第6話 子供さんの言動にいらつくが夏のせいにする
自分で産んだのでない子供はかわいい。
しかし、今日、家に親戚の子が来るとは思わなかった。
小説を書こうとして、文献をあさっているときに、前触れもなく玄関のドアがガチャガチャいった。
鍵がかかっていたのだが、妹は呼び鈴も鳴らさずに、実家に入ってこようとした模様。
私が鍵を開けると、熱気と共にどっとなだれ込んでくる子供たち。
私がYくん(今月で9歳になった)への贈りものを手にしているのを見て、妹が、
「かわいいね」
と言った。
少し自信がつく。
花フェスタで、これはYくんにあげようと思って、一生懸命作ったのだ。
表のベンツに収まっている、Yくんにわたしにいくと、無表情で受け取った。
優れた人には悲しみがある、という話をした。
Yくんの中にもそれはあると思うから、悲しみと仲良くね、と言った。
Yくんは私と目を合わせなかった。
そういう年ごろなのか、スレてしまったのか。
以前、弟に顔を踏まれて、声もなく泣いていたYくんだが、私はちょっと心配していた。
習い事がいっぱいで、疲れているんじゃないかと。
すでに英才教育の効果は出ていて、今日も習い事へ行く途中。
妹は、Yくんを送りに行くため、弟たちを実家に預けによったのだ。
それはまあいい。
私は多少、読書を中断させられて、もやっとしていた。
もともと、子供とはさして相性がよくない。
そもそも家族と相性がよくない。
祖母は何も言わないくせに、行動が大胆だ。
クーラーがきらいで、冷えてくるとすぐにスイッチを切ってしまう。
ならばと思って、扇風機で涼んでいると、くるっと自分の方に風をむけてしまうのだ。
むちゃくちゃ、いらつくが、夏のせい。
Yくんの弟Kくん(今年6歳)は、うちで昼食を食べるという。
それで、
「ここに、小さなテーブルないかなあ」
というので、あるよ、私の部屋に、というと、持ってきてえ、と甘える。
私はTV寄りになっていたソファをぐっとどけると、テーブルをおくスペースをつくり、ちらかしたカラーペン類を片づけるように言った。
高さを調節できる、白いテーブルはコンパクトにたためる、しかしちょっと重い。
よいしょと上に乗せていた本類をどけると、リビングまで持って行ったら、カラーペン類はちらかされたまま、ぐっとよこに押しやられていた。
どうでもいいけれど、そこは私の特等席だ。
つい、いらぁっときて、
「K、こういうの、恩知らずって言うんだよ……」
呟いていた。
いや、子供なんてそんなもんだろう。
以前書いた童話の中の水牛の親子の話を思い出す。
『子どもはたいせつに育ててやっても、恩を返すことはない』
そこに善意などない、という話だった。
さて、KくんにはRくん(今年3歳)という、弟がいるのだが。
この子も動きが大胆。
すぐに兄たちを泣かせてしまう。
実は今もリビングで、キャーキャー泣いているのだが。
子供ってどうして、あんなに泣くのかわからない。
私は、おもちゃごときで泣いたりはしなかったがなあ、と不思議に思う。
今日は食べていたチーズを汚された! といって、Kくんが、泣きながら報復していた。
手加減はしているのかもしれない、実際、Rくんは顔色一つ変えないで動き回っていたし、泣かされているのは兄の方。
「チーズは替えがきく。替えのきくチーズのことで、一人しかいない弟をそんなにいじめることはないでしょう」
といって、チーズを洗ってやった。
Kくんは、ケロッとして、
「チーズは拭くと、べたべたするんだよねえ……」
とつぶやいた。
なんだ、ピンピンしてるじゃあないか。
少しおかしみを感じる。
このKくんが、ちびりちびりとプロセスチーズをかじって食べるので、私の特等席前に押しやられたカラーペン類は、いつまでたっても、片づかない。
食べ終わったら片づけるといっていたが、チーズを食べ終わると、うろうろとキッチンへ行くから、呼びよせて片づけさせた。
「どこに片づけるの?」
っていうから、私の母に聞くように言った。
すると、母は、テーブルにおけばやっておくから、とストレスフリーなお答え。
懐が深いと思ってしまう。
なのに、子供たちのキンキンする声にイライラしてしまう、私は心に余裕がない。
「ねえ、公園行きたい! セミとりたいー!」
というKくんに、私は、表に行けば、プラムが実っているから、もいで食べなさいと言った。
脳髄やられて、参っているのにさすが大人だ、私。
Kくんは窓から表をのぞいて、
「えー、見えないー。あ、あったー!」
と言っている。
成功だ。
とりあえず、おいしいものを食べさせておけば、万事OK.
KくんとRくんは母につれられて、ドライブに行った。
帰ってきたとき、母はたくさんのアイスを抱えていて、某有名菓子店で買ったというアイスを冷凍庫に詰め込んでいた。
そして、公園でセミを探したが、ぬけがら以外は高いところにいてとれなかったという話をした。
Kくんはぼうしにプラムの大きなのを五つもいできて、見せてくれるから、洗うように言った。
Kくんは台が必要だと言って、キッチンのイスを、流しまで運んでくる。
それを手伝ってやりながら、今年のプラムは大きいな、などと思った。
洗うだんになると、私が用意したザルではなく、「なにか水をためるもの」がいいというので、ボールを出そうとしたら、Kくんが流しにしがみついて、体を浮かせるので、イスをどかして、その隙間から戸を開けてボールをとりだす。
「すごいね」
と、そのアクロバティックさに言うと、Kくんは、
「おうちでも、いつもやってるよ!」
と快活に答える。
大人になるとこういう驚きはあまりないから、素直にすごいと唱える私。
子供っておもしろいことするな。
体がちっちゃいのに、いろんなことをする。
しかし、私は小説が書きたいのだ。
ヴィンランド・サガを観たら、少しテンションが上がったので、読書しようと思ったが、そこへ子供たちがなだれこんできて、アイスを食べるというから、ソファからどいて、さてどうしよう。
自分の部屋で書いたらいいじゃん? と思って、ベッドの上でノートPCを開く。
どうしようかな。
この話は、ハッピーエンドになるのかな。
グッドエンディングが一番に決まってるし、後味が悪いのは私自身が嫌いだ。
さて、もう一度、文献を読むか……。
と、思っていたら、Kくんが部屋のドアをノックしてきて、わざわざ、もう一度プラムを収穫に行くと言う。
勝手にしたらいいのにと思ったが、笑顔にぶち当たって、頬がゆるむ。
挨拶を欠かさないのは良いことだ。
おそらく母が、うまくやってくれるはず、いってらっしゃいと普通に言う。
慣れない子供にイライラしつつも、子供に気を遣われると、これはいかん、と思うありさまで、自室のベッドの上には、簡易テーブルの上にあった本類がごちゃっと、そのままの姿で移されている。
まあ、わたしも子供と変わらないじゃないかと思ってしまう。
そんな平和な日常を、普通にすごすのも、結構神経をつかうのだ。
鍛えねばな、と思う。
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