4-2.
そのあとは駆人がここを初めて訪れた時と同じ流れだ。天子たちの家に入ると、居間に通され、説明が始まる。天子の正体、この町に起きている怪異のこと、怪奇ハンターのこと。そして、その仕事を駆人が手伝っていること。違うのはすべてを天子が説明していることだ。
「……、と。こんなところじゃ。理解できたかのう?」
天子は一通り言い終え、息をつく。栞はあまりに突飛なことに、少々混乱しているようだ。無理もない、駆人は口裂け女との遭遇があったからこそ、怪異の実在を受け入れられた。栞は怪異らしい怪異にはまだであったことがないのだろう。
「話は変わるが」
まだ整理しきれない様子の栞を見て、天子は駆人に話を振った。
「霊感を持つものがもう一人こんな身近におるとはのう」
「ああ、最初の時に行ってましたよね。霊感を持つ人は極少ないって。実際のところどれくらいいるんですか?」
「数千人に一人おれば多い方じゃな」
数千人。この町の人口で考えればせいぜい何人もいないといったところなのだろうか。
「確かお主らは学校の同じクラスじゃったな。相当偶然というかなんというか」
駆人達の通う高校の全校生徒は数百人だから、確率で言えば一人もいなくてもおかしいことではない。その上で同じ学年で同じクラスだというのだから、その確率は大分低い。
「……あの。七生クンがこの人達と一緒に都市伝説退治してるってのは本当?」
いったん話が途切れたところで栞が発言する。すべてを信じ切ってはいないような表情だが、だからこその質問だろう。
「うん。確かに何回か都市伝説とやりあってるよ」
「それって、危なくないの?」
「……、まあ危なくないってことはないかな。食い殺されかけたりもしたし」
「……」
栞はしばらく考え込んで、それから意を決してように口を開く。
「あの。私もその怪奇ハンターのお仕事を手伝うことって出来ますか」
その発言に、残りの二人は目を見開いた。
「いや、今危ないって言ったじゃない」
「そうじゃそうじゃ。いくら人手が足りんからって、無暗に他人を巻き込むことはできん」
「えっ。僕はめちゃくちゃ勧誘されましたよね」
「お主が空子の誘惑に引っかかったんじゃろうが」
「ちょっ!」
何か言わなくてもいいことを言われそうになったので、駆人は身を乗り出す。
「まあ、実際理由はあるんじゃよ。カルトよ、お主、わしらと出会う前にすでに都市伝説に襲われてたじゃろ」
「……、はい。あのときも死にかけましたね」
口裂け女の件だ。あの時がこの怪奇事件に巻き込まれるきっかけとなった。
「そういうなって。……、あのときお主とわしで口裂け女を倒したわけじゃが、その一件で都市伝説を葬ったわけじゃから、奴らに目を付けられとるんじゃよ。お主がおらんければ奴らへの対抗手段を、こちらは失うわけじゃからな」
「え、ということはなるべくこの神社にいるようにってのも」
「そうじゃよ。ここは他と比べれば安全じゃからな。まあお主に働いてほしい、というのももちろんあるがの」
なるほどそういうことだったのか。ぽん吉もこの姉妹の所にいれば安心だと言っていた。それはそういう意味だったのか。自分が奴らに敵視されているとは、駆人は思いもよらなかった。
「シオリはまだ都市伝説にであっちょらんじゃろ?ならもし出会っても見えないふりをして、カルトにでも伝えい。ここのことはなるべく忘れることじゃ。もし出入りするようなことがあれば、奴らに目を付けられかねん」
「そうだよ。自分から危険なことに首を突っ込む理由はないって」
「で、でも……」
問答を続けていると、玄関の戸が開く音がする。それと同時によく知った声が響いてきた。
「ただいま帰りましたー。荷物運ぶの手伝ってくださいー」
空子の声だ。外に出ていた目的は買い物だったようで、車にもまだ荷物が積んである。
「おお。空子か。カルトよ、手伝ってやってきてくれ」
「はーい。でへへ」
駆人が部屋を出ていくと、残ったのは天子と栞の二人だ。
「あやつ、妙に空子に懐いちょるのう……」
あきれる天子とは対照的に、栞はどこか不安そうな目で駆人の背を追っている。
「……」
「お主、怪奇ハンターの仕事をやりたいというよりも、どっちかというと駆人が気になってるんじゃないのか?」
「……」
「クラスメイトといっても、あんまり関わりなかったんじゃろ?どういう風の吹き回しじゃ?」
「……」
「……、まあ。言いたくないこともあろうの。ただ、わしらに関わるのはあまりおすすめできんぞ。ちゃんと冷静になって考えることじゃな」
「……。はい……」
一区切りついたところで、ちょうど駆人が帰ってきた。
「おお、ちょうどいいところで来たのう。シオリを送って行ってやってくれ。もうそろそろ薄暗くなってきたからのう」
「あ、そうですね。分かりました」
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