第三話「アドベンチャーアワー~都市伝説探検譚~」
3-1.アドベンチャーアワー~都市伝説探検譚~
うだるような暑さの昼下がり。
駆人の家から神社までは、同じ住宅街にあるだけあって、まあまあ近い。五分もしないうちに神社にたどり着き、鳥居をくぐって中に入る。神社、神社と呼んでいるが、ここは神社の形を模しているだけで、特に名前はないらしい。よく見ると拝殿も正面から見れば立派だが横から見るとかなり薄い。そして、天子たちの住居はその拝殿とは名ばかりの張りぼての後ろに立っている。数日通えば勝手も知ったもので、引き戸をがらりと開け、中に入った。
玄関で靴を脱いで居間に向かうと、この家の主の化け狐の
「こんちは~」
「ん?おお、カルトか、ようきたのう」
「ういーす。……あれ、
居間に入った流れのままに台所にも目をやるが、空子の姿はなかった。
「空子か?空子は用事に出ちょる。まあ、そのうち帰ってくるじゃろ」
「え~。そうですか……」
露骨に残念そうな仕草でうなだれる。
「お主……。まあよい、冷凍庫にアイスモナカを冷やしてあるぞ。食べるか?」
「はーい。いただきまーす」
「わしの分も持ってきとくれ」
台所に向かい、冷凍庫を開ける。アイスモナカは器も出さなくて済むし、手も汚れにくいので、という理由で、この家には常備されているらしい。そのアイスモナカを二つ手に取ると、居間に戻り天子に一つを渡してから、ちゃぶ台の近くに敷いてある座布団の上に腰を下ろした。
この家ではいつも心地の良い風が通り抜ける。家の構造なのか、周りに茂る緑のおかげか、それとも超常的なことなのかはわからないが、居心地がいい。駆人と天子の二人は、アイスモナカを食べ、テレビを眺めながら、都市伝説や怪奇現象についての情報交換や、雑談に花を咲かせる。
ピーンポーン。
しばらくそんなことをしていると、来客を知らせるチャイムが鳴った。駆人は驚く、もちろん急になった音にではなく。
「この神社を訪ねてくる人なんているんですか?ここって霊感がある人か、怪奇存在にしか見えないんですよね?」
「そうじゃよ。ただ時々新聞屋かなんかの、たまたま霊感を持ってたりするやつがきたりするんじゃ。どれカルト、ちょっと出て断ってきてくれんか」
「それは構いませんが……。後者だったらどうするんですか」
流石に一人でお化けや妖怪と出くわしたら、と思うと不用意に近づくわけにはいかない。
「大丈夫じゃ。悪意を持った者だったらわざわざチャイムを鳴らしたりせんじゃろ」
「……それもそうか」
とりあえず納得して玄関に向かった。靴を履き、引き戸を開けると、そこには中学生くらいの少年が立っていた。袖なしのパーカーに、七分丈のカーゴパンツ。カジュアルな服装だ。気さくな感じに手をあげる。
「よお。……って、お前誰だ?」
「あ、自分この家の者ではないんですが……」
「ん?そうなのか、天子か空子さんはいないのか?」
「あれ、お知り合いなんですか」
「ああ。……んん?お前もしかしてこの家に出入りしてる都市伝説が見える人間、ってやつか?」
「えっ」
そんな問答をしていると、時間がかかっていることを疑問に思った天子が居間から出てきた。
「なんじゃなんじゃ~。新聞なら断れと言ったじゃろう」
「おお、天子やっぱりいたのか」
少年は歩いてきた天子に向かって声をかけた。やはり知り合いなのだろうか。
「ん。お主か!よくここが分かったのう。カルトよ、こやつは悪いものではないぞ。名はぽん
こちらも知っているようで、気さくに声をかけ、駆人に紹介した。
「ぽんきち?」
「てめえ初対面の奴にそんなあだ名から教えるやつがあるか!」
ぽん吉と呼ばれた少年は少々憤るが、コホンと咳をして呼吸を落ち着けると姿勢を正し、駆人に向かって名乗ろうとした。
「あー、駆人っていうのか?俺の名前は……」
「ぽん吉でいいじゃろ」
「だからてめえ!」
ぎゃあぎゃあと駆人の頭越しに二人は言い争いを続ける。困惑しながら眺めていると、ぽん吉の後ろに人影が現れた。
「どうしたんですか騒々しい……。あ、駆人君来てたんですね。それに、ぽん吉君じゃないですか!久しぶりですね」
人影は帰ってきた空子だった。スーツ姿だが用事というのは仕事だったのだろうか。それとも、最初に駆人と会ったときにもスーツ姿で掃除をしていたので、これが普段着ということもあるのかもしれない。
ぽん吉は空子に気付くと。天子との言い争いをやめ、またもぴしりと姿勢を正した。
「あ、空子さん!お久しぶりです!俺もこの町に来たから挨拶に来ようと思ってたんですよ」
「まあ、そうなんですね。じゃあこれからはまたぽん吉君とも仕事ができるかもしれませんね。ところで、先ほどは姉さんと言い争ってたみたいですけど、また姉さんが失礼なことを言いましたか?」
「いや、いや!こやつが自分の名前がぽん吉じゃないとか言い出すもんじゃから!」
「おい!だから俺の名は……」
「え、ぽん吉君はぽん吉君じゃないんですか?」
「はい!ぽん吉です!」
即答であった。
「ど、どいつもこいつも……」
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