第28話 アノ王子サマと再会①
翌日、土曜日。
類は仕事。
あおいは、玲とデート。現在、超お気に入りのうさぎさん型リュックを背負って、『ままはいらない、お・るす・ば・ん』と断言されてしまい、行き先も教えてくれなかった。
あとで玲がメールをくれて、ふたりは葛西臨海公園へ行ったことが分かった。おさかなさんを見て、観覧車に乗るという。
さくらはひとりである。
昨日のプレゼンの様子を、何度も繰り返して見てしまう。そしてため息。
「私も出たかったなー」
類には類の考えがあった。さくらには、試作品と体操のおさらい、両方は無理だと判断されたのだ。
「やろうと思えば、できたのに。やったのに」
甘やかされているようで、悔しい。もっと役に立ちたい。
「……と思わせるのも、類くんの作戦なんだろうか」
プレゼンで疎外されたことをバネに、さくらがシバサキモデルを積極的に取り組むよう、仕向けているんだろうか。だったら怖ろしい。完全に、類の思う壺だった。
「……家で、考えていてもはじまらない。行こう」
行こう、吉祥寺店へ。
間もなく社長付きの身分になるので、類の店舗勤務は、そろそろ終わる。最後に、お店で働いている類の姿を見ておきたい。
吉祥寺店には最近、カフェも併設されたし、そこでぼんやりしてもいい。ごはんの支度があるので一緒には帰れないけれど、類が見たい。
好天の土曜日・昼下がりとあって、吉祥寺店は混んでいる。駐車場は、車でいっぱい。
あえて、類には連絡を取らなかった。じゃましたくなかった。類の姿を遠くから眺めるだけでもいい。
ふらっと、入店。
いきなり類を捜す、というよりも、まずは自分がシバサキの家具に向き合いたい。
自分の家でも使っている家具が並んでいる。色違いもある。
基本、自宅の家具は類がチョイスする。『さくらのセンスはちょっとアレだから』と、いつも言われる。失礼してしまう。こっちだって、がんばっているのに、そもそも建築士希望。けれど、類は万事詳しいし、信頼できる。
「もしかして、さくらさん?」
不意に、腕をつかまれた。
さくらが振り返ると、思いもしない人が立っていた。
「ま、真冬さん!」
なんと、さくらのすぐ背後に、シバサキファニチャー函館店の『凍れる王子』店長・境真冬が立っていた。涼しげな笑顔。細身のスーツがよく似合う。
「こんなところで会えるなんてうれしい。偶然じゃないよ、運命の再会ってやつだね」
「い、いやあ。運命、感じられても困ります。そろそろ、腕を放していただけますか」
「ノリが悪いなあ、さくらさんってば。縁があるんだよ絶対、俺たち」
「で、真冬さんはどうして吉祥寺へ」
「ここだけの話」
真冬はさくらの身体を引き寄せて耳打ちした。
「吉祥寺店に、異動の内示が出たの。今日はお店の下見。ルイさん、本社に引き取られるんだってね、まさかもう社長就任とか?」
そして、さくらの耳を、ぺろんと舐めてしまう。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っま、ゆふ、さーん!」
「あはっははああはははh、ごめんごめん。かわいい耳だったから、つい。感じちゃった?」
「社長に言いますよ! セクハラ禁止!」
「ごめん、ごめん。あいさつみたいなものだって、怒らないで。さくらさんも無防備過ぎ」
どうせ、防御力はゼロだが、ほうっておいてほしい。だったら、なぜ舐めるか?
「ルイさん、捜しているの? ルイさんなら、お得意さまの対応で時間がかかりそう。それとなく伝えてこようか」
「いいえ、待ちます。お店もしっかり見ておきたいので」
「ふうん、勉強熱心だね。俺、今なら時間があるし、店内商品の解説しながら一周してもいいよ」
「い、いいんですか? セクハラしないなら、ぜひお願いします」
さくらは真冬に家具の紹介を乞うた。性格は問題だが、シバサキの大先輩。
ふたりは並んで歩きはじめた。
「俺とルイさんのこと、聞いた?」
「はい。以前、モデル仲間だったっていう話を」
「それだけ?」
だけ、って……いやな予感しかしない。ほかに、なにかあるの?
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