第27話 おやすみなさい

 和室に敷いた二組のおふとん。あおいと玲のために、引っ張り出した。


 今日、大活躍したあおいはおふろに入ってさっぱりすると、おふとんに入るなりすぐに寝てしまった。もっとも、本人は『れいおじちゃと、たくさーんおはなしする!』と息巻いていたのだが、三歳児には限界だったようだ。


 玲も、あおいに添い寝したので、そのまま眠ってしまうかと思っていたが、十分ほど経ったあとに、のそのそと這いながらそっと和室から出てきた。


「俺、今夜はイップクさんのところに泊まる。いいか?」

「おう。オレは構わないぜ、むしろ大歓迎。でも、明日早番だから、早くに出勤だけどそれでもよかったら」

「仕事柄、朝は慣れている」


 さくっと、契約成立。さくらは横で眺めているだけだったので、ちくりと本音をこぼす。


「このまま、うちに泊まってくれないの?」

「明日、あおいと遊ぶ約束をしたから、朝イップクさんのところを出たら、戻ってくる。荷物も置かせてくれ」

「遠慮しないでよ。ぼくのかわいい天使ちゃんとの添い寝を、特別に許したのに」


「……いや、あおいはいいんだ。かわいいし、そばにいたい。でも、破廉恥夫婦のこのあとの、夜の展開を想像すると……無理!」


 さくらと類は顔を見合わせた。


 この夫婦、もちろんいろいろいたすつもりでいたけれど、なるべく静かにいたすつもりでもいた。

 でも、結局あられもないことになって『過激表現あり』まっしぐらな展開だと、玲には見透かされていた。


「分かる……玲さんのお気持ち、分かるぞううう! こいつら、鬼畜プレイだもんね! たまに屋外でもやるって言うし、あんな姿勢とか、こんな体位とか! 理想的な夫婦のお面かぶっておいて、まじ鬼畜!」

「イップク、言いすぎ。ぼくは、さくらに早く子どもができるように、精進しているんだ」

「精進が聞いたら悲しむぞ、絶対。毎晩、さくらの中に何度も濃いぃやつを……うあああああああああああああもう! 帰ろう、玲さん!」


***


 玲とイップクは、さくらが提供したごはんをまるっと完食し、帰って行った。おでんの具にいたっては、持ち帰ったほどである。イップク、タッパー持参だった。


「なにあれ。あの、あわてよう? ぼくたちのこと、なんだと思っているんだろうね」


 ええと……それは……非常に答えづらいけれど、なにぶん『鬼畜』。幼い子どもがいても、明日も出勤でも、まじでエロする五秒前だと思われている。


 しかし、それはさておき。


「さくら、あおいの希望を聞いてくれてありがとう。ぼくもうれしい」

「うん……驚いた。ふだんからはっきりしている子だけど、体操のことになるともっと強い」


「そもそも、さくらたちが競馬場で体操イベントに参加して、芸能関係者に目をつけられたのがはじまりだからね?」

「ええっ、そ、そうなの?」


「無自覚か。仕方のない子だね。まあ、体操は春まで。四歳になっちゃうし。そのあとは、絶対シバサキ専属の子どもモデル。家族写真を撮る日が決まったよ、一週間後、来週の土曜日、午前中。朝が早いんだけど、この日しか都合つかなくて、ぼくが」

「来週? そんなに早いの?」

「宣伝用にどうしても早く欲しいんだ、写真」


 家族の、会社の明るい将来のためには、さくらがひとりでごねている場合ではなかった。


「頭では分かっています。みんなのために、だよね」

「だいじょうぶ。世界でいちばんしあわせにする、必ず」


 類はさくらを抱き寄せた。耳を触られてしまう。ぞくっと、ぴりっとした感覚が走った。


「じゃあこのあと、久しぶりの、夫婦の時間だね。たーっぷり、かわいがってあげるよ」


 怖いぐらいに、類が思い描いている通りに、世界が進んでいる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る