が4基、Mk49近接防御ミサイル発射機が2基、Mk141対艦ミサイル発射機が2基。大々的な改修はしてないのね」

「そりゃ、主砲を全撤去してイージスシステムを積むうちの学園がおかしいんだ」

 直弥が突っ込む。するとそこへ、1人の男子生徒が血相を変えて駆け込んできた。

「艦長、副長、大変だ!」

「どした?」

「本校教務会から、呼び出しが来てるぞ!」




 敷島学園 本校教務会。敷島学園の方針や戦略を決定する、いわば「参謀本部」である。22個ある分校の分校長と、本校所属教員の中から選ばれた9人、計31人から成る組織である。しかし、彼らは生徒達に恐れられていた。彼らの将来は正に「生かすも殺すも教務会次第」だからだ。更に悪いことに、教務会は生徒に対する裁判権も持っていた。


「まずいぞ艦長、進級早々陸へ異動か?」

 CIC(戦闘指揮所)へ移動した佳美を出迎えた[通信員]の男子生徒――丸岡 和雄――がそう言いながら、佳美に電報の文を手渡した。そこには、[タテシナカンチョウ,フクチョウハタダチニホンコウキョウムカイヘシュットウセヨ]と書かれていた。

「で、どうすんだ艦長殿?」

「しょうがないでしょ。本校kに出向くしかないじゃない。航空隊、シーホークを準備」




 重巡洋艦〈たてしな〉のヘリ格納庫から、1機の対潜哨戒ヘリコプター・開成重工 SH-60K シーホークがRAST Mk6着艦拘束装置によってヘリ甲板へと引き出される。そして、燃料が入れられていく。


 SH-60K シーホークは、イクサチラン共和国連邦のストルガツキーエアクラフト社が開発した艦上対潜哨戒ヘリコプター・SH-60B シーホークを開成重工がライセンス生産したSH-60J ホワイトホークの後継として開発されたヘリコプターである。SH-60J ホワイトホークで問題となった「汎用性の低さ」を解決するため、機体を一回り大きくした他、短魚雷のみならずAGM-114 ヘルファイア対戦車ミサイル、150kg航空爆雷、機関銃を搭載できるように改良されている。


 燃料が入れられた後、メインローターとテールシャフトを展開、エンジンを始動させる。その間に佳美と直弥が機体に乗り込む。機内には、2脚の簡易シート、1丁の7.62mm 74式車載機関銃、懸架式ソノブイが備わり、2人はその簡易シートに座り、シートベルトを装着する。

 一方、コクピットでは機長がエンジンとメインローターとを連動させながら安全確認を行う。副機長も確認、管制室へ発艦許可を求める。

「ニアヴ01よりビジンサマ、発艦許可を乞う」

〔ビジンサマ了解。ニアヴ01、発艦を許可する。おいバ艦長、くれぐれも異動なんて真似すんなよ? 艦長不在じゃこの艦はどうにもならないからな〕

「だ、そうだ」

 そう言いながら、副機長――登 直誓(なおちか)――がヘッドセットを佳美に手渡す。受け取った佳美が口を開く。

「心配しないでよ、あきちゃん。そうそう、今夜は暇?」

〔一言いいか? くたばれ〕

 航空管制員――丸岡 あきら――からの暴言に、佳美は肩をすくめる。そして、ヘッドセットを直誓に返した。そして、機長――守田 珠――がアナウンスを始めた。

「ニアヴ航空をご利用頂き、ありがとうございます。こちらは、敷島学園 本校行き、01便でございます。お客様にお願いします。離陸時に揺れる可能性がありますので、シートベルトは外さないようご注意願います。離陸後は、機内サービスの者が参りますので、御用の方はお声がけ下さい。気分が悪くなったら、隣席にエチケット袋を用意していますので、そちらの方へお願い致します。では、01便、離陸します」

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