「白い影がピアノを弾く」

 ある中学生は、音楽室の七不思議を試してみた。


「白い影がピアノを弾く」




 ドラレラミラドラレラミラ


 なるほどたしかに。

 ピアノの前の黒い椅子に、対象的に真っ白で、霧のようにぼんやりした人が座ってる。


 ファラソラシラファラソラシラ


 弾いているのは、どんなに音楽に興味がない人でも知っているであろう有名な曲。

 かろうじて分かる。


 ドラドラドラドラドラドラドラ


 だが下手だ。頭が痛くなるほど下手だ。

 ミスは多いし、緩急はハチャメチャ。ことあるごとに手が止まってる。


「違う違う! そこはこうでしょ!」

 耐えきれず、撮影を中断して白い人に指導を始めた。

 それでも上手く弾けない。


 どんどんイライラしてきた。


 イライライライライライライラ


「あーもう! 貸して!」

 白い人を椅子から突き落とし、自分が座る。

 お手本を見せてやる、と弾き始めた。


 ところが、上手くいかない。普段は上手に演奏できるのに、上手くいかない。


 ミスを連発。緩急がメチャクチャ。思わず手を止めてしまう。


「あれ? あれ? あれ?」


 焦りながら、必死に下手なピアノを引き続ける。


 白い人は、いつの間にかいなくなっていた。

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