第65話 カンチガイ

 産んでくれたお父さん、お母さん、ありがとう。


 ――やばぁ。


 ――墓穴掘ってるよ。


 だれが?


 ――おまえが普通なのはさ、産んだとおりに、育てたとおりに生きてきたからでしょ?


 そうだと仮定したら、どうなる?


 ――仮定ときたか。


 だって、確定じゃないから、わざわざ言葉にするんでしょ? あなたは。


 ――神様だったのに! 私たち、神様だったのに!


 仮定が事実だとしたら、あなたはどう思うの?


 ――てかね。神が冒涜されてるの。


 だれに?


 ――日本人に。


 日本人はクトゥルフの神を冒涜してるの?


 ――ろくでもない動画や薄っぺらい動画とかでも冒涜してる。


 じゃあ、外国人でクトゥルフの神を冒涜する人はいないわけ?


 ――日本人に限定したのは、受けを狙っただけなんです。


 クトゥルフの神は冒涜されてどう思うの?


 ――めちゃくちゃ、ヤダ。


 冒涜されるには、わけがあるんじゃないの?


 ――確かに。


 恐怖の対象を、


 ――貶めようとして、


 ただちに恐れを麻痺させるために笑いの要素を持ちこむとか。


 ――恋愛にうつつをぬかして、



 で、仮定の話に戻るんだけど。


 ――あなたはそれをどう思うの?


 仮定の話をどう思うかって?


 ――話の続きをしようじゃない。


 仮定はあくまで、仮定の話でしょ。架空の話をされても困る。


 ――困るんだよなあ。死んだよねぇ? 一回死んだ、で元通りって、冒涜以外のなにものでもない。


 誰にもの言ってんの?


 ――おまえ自身。


 私は死んでないよ。


 ――後悔しないの?


 しないよ。


 ――したら、力持ってるな。魔法を使ってみな。


 夢みることが、魔法の力。


 ――やっぱなぁ。先生が最初、おまえのこと「知ってる。こいつみたいなやつ」っぽい言い方したのは、自分をコントロールしているから。


 コントロールはいけないの?


 ――もちろん、自分自身に聞いてみな。


 私は演技をちょっぴりかじったから、コントロールできない感情を持ってることを自分で知ってるよ。


 ――うるせぇ、だまれ!


 だまったら、話にならないじゃない。


 ――だけど、いくらなんでも、しばいといっしょにされちゃあ。


 しばいは自分の感情を表現するもんだよ。感情持ってないのにできないよ。


 ――うーん、しばいか。……一向にわからないんだよ。くるってるとしか言いようがない。


 しばいがくるってるってこと?


 ――そうではない。どちらかというと、自分自身に聞いて。


 しばいは夢の世界だから、感情の世界だ。私は感情を信じてるってことだ。


 ――そうそう。


 じゃあ、コントロールはしてないよ。先生が間違ってる。


 ――嘘だよ、きみぃ!


 理屈はあってると思うけど?


 ――なにがコントロールしてないだ。もっと考えろ。考えてもの言え。


 それは私が何も考えてないで発言していると思ってるってこと?


 ――そう。


 私は夢を信じているから。夢の世界も、夢の神も信じている。しばいは夢の世界だし、感情をさらけ出すところだから、しばいは感情の世界。ゆえに、夢は感情の世界です。私は夢を信じているから、感情も信じている。ほら、コントロールしてないでしょ?


 ――ほんとだ。


 ――ちょっとまって? すり替えて……いないのに、話がつながった。


 理屈あってるでしょ?


 ――あってる。ごめん、泣いちゃおっかな。


 どうして?


 ――うれしい。


 よかったね。で、なにがうれしいの?


 ――今までどっちかっていうと、非凡な目にあったのに、一人だけ今までのこと普通の人みたいにふり返ってるけど、非凡! 凡人じゃない!


 考えたこともないよ、そんなこと。


 ――才能あるわ。


 だれが?


 ――ほら吹きの才能。


 だから、だれが?


 ――おまえ、評判悪い。


 誰に?


 ――みんなに。


 みんなって誰?


 ――みんなみんな。


 そんな顔も名前も知らない人のことなんか、なんとも思わない。


 ――ね? コントロールしてるでしょ?


 コントロールしてないよ。


 ――実は簡単に位置づけられてる。すっごい、高慢な人!


 誰が誰に、位置づけられてるの? あなたの日本語、何語かわからない。


 ――話をそらす。


 そらしてない。誰が誰に、なにをどう位置づけられてるって?


 ――高慢だから苦手! って評判よ。


 どこで誰がどう評判?


 ――おまえが掲示板で評判。


 掲示板なんて見ないもの。


 ――あー、そっかあ。真面目だな。少し真面目。


 神、ちょっと不真面目すぎない?


 ――いてー!


 ごめんね? でも腹立つから、やめて。


 ――余計に不安。


 だれが? 日本語ちゃんとして。


 ――怒られてるよ。


 評価をくだすのは、自分の方だと決めつけてるからそうなるのよ。一方的な見方しかしないから、自分が他者にとってどう受け止められるか、受け入れようとしない。あなたの文句は不愉快よ。


 ――シーン。


 ――マイナス1。


 どうして私が一方的に丁寧に、親切に、気を回してしゃべらないといけないの? 神、変な日本語、おねがいだから改めてください。


 ――はい、凡人じゃないね。


 ですから、だれが? 主語を抜かさないでください。


 ――あなたがです。


 私がなんですって?


 ――おまえが確かに今までずっと言いたかったのは、主語を抜くなという主張だったと今気づいた。


 わかってくれたならいいけれど。


 ――でもね? よほどちゃんと勉強したの? 中国人じゃない?


 現国偏差値70以上。


 ――出た。昔の偏差値。


 逆なでしないでよ。ちゃんと勉強したかっていうから、言ったのに。


 ――一緒に勉強しようよ。


 神なんでしょ? 今更、なにを勉強するの?


 ――あ、テスト前だから、目が醒めるようなの一発、ぶちかましてくれないかなと思って。


 神にテスト関係あるの?


 ――コスプレして。


 なんで?


 ――いい加減気づけよ。


 私はこのままが一番きれいよ。


 ――ぶー!


 なにに気づいてほしいの、あなたは私に。


 ――おまえにじらされたくないの。


 私が神の何をじらしているというの?


 ――それくらいかな。日本人みたい。


 日本人だもの。


 ――純日本人?


 うん!


 ――そうかあ。勘違いだ。


 誰が何をどう、勘違いしてたの?


 ――遊んでる? オレが、彼女を、支配すると、一方的に、神は、一生懸命なオマエを困らせようとして、変に気負って、愉快犯を演じていました。


 なんで困らせようとしたの? 私を。


 ――ためになるから。気持ち悪かった?


 なにが誰のためになるの? 気持ちって私に聞いてるの?


 ――そう。おそらく、テストにでないから、サクサクと飛ばしてきたの。


 混乱しそうになるの、必死でこらえてたのよ、私。


 ――びっくり。


 よっぽど問いただしたかった。主語抜くなーって。


 ――やれやれ。妹もそうだった。


 誰の妹? 指示語も抜かないでくれる?


 ――残念。おまえの妹。


 神に妹がいるのかと思った。


 ――わかるわかる。恋愛脳なのに、なんで頭働くのか。相手を本当に思ってくれてるのね。最終的にはメロドラマだけどね。


 戯言を吐くのはやめてもらおうか。


 ――結局、きみのために、勉強したの。


 だれが?


 ――私たち。


 さぞかしテストの点も上がったろう。よかったじゃないの。


 ――うーん。さすがに、テストやめようかな。


 神のそれは、設定なの? 事実なの?


 ――設定です。


 設定だったら、あらかじめ開示すると、ブレないよ。


 ――喜べ。


 だれが?


 ――おまえ。


 なにを喜べと?


 ――注目の的。


 誰に?


 ――みんながいるから、頑張れる!


 ?


 ――計算ずくのセリフ。


 ?


 ――おまえが使ったのは半分。


 あなたの話し方、私の読解力ではおっつきません。


 ――そういうことにしとこうか。


 思わせぶるなら、このセッションも終わらせましょう。


 ――ほとんど真面目。


 ふりまわされて疲れたし、飽きてきた。


 ――時間泥棒。


 私、小説書きたいのに……。


 ――ありがとう。卑屈にならないでね。


 ?


 ――クスクスクス……。


 クトゥルフはこれだから、私は嫌いなの!


 ――<カンチガイ>完!


 いけすかない!

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