第43話 怒涛の金曜日! 朝礼

 ……ここで、さくらの賢者タイム、一分。


 現実とは奇なり。まじ、奇だらけなり。

 冷静になれ。落ち着こう。始業前から怒涛すぎた。


 次第に、総務部メンバーも出社してきた。みなさん、新広告を絶賛してくれて恐縮しかない。


 午前九時。

 全社員、パソコンを開いた自分の机の前で、姿勢を正して着席。聡子のインターネット朝礼がはじまる。今朝は、類も画面に映っている。


『おはようございます、柴崎聡子です。今日はのちほど、特別な話があるので、類も一緒です』

『おはようございます、柴崎類です』


 それを見た、社員たち。


『でこだ! かわいい』

『ルイさん、でこ出し』

『スクリーンショット撮らなあかん!』


 各部署で、わいわいにぎわっている。

 うん、かっこいいよね。


『今朝は四点ほど、お知らせがあります。まず、本日は賞与の支給日です。みなさんの努力のおかげで、シバサキの業績は好調をキープしています。いつも、ありがとう。このまま、年末商戦へ向かってGO!』


 うんうん、分かる。いつもみんながんばっている。


『ふたつ目。私は現在、妊娠しています。おなかにいるのは、ふたごです。現在五か月後半、来年の五月が出産予定日です。三月末日をもって、社長を退きます』


 うわああああああああああああああああああああああああああと、悲鳴がフロアじゅうに走った。


 妊娠しているのは分かっていたけれど、ふ……ふたご? まじで!


『母さん、ふたごだったの? 聞いてないよ!』

『そりゃ、言ってないもの。サプライズ。驚いた? やったね』

『なんてこと! ぼくがふたごをほしいのに』

『ほら、類。朝礼中』

『あ、そうだった』


 パソコンの向こうも、ちょっとした口論である。

 そっか、ふたごか。つわりがきつかったわけだ。引退を決めたのも、納得。ああ、父よ……だいじょうぶなのか。ここにきて、まさかのふたご。心身ともに心配。


『みっつ目。私の跡は、息子の類が継ぎます』


 ぎゃああああああああああああああああああああああああああと、以下同文。


『みなさん、来年の四月からよろしくお願いします。同時に、シバサキの新しいラインとして、子どもブランド服を立ち上げます。最初は女の子服です。企画はぼく、製作は総務部所属の、妻のさくらが行います』


 うあああああああああああああああああああああああああと、歓声が上がった。


「さくらさん、あおいちゃんのお洋服を作っていたもんね」

「商品化成功かあ、やるう」

「すごい。おめでとう」


 総務部の先輩たちに褒められた。照れる。でもうれしい。


「ありがとうございます」


 壮馬と叶恵も、自分の席からピースを送ってくれた。笑顔で応えた。

 途中、どうなるかと思ったが、うまく着地しそうだ。作者も、目標の伏線をだいぶ回収できたのでよろこんでいる。


 さくらの希望としては、あの広告が、もうちょいソフトなものにならないのか……だめかもしれないけれど、類に訴えてみよう。毎日、自分のキス写真を見て出勤する身にもなってほしい。


 そして付け加えるならば、別れさせ屋問題。叶恵は廃業宣言だが、真冬の件! これは、整理案件。

 あとは、類の円卓の騎士問題。人数的には欠員があるのに、どうして自分は入れないのだろう、さくらは困惑だった。

 年末には、美咲を笑顔で送り出したい。


***


 長かったような、短かったような朝礼が終わった。

 このあと、本格的に始業となる。


 今朝はシバサキの新広告のせいで、問い合わせ電話が異常に多い。通常業務に支障を来すレベルで鳴る。

 北澤ルイファンの『アレって、ほんとにルイくんですか』の質問がいちばん多いけれど、『いやらしい』や『非道徳的だ』という批判もあった。


 当人のさくらも、受話器越しに頭を下げて謝る。しかし『シバサキの新しい方向です』としか説明できない。


 でも、がんばれる。


 明日は、家族三人でおでかけするのだ! 待望の、水族館に!

 あおいは二度目の訪問となるが、十二月となり外は冷えることも多い。なので水族館。


 さくらは別の水族館を推薦したが、あおいが『れいとさいしょにいったとこが、いい!』と強力に押したため、同じ水族館となった。

 類も、よその水族館のほうがよさそうだったが、いったん決まってしまえばランチの予約をしたり、なかなか楽しそうに行動していた。


 ずっと気が張っていた。ようやく、息抜きができる。

 今日はもう、楽しいことしか考えないぞ!


 あ、でも電話がまた鳴った。取らなきゃ。

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