第44話 怒涛の金曜日! 夕の宴

 (ここからは、エピローグという名の、続編へのつなぎです)




「今日は特に大変だった!」


 あおいの番組からはじまって、新広告に度肝を抜かれ、叶恵と壮馬のカップル成立、(事前に分かってはいたけれど)類と聡子の爆弾発言と周囲の反応。しかし、まさかのふたご発覚!

 一年分ぐらいの事件が起きた、たぶん。


 で、今は両親のマンションの部屋で打ち上げをしている。


「ボーナスおめでとー!」

「第四子、おめでとー!」


 類と涼一はビール。さくらと聡子はジンジャーエール。


「おつかれさまでした!」

「がんばって生むわよ!」

「あおい、テレビにいる」


 ぱたぱたと走るあおい。ご本人さま出場の体操録画を何度も観ている。弟の皆は、おねむである。


「おめでとうございます(笑顔)」


 そして、異物がいる。エイリアンである。


「ま、真冬さん……!」


 普通に、ダイニングの席に座っている。ちゃっかり、家族気取りで。


「真冬くんには、お世話になっちゃって」

「いいえ。お部屋を貸していただいているのですし、当然ですよこれぐらい(堂々と)」


 聡子よ、そこは否定してほしい。部屋なんて、決まるまでホテルで仮住まいをすればいいのに。柴崎家の事情に急遽巻き込んだ感はあるけれど、住居までお世話するなんて贔屓だ。


「どうしました、さくらさん? うつくしい俺に、見とれちゃいました?(困ったなー)」


 くっ……! この余裕、どうしてくれる! 類とは違う方向で、美青年なだけに始末が悪い。


「早く、お部屋が見つかるといいですね(棒読み)」

「ふーん。いいの? 俺に『用がある』んじゃないの?(疑問投げかけ)」

「う」


 用はある。

 真冬は、『別れさせ屋』なのか否か。叶恵の言うことが事実ならば、説得して辞めてもらう。聡子にも進言する。


「なにい、さくら! まふゆんに用? 聞き捨てならないなあ。ぼくの身体じゃ、満足できないの?」

「夫を差し置いて、ほかの男に走るとはなにごとだ! そんなゆるゆるの女に育てた覚えはないぞ!」


 ええと、この意味不明な発言は、誰のものか説明しなくても推測できますよね……はあああぁぁぁあ。類も涼一も、いきなり酔っている。


「類くん、父さま。落ち着いて」

「「これが落ち着けるか!!」」


 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる男ふたりを横目に、さくらはあおいの様子を見た。

 テレビの前からとことこ歩いてきたと思ったら、真冬の膝の上にちょこんと乗ってしまった。


「まふゆーん! ごはん、おいしい? まま、つくったんだよ」


 げ……あおいは、いわゆる面食い……(人のことを言えないが)? 真冬にのっかって、女子の顔をしている!!


「おいしいよ、とっても。毎日食べたいね」

「あおいのおうちにもきて?」

「ありがとう、あおいちゃん」


 そう言いながら、真冬はあおいのかわいいほっぺにちゅっとした! うれしそうに、あおいも真冬の頬にちゅう返しをする。

 ええええええええええええ、浮気? 玲と結婚ってどうなったん? 何方向に矢印出してんの? 攻略対象多すぎでしょ!


「‘{}LPKOUHIFDRFYHU`('T&%DSEDRIFGUHIKLP`LPKOJH!」


 ああ、類がフリーズした。制御不能、処理不能。


「え、えーと。ところで、ふたごちゃんっていうことは、はじめて聞いたんだけど。父さま?」

「悪い、さくら。聡子がさくらと類くんも驚かしたいって言うから、つい」

「ごめんね、でも妊娠はこれが最後だと思うし! これからのことは日を改めて、また話し合いましょうね」

「……と、いうことだ」


 結局、涼一は聡子に甘い。

 聡子がふたご……前途多難。皆もいるし、ひとりで育児は不可能だろう。乳母を雇うのか? それとも? 想像しただけで怖ろしい。鳥肌が立った。


 難題が片づいてきたと思ったのに、また新しい火種勃発! 柴崎家、どうなる?


***


 明日の土曜日は早番だという真冬。食事を終えると帰ると言った。

 さくらは聡子の代わりに、玄関先まで見送りに出る。


「もう一度言います。早く、お部屋が見つかるといいですね」

「厭味もかわいいね。まあ、そのつもりだけど。ベッド、ふかふかで使いやすいんだよねー(下心)」


「ほかの家具は親の持ち物ですが、あれは私たちのものです!」

「何度もあのベッドの上で、さくらさんと類がはげしーく交わったのかと思うと、もー興奮しちゃって(下心×2)」

「や、やめてください」


「そうだね。夫婦なんだから、当然だよね。でも、俺ともしようよ。一度したら、すぐに出て行くし(挑発)」

「交換条件には応じません」


「ちっ。じゃあ、こういうのはどう? 俺が知っている、類の秘密を教えてあげるから、えっちいことしよ?(さらなる挑発)」

「類くんの秘密?」


 不覚にも、心が動いてしまった。見透かしたように、真冬が続ける。


「類の、初めてのときのこと、類の経験人数、類と俺のほんとうの関係、などなど。さくらさんは、経験人数=類、なんでしょ(ちょいと蔑み入ります)」

「知りたくありません。類くんが言わない限り、それは禁句です」


「あいつ、軽くてオープンな性格を装っているわりに、案外秘密も多く隠しているよね。類の過去、気になっているんだよね(憐憫)」

「いいえ。知らなくていいです……類くんが黙っているんだし、過去は過去です」


「(動揺作戦)ほんとうに、それで納得できる? 夫婦なのに、フェアじゃないよね。さくらさんだけ我慢して嫉妬なんて。ねえ、さくらさ……」

「真冬さん、ぼくの妻をいつまで拘束するつもりですか」


 類も玄関先にやってきた。怒っている、とても。


「妻を誘惑するのはやめてください。人のモノを横取りする癖、早く治してください。病気ですよ」

「横取りじゃないよ、取り引き(堂々と)」

「さくら、行こう。あおいが眠そうにしている。明日、家族三人で出かける約束だよね。帰って支度しよう」


 そう、明日は出かけるつもりでいる。類があおいを連れて行きたがっていた水族館リベンジ。

 さくらは頷いた。過去は聞かない。聞きたくない。


「さっすがシバサキ姫。いいこちゃんだねえ、調教の賜物? それとも、類に嫌われるのが怖い?(分析)」

「真冬さん、ふざけないでください!」


 さくらは声を高くした。


「決めた。俺、本気でさくらを寝取るよ」

「宣戦布告ですか」


 類は、さくらを自分の背後に立たせて隠した。


「つけ入る隙、たくさんありそうだし。久しぶりの東京での、楽しみができた(期待)」

「ぼくはさくらにやましいことなんてない。聞かれたら、なんでも答える覚悟はできています。さくら、ぼくの過去を知りたい? 初体験とか、人数とか」


 類の顔は真剣だった。だめだ、真冬に飲み込まれている……類。


「ううん! 全然、知りたくないよ。私の類くんは、今の類くんだけ。世界にひとりだけ!」

「クックック……ふたりとも、動揺しまくりで、憐れ……(嘲笑)」

「もう、怒りますよ! 真冬さん」


「はいはい、じゃあ今夜はこのへんで。おやすみ、俺のかわいいさくらと類。ふたりとも好きだよ、ちゅっ!」




(あと二話で完結します)

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