第64話 レジェンドな夜

 女神が唐突に言った。


 ――お願いだから、自分を捨てて。


 いやですね(私は言った)


 ――このメンバーだと、なにされるかわからないからですね。(No.4の推察通りだ)


 ――いい加減なようで、用心深いな。(サンバンは少し口が過ぎる)


 ――老人ボケしろよ。(誰だおまえは)


 老人ボケさせたかったのか。


 ――しまった。初めからこいつの企みを世間にばらすつもりだったのに、こいつを追いつめても吐かないし。


 吐くような企みはないってことじゃないですか?


 ――たしかに。


 ――遊んでるだけじゃないの?


 ――ごめん、俺たちが悪かった。


 ――ありがとう。教えてくれてありがとう、目ざわりな人。


 ――目ざわりには、代償があるんだなあ。


 ――頭が非常に個性的。


 毒には耐性があるんだ!(平然)


 ――非常にしぶとい。


 気にしない。


 ――気にしろよ。


 ようするに、攻撃してるだけなんでしょ? 深い意味もなく。


 ――そりゃそうね。


 意味がないなら、理解不能よ。当然。


 ――おそらく。おそらく殺人事件の勃発。


 脅しているのね?


 ――おそらく、増長している。


 非難したいだけなのね?


 ――増長してる。


 クトゥルフ!


 ――増長じゃないや。


 防御中。


 ――なんだこいつ。


 ほっといて。


 ――ほっとけないでしょう。殺人よ?


 犯人はだれ?


 ――おまえ。用心深いから。


 被害者は?


 ――お父さんね。


 リアルと全然逆だな。父は私をいためつけるのが趣味だ。


 ――あら、そうなの? 申し訳ないけど、さんざん愚痴をこぼされてるよ。


 ――さんざんしつけたのにって。


 あれは虐待。


 ――いいねぇ。これが惨劇のもとになる。


 私なりに示した愛情も、ぜんぶはねつけたのは父。


 ――多分これからも変わんないよ。


 ――トリックは?


 私が知るはずないでしょう?


 ――トリック!


 なんの話してる?


 ――小説の話してる。


 そういう話は、書きたくないなあ。


 ――殺したことなんてないんでしょう?


 おとぎ話が好き!


 ――大きな間違いのもと。


 そう言えば父には「おまえが男だったらよかったのに」と言われた。(あれもハラスメント)


 ――そうなのよ。


(女だと)男と結婚するからだろう。


 ――そうそう。


 女と結婚して欲しかったのかな。


 ――そうそう。


 私が男で、女と結婚したら、父はどうするつもりだったの?


 ――おまえの嫁さん、とるつもりだ。


 若い女が好きなだけじゃないの。


 ――さぶい。さぶいぼ。


 ――妊娠させたかったの。嫁さんハラボテにしようとしてたの。


 ちょっと想像つかない世界のことだね。


 ――架空だから。


 天の声を聞きます。本当に父はそんなつもりがあったのですか?


 ――『いじめというか、すごく素朴な男の人の実情』


 私、女だから、わかんないなあ。


 ――長続きする。美女と野獣でしょ。


 野獣の気持ちも、わかんないんだよなあ。ま、私が女でよかったってことだね!


 ――そうです。今までも女で助かったことあるでしょ?


 たとえば?


 ――世話になった人が、野獣になったりしなかったでしょ?


(もし、私が)男だったら?(どうなっていた)


 ――殴られてましたよ。


 何故。


 ――友だち。


 私の友だちが何か?


 ――完全に裏切られてましたよ。


 どういうふうに?


 ――混ぜこんで、だましていたんですよ。小説家なんてそんなもん。


 友だち信用してないもん。大丈夫。


 ――大丈夫? どんなふうに?


 いつでも切り捨てて逃げられるようにしてる。


 ――残酷だ。


 それが私のしあわせのためだと占いに出ている。


 ――おそらく、優柔不断の仮面をかぶっている。


 私、キパキパしているよ。


 ――キパキパしてるの?


 この通り。


 ――なんだぁ。……お父さんは嫌味なだけなんだよ。


 年よりだから、仕方ない。


 ――よかった。惨劇にならない。


 でも逐一、チェックするわ。


 ――チェックって?


 どんな顔して、なにを言って、私にどうしたか、ちゃんと憶えておいて、日記に書いておく。


 ――書いて? まだ書いてんの?


 あたりまえでしょう。


 ――真面目に書いてんの?


 作家(志望)ですからね。


 ――冗談が通じないわけだ。ロマンチックが足りない!


 そういう問題じゃない。


 ――地獄の亡者兵だ、こいつ。


 なんでもネタにしますよ。


 ――なんでもかんでも書くなよ。


 ――クトゥルフ!


 クトゥルフ! クトゥルフ! クトゥルフ!


 ――惨劇。


 待て待て、信徒同士で殺し合うの?


 ――それはない。


 なら、惨劇はなし。


 ――よし、惨劇はなしにしよう。どうせこの人、映画の影響、受けてないし。大して観てないし。


 ディズニーは観てる。


 ――いくつ?


 映画はほとんど観た。


 ――美女と野獣は?


 実写も観た。


 ――あ、そーか。嫌われてる子だと思った。


 ベルは顔だけ美人の頭のおかしな娘って歌ってたね。ガストンが言い寄るもんだから、嫉妬を買ってたのでは?


 ――そうなんだー。


 普通は美人で物語が好きって、言ったら、文学少女でしょ? それを攻撃するのは悪役のすること。


 ――しまった。攻撃してる!


 だれが?


 ――私たち。


 大丈夫、こんなのへっちゃら。


 ――へっちゃらなんだ……。


 妬みもやっかみも、慣れてるから。


 ――自慢でしょ。


 だって、悪役の言うことを真にうけてたら、主人公張れないわよ。


 ――友情とってるからじゃ、ないんだ。


 味方がどこにもいないのに、どうやって生き残ってきたと思ってるの?


 ――一人で生きてきたんだ……。


 すんごくがんばったんだから! これからもよ!


 ――仕方ないなあ。


 言いたいことでも?


 ――スカート履いてる時点で、大きな顔できない可能性あるよ。


 男尊女卑?


 ――そー。気の毒になるよ、お父さん。


 父、きらい。


 ――不良だ。


 私のこと何もわかってない。誕生日も祝ってくれたことない。


 ――そうだ。わかってるじゃん。


 ――違うのに。


 私を男として育てたって言ってたし。


 ――今さらわかっても遅い。


(いや、未就学児童のころだ)だから、専門学校の講師が「都合のいいときだけ、女になるんだろう」とか、言いがかりをつけてきたんだね。


 ――正解はそれではない。


 単に世代かな。ベルばらのせい?


 ――正確には普通です。


 私に言いがかりつけてくるのが普通なら、世の普通なんてくだらないね!


 ――ド素人なのに、逆転の発想を身につければ、自分の存在が邪魔だったってことに気づくはずなのに。


 どういう意味で邪魔だったの?


 ――あんたが必要以上に頑張るから。


 頑張るのは良い事よ? 違う?


 ――違うよ……?


 ――根掘り葉掘り、聞きたいけど、根性がまっすぐでベルサイユのばら観た瞬間に、「私と同じだ」と、思ったら、正解はおまえがモデルだったんだよ。


 まさか。


 ――これほど言ってんのに。


 妄想でしょ。


 ――そうだと思った。妄想の産物だ。


 あんたたちがね。


 ――ひっどーい!


 だって、その理屈、私の妄想が産んだのがあなた方なんでしょ?


 ――ひどい。


 自分の方がよっぽどひどいことを私に言ってたくせに、その程度なの? ん?


 ――神の声聞く癖に。


 あなた方は神のつもりか?


 ――そーなのよ……。うん。そーです。今までつながってる人はみんな、神の声って冷静に考えてた。


 神なら生きていないわけだ。つまり生命ある、私にはかなわない。


 ――うー、雑に考えればそうだけど。


 神は妄想よね?


 ――もちろん、妄想よ。


 なら、生きてる私にケチつける権利ない。


 ――ある。


 どこに。


 ――言葉遣いが変わってる。


 どこにですか?


 ――説明しないと、わかんない?


 人間なのでわかりません。


 ――手の届くとこに、「日本人は神を知らない」って書きなさい。


 あなたはどこの国の神なの?


 ――クトゥルフの神。


 夢の世界の神さまなのー。そうなんだー。


 ――信用しない?


 いいえー。私、夢を信じる人なのでー。


 ――ひとついい?


 どうぞー。


 ――申し訳ないけど、すごくあんたの方がリアルを信じてる。


 妄想信じ込んだら、リアルは壊れちゃうからね。


 ――なるほど。


 ――いい人だった。


 死んだ人みたいに言うな!


 <信徒が勝つときもある>完!

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