AGL.06

〔スクランブル! スクランブル! セクメト第3分隊、ランウェイ20Lへ進入、至急離陸せよ!〕

 警報が鳴り響き、F-15MZ イーグル、Су-27СМ3 ジュラーヴリク、F-15H スラムイーグル、Su-30MKB ストライクフランカーが掩蔽壕から姿を現す。全機とも空対空ミサイルを満載し、その重武装で滑走路へと向かう。

〔セクメトサードスコードロン、クリアーフォーテイクオフ!〕

〔セクメトサードスコードロン、クリアードフォーテイクオフ!〕

 フルフラップダウン、アフタバーナーオン、フットブレーキ解除、4機は急加速する。

 そして、群青の空へと放たれた。




 4月 29日、敷島学園 第11分校 北校舎 302教室。

 ここに、666組のメンバーが集められていた。

「スナークを8機撃墜、か。全機被撃墜とはいえ、こいつは驚きだ」

 依子先生にそう言われ、生徒達は不満を隠さない。

「何だよそれ。俺達が1機も撃墜できないとでも思っていたのか?」

「そうかっかするな。スナーク隊は今まで、1度の出撃で5機以上撃墜されたことが無い、文字通りのエース部隊だ。それを、お前達トーシロー連中が『8機も』撃墜しちまったのさ。戦術航空科の全生徒がザワついている。西川、この組に何で60人も集められたか、分かるか?」

「うち、どすか? それは先生の引率力を買われてるんちゃいます?」

「……山城女の言うことに棘がある、ねぇ。大ハズレだ。ここに集められた連中は、『協調性の無い奴と、強いリーダーシップを持った者』だ。つまり、問題児とそれをまとめられると思われた奴が集められた訳だ。早々に学級崩壊するんじゃないかと思ってたが、あのスナークを8機もやった。案外、スナーク隊と並ぶエースになるかもな、『チームプレイの出来ない飛行隊』として」

 そして、依子先生はいつになく真面目な顔になった。

「ここからが本題だ。ラシーヤ学院の領地へと侵攻する『334指令』が発令された。本作戦にて、セクメト飛行隊は制空権の確保及び近接航空支援を担当する。また、付近の飛行隊も総動員される予定だ。手筈としては、まずセクメト、第9分校のアウォード隊がラシーヤの迎撃機を返り討つ。その後、テティス隊が防空網制圧(SEAD)と機雷による敵空母艦隊の封殺、近接航空支援(CAS)を行う。その間、一旦ここに帰投、補給が済み次第作戦空域で空中哨戒(CAP)を実施する。増援の戦闘機隊も一緒にCAPを行う。詳細は後日伝える。以上、解散。あ、第3分隊はアラート待機」




 その後、第3分隊の6人――風矢 真子、ニーカ=レービナ、紫門 美希、タム チェファ、ジーナ=ローリングス、ディミトリー=トルストイ――はスクランブル待機用の掩蔽壕近くに作られたプレハブ小屋にいた。そこにはリクライニングチェアやテレビ、給湯器に自動販売機、冷蔵庫、電子レンジとあらゆる装備が整っていた。今、パイロットスーツを着た真子達6人の他にも敷島連邦から派遣されてきた正規の整備士達もいる。

 リクライニングチェアに座り、ペットボトル入りの紅茶を飲むニーカに、真子は話し掛けようとした時、警報が鳴り響いた。すぐに6人と整備士達は小屋を飛び出し、掩蔽壕へと走る。

 4つの掩蔽壕に、1機ずつ格納されており、それぞれの機体が納まっている掩蔽壕へと走る。真子は真っ青なF-15MZ イーグルに掛けられた梯子を昇り、コクピットに収まる。後を追うように昇ってきた整備士からヘルメットを受け取り、それを被る。酸素マスクとシートベルトを装着、整備士がそれを確認する。ミサイルの安全ピンが抜かれたのを確認、射撃管制装置(FCS)やジャイロコンパス、慣性航法装置のセットアップを開始する。誘導員からの指示でエンジンを始動する。大川阿閉重工 F100-OHI-220Eターボファンエンジンが唸りを上げる。車輪止めが外され、自走を開始した。

 紫色のF-15H スラムイーグル、黄緑色のSu-30MKB ストライクフランカー、青色のF-15MZ イーグル、赤色のСу-27СМ3 ジュラーヴリクが滑走路に並ぶ。

 そして、4機の戦闘機が離陸していった。




 4機は編隊を組み、管制を受ける。

〔こちら空中警戒管制機(AWACS)、グレースワッチ。目標は方位310、距離270、相対高度5800、下方。機種はSH-60K シーホーク〕

〔ヘリコプター?〕

〔それも、うちの学園でしか運用していない奴だ。純粋な対潜ヘリだったSH-60Zを改修し、艦載多用途ヘリに仕立てあげた物だ〕

〔ディミトリー君詳しいねぇ。それにしても、何で友軍のヘリを迎撃(インターセプト)しなきゃなんないの?  あ、私達のように本校を爆撃しようとした?〕

〔ヘリに積める武装はたかが知れてる。つまり、本校教務会との何らかの――〕

〔私語を慎めセクメト。グレースワッチからセクメト隊、目標を撃破せよ。なお、敵味方識別装置(IFF)を無視しろ〕

 それを聞き、美希は全員に問い掛けた。

〔誰が落とす? 個人的には撃墜数(キルスコア)が少ないのが墜すのはどうだろうって。ちなみにあたしは13機〕

〔わたくしは26機〕

「32機」

〔さっすがオリガ隊元エース。んで、ジーナは?〕

〔言わなきゃ駄目? 一番少ないの私だよ?〕

〔だーめ︎〕

〔……8〕

〔何々?〕

〔8機だよ! 同じダボウ隊だったんだから空対空が苦手なの知ってるでしょ!?〕

〔落ち着けジーナ。そうすぐ頭に血が上る悪い癖、いい加減に直せ〕

〔そうそう。ちゃっちゃと落として帰ろう。セクメト25、ヴィジュアルコンタクト。ボギー、ヘッドオン(正面)。ほら、ジーナ〕

〔はいはい、落とせばいいんでしょ。セクメト36、レーダーオン、コンタクト〕

 Su-30MKB ストライクフランカーのН001Вメーチパルスドップラーレーダーが起動、目標をロックオンする。スロットルレバーの兵装選択ボタンを押し、[SRM]にセット、ヘッドアップディスプレイに目標を入れる。搭載したAAM-5短距離空対空ミサイルのシーカーがSH-60K シーホークの機影を捉える。甲高い音が響き、ミサイルレリーズを押した。

〔フォックスツー〕


「ミサイルアラート! Su-27だ!」

 SH-60K シーホークはチャフとフレアをばら撒き、急旋回をする。


 ばらまかれたフレアとヘリコプター特有の機動に、AAM-5短距離空対空ミサイルは追い付けず、外れてしまう。

「下手くそ」

〔何よ! 今のはミサイルのシーカーが悪いのよ!〕

〔まぁまぁ〕

 ジーナは操縦桿を引き、高度を上げる。そして速度を落として旋回する。兵装選択を[GUN]に切り替え、SH-60K シーホークへと降下する。ガンレクティカルを合わせ、ガントリガーを引く。

〔フォックススリー!〕

 30mm 9A-4071K機関砲が火を噴く。そして、SH-60K シーホークは炎上し、海へと落ちていった。

〔スプラッシュ! 目標撃墜! 墜落地点はER-2904――〕

〔こちらグレースワッチ。伝える必要は無い。直ちに帰投せよ〕

 その指示を聞き、ジーナは突っかかる。

〔どういう事? 同じ学校の生徒が乗ってるかもしれないのに、見殺しにしろって言うの?〕

〔命令だ、よく聞け。救難捜索の必要は無い。直ちに帰投せよ〕

〔しょうがない、セクメト25、エリア11へ帰投する〕

 そのまま、4機は第11分校へと針路を変更した。

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