第2話

「夏バテ防止にはショタ!」というタイトルで組まれているニュース番組の特集には、プールサイドで仲睦まじく遊ぶ自分と同年代程度のギャル…この言葉も死語か、と小学生1・2年の、まだ同年代に対する自覚的な恋心すら抱いた事がないであろう幼気な少年達の姿があった。

その特集内では大学教授により就学したての少年が成人に対して如何なる好影響をもたらすのか、そしてその好影響をダイレクトに受けやすいのは女性で、男性は間接的に「おねショタ」を眺めているだけでもある程度

しかし、好影響をもたらす手段もとい具体的条件については「お持ち帰り」の5文字で伏せられていたほか、一連の特集の後にはでかでかと青少年健全育成条例により18歳以下の青少年との成功はたとえ合意がある場合でも掘る率に抵触する旨がアナウンスされていた。

このニュースを見て気になるのは同年代の人間の動向についてである。大学にいるキャピギャルについては関わることもないだろうからあまり興味がないのだが、高校同期というものは気がかりになるものだ。伝聞の限りだと大学に入ってからかなり弾けているのだが…そもそもこんな酷暑では外に出るのも億劫だろうとあまり期待はしないまま写真共有サイトの画面を開く。表示されるタイムラインとストーリーにはニュース画面の通りに美少年と戯れる彼女らの姿があった。

「#お持ち帰り ね…」


「しかし、なんでショタになんか目をつけたんだ…?」

その解答とばかりにテレビ画面では絶滅した鰻についてさらっと特集が組まれていた。曰く、鰻が一般に食されるようになったのは近代の話で、それ以前から見るとストレスコントロールの手段にこれを用いるのはかなり不自然だったという。

言われてみれば、確かに全国的に魚食が認知されたのは冷凍保存技術の確立された近代以降であることは明白だ。では江戸時代以前の日本人は一体何をもってストレスコントロールを行なっていたのか?

江戸時代から文明開化されるにあたってちょうど入れ替わりでピタリとやめられたもの、それは…

「衆道か」

つまり眺めているだけでも好影響を受ける少年からダイレクトに精気を吸い取ることにより、戦国武将として覇道を歩むモチベーションに繋げていた、という事だろう。そしていつしかそれは武将たちで周知の事実となり、手段と目的が逆転した結果、いつの間にか美少年を侍らせる事がステータスと化した、という事なのだろう。

しかしそれでは美少年に興味すら持たなかった豊臣秀吉の実力というのはいかほどのものだったのだろうか…

「今だったら居酒屋チェーンの社長とかやってそうだな、秀吉…」


正直私自身もクーラーかけた部屋にいるとはいえバテを感じている状況だ。そして今年は今になっても例年にない猛暑が続く。このままではジリ貧なのは目に見えているわけで、結局世の女子がそうやっている様に、プールに来てしまった。水着も何も考えずに数年前に失敗した大学デビューのために買っていたものを着ており、表情に対して明るすぎる配色なのがミスマッチであった。

辺りを見渡す。どこを見渡してもおねショタが広がっているが、どうやらここは出会いの場ではなく関係を深める場の様であり、初対面の挨拶などをしている場面は見受けられなかった。調査不足だったことを痛感させられる。

しかし私の様な不適合者は1人ではないようだ。プールサイドで1人佇んでいる少年と目があった。その目は澄んでいながら虚であり、世の中に対する諦観、あるいは自分の無力感を自覚したかの様だった。おそらく私の様に自分の中ではこの行動に対する意義を見出せずにいる部分も大きいものの、結局周りに流されてきてしまった、といった感じだろう。

おそらく彼を逃せば次はない。今の女達はああいった面白みのなさそうな少年でも食べてしまうだろう。そのくらいには飢えた野獣になっている。私としても法律は守りたい部分もあるが、普段から道交法を守っていない身なので今更感が強い。ここでやれ、私。


「あ…」

しかし私が声をかける直前、プールにあったあらゆるスマートフォンからアラートと共に声が流れてきた。

「本日国連は「平和のための結集」決議を採択し、日本で行われている「おねショタ」と称される未成年の人権を著しく不当に侵害する非人道的な陵辱行為の中止を求める勧告を行うことを決定いたしました」

喧騒のプールは、一瞬にして沈黙をたたえた。


数週間がたった。国連勧告直後は前回の鰻略奪戦争(他の国ではGREAT WAR Ⅲと呼称されているらしい)の様な状況になりかねないとの懸念が走っていたが、人権という言葉に弱い日本人はある程度の落ち着きは見せていた様だった。しかし一部の過激派からは「こちらは訳あって未成年に手を出しているのに訳もなく未成年に手を出している人間が多い宗教や国家は見て見ぬ振りか」という声も聞かれる。日本ではアメリカ政府のうな二郎研究チームによって開発された代用品が普及し、今後のストレスコントロールはそちらで行われる方針らしい。

未成年に対する淫行容疑で捕まった多数の人間達はそのまま釈放された。鰻の代替手段が他に見つからなかったのは仕方ないからという見方もあるが、一番の理由は刑務所の空きが無いからだ。今後同様の事態を防ぐため義務教育におねショタの否定を盛り込もうという考えも一部ではある様だが、肝心の人権宣言との折り合いが悪く、また子供達が味を占めたのか年上の男性女性に対する依存心を捨てようとしないので、改革は難航すると見られている。


肝心の私の論文だが、あのニュースを聞いた日から、いまだに片付けられていない、わずかに残った白米がカピカピを通り越して黄色になっている重箱を買った日から、生憎1文字も進んでいない。

「だいたいこのテーマじゃ、もう進めようが無いんだよなあ…」

“鰻の天然/養殖/代用に対する味覚評価の比較と科学的関連性”


夏の暑さは、もう少し続くという。

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夏バテ 影宮さつき @itmti

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