ホルマリン漬けがあまりにも美しすぎた件について

 ある中学生は、理科室の七不思議を試してみた。


「ホルマリン漬けの生物たちが、瓶から出て動き回る」




 カエルやネズミ、魚など、様々な生物が液体とともに瓶に閉じ込められ、佇んでいた。

 その様はとても美しかった。

 自分も美しいものに仲間入りしたくなった。


 近くの棚を漁って、カエルの解剖用のメスを探し当てた。

 自分の足の小指に力いっぱい突き刺し、切り落とした。

 不思議なほど痛くなく、血も出なかった。


 切った小指を、ネズミの瓶に入れた。

 うん、やっぱり美しい。

 片足の小指だけじゃ足りない。


 もう一方の足の小指も切り、瓶に入れた。

 美しい。SNSを見る人たちも喜んでくれそう。


 もっと、もっと。

 続いて片足の薬指にメスを向けた。




 ああ…… 美しい。こんなに美しいもの、今まで見たことがない……

 瓶詰めの美しいものたちに囲まれ、ご満悦。


 そこでぱちりと、1回まばたき。

 

 あれ? おかしいな、全然美しくなんてない。それどころか……


 目の前に広がる光景は、瓶から取り出され、びしょ濡れの床に転がる、カエルやネズミ、魚など、様々な生物。

 それと、桃色の肉と白色の骨がぎっちぎちに詰め込まれた、無数の瓶。


 悲鳴を喉からほとばしらせ、逃げようと試みた。


 あれ? 走れない。


 よく見たら、自分の体はメスを持った片手と、そこにつながる肩と、そこにつながる頭だけになっていた。


 気付いたと同時、なかった痛みが一気に襲いかかり、出なかった血が一気に吹き出した。



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