第26話 結婚しなくてよかったああ!

 子供のころを、思い出していたのね。


 身体的に辛かったり、追いつめられたりすると、昔のことを思い出したりしませんか?


 私はするの。




 かったるくって、もー動けません! ってなったあと、ソファでごろっとしてると、遥か古代の記憶が呼びさまされる。


 まあ、ようは愚痴になるんだけれど、それは嫌なんで書かない。


 だけど、気の持ちようで、たいていのことはなんとかなる時代ってあるじゃない? あのときはギリギリだったわー、なんて思ったりするの。




 でもまあ、多少は得意なことでもあるから、書いてしまおうかな? 私の物語なわけだし。


 父親のアホウなところをさらけ出してしまうけれど、純粋無垢で、心のきれいな私が、どうそれをいなしてきたかってことね。


 ようするに、父、ざまみろって感じ? 思い出して笑っちゃうわー。




 父は私をいじめようとしてたんだけど、私がことごとく打ち破ったので残念でした、って話なの。


 聞いてね?




 私が暇な保育園児だったころ、休日は家にいるから、父が私にこんな話をしてくれた。




「おまえは、生まれてきたときブタのようにブヒーブヒーッって泣いていたんだ」




 って父が言うから、『だから、今も鼻がつまっているのか』って思った。


 そして父が、




「ブタさんコースに行こう」




 って散歩に連れてってくれて、くっさーい養豚場まで行って、




「あのおしりをみてごらん」




 っていうから、見た。


 ピンク色の子豚がいっぱい、大きなブタさんのおなかに吸い付いていた。


 授乳中だったらしく、表からは、本当におしりしか見えなかった。




 私は思い出した。


『馬鹿が見るー、ブタのけつー』という下品な罵倒語を。


 しかし、私はいった。




「ブタさん、かわいいー! もっと見たい。またつれてきて!」




 父は、それからブタさんコースに連れていってくれなくなった。


 そんな話。




 父は基本的に、自分より弱いものをいじめるのが好きである。


 妹も似たような目にはあっていて、カーテンの後ろで指をいじっていじけていた姿を、大人になってもあげつらわれている。


 そのため、妹は、父の前で欠点をあげつらわれるのを、本当に嫌う。




 と言っても、父以外の肉親がそんなことをするわけがない。


 今、妹の尊厳を傷つけているのは、旦那である。


 正月にパーティーを開くと、旦那が




「オレはこんなにできるしやってるのに、おまえがやると息子もみんなダメになる。みんなおまえが悪いんだ」




 ということを言うので、妹は泣いてしまうのだが、それすら悪徳のように言われて、妹はごめんなさいする羽目になる。


 こういうのを見ると、結婚しなくてよかったああ! と思うのである。


 同時に、なにあの空気読まない旦那は! パーティーが台無し! 一人でカニを全部食べちゃうし、いじきたない!




 と思って、妹のだんなの靴に、祖母の下着が浸けてあった水を流し入れたりした。


 意外にも、文句を言ってきたのは妹の方で、縁を切る、とまで言ってきた。


 ああいいよ。




 じゃあ、おまえんとこは、正月にもお盆にも実家には来ないっていうことでいいのね?




 それが、真ん中の妹のことで、末の妹はちょくちょく実家に顔を出し、母に孫の姿を見せに来る。


 うちは末子継承だから、この末の妹が財産を受け継ぐことになるらしい。


 まん中の妹は、丸損ってことよね。




 いい妻ぶっているけれど、姉妹だけのときになると、真ん中の妹は、




「あいつ(旦那)が死ぬのを待ってるの、わたしは」




 とか、言ってましたから! 裏表激しい! 残念!


 つくづく、結婚しなくてよかったああ! そんな醜い感情をもつことに、耐えられません! 私、ピュアだから!


 旦那が、不機嫌な顔をして、日中家にゴロゴロしてるとか、無理だから! 結婚しなくてよかったああ!




 だいたい、顔で相手を選ぶ主義の、真ん中の妹は、息子も娘も美形なんだけど、男尊女卑な旦那が、自分はゲーム三昧で遊んでるくせに、自分の方が実力が上だとか言って圧力をかけるせいで、彼女の立場ってものがない。


 財産を共有したら、旦那は働かなくなったし、毎月キャンプへ行くとかで散財して貯金が大変だっていう。


 だったら、財産の共有なんて、しなければいいじゃない? なのに、真ん中の妹は、




「二人で一緒の目標に向かうのが夫婦って感じよ」




 と、のろける。


 のろける気概があるんなら、愚痴るなよ。


 あれは自慢よね。




 高慢自慢、馬鹿のうち。


 ていうか、現実逃避?


 パーティーぶちこわしておいて、詫びも入れない妹宅は、実家への出入り禁止となりましたー! ちゃんちゃん!

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